※本コラムは2023年10月実施の法律事務所の顧問先企業向け動画配信の内容をもとに作成しております。上記動画は、顧問先企業の従業員向け研修を意識して作成しておりますので、従業員向け研修をお考えの方にもご参考になれば幸いです。
1 炎上投稿の共通項
SNSが発達した今日、世界中の人が私たちの投稿を閲覧することができます。SNSに不適切な投稿をすると、それは瞬く間に拡散され、度々炎上に繋がります。
では、どのような投稿が不適切として炎上に繋がるでしょうか。炎上する投稿を見ていくとそこには共通項が見えてきます。炎上の共通項を知ることは、予期しない炎上を防ぐうえで役立ちます。
以下では具体例を挙げながら、炎上の共通項について確認していきます。
⑴ 不適切な投稿タイミング
①TSUTAYAの店長が東日本大震災の最中、TSUTAYA公式ツイッターアカウントに
「テレビは地震ばかりでつまらない、そんなあなた、ご来店お待ちしています」
と投稿し、炎上。店長は実名を明らかにしたうえで謝罪。
②ディズニー公式ツイッターアカウントが、長崎への原爆投下から70年の8月9日に「なんでもない日おめでとう」
と投稿し、炎上。担当者は謝罪し、問題となった投稿は削除。
これらの事例のように投稿タイミングを誤ることは、炎上に繋がる可能性があります。
大災害、大事件や戦争に関する日などの投稿は、内容次第では不適切、不謹慎な投稿と受け止められます。このような日は、それぞれの人が様々な記憶や想いを抱いていることに配慮し、いつも以上に節度をもった投稿を行いましょう。
⑵ 価値観の多様性への配慮の欠如
①新潟日報社の報道部長が個人のツイッターアカウント上で、長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返していたところ、これらは報道部長の投稿であるということが判明。報道部長は謝罪をし、ツイッター上にも謝罪文を掲載。
②四国放送株式会社の社員が個人のツイッターアカウントと間違って、同社の公式ツイッターアカウントにて公明党や代表議員を批判する内容の投稿をし、炎上。四国放送株式会社は、個人の携帯電話から公式ツイッターに書き込みができていたことや、管理体制が杜撰であったとして謝罪。
個人の内心でどの思想や政党を支持し、あるいは支持しないかは自由です。しかし、これらの事例のように、自身の思想を外部に発信する場合には、自身と異なる思想を持った者を攻撃する内容になっていないかといった配慮が必要です。もし、このような配慮に欠けた投稿をすれば、炎上することは必須です。また、投稿時には、不適切な表現を使っていないかについても注意しましょう。
⑶ 「中の人」と世間の感覚のズレ
タカラトミーの公式ツイッターアカウントが
「#個人情報を勝手に暴露します」「(とある筋から入手した、某小学5年生の女の子の個人情報を暴露しちゃいますね)」
などと投稿したところ、性犯罪を想起させるとして炎上。タカラトミーは謝罪し、問題となった投稿を削除。また、公式ツイッターアカウントの投稿を当面の間停止すると発表。
この事例が炎上した原因は、いわゆるツイッターアカウントの「中の人」と世間の感覚にズレがあったためです。タカラトミーのような子供向け玩具を販売する会社が子供の性犯罪を連想させる投稿を行ったことに、情報の受け手は強い拒否感を示すのは当然です。
企業としては、多くの人に投稿を見てもらうために、ユーモアのある投稿をすることも重要ですが、その投稿が好意的に受け取られる内容のものであるかを、よく吟味してから投稿しましょう。このとき、会社の販売商品、ターゲット層、世間の状況について複数の社員が広い視点をもって考えることも重要です。
⑷ 他者のプライバシーの侵害
不動産仲介業者の従業員が芸能人夫婦を接客し、35万円の賃貸物件を紹介した旨を個人のツイッターアカウントに投稿し炎上。当該従業員のツイッターアカウントはすぐに削除されたものの、従業員はプライベートな内容の投稿もしていたため、問題となった投稿をした従業員はすぐに特定された。
芸能人を接客したなど珍しい経験をしたときに、誰かに話したくなる気持ちは分かりますが、顧客の個人情報やプライバシーに関する事項を投稿することはもちろん許されません。「個人アカウントだから閲覧している人は少ないだろう」と思うかもしれませんが、炎上するような内容の投稿はすぐに拡散され、多くの人の目に触れることになります。
また、投稿者が誰であるかということや投稿者がどこに勤務しているかなども容易に特定され得ますし、特定された場合は、そのアカウントが従業員個人のものであっても、会社のイメージや信用が失墜するおそれがあります。そのため、他者の個人情報やプライバシーに関する情報が投稿内容に含まれていないか確認しましょう。
