フリーランス保護法と下請法の関係について見てみると、どちらも取引の適正という目的で共通していますが、規制や保護の対象が異なりますし、対象となる取引についても、フリーランス保護法は役務提供委託について自家利用役務が適用されるなど、保護対象の取引の範囲も広範という特徴があります。
フリーランス保護法3条では、取引条件を明示する義務が定められており、下請法3条でも同様の規制があります。
下請法3条では、書面により取引条件を明示する必要があるため、この書面を3条書面と呼んでいますが、下請法の場合、書面を電磁的方法で交付する場合、下請事業者の事前承諾が必要であるのに対し、フリーランス保護法では事前の承諾は不要です(ただし、書面交付を求められたら応じる義務があります。)。
支払期日については、60日以内という期間の設定については共通点が見られますが、フリーランス保護法では、再委託の場合の例外規定として、元委託の支払期日から30日以内という制限がなされています。
また、下請法では遅延利息として年14.6%の規定があるのに対し、フリーランス保護法ではそのような規定はありません。
禁止事項も共通点は多いですが、フリーランス保護法5条の禁止事項は、1か月以上の業務委託に適用されるという違いがあります。また、フリーランス保護法では有償支給原材料等の対価の早期決済および割引困難手形の禁止の規定はありません。
なお、下請法とフリーランス保護法は別個の法律ですので、それぞれの要件に該当すると両方が適用される点は注意が必要です。
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フリーランス保護法は正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。
この法律の目的は大きく2つあります。
1つ目は、取引の適正化を図るため、発注事業者に対し、フリーランスに業務委託した際の取引条件の明示等を義務付け、報酬の減額や受領拒否などを禁止すること。
2つ目は、就業環境の整備を図るため、 発注事業者に対し、フリーランスの育児・介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等を義務付けることです。
では、どういう者が保護の対象になり、どういう者が規制の対象になるのでしょうか。
まず、保護の対象は、業務を受託する事業者であって、個人の場合は従業員を使用していない者、法人の場合は代表者以外に役員もおらず、かつ従業員も使用していない法人が対象です。このように、下請法の資本金要件と異なり、要件が直ちに判断できないため、相手方に保護対象に該当するかどうかの確認が必要となります。
なお、フリーランス保護法の対象に該当するかどうかの確認は、発注時点であり、適用対象外の者が、発注後に保護対象の要件を満たしたとしてもフリーランス保護法は適用されません。
一方、規制の対象になる事業者は、 個人の場合は従業員を使用する者、法人の場合は2以上の役員がいる、もしくは従業員を使用している法人で、簡単にいうと、1人でなく、2人以上が関与して行っている事業者が規制対象です。
これを構図として見てみると
フリーランス保護法で保護される者は
☞個人であれ法人であれ、1人で事業を行う者
フリーランス保護法で規制されるものは
☞個人であれ法人であれ、2人以上で事業を行う者
と単純化することができます。
例えば、フードデリバリーサービス運営会社A社(2人以上)と出前の配達員のBさんという関係で見ると、Bさんが1人で事業を遂行しているのであれば、これはフリーランス保護法の対象となります。
フリーランス保護法の内容
フリーランス保護法の内容は、大きく以下の5つです。
①書面等での契約内容の明示
②報酬の60日以内の支払い
③募集情報の的確な表示
④ハラスメント対策
⑤解除等の予告です。
以下では、これらの内容、その他の注意点及び違反した場合について説明いたします。
①書面等での契約内容の明示
業務委託時の発注書などに給付の内容、報酬の額、支払い期日、公正取引委員会規則が定めるその他の事項を業務を発注する時点で明記しなければなりませんが、電子的方法によることもできます。
しかし、フリーランスから書面の交付を求められた場合には、遅滞なく書面で交付する必要があります。
②報酬の60日以内の支払い
業務委託報酬の支払期日は当該業務提供日から起算して60日以内において、かつ、できる限り短い期間内において定めなければならないとされています。そのため、報酬の支払い期日を、業務提供日から起算して60日以内に設定されているのか否かという点について契約書のひな形等を見直す必要があります。
例えば、月末締めの翌々月末日払いであれば、3月1日に提供した業務が5月末に支払いとなり、60日以内の支払いにはならないため、翌々月末日払いを翌月末日払いに変えるなどの対応が必要となります。また、受託した業務をフリーランスに再委託する場合は、 支払期日が30日以内となっていますので、気をつけなければなりません。
