これまでのコラムでは景品表示法が表示行為についてどのような規制をしているのかについて説明をしてきました。
今回は、景品表示法に違反した場合にどのようなことになるのかということについて説明したいと思います。
措置命令
景品表示法に違反する不当な表示がなされた疑いがある場合、消費者庁は関連資料を収集を行ったり、事業者に対する事情聴取などの調査を行うことができます。
そして、その調査の結果、景品表示法に違反していると認められた場合は、事業者に対して弁明の機会を付与した上で、不当表示によって一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命じる措置命令を出すことができます。
措置命令では、一般的に、違反行為の差し止めが命じられるほか、一般消費者の誤認排除のための新聞広告、再発防止策の策定、同様の行為の禁止、措置命令に対する対応についての消費者庁への報告などが命じられます。この命令に違反した場合には、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金という罰則が定められています。
新聞の掲載については、日刊新聞2紙以上に社告を掲載するのが通常であり、この新聞掲載費用だけでも数百万円単位の支出になるとも言われています。
都道府県知事による措置
また、違反行為を迅速、効果的に規制できるようにという観点から都道府県知事も措置命令をするために必要があるときは、報告命令、立ち入り検査等を行って必要な調査を行うことができるとされており、その結果、違反行為があると認められるときは、事業者に対して行為の取りやめや再発防止に必要な事項を命じることができるものとされています。
課徴金制度
平成26年11月の景品表示法の改正によって、課徴金の制度が導入されました。
具体的には、景品表示法において定められている不当表示の類型のうち告示によって指定される不当表示の類型を除き、課徴金を賦課するものとされており、優良誤認表示行為及び有利誤認表示行為が対象となります。
不実証広告規制にかかる表示行為については、課徴金との関係では、一定の期間内に当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出がない場合には、当該表示を不当表示と「推定する」(後から争える)という規定となりました。
細かいところですが、措置命令との関係では、不実証広告規制は「みなす」(後から争えない)という規定になっています。
これは、不実証広告規制に基づく資料提出期間を過ぎた後であっても、後から合理的な根拠を示す新しい資料が備わった場合には、課徴金との関係では、推定規定であるため、優良誤認表示に該当することについて争えるようにしているため、文言の違いが生じています。
課徴金の額
課徴金の金額は、対象商品・役務の売上額に一定の割合をかけることによって算定するものとされており、算定率は3%とされています。
対象期間として遡れる期間は3年間されています。また、事業者が違反行為であることを知らないことについて相当の注意を怠った者でないと認められるときには課徴金を賦課しないともされています。算定した金額が150万円未満の場合には、規模基準によって課徴金は賦課されません。
除斥期間としては、当該違反行為をやめてから5年経過したときには、課徴金を賦課しないものとされているほか、自主的に違反行為を申告した場合には課徴金の2分の1を減額するという制度もあります。
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優良誤認表示と有利誤認表示
このコラムでは、景品表示法の優良誤認と有利誤認のうち、優良誤認について説明していきます。
優良誤認と有利誤認、似たような言葉で区別がつきにくいと思います。
それぞれ、どのようなものかというと、
優良誤認とは、
商品の内容について
① 実際のものより著しく優良であると示す表示
② 事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示
を指すとされています。
たとえば、国産有名ブランド牛ではない国産牛肉であるにもかかわらず、松坂牛など国産ブランド牛肉であるかのような表示を行うことなどがこれにあたります。
一方、有利誤認とは、
商品又は役務の価格その他の取引条件について、
① 実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
② 当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
を指すとされています。
たとえば、他社商品と同じくらいの容量しかないのに、他社商品の2倍の容量と表示することなどがこれにあたります。
優良誤認表示とは
今回はこのうち、優良誤認表示について書いていきたいと思います。
優良誤認表示のポイントは、「著しく優良」であるかどうかです。「著しく」という制限がついている理由は、一般に広告・宣伝活動も多少の誇張が行われるものであるということは共通理解としてあるという点にあります。
また、「著しく優良」かどうかの判断は、業界の慣習や事業者の認識によるのではなく、一般の消費者の誤認を招くかどうか、という視点で判断するという点には注意が必要です。
たとえば、着物のレンタルに関する優良誤認の事例として、「フルセット」として表示をしていたものの、帯については別であったことが消費者に誤認を招くとして優良誤認にあたるとされた事例があります。着物業界の慣習としては、着物と帯は別という認識があったことに起因するものともされていますが、実際にレンタルをする消費者からすると、そのようなことは分からないのが通常だと思います。 このように、広告表示を行う際には、知らず知らずのうちに、業界の慣習に沿った表示をしてしまっていないか、消費者の目線で見て誤解を招くことがないか、確認が必要です。
実際に気になるのは、どのような表示を行ったら「著しく優良」と誤認される表示になるのか、という点だと思います。もともと、「著しく優良」という言葉自体が非常に幅のあるものであるため、明確な基準を出すことは難しいのですが、過去の違反例を見るのが分かりやすいと思います。
過去の処分例については、消費者庁のホームページに掲載がされています。
この中から、自社の業界に関係のありそうなものを見ながら、どの程度の表示をすると「著しく優良」にあたるのかということを見極めていく必要があります。
処分例を見ていくと、1社だけでなく同じような表示を行っていた企業に対してまとめて措置命令を出していることも多いことに気づくと思います。あの企業もこのような表示を行っているから、と安易に考えて表示をしてはいけないということを示す一例です。