⑸ 投稿への興味・関心を集める方法の誤り
KIRINが午後の紅茶のPRのために「#〇〇女子」「#いると思ったらリツイート」などのタグをつけ、4種の女性像のイラストを投稿。その女性たちの特徴を説明するイラストやコメントが午後の紅茶を買っている女性を馬鹿にしているようにしかみえないといった批判が相次ぎ炎上。KIRINは謝罪し、問題となった投稿を削除。
この事例が炎上した原因は、投稿への興味・関心を集める方法を間違ったことにあります。商品のPR投稿の内容が不適切なものであれば、消費者から広報の考え方が甘い企業であると認識されるおそれがあります。
また、投稿の趣旨が伝わりづらいと、色々な解釈を生み、批判的な意見を招くおそれもあります。そのため、発信の趣旨が伝わりやすく、色々な解釈を生まない内容であるかを検討してから投稿しましょう。
2 炎上した場合の処分
では、投稿が炎上した場合、投稿をした従業員にはどのような処分が下されるのでしょうか。
⑴ 懲戒処分の内容
炎上した場合、問題となる投稿をした従業員は、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。懲戒処分の内容としては、従業員を文書で指導する戒告・譴責・訓告、従業員の給与を減額する減給、従業員に一定期間出勤を禁じ、その期間の給与を無給とする出勤停止、従業員の役職や資格を引き下げる降格、従業員に退職届の提出を勧告し、提出しない場合には懲戒解雇をする諭旨解雇、諭旨退職、制裁として従業員を解雇する懲戒解雇があります。
⑵ 具体的な事例における従業員の処分
上記1⑵でご説明した新潟日報社の報道部長が、個人のツイッターアカウントで長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返してきたという事例では、報道部長は報道部長の職を解かれ、無期限懲戒休職処分となりました。
また、公明党を批判する投稿をした四国放送の従業員は、懲戒解雇となりました。また、社長や当該従業員が所属していたラジオ局担当役員は減俸処分、上司2人は減給処分となりました。
このように、炎上を引き起こすと、自身に休職処分や懲戒解雇などの思い処分が下されるおそれがあるだけでなく、周囲の人にも責任が波及するおそれがあります。
3 投稿時に気を付けるポイント
⑴ 「炎上さしすせそ」について
そもそも、炎上しやすいトピックは何でしょうか?炎上しやすいトピックをまとめて、「炎上さしすせそ」と呼ぶことがあります。「さ」は災害・差別、「し」は思想・宗教、「す」はスパム・スポーツ・スキャンダル、「せ」は政治・セクシャル、「そ」は操作ミス(誤投稿)を指します。これらのトピックにあたる投稿をする場合は、いつも以上に投稿内容に注意しましょう。
⑵ 炎上しないためのチェックリスト
では、炎上しないためのチェックリストを確認しましょう。
①アカウントを間違っていないか
個人アカウントと会社の公式アカウントを間違っていないか、投稿前に確認しましょう。
②誤字脱字の有無、他の情報との整合性、内容の正確性
重要な情報に誤りがあれば、情報の受け手が混乱したり、不正確な情報を発信する企業だとみなされたりするおそれがあります。投稿前に投稿内容を読み返したり、情報が最新のものであるか、信頼できるものであるかを確認したりすることが重要です。
③画像、動画、リンクミスはないか
②と同様、情報の受け手が混乱しないために、投稿前に確認することが重要です。
④投稿タイミングが不適切でないか
上記1⑴のTSUTAYAやディズニーの事例のとおり、投稿タイミングやその内容によっては、不謹慎であるとして炎上を引き起こすおそれがあります。投稿する日が大災害、大事件や戦争に関する日ではないか、仮にそのような日であったとしても、投稿内容が不謹慎なものでないかといった配慮が求められます。
⑤他者の個人情報やプライバシーを漏洩していないか
上記1⑷の不動産仲介業者の事例のように、他者の個人情報やプライバシーに関する情報を漏洩すると、たとえ個人アカウントであったとしても、会社が特定されるおそれがあります。消費者は、顧客の個人情報を漏洩するような会社の利用は避けるため、結果として会社に損害が生じます。
⑥差別的、侮辱的な発言をしていないか
個人アカウントにおいて過激な内容の投稿で炎上すると、場合によっては投稿者が勤務している会社が特定され、炎上が拡大するおそれがあります。そのため、会社の公式アカウントにおける投稿だけでなく、自身の個人アカウントにおける投稿でも、差別的、侮辱的な発言をしないようにしましょう。
⑦スポンサーシップ契約締結を締結しているか