③募集情報の的確な表示
インターネット等でフリーランスを募集する際に、正確な募集条件を掲載しなければなりません。
広告などで情報を提供する際、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしないことはもちろん、一度情報をあげても、それがその時期に合わせた正確かつ最新の内容を反映しているか確認が必要になる点も注意点です。
④ハラスメント対策
フリーランスに対するハラスメント対策のために必要な措置を講じなければならず、また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったことを理由に不利益な取り扱いをしてもいけません。
そのため、フリーランスに対するハラスメントが禁止であるということを会社内での周知を徹底したり、フリーランスが会社の従業員からハラスメントを受けた場合の相談窓口を設定するなどの措置を講じることが必要です。
また、委託事業者が、フリーランスに対して長期間にわたって継続的な業務委託を行う場合には、妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をしなければなりません。
長期間の業務委託ではない場合にも、同様の配慮をする努力義務を負います。
⑤解除等の予告
一定期間の継続業務委託関係がある者との間の契約を中途解約する場合には、30日前までに解約を予告しなければなりません。
また、委託事業者は、フリーランスから、契約解除の理由の開示を求められた場合には、遅滞なくこれを開示しなければなりません。
次に、上記の他に委託事業者の注意すべき点として、禁止されている事項を列挙して説明します。
⑴フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒絶すること
⑵フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
⑶フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
⑷通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑸正当な理由がなく自己の指定するものの購入・益務の利用を強制すること
⑹自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させること
⑺フリーランスの責めに帰すべき事由なく、給付内容を 変更させ、またやり直させること
フリーランス保護法の定めに違反した場合、公正取引委員会等から違反行為について助言・指導・報告・聴取・立入検査・勧告・公表・命令がなされ、 命令違反及び検査拒否等に対しては、50万円以下の罰金が課される可能性があり、委託事業者が法人の場合には行為者と法人の両方が罰せられます。
また、このような処分がなされると、処分を受けたということで、企業の信頼に関する、いわゆるレピテーションの問題が生じることもありますので、注意が必要です。
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1 課徴金制度における返金方法の弹力化
改正前景表法10条および11条は、課徴金納付命令の通知を受けた事業者が実施予定返金措置計画の認定を受けて一般消費者への金銭による返金措置を実施した場合、返金した額を課徴金の額から減額することを定めています。
この返金措置は、課徴金制度の導入以来これまでの利用がわずか数件にとどまっています。そして、その理由として、返金を実施するために銀行口座情報を購入者から取得しなければならないことや、振込手数料が割高であることなどが指摘されていました。
そこで、改正景表法では、金銭以外の支払手段として第三者型前払式支払手段 (いわゆる電子マネー等)を利用することが認められました。
2 課徴金額の推計規定の新設
改正景表法8条4項は、事業者が課徴金の計算の基礎となるべき事実を報告しないとは、内閣府令で定める合理的な方法により売上額を推計して、課徴金の納付を命ずることができることとしました。
課徴金の額は、課徴金の対象となる不当表示をした期間(最大3 年)の売上額が計算の基礎となりますが、商品の売上データを適切に管理していない事業者については課徴金の基礎となる売上額が把握できないために課徴金を課すことができませんでした。しかし、そうすると、ずさんな管理をしていた事業者がかえって得をするという不都合が生じていたため、この推計規定が導入されました。