不実証広告規制とは
また、優良誤認の注意点として、不実証広告規制というものがあります。これはどういうものかというと、商品やサービスについて著しく優良である旨の表示をしていた場合、その合理的な根拠資料の提出を求めることができ、その根拠を示す資料が提出されなければ、不当表示であったとみなすというものです。そして、その資料の提出期限は15日後と短いため、資料の提出を求められてから新たに実験をしようとしても間に合いません。このように提出期間が短い背景には、著しく優良である旨の表示をしている以上、表示を行っている時点でその根拠をもって行っているはず、という価値判断があるものといえます。
実際の処分例でも、不実証広告規制によって、合理的な根拠を提出できなかったということで処分されている例も多数ありますので、広告表示の根拠がしっかりとあるのかどうかということの確認も必要です。
では、どのような資料を出せば合理的な根拠を示したことになるのでしょうか。
これについて、公正取引委員会が平成15年10月28日に出した不実証広告ガイドラインにおいては、
① 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
② 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
の2つの要件が必要であるとしています。
また、消費者の体験談やモニターの意見等の実例を収集した調査結果を表示の裏づけとなる根拠として提出する場合には、無作為抽出法で相当のサンプルを選定し、作為が生じないように考慮して行うなど、統計的に客観的が十分に確保されていることが必要とされています。
実際の処分例でも、モニター数不足やモニターに社員などが含まれていることを理由として客観性が否定された例もあるため、体験談やモニターの意見等を根拠とする場合には、これらのことにも注意が必要です。
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※本コラムは2023年10月実施の法律事務所の顧問先企業向け動画配信の内容をもとに作成しております。上記動画は、顧問先企業の従業員向け研修を意識して作成しておりますので、従業員向け研修をお考えの方にもご参考になれば幸いです。
1 炎上投稿の共通項
SNSが発達した今日、世界中の人が私たちの投稿を閲覧することができます。SNSに不適切な投稿をすると、それは瞬く間に拡散され、度々炎上に繋がります。
では、どのような投稿が不適切として炎上に繋がるでしょうか。炎上する投稿を見ていくとそこには共通項が見えてきます。炎上の共通項を知ることは、予期しない炎上を防ぐうえで役立ちます。
以下では具体例を挙げながら、炎上の共通項について確認していきます。
⑴ 不適切な投稿タイミング
①TSUTAYAの店長が東日本大震災の最中、TSUTAYA公式ツイッターアカウントに
「テレビは地震ばかりでつまらない、そんなあなた、ご来店お待ちしています」
と投稿し、炎上。店長は実名を明らかにしたうえで謝罪。
②ディズニー公式ツイッターアカウントが、長崎への原爆投下から70年の8月9日に「なんでもない日おめでとう」
と投稿し、炎上。担当者は謝罪し、問題となった投稿は削除。
これらの事例のように投稿タイミングを誤ることは、炎上に繋がる可能性があります。
大災害、大事件や戦争に関する日などの投稿は、内容次第では不適切、不謹慎な投稿と受け止められます。このような日は、それぞれの人が様々な記憶や想いを抱いていることに配慮し、いつも以上に節度をもった投稿を行いましょう。
⑵ 価値観の多様性への配慮の欠如
①新潟日報社の報道部長が個人のツイッターアカウント上で、長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返していたところ、これらは報道部長の投稿であるということが判明。報道部長は謝罪をし、ツイッター上にも謝罪文を掲載。
②四国放送株式会社の社員が個人のツイッターアカウントと間違って、同社の公式ツイッターアカウントにて公明党や代表議員を批判する内容の投稿をし、炎上。四国放送株式会社は、個人の携帯電話から公式ツイッターに書き込みができていたことや、管理体制が杜撰であったとして謝罪。
個人の内心でどの思想や政党を支持し、あるいは支持しないかは自由です。しかし、これらの事例のように、自身の思想を外部に発信する場合には、自身と異なる思想を持った者を攻撃する内容になっていないかといった配慮が必要です。もし、このような配慮に欠けた投稿をすれば、炎上することは必須です。また、投稿時には、不適切な表現を使っていないかについても注意しましょう。
⑶ 「中の人」と世間の感覚のズレ
タカラトミーの公式ツイッターアカウントが
「#個人情報を勝手に暴露します」「(とある筋から入手した、某小学5年生の女の子の個人情報を暴露しちゃいますね)」
などと投稿したところ、性犯罪を想起させるとして炎上。タカラトミーは謝罪し、問題となった投稿を削除。また、公式ツイッターアカウントの投稿を当面の間停止すると発表。
この事例が炎上した原因は、いわゆるツイッターアカウントの「中の人」と世間の感覚にズレがあったためです。タカラトミーのような子供向け玩具を販売する会社が子供の性犯罪を連想させる投稿を行ったことに、情報の受け手は強い拒否感を示すのは当然です。
企業としては、多くの人に投稿を見てもらうために、ユーモアのある投稿をすることも重要ですが、その投稿が好意的に受け取られる内容のものであるかを、よく吟味してから投稿しましょう。このとき、会社の販売商品、ターゲット層、世間の状況について複数の社員が広い視点をもって考えることも重要です。
⑷ 他者のプライバシーの侵害
不動産仲介業者の従業員が芸能人夫婦を接客し、35万円の賃貸物件を紹介した旨を個人のツイッターアカウントに投稿し炎上。当該従業員のツイッターアカウントはすぐに削除されたものの、従業員はプライベートな内容の投稿もしていたため、問題となった投稿をした従業員はすぐに特定された。
芸能人を接客したなど珍しい経験をしたときに、誰かに話したくなる気持ちは分かりますが、顧客の個人情報やプライバシーに関する事項を投稿することはもちろん許されません。「個人アカウントだから閲覧している人は少ないだろう」と思うかもしれませんが、炎上するような内容の投稿はすぐに拡散され、多くの人の目に触れることになります。
また、投稿者が誰であるかということや投稿者がどこに勤務しているかなども容易に特定され得ますし、特定された場合は、そのアカウントが従業員個人のものであっても、会社のイメージや信用が失墜するおそれがあります。そのため、他者の個人情報やプライバシーに関する情報が投稿内容に含まれていないか確認しましょう。
