債権(売上)回収が問題となったときに、するべきことについて3回に分けて解説しいます。
今回は最後の3回目です。
⑸合意ができた場合/できなかった場合
①合意できた場合
交渉の結果、合意ができた場合に合意内容を書面化しますが、合意書面作成時の注意点があります。
㋐書面のタイトル
特定がしやすくて便利といった理由だけでなく、合意内容が不明確で解釈に争いが生じたときはタイトルが判断基準となることもあるため、合意内容に合ったタイトルをつけ他の書面と識別できるように してください。
㋑給付条項
給付条項を5W1Hを意識して記載しましょう。給付条項は訴訟や執行に際して最も重要な部分ですので計算間違いなどをしないよう慎重に対応してください。また、振込送金による支払の場合は、振込口座や手数料負担をどちらが負担するかについても定めておきましょう。
㋒期限の利益喪失条項
支払期日や分割払期日が定められている場合に、定められた期日までは支払わなくてよいという利益を期限の利益といいます。そして、分割払い中に滞納が生じたときは、債務者はその後の期限の利益を失い、残債務も即時一括で支払わなくてはならないといったような内容を定める条項を、期限の利益喪失条項といいます。
期限の利益喪失条項にも様々なバリエーションがありますので、それぞれの条項でどの時点で期限の利益喪失になるかということは、あらかじめ考えておきましょう。
㋓署名者
合意の当事者が会社である場合、代表権がない者による行為の効力を会社に帰属させることはできないため、合意書に署名・捺印する者が、会社を代表して契約を締結する権限を有している必要があります。営業部長等の契約締結権限を有している者は他にもいますが、名刺に記載されている肩書だけでは確定できませんので、契約に関する代表権や代理権を有しているかどうかということは、事前に確認するようにしてください。
㋔捺印
私的に作成する書面について捺印する印鑑の種類に制限はないので、実印以外の印鑑でも書面の有効性に問題ありません。しかし、書面の成立の申請が争われた場合では、実印と認印ではその効果に大きな違いがありますので、実印が望ましいです。
②交渉が決裂した場合
交渉決裂時には、通常は訴訟手続に進みますが、民事保全、民事調停、支払督促手続といった手続を選択することも可能です。
㋐民事調停
民事調停とは、裁判所で調停員を挟んで協議を行う手続であり、管轄は簡易裁判所です。調停員という第三者を間に入れることにより、当事者が冷静に話し合いを進めることができたり、細かい点について協議し、書面を残すことで、支払いの付随的条件や他の条件等を定めたりできるといったメリットがあります。
一方で、債権の存否自体に争いがある場合や、協議をしても相手方が応じる見込みが薄い場合には、民事調停は不適切です。
㋑支払特則手続
支払督促手続とは、債権者の書面による申立てのみで、債務者の立ち会いなしに、金銭給付の債務名義が取得できる手続です。支払特則の申立て→支払督促→仮執行宣言の申立て→仮執行宣言という段階を経て、債務名義と同一の効果が生じ、仮執行宣言付支払督促は、執行文の付与を受けずに、執行手続を行うことができます。管轄は、債務者の普通裁判籍の簡易裁判所であり、仮執行宣言の前に債務者から異議が出た場合は、支払督促は効力を失い、通常訴訟に移行します。
支払督促手続は、金銭の多価によらず、債務者の事情を聴取することなく、債務名義と同一の効果が生じるため、債権の存在に争いがなく、相手方が異議を出さないことが見込まれる場合は、簡易に債務名義を取得する方法として有用です。
一方で、債権の存否または額に争いが生じるおそれがある場合や、債務者が分割払いを求めている場合には、債務者から異議が出される可能性があります。債務者から異議が出されると、債務者である被告の住所地を管轄する裁判所が訴訟の管轄裁判所になります。一般的な裁判では、財産権上の義務履行地を管轄とすることができるため、債権者側の住所地を管轄する裁判所を管轄裁判所にすることができますが、支払督促手続の場合には、財産権上の訴えの義務履行地を管轄とすることはできません。そのため、被告の住所地の裁判所が、債権者の住所地より遠方である場合には、異議が出された場合に管轄裁判所がどこになるかを検討しておかなければならないというデメリットがあります。しかし、現在はWEB会議などを利用できるため、以前に比べるとこのデメリットは薄れてきています。
また、異議を出された場合には、通常訴訟に移行し、期日が改めて指定されるため、当初から訴えを提起した場合よりも、かえって時間がかかってしまうおそれもあります。
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債権(売上)回収が問題となったときに、するべきことについて3回に分けて解説しいます。
今回はその2回目です。
⑶任意の交渉
任意交渉の留意点は6つあります。
1つ目は、誰を交渉の場に出席させるかです。債権者側は、取引の実態を知っている担当者を同行させます。交渉の場で、債務者から反論が出た場合、その取引の実態に精通している者がいないければ、その場で確認できず、時間を要するためです。
一方で、債務者側には、担当者のみならず、支払いについての決定権・代表権のある者を同席させるよう求めます。そうしなければ、持ち帰って検討することになり、債務者側に時間稼ぎを許すことになってしまうからです。
2つ目は、情報収集です。任意交渉の時点では、双方とも歩み寄りの姿勢を持っているはずです。債権者としては、この機会に、任意の交渉が決裂したり、合意が履行されなかった場合に備えて、強制執行が可能な資産の情報を得るとよいです。債務者の取引銀行や主要取引先等について着目することが重要です。ただし、あまりに露骨に聞きすぎると、話し合いで解決する気はなく、情報収集に来たといった印象を与え、債務者に警戒されることになりますので、注意が必要です。