この「合理的な方法」とは、 課徴金対象期間のうち課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握した期間における1日当たりの売上額に、課徴金対象期間の日数を乗ずる方法とされています (改正景表法施行規則8条の2)。
したがって、この改正によってもまったく売上額が把握できない事業者につい ては、売上額を推計することはできないこととなります。
ただし、いかに管理がずさんな事業者であっても、まったく売上額を把握できないことはまれと考えられますので、この制度の導入により、これまでは課徴金対象期間全期間分の課徴金を課すことができなかった(あるいは把握できた売上額が5,000万 円に満たないためにまったく課徴金を課すことができなかった) 事例の多くについて課徴金を課すことができるようになるものと考えられます。
これを事業者サイドから見てみると、たとえば、売上が伸びてきた直近1年分の売上だけ把握しているようなケースにおいては、その3年分を基準として課徴金が計算されると、本来支払うべき課徴金よりも高額の課徴金を課されることになります。
このような不利益を避けるためには、商品の売上額を適切に把握・管理しておく必要があります。
3 再違反事業者に対する課徴金の割増し規定の新設
基準日から遡って、10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対する課徴金の割合を3%から4.5%に割増しする規定が新設されました (改正景表法8条5項)。
基準日は、報告徴収等、合理的根拠の提出要求、弁明の機会の付与のいずれかが行われた日のうち最も早い日とされています(改正景表法8条6項)。
なお、事業者が過去に課徴金納付命令を受けた者かどうかが問題とされるため、同一の商品・役務でなくても、この規定は適用されます。
4 不当表示に対する直接の刑事罰の新設
優良誤認表示と有利誤認表示に対する直接の刑事罰の規定が新設され、これらの不当表 示をした個人に対して100万円以下の罰金が科せられるほか(改正景表法48条)、法人にも 100万円以下の罰金が科せられることとなりました(改正景表法49条1項2号)。
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今回は、前回に引き続き、ホテル業界の法務についてQ&A形式で解説いたします。
本コラムでは、情報漏洩問題についてご説明します。
Q 情報漏洩が起こるパターンは、どのように分類できますか?
A 情報漏洩は、①情報システムが外部から攻撃を受けて漏洩するパターンと②内部から漏洩するパターンがあります。
Q 情報漏洩時に、ホテルはどのような責任を負いますか?
A 自社のシステムがハッキングされ、情報が漏洩した場合には、被害者から直接損害賠償請求される可能性があります。
他社がハッキング等を受けたことにより、自社の顧客情報が漏洩した場合でも、業務委託先を管理・監督できていなかったこと、そのような会社に個人情報管理を委託したことについて責任を問われる可能性があります。
また、情報漏洩問題が起こると、レピュテーションリスクも避けられません。
Q 情報漏洩事件における損害額はどのくらいですか?
A 情報漏洩事件の裁判例を3つご紹介します。
⑴ 平成14年7月11日判決
〇概要:宇治市がシステム開発業務を委託したところ、再々委託先のアルバイトが不正に約22万件の住民基本台帳データを流出させました。
〇自治体の責任:宇治市は、市民のプライバシーを違法に侵害したとして、不法行為による損害賠償責任として、1人あたり1万5000円の慰謝料(弁護士費用を含む)を支払う旨の判決が出されました。
⑵平成19年12月14日判決
〇概要:総合電機通信サービスを提供していた会社に業務委託で派遣されていた元従業員が悪意で個人情報を持ち出し、サービスの会員情報(氏名、住所、電話番号及びメールアドレス等)が流出しました。
〇企業の責任:業務委託で派遣されていた元従業員が悪意で個人情報を持ち出した事案であるにもかかわらず、企業の過失が認定され、企業は慰謝料5000円及び弁護士費用1000円の賠償責任をおいました。
〇判決のポイント:企業としては、外部からの不正アクセスを防止するための相当な措置を講ずべき注意義務を怠った過失があると判断されました。
⑶平成19年8月28日判決
〇概要:TBCとホームページの制作・保守契約を締結していた会社が、ウェブサイトをTBC専用サーバーに移設する際、電子ファイルを公開領域に置いたうえ第三者のアクセス権限を制限する措置を講じなかったため、顧客情報が流出しました。
〇企業の責任:企業は慰謝料3万円及び弁護士費用5000円の賠償責任を負いました。
〇判決のポイント:ホームページの製作・保守業務を委託した者の過失によるものであるとしても、その者に対する実質的な指揮、監督が認められる場合に、使用者責任を負うと判断されました。
Q 情報漏洩発生の可能性を下げる予防措置はありますか?