⑸ 投稿への興味・関心を集める方法の誤り
KIRINが午後の紅茶のPRのために「#〇〇女子」「#いると思ったらリツイート」などのタグをつけ、4種の女性像のイラストを投稿。その女性たちの特徴を説明するイラストやコメントが午後の紅茶を買っている女性を馬鹿にしているようにしかみえないといった批判が相次ぎ炎上。KIRINは謝罪し、問題となった投稿を削除。
この事例が炎上した原因は、投稿への興味・関心を集める方法を間違ったことにあります。商品のPR投稿の内容が不適切なものであれば、消費者から広報の考え方が甘い企業であると認識されるおそれがあります。
また、投稿の趣旨が伝わりづらいと、色々な解釈を生み、批判的な意見を招くおそれもあります。そのため、発信の趣旨が伝わりやすく、色々な解釈を生まない内容であるかを検討してから投稿しましょう。
2 炎上した場合の処分
では、投稿が炎上した場合、投稿をした従業員にはどのような処分が下されるのでしょうか。
⑴ 懲戒処分の内容
炎上した場合、問題となる投稿をした従業員は、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。懲戒処分の内容としては、従業員を文書で指導する戒告・譴責・訓告、従業員の給与を減額する減給、従業員に一定期間出勤を禁じ、その期間の給与を無給とする出勤停止、従業員の役職や資格を引き下げる降格、従業員に退職届の提出を勧告し、提出しない場合には懲戒解雇をする諭旨解雇、諭旨退職、制裁として従業員を解雇する懲戒解雇があります。
⑵ 具体的な事例における従業員の処分
上記1⑵でご説明した新潟日報社の報道部長が、個人のツイッターアカウントで長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返してきたという事例では、報道部長は報道部長の職を解かれ、無期限懲戒休職処分となりました。
また、公明党を批判する投稿をした四国放送の従業員は、懲戒解雇となりました。また、社長や当該従業員が所属していたラジオ局担当役員は減俸処分、上司2人は減給処分となりました。
このように、炎上を引き起こすと、自身に休職処分や懲戒解雇などの思い処分が下されるおそれがあるだけでなく、周囲の人にも責任が波及するおそれがあります。
3 投稿時に気を付けるポイント
⑴ 「炎上さしすせそ」について
そもそも、炎上しやすいトピックは何でしょうか?炎上しやすいトピックをまとめて、「炎上さしすせそ」と呼ぶことがあります。「さ」は災害・差別、「し」は思想・宗教、「す」はスパム・スポーツ・スキャンダル、「せ」は政治・セクシャル、「そ」は操作ミス(誤投稿)を指します。これらのトピックにあたる投稿をする場合は、いつも以上に投稿内容に注意しましょう。
⑵ 炎上しないためのチェックリスト
では、炎上しないためのチェックリストを確認しましょう。
①アカウントを間違っていないか
個人アカウントと会社の公式アカウントを間違っていないか、投稿前に確認しましょう。
②誤字脱字の有無、他の情報との整合性、内容の正確性
重要な情報に誤りがあれば、情報の受け手が混乱したり、不正確な情報を発信する企業だとみなされたりするおそれがあります。投稿前に投稿内容を読み返したり、情報が最新のものであるか、信頼できるものであるかを確認したりすることが重要です。
③画像、動画、リンクミスはないか
②と同様、情報の受け手が混乱しないために、投稿前に確認することが重要です。
④投稿タイミングが不適切でないか
上記1⑴のTSUTAYAやディズニーの事例のとおり、投稿タイミングやその内容によっては、不謹慎であるとして炎上を引き起こすおそれがあります。投稿する日が大災害、大事件や戦争に関する日ではないか、仮にそのような日であったとしても、投稿内容が不謹慎なものでないかといった配慮が求められます。
⑤他者の個人情報やプライバシーを漏洩していないか
上記1⑷の不動産仲介業者の事例のように、他者の個人情報やプライバシーに関する情報を漏洩すると、たとえ個人アカウントであったとしても、会社が特定されるおそれがあります。消費者は、顧客の個人情報を漏洩するような会社の利用は避けるため、結果として会社に損害が生じます。
⑥差別的、侮辱的な発言をしていないか
個人アカウントにおいて過激な内容の投稿で炎上すると、場合によっては投稿者が勤務している会社が特定され、炎上が拡大するおそれがあります。そのため、会社の公式アカウントにおける投稿だけでなく、自身の個人アカウントにおける投稿でも、差別的、侮辱的な発言をしないようにしましょう。
⑦スポンサーシップ契約締結を締結しているか
スポンサーシップ契約を締結していない場合は、オリンピックやワールドカップなどの名称を商業利用してはいけません。一般的な名詞と思っているものでも商標登録されているものがあるので、不用意に利用できないものがあることに注意しましょう。
⑧法令に適合しているか
投稿内容が景品表示法や薬機法などの法律に違反している場合は、炎上に繋がるだけでなく、行政庁から処分を下されるおそれがあります。法律に違反していないかを判断することは難しいので、問題となりうる場合には、まずは弁護士に相談したうえで、問題ないことを確認してから投稿しましょう。
⑨会社のSNS運用ルールを遵守しているか
会社のSNS運用ルールに従って投稿することで、炎上する可能性を相当程度低減させることができます。会社にSNS運用ルールがあるかを確認し、それがある場合には、そのルールに従った投稿をしましょう。
⑩投稿内容が伝わりやすいか
投稿内容の趣旨が伝わりにくく、色々な解釈を生む内容であれば、批判的な意見を招きかねません。投稿内容が多くの人にとって容易に理解できるものであることが求められます。SNSに投稿する前に会社内部で投稿内容から受ける印象について検討し、誤解を生じさせるような内容でないかを確認しましょう。
⑪他者の思想、価値観への配慮をしているか
情報の受け手は様々な価値観を持っています。他者の思想・価値観を排除し、自身の思想・価値観を押し付けると、容易に炎上に繋がります。他者の思想・価値観に寛容な姿勢を持ち、自身とは異なる価値観を持つ人に配慮した投稿をしましょう。
⑫他人の著作権を侵害していないか
自身の投稿に他者のイラストや文章などを無断で掲載すると、著作権の侵害となります。著作権侵害行為に該当すれば、損害賠償請求などをされるおそれがあるので、他人の著作物を無断で使用していないか確認しましょう。
⑶ 炎上防止対策
ここまで、投稿時に確認すべき点についてご説明してきましたが、炎上を防止するための容易かつ実効的な対策は、従業員相互でチェックをしあうことです。
主なチェック内容としては、
①会社の公式SNSに投稿する場合は、都度ログイン/ログアウトする