3つ目は、記録化です。交渉に臨む人数は、話す人・メモを取る人のように分業ができるよう、複数が望ましいです。また、複数人で交渉に臨むことで、言った・言わないの紛争を防止することもできます。相手方に無断で交渉内容を録音するといった方法も考えられ、このような録音であっても、必ずしも証拠能力が否定されるわけではありません。ただし、無断で録音を行ったことが判明すれば、信頼関係が崩れて交渉が決裂するリスクもありますので、録音の必要性は慎重に検討してください。
4つ目は、引き延ばしの防止です。債務者が破産や民事再生の申立てを行うために、債権者からの要望に対し、引き延ばしを図ることが考えられます。破産等の法的手続が始まってしまうと、債権回収が困難になるため、債権者としてはその前に少しでも回収を図る必要があります。
引き延ばしの防止の対策として、決定権のある者を交渉に同席させることが挙げられます。こうすることで、交渉の場で回答をするよう、債務者に要求できます。もし、やむを得ず後日回答するとなった場合でも、必ず回答期限を設けてください。
5つ目は、債務の確認です。任意交渉が決裂し、法的手続に入った段階で、債務者が何らかの抗弁を主張することがありますが、任意交渉の段階で、債務の内容を確認しておけば、そのような紛争を避けることができます。また、債務承認があったとして、時効の更新事由にもなります。時効の更新については、特別な合意書を作成しなくても、債権者作成の請求書の余白に、「上記請求内容に間違いはありません」と記載して、日付と署名・捺印をしてもらうなどの簡易な方法で問題ありません。その場合、捺印は代表者印が理想的ですが、紛争予防という観点からは、担当者の印鑑でもあるに越したことはありません。
6つ目は、違法行為を行わないことです。債務者が誠実に義務を履行しないとしても、自力救済や暴言、脅迫などは絶対に行わないでください。暴言や脅迫は勿論、自力救済も原則として違法です。
⑷相殺・担保からの回収
①担保
長期分割の弁済となる債権の支払確保のため、交渉によって新たに担保権を取得することが考えられます。当事者の契約により設定できる約定担保権は、抵当権・根抵当権(不動産)、動産譲渡担保・動産質(動産)、債権譲渡担保・債権質(債権)、連帯保証人(人的担保)等が挙げられます。
これらの約定担保権ですが、資金不足の会社の資産は、既に金融機関などが担保に取っていることがほとんどですので、担保に適した資産が残っていることがない場合もあります。
②相殺
相手が金銭を支払えなさそうな場合に、債権を回収する方法は3つあります。
1つ目は、相殺です。相殺する債権の弁債期が到来していれば、相殺は可能です。相殺の意思表示を行う場合は、内容証明郵便で相殺通知を送付するのが一般的ですが、相殺の意思表示には、条件または期限をすることができませんので、例えば、「〇〇までに支払わないときは相殺する」といった記載はしないようにしてください。
2つ目は、代物弁済(債務の弁済に変えて債務者の資産を譲り受けること)です。代物弁済は特に指定しない限り、給付した物の価格にかかわらず、債権全部が消滅してしまいます。これを避けるには、「売買代金債権100万円のうち50万円の支払いに変えて〇〇を引き渡す」というように、代物弁済により消滅すべき債権の範囲を特定しておく必要があります。逆に、物の価格が債権に比べて過大であるときは、その過大な部分について不当利得返還請求がなされる可能性もあります。そのため、消滅する債権と代物弁済を受けるものの価格とは適切なバランスをとっておきましょう。
3つ目は、債権譲渡です。債務者が第三者に対して有する債権を債権者が譲り受けるときは、債権譲渡の対抗要件を具備する必要があります。債権譲渡の対抗要件は、譲渡人からの通知または債務者の承諾です。
ただし、上記手段は後日、詐害行為(債務者が債権者を害することを知りながら、自己の財産を減少させる行為)として争われるおそれもある点には注意が必要です。
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今回は債権(売上)回収が問題となったときに、するべきことについて3回に分けて解説します。
⑴方針決定
債権回収の方法としては、任意回収と法的手段の2つがあります。
任意回収と、法的手段のいずれかが適しているのかは、㋐支払意思、㋑資産の存否、㋒担保提供の意思の存否、㋓現状事業を継続しているか、㋔将来的な事業継続の見込み、㋕強引な回収によるレピテーションリスクの存否といった要素から総合的に考慮します。
例えば、相手方に支払意思がある場合には、任意回収の方向に傾きますが(㋐)、支払意思があっても支払いにあてる資力がなく、換価可能な資産がある場合(㋑)には、法的手続に進まざるを得ません。つまり、各要素の有無で、あらゆる事案に共通する結果が出るというわけではありません。
債権回収をする場合には、任意交渉を先行させ、交渉が決裂したときに法的手段を取ることが一般的ですが、一定の場合には、交渉をせず、いきなり法的手続を行うことも考えられます。
1つ目に、相手方の支払拒絶の意思が固く、任意交渉をしても支払う可能性がほとんどない場合です。ただし、債務の履行遅滞に陥った債務者は支払えないと弁解することは珍しくないため、必ずしも支払拒絶の意思が固いとは限りません。そのため、まずは任意交渉を試みてもよいでしょう。
2つ目に、継続的取引の場合で遅滞額が大きい場合です。
継続的取引の場合、支払遅滞が複数回に及び、また金額も多額になった場合、債務者が支払いを諦めることがままあります。このような債務者に対して法的手段を取ることは、債務を支払う意思にさせる効果があります。
3つ目に、資産散逸のおそれが高い場合です。債務者が保有資産を処分している場合、時間をかけて交渉して債務を支払わせる合意を得ても、すでに資産が処分されてしまっており、債務を支払うことができなくなっているという状況も考えられます。このような場合は、保全手続を行う等の方法をとることになります。
4つ目に、換価が容易な資産がある場合です。大口の売掛先の情報を取得している場合など、容易に資産から債権回収が見込まれる場合には、保全手続を行うことが考えられます。一方で、売掛金や預金の仮差押えをすることで、取引先の信用不安をもたらし、その結果、取引先が破産した場合には、債権回収にも影響が出ますので、注意してください。