A 予防措置には、内部からの情報漏洩に対する対策と、外部からの情報漏洩に対する対策があります。
まず、内部からの情報漏洩に対する対策として、社内規則の制定・研修を行いましょう。規則の制定・研修を行うことで、従業員(アルバイト社員を含む)の意識の向上が期待できます。
2つ目に、社内体制の整備が挙げられます。具体的には、担当部署を設置し、リスクの特定や対応の整備の実施を行います。
3つ目に、外注管理が挙げられます。業務委託先の会社が十分な情報管理体制を有しているかを確認しましょう。「プライバシーマーク」や「ISMS」などを一つの目安として選定することも考えられます。
次に、外部からの情報漏洩に対する対策として、サイバーセキュリティ対策が挙げられます。専門システムの導入や外部委託等により、不正アクセスのリスクを減少させることができます。
必要な措置を講じていたという事実が過失の有無の判断で重要です。
2つ目に、保険の加入が挙げられます。サイバー攻撃に起因する漏洩は補償の範囲内となっています。情報漏洩時の見舞金について上限が定められていることもあるため、保険約款の十分な検討が必要です。
Q 情報漏洩が起きた際に、どのように対応すればいいですか?
A まず、対外的リリースを行い、迅速な謝罪を行いましょう。謝罪対応が遅いと、批判が強まるおそれもあります。リリースの手順、具体的内容についてマニュアルを作成しておくと有用です。
他にも、お詫び金の交付が考えられます。額は、1人あたり500~1000円相当の商品券やポイントが多いです。
ただし、お詫び金を交付したとしても、依然として損害賠償請求リスクが残る点には注意が必要です。
また、個人情報保護委員会に漏洩事故の報告をすることも考えられます。漏洩発覚日の3~5日以内に速報を出し、発覚日から30日以内に確報を出しましょう。
Q お詫び金による対応の具体例はありますか?
A 数社のお詫び金による対応をご紹介します。
⑴ソフトバンクBB
〇概要:インターネット接続サービス等の会員の個人情報が外部に漏洩しました。
〇対応:1人あたり500円の金券を、451万7039人に送付しました。
⑵アリコジャパン
〇概要:保険契約の証券番号、クレジットカード番号、有効期限が流出しました。ただし、流出情報に氏名、住所、電話番号、契約内容、健康情報などは含まれていませんでした。
〇対応:実際に流出した18,184人には10,000円の金券を、注意喚起の連絡をしたが、結局流出しなかった約11万人には3,000円の金券を交付しました。
⑶アミューズ
〇概要:クレジットカード情報及びメールアドレスが流出しました。
〇対応:148,680人に1人当たり500円のクオカードを送付しました。
情報漏洩問題への対策として、情報漏洩が生じない体制の構築は勿論重要ですが、必ずしも情報漏洩が防げるわけではありません。そのため、体制の構築に加えて、情報漏洩が生じた場合の対応策について平時から検討しておくことが重要です。
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今回は、前回に引き続きホテル業界の法務についてQ&A形式で解説いたします。
本コラムでは、クレーマー対応についてご説明します。
Q クレーマー対応は難しいイメージがありますが、そもそもクレーマー対応の難しさの原因はなんでしょうか?
A クレーマー対応の難しさの原因は、①顧客の主張がホテル側のミスに起因するものか、単なる言いがかりか判断が難しい場合があること②ホテル側のミスがあったとしても、どこまで責任を負って解決すべきか明らかでない場合が多いこと③顧客の主張が言いがかりであっても、顧客という相手方の立場上、顧客の主張を無視することは困難であることの3つです。
クレーマーによる法的な要求に対しては、普段から対策を講じて、適切な対処をすることが重要です。
Q クレーマー対策として意識すべき点は何でしょうか?