②個人用携帯電話で公式SNSに投稿できない設定にする
③担当者一人でSNSへ投稿をせず、投稿前に複数人で内容を確認する
④ログイン中のアカウントを確認してから投稿する というものです。
③については、年代、性別、役職などが異なる従業員が投稿内容を確認することで、広い視野をもって確認することができ、より実効的な対策となります。
⑷ それでも炎上した場合には
人の価値観は時代によって変化していくため、炎上する投稿内容も変わっていきます。過去に炎上しなかった投稿であっても、今日では炎上する可能性があります。そのため、価値観を日々アップデートしていくことが求められますが、投稿内容に注意をしていたとしても、思いがけず炎上が発生してしまうこともあるでしょう。
では、炎上した場合はどのように対処したらよいでしょうか。
炎上してしまった場合は、投稿者個人で対応せず、上司と対応を相談しましょう。急いで投稿を削除したとしても、スクリーンショットなどによって拡散されているおそれがあり、投稿の削除をもって事態を鎮めることはできません。また、謝罪をしたとしても、謝罪の内容が適切でなければ、さらなる炎上を生む可能性があります。
そのため、炎上してしまったとしても、周囲の者と炎上が発生した経緯について共有したうえで会社の判断を仰ぎ、冷静に対応するようにしましょう。
4 おわりに
炎上する投稿は時代によって変化していくとご説明しましたが、どの時代においても炎上を避けるために重要なことがあります。それは、第三者がその投稿からどのような印象を抱くかを想像することです。自身で客観的な判断をすることが難しい場合には、他の従業員に投稿から受ける印象を聞いてみるとよいでしょう。
様々な炎上事例を見てSNSに投稿するのが怖いと感じている方もいるかもしれません。しかし、SNSは情報を発信するためにツールです。炎上を恐れるあまり、情報を発信することに消極的になってしまうのは本末転倒です。SNS上の投稿は多くの人の目に触れるため、適切に利用すれば、自社や自社商品をPRする上でとても有効です。
従業員の皆様におかれましては、自社のPRのために、炎上するポイントに留意したうえで、SNSをうまく活用していただけたらと思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
※本コラムは2023年10月実施の法律事務所のミニセミナーの内容をもとに作成しております。
それではSNSの管理に関するコンプライアンス(SNSの管理)について書かせていただきます。
このコラムは大きく4つの内容から構成されています。
1つ目がSNSを利用したことによる炎上事例
2つ目がこのような炎上事例を防ぐために行うべきルールの決め方
3つ目が作ったルールの管理方法
4つ目が不幸にして炎上してしまった場合の対応方法
です。
まず、その前にこのコラムの前提ですが、このコラム自体は主には管理する立場の人向けに従業員のSNSの利用をどのように管理していくのかという視点をもとに作成しています。
従業員向けに具体的に聞いてもらいたい内容の具体例については、別のコラムで書かせていただく予定ですのでそちらもぜひご活用ください。
炎上事例の例
まず最初に炎上事例について書いていきます。
ネット社会が進展して、会社も個人も気軽に投稿できるようになって、ネットニュースもどんどん配信されるようになったという時代背景もあって、SNSの炎上に関するニュースもよく目にするようになりました。
炎上事例については時代によって傾向がありますが、最近よく炎上しているものとして挙げられるのがジェンダーに関わることです。
例えば、性的な描写を連想させるということで、炎上したり、女性蔑視ということで炎上するという事例が多く見られます。
東京都が「東京女子けんこう部」というコンテンツを紹介したことについて「けんこう」をあえてひらがなで表記しているのは、女性が男性よりも、知的に劣るという偏見を助長するものだという批判がなされたこともあります。
こちらは極端な批判ということで、大きく炎上することはありませんでしたが、こういったことでも問題になりうるという一例といえます。
次に、タイツメーカーが自社のPRのために、タイツを履いた女性のイラストを掲載したことで、性的な描写を連想させるということで炎上したということもあります。
イラストがスカートを持ち上げたりスカートが短かったり、ということで、下着が見えそうになっていたということから批判が拡大したようです。
このように製作者の意図と反する内容により炎上するという危険は、身近に潜んでおりこれを全て除去するというのはほんとに難しいことですが、会社としては例えば女性も含めたメンバーで問題がないかという確認をするなど、もしくは年齢の異なるメンバーで意見交換をし、年代によるギャップがないかなども確認するということが求められるのではないかと思います。
タクシー会社の公式アカウントが、「今うちには3名の女性ドライバーが居るが、全員20代である。ちなみに、全員めちゃくちゃかわいい。」と記載して、「女性差別」「ルッキズム(外見至上主義)」との非難を受けたものがあります。
これなどは典型的なおじさんの発想によるものでダイバーシティの必要性を強く感じさせるものです。
と思っていましたら、実はその後の報道でこのタクシー会社のSNSは、女性のドライバーが投稿していた、という記事が出てきまして、その記事が正しければおじさんではなく、女性が投稿したとしても危険性があるということがいえます。
記事によると、コロナ禍で売り上げが8割ほどダウンしたため、売上げアップのために新人女性ドライバーを使ったSNS戦略を行って、会社の紹介だけでなく、地元のグルメを紹介したりして、フォロワーが10万人を超えていたそうです。今回の投稿以外にも性的な投稿をしたりして、「会社が女性にやらせている」などという批判も来たそうです。
会社の不注意というものですが、フリー素材として載せられていたものが実は作者に無断で勝手に掲載されていて、それを知らずに会社が広告にイラストを無断で使用してしまったというもので炎上した事例もあります。
フリー素材と書いてあるのにフリーではなかったということはよくある問題で本当に気を付けないといけない問題だと思います。
次に会社の公式アカウントではなく、従業員の個人投稿であったにもかかわらず、会社が謝罪をすることになるというケースもあります。
例えば自動車販売会社の社員が店内で電動椅子に乗ってふざけている動画がSNSに投稿されて障害者を真似して遊んでいるという批判を受け、会社がホームページに謝罪文を載せたというケースがあります。
会社の中で遊んでいるということで映像によって会社が特定されてしまいます。そうすると、会社に対して批判が集まってしまい、会社が従業員個人の行動について謝罪をせざるをえなくなったということです。