⑵書面による催告
書面による催告をする場合の注意点は4つあります。
1つ目に、請求債権が特定できているかということです。相手方との間に複数の取引があるときは、他の債権と区別できるよう、請求債権を明確にしてください。これを怠ると、請求による期限到来が認められないとか、時効完成猶予の効果が得られないといったおそれが生じます。
2つ目に、記載内容に客観的な根拠があるのかということです。特に書面の内容が高圧的になっていないかに注意してください。
例えば、「支払いがないときは裁判手続により、民事・刑事上の責任を追及させていただきます」といった表現はありがちですが、本当にそのような責任追及が可能なのかを考える必要があります。「裁判」や「刑事責任」といった言葉は、債務者に必要以上に恐怖心を与えてしまうおそれがあります。
3つ目に、催告書の差出人を誰にするかということです。
差出人は、依頼者本人名または代理人弁護士名のいずれかを選択します。代理人弁護士名の文書は、債権者が債権回収に本気であることが伝わり、債務者に対する心理的な圧力が高まります。一方で、相手方によっては、弁護士からの通知を威圧的と捉えて感情を害し、かえってその後の話し合いが難しくなってしまうという場合もあります。
弁護士が関与して催告書を送付する場合があっても、必ずしも差出人が弁護士名である必要はありませんので、交渉経緯や相手方の性格等を考慮して、事案に適した方法を選択してください。
4つ目に、郵送方法を何にするかということです。
意思表示は相手方に到達することにより、効力が発生するので、催告書を送付する場合は、後日の紛争に備えて、相手方が催告書を受け取ったことを証明できる方法を取ることが必要です。例えば、催告書を送付する際は、書留+内容証明+配達証明を利用することが多いです。これにより、請求した内容、請求の日、相手に到達した日がすべて立証できるからです。
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⑷保護期間
㋐著作権
著作権の保護期間は、原則として、著作者が著作物を創作した時点から著作者の死後(死亡の翌年の1月1日から)70年を経過するまでです(著作権法51条、57条)。
例えば、著作物が1950年4月1日に創作され、著作者が2010年3月31日に死亡した場合の著作権の保護期間は、1950年4月1日から(2011年1月1日の70年後の)2080年12月31日までとなります。
なお、無名または変名の著作物や団体名義の著作物、映画の著作物の保護期間は、著作物の公表後70年が経過するまで著作権が存続します。
㋑著作者人格権
著作者人格権の保護期間は、著作者が著作物を創作した時点から著作者が死亡するまでです。
著作権の保護期間にズレがあるのは、著作者人格権は、著作者の一身に専属する権利であるからです(同法59条)。
これまで、著作権は著作者に帰属すると説明しましたが、職務著作はその例外です。
著作権法15条1項では、法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約等に別段の定めがない限り、その法人等とする旨が規定されています。
職務著作の要件
従業者が創作した著作物が職務著作と認められるためには、以下の①~④を全て満たす必要があります。
①法人等の発意に基づくこと
会社の指示とは関係なく従業者が創作した著作物は、職務著作には該当せず、原則どおり当該従業者が著作者となります。
②会社の業務に従事する者が職務上作成するものであること
従業者が業務とは関係なく趣味で創作した著作物は、職務著作には該当せず、原則どおり当該従業者が著作者となります。
③法人等が自分の名義で公表すること
未公表のものであっても、法人等の名義での公表が予定されているものや、公表される場合には法人等の名義で公表されるべきであるものについては、この要件を満たすと考えられます。
④契約等に別段の定めがないこと
契約等で著作者は当該著作物を創作した従業者である旨の定めがある場合には、①~③を満たしていても、当該従業員が著作者となります。
著作権法27条及び28条
契約書に、「著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を〇〇に譲渡する」という記載がよくありますが、このような規程を定めるのは、著作権法61条2項の規定があるからです。では、同法61条の規定を見てみましょう。
第61条
1 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
このように、同法61条2項によると、著作権を譲渡する場合に、同法27条又は28条の権利を譲渡目的として記載しなければ、これらの権利は譲渡されません。
同法27条は、二次著作物を創作する権利であり、同法28条は二次的著作物の利用に関する権利であるため、これらの権利を譲渡してもらわなければ、譲受人は二次的著作物の創作や利用ができず、著作物の利用が大幅に制限されてしまいます。
このような理由で、「著作権法第27条及び第28条の権利を含む」という文言が必要となります。
著作者人格権の不行使特約
前述したとおり、著作者人格権は著作者の一身に専属する権利であり、他人に譲渡することはできません。
そこで、著作者が著作物を譲渡する場合、著作者は著作者人格権を行使しないという不行使特約を設けることは多いです。
契約書の文言
以上のポイントを踏まえて、実際の契約書を見てみましょう。この文例は、委託者有利の業務委託契約書です。
第〇条(権利の帰属)
1 本委託業務の遂行の過程で得られた発明、考案、意匠、著作物その他一切の成果に係る特許、実用新案登録、意匠登録等を受ける権利及び当該権利に基づき取得する産業財産権並びに著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条に定める権利を含む。)その他の知的財産権(ノウハウ等に関する権利を含む。)は、全て発生と同時に委託者に帰属する。この場合において、受託者は、委託者に権利を帰属させるために必要となる手続を履践しなければならない。