A 1つ目に、やりとりを記録化することが挙げられます。
防犯カメラは、クレーマーとのやり取りが発生しやすい場所に設置し、顔がしっかり映るか確認します。また、ICレコーダーによって音声を残すことも重要です。
クレームが発生したときに、とっさに録画・録音をすることは難しく、場合によってはクレーマーを刺激し得るので、普段から準備しておきましょう。
仮にクレーマーとのトラブルが裁判に発展した場合に、相手方の同意を得ずに録音したデータを裁判の証拠とできるかが問題になりますが、民事裁判においては、このような秘密録音も、一般的に証拠として使用することは可能とされています。そのため、相手方に同意を得ることなく、秘密裏にでも、音声を録音しておくことは重要です。
2つ目に、書面に残すことが挙げられます。
クレーマーとのやり取りが行われた日時、先方の要求内容や、それに対する回答内容を、その都度書面に記録しておきましょう。一定の段階で口頭でのやり取りではなく、要求事項は書面で出してもらうよう、切り替えることも重要です。
このようにすることで、仮に紛争になったときの証拠となるし、他の従業員とも顧客とのトラブルについて共有しやすくなります。
3つ目に、現場で抱えず、専門の部署に引き継ぐことが挙げられます。
現場の人員不足や不適切な対応をしてしまうリスクを避けるため、クレーマーの要求がある限度を超えた場合には、専門部署に引き継ぎましょう。クレーマーの言動が一定の犯罪行為に該当する場合には、必要に応じて警察を呼ぶ必要がある場合もあります。
クレーマーの要求がどの程度に達したら専門部署に引き継ぐかの検討や、クレーマー対応体制の整備は普段から行いましょう。
Q 悪質なクレーマーを出入り禁止にできるのは、どのような場合ですか?
A 出入り禁止については、旅館業法5条に定めがあり、ホテルが宿泊を拒否できるのは限定された場面に限られています。
(参考)旅館業法5条
営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が伝染病の疾病にかかっていると明らかに認められるとき
二 宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき
三 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき
2号には解釈の余地があるので、過去にクレーマーとして観測されたことを理由に宿泊拒否ができるかは慎重な判断を要します。3号では条例で拒否事由を定められるとされているため、各自治体の条例を確認しておきましょう。
なお、正当な理由なく宿泊を拒否すると、行政指導や罰則(50万円以下の罰金)の対象となり得ます。
Q ブラックリストの作成・運用の問題はありますか?
A 宿泊客からの個人情報は、主として宿泊サービス提供の目的で行われるため、ブラックリストの作成に使用すると、個人情報の目的外利用(個人情報保護法16条)に該当する可能性があります。
また、作成したブラックリストの情報を業界団体や他のホテルに提供することは、第三者提供(同法23条)に該当し、本人の同意なく行えません。
しかし、悪質なクレーマーについてのリストの作成及び共有は、例外的に許容される可能性があります。
目的外利用については個人情報保護法16条3項2号、第三者提供については同法23条1項2号が「人の生命・身体または財産の保護のために必要がある場合」には、同意がなくとも可能である旨定めており、「意図的に業務妨害を行う者の情報について共有する場合」がこれに含まれるとされています(個人情報保護法ガイドライン)。
ただし、どの程度悪質であれば、これらの例外に該当するかは明確でないので、ブラックリストという形で宿泊客の個人情報を第三者に提供することは、個人情報保護法に違反する可能性があるということを念頭に置くことが重要です。
本コラムでご説明した「クレーマー対策として意識すべき点」は、ホテル以外の業界でも応用できると思いますので、ぜひ本コラムの内容をご活用ください。
次回は引き続き、ホテル業界の法務(情報漏洩問題)についてご説明します。
今回はホテル業界の法務についてQ&A形式で解説いたします。
本コラムでは、ホテルが損害賠償責任を負うケースについてご説明します。
Q ホテル側に不手際があった場合には損害賠償責任を負いますが、責任の法的根拠は何ですか?
A 一般的には、契約に伴う義務を履行しなかった責任である「債務不履行責任」(民法415条)です。ホテルが本来提供すべきサービスを提供できなかった場合には、債務不履行責任の問題が生じます。
債務不履行責任の問題が生じる例として、オーバーブッキングや客室タイプの間違いがあります。また、ビュッフェで、明らかに料理の絶対数が足りない、補充が全くない場合や、特定の料理があると書いてあるのに実際は提供されていない場合等も、程度によっては債務不履行になりえます。
Q 安全配慮義務違反を避けるために、何をすればよいでしょうか?
A サービスの提供者として、当然配慮すべき安全性の確保(安全配慮義務)をしなかった場合にも、債務不履行を負い得ます。
ホテル事業者は、安全配慮義務違反を避けるために、ホテル内にどのような危険があるか、どのような対策が必要であるかを分析しておくことが重要です。ホテルの施設や設備の問題点だけでなく、ホテルで提供しているサービスにも危険性がないか検討しましょう。
Q ホテルが顧客に損害賠償責任を負った裁判例はありますか?