スポンサーシップ契約を締結していない場合は、オリンピックやワールドカップなどの名称を商業利用してはいけません。一般的な名詞と思っているものでも商標登録されているものがあるので、不用意に利用できないものがあることに注意しましょう。
⑧法令に適合しているか
投稿内容が景品表示法や薬機法などの法律に違反している場合は、炎上に繋がるだけでなく、行政庁から処分を下されるおそれがあります。法律に違反していないかを判断することは難しいので、問題となりうる場合には、まずは弁護士に相談したうえで、問題ないことを確認してから投稿しましょう。
⑨会社のSNS運用ルールを遵守しているか
会社のSNS運用ルールに従って投稿することで、炎上する可能性を相当程度低減させることができます。会社にSNS運用ルールがあるかを確認し、それがある場合には、そのルールに従った投稿をしましょう。
⑩投稿内容が伝わりやすいか
投稿内容の趣旨が伝わりにくく、色々な解釈を生む内容であれば、批判的な意見を招きかねません。投稿内容が多くの人にとって容易に理解できるものであることが求められます。SNSに投稿する前に会社内部で投稿内容から受ける印象について検討し、誤解を生じさせるような内容でないかを確認しましょう。
⑪他者の思想、価値観への配慮をしているか
情報の受け手は様々な価値観を持っています。他者の思想・価値観を排除し、自身の思想・価値観を押し付けると、容易に炎上に繋がります。他者の思想・価値観に寛容な姿勢を持ち、自身とは異なる価値観を持つ人に配慮した投稿をしましょう。
⑫他人の著作権を侵害していないか
自身の投稿に他者のイラストや文章などを無断で掲載すると、著作権の侵害となります。著作権侵害行為に該当すれば、損害賠償請求などをされるおそれがあるので、他人の著作物を無断で使用していないか確認しましょう。
⑶ 炎上防止対策
ここまで、投稿時に確認すべき点についてご説明してきましたが、炎上を防止するための容易かつ実効的な対策は、従業員相互でチェックをしあうことです。
主なチェック内容としては、
①会社の公式SNSに投稿する場合は、都度ログイン/ログアウトする
②個人用携帯電話で公式SNSに投稿できない設定にする
③担当者一人でSNSへ投稿をせず、投稿前に複数人で内容を確認する
④ログイン中のアカウントを確認してから投稿する というものです。
③については、年代、性別、役職などが異なる従業員が投稿内容を確認することで、広い視野をもって確認することができ、より実効的な対策となります。
⑷ それでも炎上した場合には
人の価値観は時代によって変化していくため、炎上する投稿内容も変わっていきます。過去に炎上しなかった投稿であっても、今日では炎上する可能性があります。そのため、価値観を日々アップデートしていくことが求められますが、投稿内容に注意をしていたとしても、思いがけず炎上が発生してしまうこともあるでしょう。
では、炎上した場合はどのように対処したらよいでしょうか。
炎上してしまった場合は、投稿者個人で対応せず、上司と対応を相談しましょう。急いで投稿を削除したとしても、スクリーンショットなどによって拡散されているおそれがあり、投稿の削除をもって事態を鎮めることはできません。また、謝罪をしたとしても、謝罪の内容が適切でなければ、さらなる炎上を生む可能性があります。
そのため、炎上してしまったとしても、周囲の者と炎上が発生した経緯について共有したうえで会社の判断を仰ぎ、冷静に対応するようにしましょう。
4 おわりに
炎上する投稿は時代によって変化していくとご説明しましたが、どの時代においても炎上を避けるために重要なことがあります。それは、第三者がその投稿からどのような印象を抱くかを想像することです。自身で客観的な判断をすることが難しい場合には、他の従業員に投稿から受ける印象を聞いてみるとよいでしょう。
様々な炎上事例を見てSNSに投稿するのが怖いと感じている方もいるかもしれません。しかし、SNSは情報を発信するためにツールです。炎上を恐れるあまり、情報を発信することに消極的になってしまうのは本末転倒です。SNS上の投稿は多くの人の目に触れるため、適切に利用すれば、自社や自社商品をPRする上でとても有効です。
従業員の皆様におかれましては、自社のPRのために、炎上するポイントに留意したうえで、SNSをうまく活用していただけたらと思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
※本コラムは2023年10月実施の法律事務所のミニセミナーの内容をもとに作成しております。
それではSNSの管理に関するコンプライアンス(SNSの管理)について書かせていただきます。