2 受託者は、委託者に対して、本委託業務の遂行の過程で得られた著作物に係る著作者人格権を行使しない。
3 委託者及び受託者は、前二項に定める権利の帰属及び不行使の対価が委託料に含まれることを相互に確認する。
他人の著作権を侵害した場合には、侵害した者には以下の問題が生じます。
①差止請求
著作権者は、著作権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止や予防等を請求することができます(著作権法112条)。
差止請求を受けた場合は、侵害行為に関連する商品等の回収を強いられるため、会社の業績に多大な影響を及ぼします。また、レピュテーションリスクも生じ得ます。
②損害賠償請求
著作権侵害行為をした場合、著作権者が損害賠償請求をするおそれがあります(民法709条)。
この場合、損害額の推定規定が設けられているため(著作権法114条)、著作権者の立証責任が軽減されます。
③刑事罰
著作権侵害をした者には、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が科されます(著作権法119条1項)。
このように、著作権侵害には多大なリスクがあるので、他者の著作権を侵害しないように気を付けましょう。
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著作権とは、著作物の利用に関して著作物を創作した者に認められた権利のことで、著作権法にルールが定められています。著作権は特許等とは異なり、審査を経ずとも創作時から自動で発生する点がポイントです。
⑴著作物の定義
「著作物」とは、①思想又は感情を②創作的に③表現したものであって、④文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法2条1項1号)。
「著作物」と聞くと、小説や曲、映画等を想像するかもしれませんが、舞踊や建築、プログラム等対象になるものは多岐にわたります(同法10条1項各号)。
⑵著作者人格権
(広義の)著作権は、(狭義の)著作権と著作者人格権に分類することができます。
著作者人格権は、著作者の人格的な利益を保護する権利で、㋐公表権、㋑氏名表示権、㋒同一性保持権の3つに分類することができます。
なお、著作権は譲渡することができますが、著作者人格権は著作者の一身に専属する権利であるので、他人に譲渡することはできません(同法59条)。そのため、契約書の記載でも配慮が必要です。
㋐公表権(同法18条)
公表権とは、未公表の著作物(著作者の同意を得ずに公表されたものを含む)を公表する権利です。簡単にいうと、著作者が、自分の著作物を公表するかしないかを決めることができる権利のことです。
㋑氏名表示権(同法19条)
氏名表示権とは、著作物の原作品または著作物の公衆への提供・提示に際し、著作者名を表示するかしないか、表示する場合はどのような著作者名を表示するかを決めることができる権利です。著作物を公表する場合、本名でもペンネームでもよいですし、著作者名を付けなくても問題ありません。
一方で、著作者以外の者が著作物に表示されている氏名表示を許可なく変更したり、削除したりして公衆に提供・提示をすると、氏名表示権侵害となります。
㋒同一性保持権(同法20条)
同一性保持権とは、自身の著作物やその題号の同一性を保持し、著作者の意に反して許可なくこれらを変更したり改変されたりされない権利です。
送り仮名の変更、読点の切除、「・」を「、」への変更、改行の省略をした場合でも、同一性保持権侵害となりますので、注意してください(東京高判平成3年12月19日)。
⑶著作権に含まれる権利
著作権には、以下に列挙する権利が含まれています。著作権者は、これらの権利によって保護された行為を独占的に行ったり、これらの行為を第三者に対して許諾することができます。
① 複製権(同法21条)
著作権のコピーを作成する権利
②上演権・演奏権(同法22条)
著作物を公に上演し、または演奏する権利
③上映権(同法22条の2)
著作物を公に上映する権利
④公衆送信権・公衆伝達権(同法23条)
著作物をテレビやインターネット等で公に送信する権利
⑤口述権(同法24条)
言語に関する著作権(詩、小説等)を公に読み聞かせる権利
⑥展示権(同法25条)美術の著作物または未発行の
著作物を、オリジナルによって公に展示する権利
⑦頒布権(同法26条)
映画の著作物を複製物によって頒布する権利
⑧譲渡権(同法26条の2)
映画の著作物を除く著作物を、公に販売等の方法で提供する権利
⑨貸与権(同法26条の3)
映画の著作物を除く著作物を公に貸出しできる権利
⑩翻訳権、翻案権等(同法27条)
著作物を翻訳・編曲・変形・脚色・映画化し、二次的著作物を創作する権利
⑪二次的著作物の利用に関する原著作権者の権利(同法28条)
原著作物を基に創作された二次的著作物につき、原著作者が保有する権利
特に、⑩、⑪は契約書レビューの場面で重要となる権利です。詳しくはその2で解説します。
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フリーランス保護法と下請法の関係について見てみると、どちらも取引の適正という目的で共通していますが、規制や保護の対象が異なりますし、対象となる取引についても、フリーランス保護法は役務提供委託について自家利用役務が適用されるなど、保護対象の取引の範囲も広範という特徴があります。
フリーランス保護法3条では、取引条件を明示する義務が定められており、下請法3条でも同様の規制があります。
下請法3条では、書面により取引条件を明示する必要があるため、この書面を3条書面と呼んでいますが、下請法の場合、書面を電磁的方法で交付する場合、下請事業者の事前承諾が必要であるのに対し、フリーランス保護法では事前の承諾は不要です(ただし、書面交付を求められたら応じる義務があります。)。