会社内での写真や動画の撮影は、場合によっては会社の機密情報が映りこんでしまうおそれもありますし、この件のように会社が特定されて批判を浴びるということもあります。
過去にもコンビニエンスストアのアイスケースに入ったり、と店内での投稿が問題となったことが多くありますので、ルールとして会社内での撮影や投稿を禁止したり、その趣旨を従業員に理解させる、ということが必要になります。
さらには従業員ではなく、その家族が行ったSNSの投稿が問題になるケースもあります。例えば、有名人が銀行に来店した際に、
〇〇さん〇〇銀行〇〇支店ご来店
というようなツイートがされたケースがあります。
これは母親が銀行で働いている女性がツイートしたもので、銀行がすぐにお詫びの文書を出すという事態になりました。
有名人の私的な行動に関するプライバシーの問題ということで非常にセンシティブに扱わないといけない問題であったため、銀行の対応もとても速かったのですが、従業員ではなく、その家族の投稿というところにSNS管理の難しさを感じます。
有名人関連の投稿による問題は多く発生しており、有名人に会えたことの嬉しさや自己顕示欲のために投稿する心理は理解できますので、これを防ぐためには、並大抵の努力では足りないだろうと推測されます。
このようにSNSの炎上と一言で言っても、会社の公式アカウントだけではなく、従業員やその家族の個人アカウントによる投稿に会社が巻き込まれてしまうということもあります。
そのため会社としては公式アカウントの投稿をどのようにするかというだけではなく、会社の従業員に対して、個人のアカウントの投稿も含めて、どのような投稿してはいけないのかということの意識付けを行っていく必要があります。
どのような対策をするのがよいのか
ではどのような対策をしていくことがよいのでしょうか。
先ほどから見ていただいたSNSの炎上事例を見てもわかるように、炎上の原因は、会社や従業員の意識の不足によるものがほとんどです。
そのため、SNSの炎上を防ぐ対策としては、
①ルールを作ること
②従業員の意識を高めること
この2つが重要になります。
そのうちまず1つ目のルール作りについて説明したいと思います。
SNSの映像の中には、従業員が会社に良かれと思って注目を集めようと炎上ギリギリの投稿してしまい、その結果多くの批判にさらされるということもあります。もちろん、何の意識もなく、投稿したものが一般人の感覚にそぐわなかったために、多くの批判を浴びることがあります。
そのため、どのような投稿を行うべきか行うべきでないのか、そしてどのようにチェックをして投稿を行うのかということを決めておく必要があります。
そして、会社の公式アカウントでの投稿を想定すると、アカウントの運用面及び内容面に分けて考える必要があります。
具体的な内容については、来週投稿予定の従業員向けのコラムもご覧ください。
まず運用面では
・投稿する担当の部署を決めること
・1人ではなく複数のチェックを受けること
・個人の端末では投稿させないこと
など投稿するまでの手順を定めておくことが重要です。
一方、内容面では
どのような投稿をしてはいけないのか
ということを定めておく必要があります。
例えばソーシャルメディア利用規定の雛形を一部引用すると、以下のようなことが遵守事項として定められています。
他人の名誉権や、プライバシー権、肖像権、パブリシティー権、著作権、商標権等、法的に保護された権利を侵害しないこと
第三者の個人情報やプライバシーに関する情報発信しないこと
会社の商品、またはサービスの広告を行う場合には、景品表示法などに違反する恐れのある表示をしないこと
ただしこれを規定があるからといってどのようなものが該当するのかは、人によって受け止め方が違いますので、研修などでどのようなものが炎上に繋がるのかということを知ってもらう必要もあります
どのような研修をするのがいいのか
ではどのようにしてルールを浸透させていけば良いのでしょうか。
ルールの浸透には、通常従業員に対する研修が一般的ですが、通常の研修は必要な知識を身に付けさせるというのが目的になります。
しかしSNSのトラブルは発生させてしまった者の知識不足によるものだけではなく、その者の意識の不足という問題もあります。ですので、研修においても従業員に対してどのような意識を持ってもらえば良いのかということを意識して行う必要があります。
先ほどお話したように、従業員はそれぞれ意識が違うということを意識して話をしなければいけないことも忘れないでください。
また研修は一度やればいいというものではないということも意識しておいてください。
その理由は2つあります。
まず1つ目は、SNSの炎上の理由は時代によっても変わるため、その時々の意識関心合わせて研修を行う必要があるという点
2つ目は人間というものは、研修したときには、高い意識を持っていたとしても、どうしても時間が経つと意識が崩れていってしまうため、定期的に研修することで意識を高く持ち続けられるようにしないといけないという点にあります。
ではどのような内容で研修をしたらいいのでしょうか。
まず今回最初にご説明したように身近で、かつ、具体的な炎上事例を見てもらうというのがいいと思います。そうすることによって従業員の意識も引き締まりますし、どのようなことをした結果炎上したのかということが具体的にわかります。
またその事例を自社に置き換えてみた時に、どのようなところに炎上の可能性があるのかや、実際に社内で問題になりかけた事例がある場合には、その話をしてみるというのもいいと思います。
場合によっては、次のグループに分けて自社で気をつけることについて議論をしてもらい、その内容を発表してもらうということでより意識を高めることもできると思います。
またSNSの投稿では、個人のアカウントから投稿した場合など、第三者から当該従業員に対しても損害賠償請求がなされる可能性もありますし、企業のアカウントから投稿した場合でもあっても、企業の信用を大きく損なって、売り上げが減少したり、会社から投稿に対して懲戒処分がなされることもありますので、それだけ責任が生じるものであるということも意識してもらうようにする必要があります。
特にネットの投稿はオリジナルを削除したとしても、そのコピーが出回っていつまでも消えないこともありますので、結果の重大性についても認識してもらう必要があります。
炎上が起きた場合の対策
それでは、実際にSNSの炎上が起きた時にどのようにすればよいでしょうか。
単に会社として謝罪をすればいいというものではなく、炎上した内容によって対応を検討する必要があります。
1つ目は、会社や投稿を担当した者に落ち度があった場合です。