このコラムは大きく4つの内容から構成されています。
1つ目がSNSを利用したことによる炎上事例
2つ目がこのような炎上事例を防ぐために行うべきルールの決め方
3つ目が作ったルールの管理方法
4つ目が不幸にして炎上してしまった場合の対応方法
です。
まず、その前にこのコラムの前提ですが、このコラム自体は主には管理する立場の人向けに従業員のSNSの利用をどのように管理していくのかという視点をもとに作成しています。
従業員向けに具体的に聞いてもらいたい内容の具体例については、別のコラムで書かせていただく予定ですのでそちらもぜひご活用ください。
炎上事例の例
まず最初に炎上事例について書いていきます。
ネット社会が進展して、会社も個人も気軽に投稿できるようになって、ネットニュースもどんどん配信されるようになったという時代背景もあって、SNSの炎上に関するニュースもよく目にするようになりました。
炎上事例については時代によって傾向がありますが、最近よく炎上しているものとして挙げられるのがジェンダーに関わることです。
例えば、性的な描写を連想させるということで、炎上したり、女性蔑視ということで炎上するという事例が多く見られます。
東京都が「東京女子けんこう部」というコンテンツを紹介したことについて「けんこう」をあえてひらがなで表記しているのは、女性が男性よりも、知的に劣るという偏見を助長するものだという批判がなされたこともあります。
こちらは極端な批判ということで、大きく炎上することはありませんでしたが、こういったことでも問題になりうるという一例といえます。
次に、タイツメーカーが自社のPRのために、タイツを履いた女性のイラストを掲載したことで、性的な描写を連想させるということで炎上したということもあります。
イラストがスカートを持ち上げたりスカートが短かったり、ということで、下着が見えそうになっていたということから批判が拡大したようです。
このように製作者の意図と反する内容により炎上するという危険は、身近に潜んでおりこれを全て除去するというのはほんとに難しいことですが、会社としては例えば女性も含めたメンバーで問題がないかという確認をするなど、もしくは年齢の異なるメンバーで意見交換をし、年代によるギャップがないかなども確認するということが求められるのではないかと思います。
タクシー会社の公式アカウントが、「今うちには3名の女性ドライバーが居るが、全員20代である。ちなみに、全員めちゃくちゃかわいい。」と記載して、「女性差別」「ルッキズム(外見至上主義)」との非難を受けたものがあります。
これなどは典型的なおじさんの発想によるものでダイバーシティの必要性を強く感じさせるものです。
と思っていましたら、実はその後の報道でこのタクシー会社のSNSは、女性のドライバーが投稿していた、という記事が出てきまして、その記事が正しければおじさんではなく、女性が投稿したとしても危険性があるということがいえます。
記事によると、コロナ禍で売り上げが8割ほどダウンしたため、売上げアップのために新人女性ドライバーを使ったSNS戦略を行って、会社の紹介だけでなく、地元のグルメを紹介したりして、フォロワーが10万人を超えていたそうです。今回の投稿以外にも性的な投稿をしたりして、「会社が女性にやらせている」などという批判も来たそうです。
会社の不注意というものですが、フリー素材として載せられていたものが実は作者に無断で勝手に掲載されていて、それを知らずに会社が広告にイラストを無断で使用してしまったというもので炎上した事例もあります。
フリー素材と書いてあるのにフリーではなかったということはよくある問題で本当に気を付けないといけない問題だと思います。
次に会社の公式アカウントではなく、従業員の個人投稿であったにもかかわらず、会社が謝罪をすることになるというケースもあります。
例えば自動車販売会社の社員が店内で電動椅子に乗ってふざけている動画がSNSに投稿されて障害者を真似して遊んでいるという批判を受け、会社がホームページに謝罪文を載せたというケースがあります。
会社の中で遊んでいるということで映像によって会社が特定されてしまいます。そうすると、会社に対して批判が集まってしまい、会社が従業員個人の行動について謝罪をせざるをえなくなったということです。
会社内での写真や動画の撮影は、場合によっては会社の機密情報が映りこんでしまうおそれもありますし、この件のように会社が特定されて批判を浴びるということもあります。
過去にもコンビニエンスストアのアイスケースに入ったり、と店内での投稿が問題となったことが多くありますので、ルールとして会社内での撮影や投稿を禁止したり、その趣旨を従業員に理解させる、ということが必要になります。