支払期日については、60日以内という期間の設定については共通点が見られますが、フリーランス保護法では、再委託の場合の例外規定として、元委託の支払期日から30日以内という制限がなされています。
また、下請法では遅延利息として年14.6%の規定があるのに対し、フリーランス保護法ではそのような規定はありません。
禁止事項も共通点は多いですが、フリーランス保護法5条の禁止事項は、1か月以上の業務委託に適用されるという違いがあります。また、フリーランス保護法では有償支給原材料等の対価の早期決済および割引困難手形の禁止の規定はありません。
なお、下請法とフリーランス保護法は別個の法律ですので、それぞれの要件に該当すると両方が適用される点は注意が必要です。
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フリーランス保護法は正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。
この法律の目的は大きく2つあります。
1つ目は、取引の適正化を図るため、発注事業者に対し、フリーランスに業務委託した際の取引条件の明示等を義務付け、報酬の減額や受領拒否などを禁止すること。
2つ目は、就業環境の整備を図るため、 発注事業者に対し、フリーランスの育児・介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等を義務付けることです。
では、どういう者が保護の対象になり、どういう者が規制の対象になるのでしょうか。
まず、保護の対象は、業務を受託する事業者であって、個人の場合は従業員を使用していない者、法人の場合は代表者以外に役員もおらず、かつ従業員も使用していない法人が対象です。このように、下請法の資本金要件と異なり、要件が直ちに判断できないため、相手方に保護対象に該当するかどうかの確認が必要となります。
なお、フリーランス保護法の対象に該当するかどうかの確認は、発注時点であり、適用対象外の者が、発注後に保護対象の要件を満たしたとしてもフリーランス保護法は適用されません。
一方、規制の対象になる事業者は、 個人の場合は従業員を使用する者、法人の場合は2以上の役員がいる、もしくは従業員を使用している法人で、簡単にいうと、1人でなく、2人以上が関与して行っている事業者が規制対象です。
これを構図として見てみると
フリーランス保護法で保護される者は
☞個人であれ法人であれ、1人で事業を行う者
フリーランス保護法で規制されるものは
☞個人であれ法人であれ、2人以上で事業を行う者
と単純化することができます。
例えば、フードデリバリーサービス運営会社A社(2人以上)と出前の配達員のBさんという関係で見ると、Bさんが1人で事業を遂行しているのであれば、これはフリーランス保護法の対象となります。
フリーランス保護法の内容
フリーランス保護法の内容は、大きく以下の5つです。
①書面等での契約内容の明示
②報酬の60日以内の支払い
③募集情報の的確な表示
④ハラスメント対策
⑤解除等の予告です。
以下では、これらの内容、その他の注意点及び違反した場合について説明いたします。
①書面等での契約内容の明示
業務委託時の発注書などに給付の内容、報酬の額、支払い期日、公正取引委員会規則が定めるその他の事項を業務を発注する時点で明記しなければなりませんが、電子的方法によることもできます。
しかし、フリーランスから書面の交付を求められた場合には、遅滞なく書面で交付する必要があります。
②報酬の60日以内の支払い
業務委託報酬の支払期日は当該業務提供日から起算して60日以内において、かつ、できる限り短い期間内において定めなければならないとされています。そのため、報酬の支払い期日を、業務提供日から起算して60日以内に設定されているのか否かという点について契約書のひな形等を見直す必要があります。
例えば、月末締めの翌々月末日払いであれば、3月1日に提供した業務が5月末に支払いとなり、60日以内の支払いにはならないため、翌々月末日払いを翌月末日払いに変えるなどの対応が必要となります。また、受託した業務をフリーランスに再委託する場合は、 支払期日が30日以内となっていますので、気をつけなければなりません。
③募集情報の的確な表示
インターネット等でフリーランスを募集する際に、正確な募集条件を掲載しなければなりません。
広告などで情報を提供する際、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしないことはもちろん、一度情報をあげても、それがその時期に合わせた正確かつ最新の内容を反映しているか確認が必要になる点も注意点です。
④ハラスメント対策
フリーランスに対するハラスメント対策のために必要な措置を講じなければならず、また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったことを理由に不利益な取り扱いをしてもいけません。
そのため、フリーランスに対するハラスメントが禁止であるということを会社内での周知を徹底したり、フリーランスが会社の従業員からハラスメントを受けた場合の相談窓口を設定するなどの措置を講じることが必要です。
また、委託事業者が、フリーランスに対して長期間にわたって継続的な業務委託を行う場合には、妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をしなければなりません。
長期間の業務委託ではない場合にも、同様の配慮をする努力義務を負います。
⑤解除等の予告
一定期間の継続業務委託関係がある者との間の契約を中途解約する場合には、30日前までに解約を予告しなければなりません。
また、委託事業者は、フリーランスから、契約解除の理由の開示を求められた場合には、遅滞なくこれを開示しなければなりません。
次に、上記の他に委託事業者の注意すべき点として、禁止されている事項を列挙して説明します。