たとえば、差別的な発言をしてしまったような場合など、こちらの非が明らかな場合には、しっかりと謝罪をするとともに、その後の対応として差別を助長しないような研修をしていくことなどを発表することが多くみられます。
会社によっては、差別に反対する声明などをHPにアップしていたり、そのような活動を対外的に行っていたりすることもありますので、そのようなことを掲げておきながら今回の問題を起こしたことを深く反省する旨を入れたり、そのようなことを掲げていながら今回の問題が発生した原因を分析したり、というようなことをすることも考えられます。
会社としては、会社の非を認めることをためらったり、批判が収まるのを待とうとして静観したりすることもあります。
しかし、そのような対応をすることでさらなる批判を招くこともありますし、不誠実な会社という印象を与えることもあります。
2つ目は、会社に落ち度は少ないが、投稿内容の趣旨が不明確であった場合に炎上を招いたような場合です。
このような場合には、謝罪を行うか、趣旨を説明するのか、という判断が難しい場合がありますが、たとえば、趣旨を説明した上で、その趣旨が不明確となったために、〇〇といった批判を受けることとなり、今後趣旨をより明確にすることで誤解を招くことがないよう努めたいという発表をすることが考えられます。しかし、批判の問題意識をうまくとらえないとさらなる批判を招くおそれもあります。
3つ目は、会社の公式アカウントではなく、従業員個人のアカウントからの投稿であったが、会社名などが投稿され炎上に至ったような場合です。
このような場合には、基本的には私人としての投稿といえるとはいえ、その内容に問題があったような場合には、対応をどうするか難しい判断が迫られます。一つの基準としては、企業のイメージを傷つけるような炎上となっているのか、企業として管理責任を問われるようなものなのかどうかです。
そのような場合には、企業として何らかの対応をした方がよい場合が出てきますので、専門家にも相談して検討してください。
このように、対応を誤るとさらなる批判が予想される状況下で的確かつ速やかな対応が求められるというのが、SNS対応の難しさといえます。
炎上を称賛に変えた稀有な例
最後に味の素の事例をご紹介します。
餃子がフライパンにこびりつかない、ということを売りにしていたのに、こびりついたという投稿が個人の方からなされたという事例です。
本来であれば炎上してもおかしくないですが、味の素がその方にそのフライパンを研究開発に使いたいので送ってほしいとお願いして、さらに一般の方にも使い古したフライパンを募った、という事例で会社の研究熱心な態度が逆に称賛されたというものです。会社の熱意というものがネット社会でも評価されることがある、というのはどこか救いを感じます。
まとめ
今まで、SNSの炎上事例から、ルール作りとその浸透方法、炎上した場合の対応について書いてきました。
まずは会社の中でどのようなルールを作って、どのように従業員の意識づけをしていくか、ということから始まると思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
※本コラムは2023年9月実施の顧問先企業向け動画配信の内容をもとに作成しております。
下請法のイメージ
それでは、下請法の概要について説明したいと思います。
下請法が適用されるかどうかについては、
① 委託者と受託者の資本金の関係をもとに、適用対象者になるのかどうか、
② 適用対象の取引に該当するのかどうか、
という2点をまず把握する必要があります。
その上で下請法の適用対象者になった場合に、どのような規制が及ぶのかについて整理しておく必要があります。
それでは、最初に説明した1つ目のポイントである下請法の適用対象者がどのように整理されているのかについて見ていきましょう。
これは2つ目のポイントとしてあげた適用対象取引の類型に応じて大きく2つの類型に分けられています。
1つ目の類型として、
物品の製造、
修理委託、
情報成果物作成委託のうちプログラムの作成、
役務提供委託のうち運送、
物品の倉庫における保管、
情報処理
については
資本金が3億円超の会社が業務委託をする場合には、資本金3億円以下の会社や個人事業主が下請事業者に該当する。
資本金が1000万円超の会社が業務委託をする場合には、資本金1千万円以下の会社と個人事業主が下請事業者に該当する。
とされています。
たとえば皆さんの会社が資本金3千万円の場合には資本金1千万円以下の会社や個人事業主と上の内容での業務委託取引をする場合には、下請法の対象になります。
このように、下請法は、①資本金の額の関係と②取引内容、この2つに着目して下請法の対象となるかどうかを判断するということを意識してください。
2つ目の類型として、
プログラム作成以外の情報成果物作成委託、
運送・物品の倉庫における保管や情報処理以外の役務提供
という1つ目の類型に当たらない委託業務を依頼する場合には、
資本金5千万円超の会社が業務委託をする場合には、資本金5千万円以下の会社や個人事業主が下請事業者に該当する
資本金が1千万円超の会社が業務委託をする場合には、資本金1千万円以下の会社や個人事業主が下請事業者に該当する
とされています。
下請法の主な規制
では、上で説明した資本金の関係と取引内容の関係で、下請法が適用される場合にどのような規制が課されるのでしょうか。
下請法上の義務と禁止事項を説明していきます。
まず、下請法の主な義務として
①発注書面の交付義務
②支払期日を役務提供の日から60日以内にする義務
③ ②の支払い期日に遅れた場合、遅延損害金を14.6%払わないといけない
というものがあります。
①の発注書面については、下請法第3条に基づく書面であるため、3条書面と呼ばれることもあります。
この発注書面については、
・発注者と受注者の名称
・発注日
・委託内容
・納品日
・納品場所
・検査完了日
・下請代金の金額
・下請代金の支払期日
などを記載しなければならないものとされています。
②の支払期日について、役務提供の日から60日以内としなければなりませんが、よく見落としがちなものとして、
支払期日を月末締め、翌々月払いとしておくと、
例えば3月1日に納品されたものについて、3月末日に締めて、3月の翌々月の5月31日に代金を支払うことになります。そうすると納品の日から約90日後に支払うこととなりますので、下請法上違法な行為ということになってしまいます。
また③の遅延損害金についても、契約書の中で遅延損害金を民法所定の3%と定めていたりすることもありますので、この場合も厳密には下請法違反の契約書ということになりかねないため、下請法に配慮した契約書では、遅延損害金は3%とする、の後に、括弧書きなどで、「ただし、受託者が下請法上の下請事業者にあたる場合には遅延損害金を14.6%とする。」という条項が入っている場合もあります。