さらには従業員ではなく、その家族が行ったSNSの投稿が問題になるケースもあります。例えば、有名人が銀行に来店した際に、
〇〇さん〇〇銀行〇〇支店ご来店
というようなツイートがされたケースがあります。
これは母親が銀行で働いている女性がツイートしたもので、銀行がすぐにお詫びの文書を出すという事態になりました。
有名人の私的な行動に関するプライバシーの問題ということで非常にセンシティブに扱わないといけない問題であったため、銀行の対応もとても速かったのですが、従業員ではなく、その家族の投稿というところにSNS管理の難しさを感じます。
有名人関連の投稿による問題は多く発生しており、有名人に会えたことの嬉しさや自己顕示欲のために投稿する心理は理解できますので、これを防ぐためには、並大抵の努力では足りないだろうと推測されます。
このようにSNSの炎上と一言で言っても、会社の公式アカウントだけではなく、従業員やその家族の個人アカウントによる投稿に会社が巻き込まれてしまうということもあります。
そのため会社としては公式アカウントの投稿をどのようにするかというだけではなく、会社の従業員に対して、個人のアカウントの投稿も含めて、どのような投稿してはいけないのかということの意識付けを行っていく必要があります。
どのような対策をするのがよいのか
ではどのような対策をしていくことがよいのでしょうか。
先ほどから見ていただいたSNSの炎上事例を見てもわかるように、炎上の原因は、会社や従業員の意識の不足によるものがほとんどです。
そのため、SNSの炎上を防ぐ対策としては、
①ルールを作ること
②従業員の意識を高めること
この2つが重要になります。
そのうちまず1つ目のルール作りについて説明したいと思います。
SNSの映像の中には、従業員が会社に良かれと思って注目を集めようと炎上ギリギリの投稿してしまい、その結果多くの批判にさらされるということもあります。もちろん、何の意識もなく、投稿したものが一般人の感覚にそぐわなかったために、多くの批判を浴びることがあります。
そのため、どのような投稿を行うべきか行うべきでないのか、そしてどのようにチェックをして投稿を行うのかということを決めておく必要があります。
そして、会社の公式アカウントでの投稿を想定すると、アカウントの運用面及び内容面に分けて考える必要があります。
具体的な内容については、来週投稿予定の従業員向けのコラムもご覧ください。
まず運用面では
・投稿する担当の部署を決めること
・1人ではなく複数のチェックを受けること
・個人の端末では投稿させないこと
など投稿するまでの手順を定めておくことが重要です。
一方、内容面では
どのような投稿をしてはいけないのか
ということを定めておく必要があります。
例えばソーシャルメディア利用規定の雛形を一部引用すると、以下のようなことが遵守事項として定められています。
他人の名誉権や、プライバシー権、肖像権、パブリシティー権、著作権、商標権等、法的に保護された権利を侵害しないこと
第三者の個人情報やプライバシーに関する情報発信しないこと
会社の商品、またはサービスの広告を行う場合には、景品表示法などに違反する恐れのある表示をしないこと
ただしこれを規定があるからといってどのようなものが該当するのかは、人によって受け止め方が違いますので、研修などでどのようなものが炎上に繋がるのかということを知ってもらう必要もあります
どのような研修をするのがいいのか
ではどのようにしてルールを浸透させていけば良いのでしょうか。
ルールの浸透には、通常従業員に対する研修が一般的ですが、通常の研修は必要な知識を身に付けさせるというのが目的になります。
しかしSNSのトラブルは発生させてしまった者の知識不足によるものだけではなく、その者の意識の不足という問題もあります。ですので、研修においても従業員に対してどのような意識を持ってもらえば良いのかということを意識して行う必要があります。
先ほどお話したように、従業員はそれぞれ意識が違うということを意識して話をしなければいけないことも忘れないでください。
また研修は一度やればいいというものではないということも意識しておいてください。
その理由は2つあります。
まず1つ目は、SNSの炎上の理由は時代によっても変わるため、その時々の意識関心合わせて研修を行う必要があるという点
2つ目は人間というものは、研修したときには、高い意識を持っていたとしても、どうしても時間が経つと意識が崩れていってしまうため、定期的に研修することで意識を高く持ち続けられるようにしないといけないという点にあります。
ではどのような内容で研修をしたらいいのでしょうか。