⑴フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒絶すること
⑵フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
⑶フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
⑷通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑸正当な理由がなく自己の指定するものの購入・益務の利用を強制すること
⑹自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させること
⑺フリーランスの責めに帰すべき事由なく、給付内容を 変更させ、またやり直させること
フリーランス保護法の定めに違反した場合、公正取引委員会等から違反行為について助言・指導・報告・聴取・立入検査・勧告・公表・命令がなされ、 命令違反及び検査拒否等に対しては、50万円以下の罰金が課される可能性があり、委託事業者が法人の場合には行為者と法人の両方が罰せられます。
また、このような処分がなされると、処分を受けたということで、企業の信頼に関する、いわゆるレピテーションの問題が生じることもありますので、注意が必要です。
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1 課徴金制度における返金方法の弹力化
改正前景表法10条および11条は、課徴金納付命令の通知を受けた事業者が実施予定返金措置計画の認定を受けて一般消費者への金銭による返金措置を実施した場合、返金した額を課徴金の額から減額することを定めています。
この返金措置は、課徴金制度の導入以来これまでの利用がわずか数件にとどまっています。そして、その理由として、返金を実施するために銀行口座情報を購入者から取得しなければならないことや、振込手数料が割高であることなどが指摘されていました。
そこで、改正景表法では、金銭以外の支払手段として第三者型前払式支払手段 (いわゆる電子マネー等)を利用することが認められました。
2 課徴金額の推計規定の新設
改正景表法8条4項は、事業者が課徴金の計算の基礎となるべき事実を報告しないとは、内閣府令で定める合理的な方法により売上額を推計して、課徴金の納付を命ずることができることとしました。
課徴金の額は、課徴金の対象となる不当表示をした期間(最大3 年)の売上額が計算の基礎となりますが、商品の売上データを適切に管理していない事業者については課徴金の基礎となる売上額が把握できないために課徴金を課すことができませんでした。しかし、そうすると、ずさんな管理をしていた事業者がかえって得をするという不都合が生じていたため、この推計規定が導入されました。
この「合理的な方法」とは、 課徴金対象期間のうち課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握した期間における1日当たりの売上額に、課徴金対象期間の日数を乗ずる方法とされています (改正景表法施行規則8条の2)。
したがって、この改正によってもまったく売上額が把握できない事業者につい ては、売上額を推計することはできないこととなります。
ただし、いかに管理がずさんな事業者であっても、まったく売上額を把握できないことはまれと考えられますので、この制度の導入により、これまでは課徴金対象期間全期間分の課徴金を課すことができなかった(あるいは把握できた売上額が5,000万 円に満たないためにまったく課徴金を課すことができなかった) 事例の多くについて課徴金を課すことができるようになるものと考えられます。
これを事業者サイドから見てみると、たとえば、売上が伸びてきた直近1年分の売上だけ把握しているようなケースにおいては、その3年分を基準として課徴金が計算されると、本来支払うべき課徴金よりも高額の課徴金を課されることになります。
このような不利益を避けるためには、商品の売上額を適切に把握・管理しておく必要があります。
3 再違反事業者に対する課徴金の割増し規定の新設
基準日から遡って、10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対する課徴金の割合を3%から4.5%に割増しする規定が新設されました (改正景表法8条5項)。
基準日は、報告徴収等、合理的根拠の提出要求、弁明の機会の付与のいずれかが行われた日のうち最も早い日とされています(改正景表法8条6項)。
なお、事業者が過去に課徴金納付命令を受けた者かどうかが問題とされるため、同一の商品・役務でなくても、この規定は適用されます。
4 不当表示に対する直接の刑事罰の新設
優良誤認表示と有利誤認表示に対する直接の刑事罰の規定が新設され、これらの不当表 示をした個人に対して100万円以下の罰金が科せられるほか(改正景表法48条)、法人にも 100万円以下の罰金が科せられることとなりました(改正景表法49条1項2号)。
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令和6年10月1日から施行された景表法改正のうち、今回は確約手続きについて説明いたします。
1 確約手続きの内容と流れ
確約手続とは、不当表示または景品規制違反の疑いのある事業者から、
①違反被疑行為やその影響を是正するための是正措置計画を提出させ、
②その計画が是正措置として十分であり確実に実施されると見込まれると消費者庁が認定した場合、
違反被疑行為に対する措置命令や課徴金納付命令を行わないこととする制度のことです。
確約手続は、消費者庁が違反被疑行為について、確約手続の対象とすることが適当と判断した場合に、違反被疑行為の概要等を記載した書面を事業者に通知(確約手続通知)することにより開始することとなっています (改正景表法26条、30条)。