下請法の禁止行為の概略
次に下請法上の禁止行為ですが、
代金の減額や買いたたきの禁止
正当な理由のない受容の拒否
割引困難な手形の交付
自社製品の購入や利用の強制などが禁止されています。
主なものについては後で別途説明いたします。
下請法のよくある誤解
そして下請法の注意点としてよくある誤解も記載しておきます。
それは、仮に下請事業者が合意をしていたとしても、違法になることがあるということです。なぜ合意があってもダメなのかというと、下請法はもともと力関係の差が大きい親事業者と下請事業者の関係性に注目して下請事業者を守ろうという発想の法律です。
ですので、親事業者の言いなりになって合意を押し付けられる可能性があるということを考慮して、合意があってもだめな場合があるということになっています。
例えば、振込手数料の負担やボリュームディスカウント、いわゆるリベートのようなものについては、事前の合意があれば可能となっていますが、事後的には合意があってもできません。また支払期日を60日よりも遅くする定めは事前の合意があってもできません。
そして、こういった下請法の義務に反すると違反の事実を公表される恐れもありますので、マニュアル等を作成して担当部署に周知するということが必要となります。
下請法の適用関係の詳しい説明
では改めて、下請法の細かい部分を説明していきます。
まず、取引の内容と資本金の関係、この2つで下請法が適用されるかが決まるということを説明しました。
これに関するチェックポイントを1つずつ見ていきます。
先ほど説明した内容の繰り返しですが、
①物品の製造
②物品の修理
③プログラムの作成、
④運送物品の倉庫保管
については、資本金が3億円超の会社の場合、ここで「超」という言い方をしていますが、これは3億円を超える場合という意味です。
ですので、資本金が3億円ぴったりの場合には資本金が1千万円超3億円以下の会社として、資本金が1千万円以下の会社と個人事業主が下請事業者に該当することになります。
一方で、3億円を超える資本金の会社の場合、すなわち、資本金が3億1円以上の場合には、資本金が3億円以下の会社や個人事業主が下請事業者にあたることになります。
繰り返しになりますが、下請法は取引の内容と委託者と受託者の資本金の関係、この2つが下請法の対象となるかどうかのポイントです。ですので、仮に業務を委託する場合には、自社の資本金に応じて受託先が下請事業者に該当するかどうか資本金の金額をよく確認しておく必要があります。
あと、これは法律には規定がないのですが、親子会社の取引について、公正取引委員会は親会社が議決権の50%超を所有する子会社などの場合は運用上問題にしないという方針を明らかにしていますので、この点も覚えておくといいです。
もう1つの類型は、上であげた取引に当たらない場合というもので、例えば、放送番組や広告の制作、商品デザイン、製品の取扱説明書、設計図面等の作成といったプログラム作成以外の情報成果物の作成や
ビルや機械のメンテナンス、コールセンター業務等の顧客サービス代行といった運送・物品の倉庫保管、情報処理以外の役務提供、こういった取引については、資本金の基準が変わるということになっています。
具体的には資本金が5千万円超の会社の場合には、資本金が5千万円以下の会社や個人事業主が、
資本金が1千万円超の会社の場合には、資本金が1千万円以下の会社や個人事業主が下請事業者にあたることになっています。
上のページを見ていただくと、対象となる取引にどのようなものがあるかということのイメージがつきやすいと思います。よく誤解が生じやすいものとして、OEM生産のようなものについても自社のロゴマークをつけるという点が業務委託に当たりますので、単なる売買契約とは異なり、下請法対象ということになります。そういったことに気をつけながら、挙げている取引例を参考にしていただきたいと思います。
製造委託について
次のページは製造委託についての説明で、こういったものが製造委託にあたるという例を4つほど挙げています。
1つ目が物品の販売を行っている事業者が、その物品や部品などの製造を他の事業者に委託する場合というもので、具体的には、
自動車メーカーが自動車の部品の製造を部品メーカーに委託する場合などがあります。
2つ目が、物品の製造を請け負っている事業者が、その物品や部品などの製造を他の事業者に委託する場合というもので、具体的には、
精密機器メーカーが、受注生産する精密機械に用いる部品の製造を部品メーカーに委託する場合などがあります。
3つ目が、物品の修理を行っている事業者がその物品の修理に必要な部品又は原材料の製造を他の事業者に委託する場合というもので、具体的には、
家電メーカーが、販売した製品の修理用部品の製造を部品メーカーに委託する場合などがあります。
最後の4つ目が、自社で使用・消費する物品を社内で製造している事業者が、その物品や部品などの製造を他の事業者に委託する場合で、具体的には、
製品運送用の梱包材を自社で製造している精密機器メーカーが、その梱包材の製造を資材メーカーに委託する場合などがあります。
修理委託について
次のページに来まして、修理委託については、修理を事業として行っている者が下請事業者に修理を委託する場合だけではなく、自社の物品について通常は自社で修理を行っているけれど、その一部について下請事業者に修理を委託する場合も、下請法対象になるという点が注意点です。
どういったものがあたるかというと、まず1つ目の修理を業として行っているというのは、たとえば、自動車のディーラーが自動車の所有者から依頼された修理を板金業者に委託したり、冷蔵庫の購入者が家電量販店に修理を頼んで、家電量販店が地域の電気屋さんに委託する、という場合があります。
一方で、2つ目の自社で使用している物品の修理というのは、たとえば、精密機器メーカーが、測定の機械を通常はメンテナンスの専門部署が行っているけれど、その一部を他の業者に委託する場合などがあります。
情報成果物の作成について
情報成果物については、まずプログラムがどういったものなのかという事を意識した上で、プログラムの場合とそれ以外の委託の場合のそれぞれで資本金の関係が異なっていましたので、その関係を押さえておきましょう。
その上で、情報成果物作成委託にどのようなものがあるかですが、
まず、1つ目は情報成果物を業として提供している事業者が、その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合というもので、
具体的には、
ソフトウェアメーカーがゲームソフトやアプリケーションソフトの開発をソフトウェアメーカーに委託する場合などがあります。
2つ目が、情報成果物の作成を業として請け負っている事業者が、その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合というもので、