まず今回最初にご説明したように身近で、かつ、具体的な炎上事例を見てもらうというのがいいと思います。そうすることによって従業員の意識も引き締まりますし、どのようなことをした結果炎上したのかということが具体的にわかります。
またその事例を自社に置き換えてみた時に、どのようなところに炎上の可能性があるのかや、実際に社内で問題になりかけた事例がある場合には、その話をしてみるというのもいいと思います。
場合によっては、次のグループに分けて自社で気をつけることについて議論をしてもらい、その内容を発表してもらうということでより意識を高めることもできると思います。
またSNSの投稿では、個人のアカウントから投稿した場合など、第三者から当該従業員に対しても損害賠償請求がなされる可能性もありますし、企業のアカウントから投稿した場合でもあっても、企業の信用を大きく損なって、売り上げが減少したり、会社から投稿に対して懲戒処分がなされることもありますので、それだけ責任が生じるものであるということも意識してもらうようにする必要があります。
特にネットの投稿はオリジナルを削除したとしても、そのコピーが出回っていつまでも消えないこともありますので、結果の重大性についても認識してもらう必要があります。
炎上が起きた場合の対策
それでは、実際にSNSの炎上が起きた時にどのようにすればよいでしょうか。
単に会社として謝罪をすればいいというものではなく、炎上した内容によって対応を検討する必要があります。
1つ目は、会社や投稿を担当した者に落ち度があった場合です。
たとえば、差別的な発言をしてしまったような場合など、こちらの非が明らかな場合には、しっかりと謝罪をするとともに、その後の対応として差別を助長しないような研修をしていくことなどを発表することが多くみられます。
会社によっては、差別に反対する声明などをHPにアップしていたり、そのような活動を対外的に行っていたりすることもありますので、そのようなことを掲げておきながら今回の問題を起こしたことを深く反省する旨を入れたり、そのようなことを掲げていながら今回の問題が発生した原因を分析したり、というようなことをすることも考えられます。
会社としては、会社の非を認めることをためらったり、批判が収まるのを待とうとして静観したりすることもあります。
しかし、そのような対応をすることでさらなる批判を招くこともありますし、不誠実な会社という印象を与えることもあります。
2つ目は、会社に落ち度は少ないが、投稿内容の趣旨が不明確であった場合に炎上を招いたような場合です。
このような場合には、謝罪を行うか、趣旨を説明するのか、という判断が難しい場合がありますが、たとえば、趣旨を説明した上で、その趣旨が不明確となったために、〇〇といった批判を受けることとなり、今後趣旨をより明確にすることで誤解を招くことがないよう努めたいという発表をすることが考えられます。しかし、批判の問題意識をうまくとらえないとさらなる批判を招くおそれもあります。
3つ目は、会社の公式アカウントではなく、従業員個人のアカウントからの投稿であったが、会社名などが投稿され炎上に至ったような場合です。
このような場合には、基本的には私人としての投稿といえるとはいえ、その内容に問題があったような場合には、対応をどうするか難しい判断が迫られます。一つの基準としては、企業のイメージを傷つけるような炎上となっているのか、企業として管理責任を問われるようなものなのかどうかです。
そのような場合には、企業として何らかの対応をした方がよい場合が出てきますので、専門家にも相談して検討してください。
このように、対応を誤るとさらなる批判が予想される状況下で的確かつ速やかな対応が求められるというのが、SNS対応の難しさといえます。
炎上を称賛に変えた稀有な例
最後に味の素の事例をご紹介します。
餃子がフライパンにこびりつかない、ということを売りにしていたのに、こびりついたという投稿が個人の方からなされたという事例です。
本来であれば炎上してもおかしくないですが、味の素がその方にそのフライパンを研究開発に使いたいので送ってほしいとお願いして、さらに一般の方にも使い古したフライパンを募った、という事例で会社の研究熱心な態度が逆に称賛されたというものです。会社の熱意というものがネット社会でも評価されることがある、というのはどこか救いを感じます。
まとめ
今まで、SNSの炎上事例から、ルール作りとその浸透方法、炎上した場合の対応について書いてきました。
まずは会社の中でどのようなルールを作って、どのように従業員の意識づけをしていくか、ということから始まると思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。