通知を受けた事業者は、確約手続通知を受けた日から60日以内に、是正措置の認定を申請する必要があります(改正景表法27条1項、31条1項)。
ただし、消費者庁が公表した確約手続運用基準の記載では、「確約手続をより迅速に進める観点から、消費者庁が確約手続通知を行う前であっても、違反被疑行為に関して調査を受けている事業者は、いつでも、調査を受けている行為について、確約手続の対象となるかどうかを確認したり、確約手続に付すことを希望する旨を申し出たりするなど、確約手続に関して消費者庁に相談することができる」とされております。
そのため、実際には、確約手続通知を受ける前段階で、消費者庁と事業者とで協議を行った上で、是正措置計画の策定を開始するという運用が想定されています。
このような中で事業者から提出された是正措置計画が、違反被疑行為やその影響を是正するために十分かつ確実なものであると消費者庁が認定すれば、措置命令や課徴金納付命令が行われないこととなります(改正景表法28条本文、 32条本文)。
もちろん、認定された是正措置計画に従って是正措置が実施されないときや虚偽または不正の事実に基づいて認定を受けたことが判明したときは、認定が取り消されて調査が再開され、措置命令や課徴金納付命令が行われます (改正景表法29条1項、 28条ただし書、 33条1項、 32条ただし書)ので誠実な対応が必要であることは言うまでもありません。
2 確約手続の対象
消費者庁が、確約手続の対象とするか否かの判断にあたっては、「確約手続により問題を解決することが一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があるか否かを判断する」とされています。
具体的には、「違反被疑行為がなされるに至った経緯、違反被疑行為の規模及び態様、一般消費者に与える影響の程度並びに確約計画において見込まれる内容その他当該事案における一切の事情を考慮し、違反被疑行為等を迅速に是正する必要性、あるいは、違反被疑行為者の提案に基づいた方がより実態に即した効果的な措置となる可能性などの観点から判断する」とされています。
このような記載からも、確約手続通知以前に消費者庁と事業者との協議が行われることが前提になっていることが窺えます。
確約手続の対象外となる場合として、以下の2つが確約手続運用基準において挙げられています。
① 10年以内に景表法に基づく法的措置を受けたことがある場合
② 違反被疑行為とされた表示について根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえ て当該表示を行っているなど、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合
3 是正措置の内容
確約手続運用基準では、典型的な是正措置として、以下の7つが挙げられています。
① 違反被疑行為を取りやめること
② 一般消費者への周知徹底
③ 違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置
④ 履行状況の報告
⑤ 一般消費者への被害回復
⑥ (アフィリエイターなど違反被疑行為の原因となった取引先との) 契約変更
⑦ (有利誤認表示に合わせた) 取引条件の変更
このうち①と②は 「措置内容の十分性を満たすために必要な措置の一つである」とされており、③と④は、「措置内容の確実性を満たすために必要な措置の一つである」とされているため、是正措置計画に必ず盛り込まなければならない事項です。
⑤一般消費者への被害回復とは、商品または役務の代金の全部または一部を消費者に返金することを意味し、これについては、「措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとする」とされ、必ずしも是正措置計画に盛り込まなくてもよいことになっていますが、十分性を判断するうえで重要な要素と位置づけられています。この記載からすると、特段の事情のない限り、返金措置を盛り込まない是正措置は不十分と判断される可能性が高いのではないかとされています。
なお、特段の事情としては、法律上、課徴金の納付を命じることができない場合(景表法8条 1項ただし書) が想定されており、具体的には、以下の2つの場合です。
(ア) 事業者が不当表示に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠ったものでないとき、
(イ)課徴金の額が150万円未満であるとき (売上が5000万円未満であるとき)
⑥と⑦は、「措置内容の十分性を満たすために有益である」とされており、重要度としては返金措置よりも一段下に位置づけられているが、それらの対応が実施可能であるにもかかわらず、是正措置計画に盛り込まない場合には、十分性が認められないおそれが高いと考えられています。
4 制度の利用について
確約手続が認定された場合、 認定確約計画の概要、認定に係る違反被疑行為の概要、確約認定を受けた事業者名その他必要な事項が公表されることになります。
その際、 景表法の規定に違反することを認定したものではない旨は付記されますが、一般消費者からは違反被疑行為を自認したと受け取られる可能性もあり、その内容が措置命令と同じように報道されてしまうと、措置命令を受けた場合と同様、企業のレピュテーションに大きな影響を与えるおそれがあります。 また、是正措置計画に返金措置が必要となると、 経済的な面でも確約手続を利用するインセンティブが低くなるという懸念もあります。
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今回は、前回に引き続き、ホテル業界の法務についてQ&A形式で解説いたします。
本コラムでは、情報漏洩問題についてご説明します。
Q 情報漏洩が起こるパターンは、どのように分類できますか?
A 情報漏洩は、①情報システムが外部から攻撃を受けて漏洩するパターンと②内部から漏洩するパターンがあります。
Q 情報漏洩時に、ホテルはどのような責任を負いますか?