具体的には、
広告会社が、クライアントから受注したCMの制作をCM制作会社に委託する場合などがあります。
最後3つ目が、自社で使用する情報成果物の作成を業として行っている場合に、その作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合というもので、
具体的には、
家電メーカーが内部のシステム部門で作成する自社用経理ソフトの作成の一部をソフトウェアメーカーに委託する場合などがあります。
役務提供について
役務提供についてはイメージしやすいと思いますが、
具体例とすると、
自動車メーカーが、販売した自動車の保証期間内のメンテナンス作業を自動車整備会社に委託する場合などがあります。
役務提供について1つ注意点としては建設業に関する下請けは、下請法の対象ではなく、建設業法が適用されることがあります。
また、自社が事業として行っている行為を下請事業者に委託する場合ではなく、自社のために行っている業務を委託する場合には下請法の対象にはなりません。
例えば、運送業務を行っている会社が配送の委託を受けた場合で、梱包については、お客様から依頼されていないが、配送を行うためには梱包を行うことが必要であるため、これを梱包する事業者に依頼する場合などは、下請法の対象にならないこととなります。
下請法の禁止事項
次からは下請法が適用される場合にどういったことが禁止されるのかについて話していきたいと思います。
書いたたき
まず最初に買いたたきについてお話しします。
買いたたきとは、下請代金の額を決定する際に、通常支払われる対価と比べて著しく低い金額を不当に定めることを指します。
事前に不当に低い対価を定めるという点が後で説明する減額と異なり、減額はあらかじめ定められた金額から対価を減額させようとすることを指します。
どちらも下請法上の禁止行為ですが、買いたたきと減額ではその定義が違いますので、両者を比較しながら覚えておいてください。
まず、通常支払われる対価とは何かということですが、
① 同じような取引の給付の内容(又は役務の提供)について、その下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(通常の対価)
② 通常の対価の把握が困難な場合は、例えば、その給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常支払われる対価として取り扱うもの
とされています。
そして、この通常支払われる対価より著しく低いかどうかについては、
① 著しく低いかどうかという価格水準
② 不当に定めていないかどうかという下請代金の額の決定方法や対価が差別的であるかどうか
等の決定内容で当不当を総合的に判断されます。
買いたたきに当たるかどうかは、「著しく低い」金額を定めるかどうかという曖昧な概念が使用されていますので、判断が難しいのですが、下請代金の決定の際に下請事業者と十分な協議をしたかというプロセス面の話も検討事項の1つになっていますので、その点も意識しておいてください。
減額について
次に減額についてですが、これはあらかじめ代金を定めていたにもかかわらず、この代金を減額するよう求めることを指します。ここに7つほど例を挙げていますが、キャンペーン目的で代金を変えないけど納品数を増加させて実質的に値下げをさせたり、単価を改定したけど、改定前に発注されたものについても遡及して適用させたり、振り込み代金を合意なく負担させたり、消費税を払わない等の行為が減額に当たります。
① 単価の引下げ要求に応じない下請事業者に対して、あらかじめ定められた下請代金から一定の割合又は一定額を減額すること
② 「製品を安価で受注した」又は「販売拡大のために協力してほしい」などの理由で、あらかじめ定められた下請代金から一定の割合又は一定額を減額すること
③ 販売拡大と新規販売ルートの獲得を目的としたキャンペーンの実施に際し、下請業者に対して、下請代金の総額はそのままにして、現品を添付させて納入数量を増加させることにより、下請代金を減額すること
④ 下請事業者との間に単価の引下げについて合意が成立し単価改定されたが、その合意前に既に発注されているものにまで新単価を遡及して適用すること
⑤ 手形払を下請事業者の希望により一時的に現金払にした場合に、その事務手数料として、下請代金の額から自社の短期調達金利相当額を超える額を減ずること
⑥ 下請事業者と合意することなく、下請代金を銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ、下請代金の額から差し引くこと
⑦ 消費税・地方消費税額相当分を支払わないこと
下請代金の遅延防止について
次に下請代金の支払い遅延についてですが、これは物品等を受け取った日から60日以内に代金を支払わなければいけないとなっています。この60日というのは、実務的には2ヶ月を指すとしていますので、31日の月が2ヶ月続いたとしても、例えば7月1日に納品されたものを、8月31日支払ったという場合であっても、7月と8月と31日ずつあって、61日後に支払ったとして支払い遅延に当たるということはないとされています。
ですので、当月末締め翌月末払い、とすると2か月以内で支払えて60日以内の期日を守れる、ということになります。
その他の禁止行為
その他の禁止行為としては、正当な理由がないのに、納品した商品を受領しないもしくは不当に返品するといったものや購入する必要がないのに、自社が指定する商品やサービスを購入させる。また、物品を製造する際に原材料等を親事業者が指定して、親事業者から購入させている場合に、その原材料の対価の支払い期日を下請事業者への対価の支払い期日より早く設定して下請事業者の利益を害する、資金繰りを悪くさせるような行為についても禁止されています。
他にも割引困難な手形を交付したり、不当な経済上の利益を要請したりといったことも禁止されています。
以上の通り下請法について説明をしてきましたが、まず下請法が適用される取引行為を行っているのかどうか、そして親事業者と下請事業者の資本金の関係がどのようになってるこの辺を確認した上で、実際にどのようなことが気にされるのか、どのような書類を出さないといけないのかこのような点に、注意してようにしてください。
私どもの法律事務所では、このコラムで記載した内容を動画にまとめ、顧問先企業の研修用に配布しているほか、下請法で定められた事項を記載した発注書面等の雛形についてもお渡しして、下請法違反とならないよう、サポートを心がけております。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。