A 裁判例を3つご紹介します。
⑴平成7年9月27日判決
〇概要:宿泊客が脳挫傷を起こし、意識障害が生じた状態でトイレで倒れている等の異常な状態であったにもかかわらず、ホテル従業員らが適切な処置をとらず、当該宿泊客が死亡しました。
〇ホテルの責任、賠償額:ホテル側は異常な状態にある宿泊客を速やかに医者に診せるといった適切な処置をとらず、ホテル側が宿泊客に対して負う安全配慮義務に違反したことから、約2000万円の損害賠償請求が認容されました。
〇判決のポイント:従業員が酩酊した宿泊客を見かけた時点で、介抱するなどの十分な対応を取っていれば、その後の転倒・死亡の結果まで責任を負うことはなかった可能性があります。
⑵平成16年6月29日判決
〇概要:宿泊客が身体の110カ所以上をトコジラミと思われる無数の虫に刺され、虫刺症の障害を負ったとして損害賠償を請求しました。
〇ホテルの責任、賠償額:同室の他の宿泊客は虫に刺されず、多数のトコジラミが当該客室に生息・侵入したことの客観的な裏付けはないものの、旅館で被害を受けた苦痛に対する慰謝料として10万円が認容されました。
〇判決のポイント:ベッドにトコジラミがいること自体が安全配慮義務違反とされました。
客室の衛生状態を確保することも、ホテル事業者の責任です。
⑶平成25年7月22日判決
〇概要:客室に配膳しようとしていたところ、宿泊客の子どもが客室から飛び出してきて、鍋に入っていた熱された油で熱傷を負い、後遺障害が残ったとして損害賠償を請求しました。
〇ホテルの責任、賠償額:ホテル側は安全配慮義務の一環として、宿泊客が受傷しないよう配慮する義務を負っているとして、約500万円の損害賠償を認めました。(過失割合は顧客2:ホテル8)
※被害者にも過失が認められる場合、損害の公平な分担の見地から、賠償額について一定の減額(過失相殺)を行います。自分の責任と相手方の責任を割合にして表したものが過失割合です。
〇判決のポイント:子どもを宿泊客として受け入れているならば、部屋から子どもが飛び出してくる可能性があるため、危険なものを出入口付近に置いておくべきではないとされました。
Q ホテルは業務委託先等の行為についての責任を負いますか?
A ホテル事業者がサービス行為の一部で、業務委託先を使用する場合にも、業務委託先の行為をホテル事業者の行為(履行補助者の行為)として、ホテル事業者が全て責任を負う可能性があります。
また、ホテル事業者が直接業務委託先を使用しておらず、ホテル内でサービス提供をしているだけであっても、ホテル事業者に責任が生じる可能性があります(名板貸責任)。
Q 名板貸責任の要件は何ですか?
A 要件は、会社が自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾することです。(例:ホテルAが業者Bに対し、Aの名前での営業を許可した場合)
名板貸責任が成立すると、ホテル事業者は業者と連帯して責任を負うことになり、損害賠償全額を支払うことになりえます。
なお、連帯責任を負う者の間で清算を行うことはできるけど、第一次的な請求をホテルが受けた場合、顧客に対してホテルが全額支払うことになります。
Q 業者がホテル内のスペースで営業しているに過ぎない場合も、ホテルは名板貸責任を負いますか?
A ホテルが業者に商号の使用を許諾したわけではなく、単に業者がホテル内のスペースで営業しているにすぎない場合であっても、顧客の立場から別業者であることが分かりづらい場合には、ホテルが業者のミスの責任を問われる可能性があります。
このような結論となる理由は、名板貸責任の趣旨は、営業主体が誰であるように見えるかという「外観」を信頼した者を保護することであるため、ホテル内で営業しているにすぎない業者であっても、ホテルによって運営されているように見えることがあるからです。
Q ホテルが名板貸責任を問われた裁判例はありますか?