A 自社のシステムがハッキングされ、情報が漏洩した場合には、被害者から直接損害賠償請求される可能性があります。
他社がハッキング等を受けたことにより、自社の顧客情報が漏洩した場合でも、業務委託先を管理・監督できていなかったこと、そのような会社に個人情報管理を委託したことについて責任を問われる可能性があります。
また、情報漏洩問題が起こると、レピュテーションリスクも避けられません。
Q 情報漏洩事件における損害額はどのくらいですか?
A 情報漏洩事件の裁判例を3つご紹介します。
⑴ 平成14年7月11日判決
〇概要:宇治市がシステム開発業務を委託したところ、再々委託先のアルバイトが不正に約22万件の住民基本台帳データを流出させました。
〇自治体の責任:宇治市は、市民のプライバシーを違法に侵害したとして、不法行為による損害賠償責任として、1人あたり1万5000円の慰謝料(弁護士費用を含む)を支払う旨の判決が出されました。
⑵平成19年12月14日判決
〇概要:総合電機通信サービスを提供していた会社に業務委託で派遣されていた元従業員が悪意で個人情報を持ち出し、サービスの会員情報(氏名、住所、電話番号及びメールアドレス等)が流出しました。
〇企業の責任:業務委託で派遣されていた元従業員が悪意で個人情報を持ち出した事案であるにもかかわらず、企業の過失が認定され、企業は慰謝料5000円及び弁護士費用1000円の賠償責任をおいました。
〇判決のポイント:企業としては、外部からの不正アクセスを防止するための相当な措置を講ずべき注意義務を怠った過失があると判断されました。
⑶平成19年8月28日判決
〇概要:TBCとホームページの制作・保守契約を締結していた会社が、ウェブサイトをTBC専用サーバーに移設する際、電子ファイルを公開領域に置いたうえ第三者のアクセス権限を制限する措置を講じなかったため、顧客情報が流出しました。
〇企業の責任:企業は慰謝料3万円及び弁護士費用5000円の賠償責任を負いました。
〇判決のポイント:ホームページの製作・保守業務を委託した者の過失によるものであるとしても、その者に対する実質的な指揮、監督が認められる場合に、使用者責任を負うと判断されました。
Q 情報漏洩発生の可能性を下げる予防措置はありますか?
A 予防措置には、内部からの情報漏洩に対する対策と、外部からの情報漏洩に対する対策があります。
まず、内部からの情報漏洩に対する対策として、社内規則の制定・研修を行いましょう。規則の制定・研修を行うことで、従業員(アルバイト社員を含む)の意識の向上が期待できます。
2つ目に、社内体制の整備が挙げられます。具体的には、担当部署を設置し、リスクの特定や対応の整備の実施を行います。
3つ目に、外注管理が挙げられます。業務委託先の会社が十分な情報管理体制を有しているかを確認しましょう。「プライバシーマーク」や「ISMS」などを一つの目安として選定することも考えられます。
次に、外部からの情報漏洩に対する対策として、サイバーセキュリティ対策が挙げられます。専門システムの導入や外部委託等により、不正アクセスのリスクを減少させることができます。
必要な措置を講じていたという事実が過失の有無の判断で重要です。
2つ目に、保険の加入が挙げられます。サイバー攻撃に起因する漏洩は補償の範囲内となっています。情報漏洩時の見舞金について上限が定められていることもあるため、保険約款の十分な検討が必要です。
Q 情報漏洩が起きた際に、どのように対応すればいいですか?
A まず、対外的リリースを行い、迅速な謝罪を行いましょう。謝罪対応が遅いと、批判が強まるおそれもあります。リリースの手順、具体的内容についてマニュアルを作成しておくと有用です。
他にも、お詫び金の交付が考えられます。額は、1人あたり500~1000円相当の商品券やポイントが多いです。
ただし、お詫び金を交付したとしても、依然として損害賠償請求リスクが残る点には注意が必要です。
また、個人情報保護委員会に漏洩事故の報告をすることも考えられます。漏洩発覚日の3~5日以内に速報を出し、発覚日から30日以内に確報を出しましょう。
Q お詫び金による対応の具体例はありますか?
A 数社のお詫び金による対応をご紹介します。
⑴ソフトバンクBB
〇概要:インターネット接続サービス等の会員の個人情報が外部に漏洩しました。
〇対応:1人あたり500円の金券を、451万7039人に送付しました。
⑵アリコジャパン
〇概要:保険契約の証券番号、クレジットカード番号、有効期限が流出しました。ただし、流出情報に氏名、住所、電話番号、契約内容、健康情報などは含まれていませんでした。
〇対応:実際に流出した18,184人には10,000円の金券を、注意喚起の連絡をしたが、結局流出しなかった約11万人には3,000円の金券を交付しました。
⑶アミューズ
〇概要:クレジットカード情報及びメールアドレスが流出しました。
〇対応:148,680人に1人当たり500円のクオカードを送付しました。
情報漏洩問題への対策として、情報漏洩が生じない体制の構築は勿論重要ですが、必ずしも情報漏洩が防げるわけではありません。そのため、体制の構築に加えて、情報漏洩が生じた場合の対応策について平時から検討しておくことが重要です。
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