A 平成28年2月10日判決をご紹介します。
〇概要:宿泊客がホテルに出店しているマッサージ店の施術ミスにより、頸椎症性脊髄症を発症し、全介助を要する障害等級2級となったとして損害賠償を請求しました。
〇ホテルの責任、賠償額:マッサージ店のみならず、ホテルも名板貸責任により責任を負うとして、連帯して約9000万円の損害賠償が認められました。
〇判決のポイント:ホテルが、マッサージ店の施術ミスによって生じた損害賠償責任を、名板貸責任の成立する範囲で全額負担すべきと判断されました。
ホテル事業者は、委託先の行為についても責任が生じ得るため、十分な管理・監督を行いましょう。
次回は、ホテル業界の法務(クレーマー対応)についてご説明します。
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これまでのコラムでは景品表示法が表示行為についてどのような規制をしているのかについて説明をしてきました。
今回は、景品表示法に違反した場合にどのようなことになるのかということについて説明したいと思います。
措置命令
景品表示法に違反する不当な表示がなされた疑いがある場合、消費者庁は関連資料を収集を行ったり、事業者に対する事情聴取などの調査を行うことができます。
そして、その調査の結果、景品表示法に違反していると認められた場合は、事業者に対して弁明の機会を付与した上で、不当表示によって一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命じる措置命令を出すことができます。
措置命令では、一般的に、違反行為の差し止めが命じられるほか、一般消費者の誤認排除のための新聞広告、再発防止策の策定、同様の行為の禁止、措置命令に対する対応についての消費者庁への報告などが命じられます。この命令に違反した場合には、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金という罰則が定められています。
新聞の掲載については、日刊新聞2紙以上に社告を掲載するのが通常であり、この新聞掲載費用だけでも数百万円単位の支出になるとも言われています。
都道府県知事による措置
また、違反行為を迅速、効果的に規制できるようにという観点から都道府県知事も措置命令をするために必要があるときは、報告命令、立ち入り検査等を行って必要な調査を行うことができるとされており、その結果、違反行為があると認められるときは、事業者に対して行為の取りやめや再発防止に必要な事項を命じることができるものとされています。
課徴金制度
平成26年11月の景品表示法の改正によって、課徴金の制度が導入されました。
具体的には、景品表示法において定められている不当表示の類型のうち告示によって指定される不当表示の類型を除き、課徴金を賦課するものとされており、優良誤認表示行為及び有利誤認表示行為が対象となります。
不実証広告規制にかかる表示行為については、課徴金との関係では、一定の期間内に当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出がない場合には、当該表示を不当表示と「推定する」(後から争える)という規定となりました。
細かいところですが、措置命令との関係では、不実証広告規制は「みなす」(後から争えない)という規定になっています。
これは、不実証広告規制に基づく資料提出期間を過ぎた後であっても、後から合理的な根拠を示す新しい資料が備わった場合には、課徴金との関係では、推定規定であるため、優良誤認表示に該当することについて争えるようにしているため、文言の違いが生じています。
課徴金の額
課徴金の金額は、対象商品・役務の売上額に一定の割合をかけることによって算定するものとされており、算定率は3%とされています。
対象期間として遡れる期間は3年間されています。また、事業者が違反行為であることを知らないことについて相当の注意を怠った者でないと認められるときには課徴金を賦課しないともされています。算定した金額が150万円未満の場合には、規模基準によって課徴金は賦課されません。
除斥期間としては、当該違反行為をやめてから5年経過したときには、課徴金を賦課しないものとされているほか、自主的に違反行為を申告した場合には課徴金の2分の1を減額するという制度もあります。
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優良誤認表示と有利誤認表示
このコラムでは、景品表示法の優良誤認と有利誤認のうち、優良誤認について説明していきます。
優良誤認と有利誤認、似たような言葉で区別がつきにくいと思います。
それぞれ、どのようなものかというと、
優良誤認とは、
商品の内容について
① 実際のものより著しく優良であると示す表示
② 事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示
を指すとされています。
たとえば、国産有名ブランド牛ではない国産牛肉であるにもかかわらず、松坂牛など国産ブランド牛肉であるかのような表示を行うことなどがこれにあたります。
一方、有利誤認とは、
商品又は役務の価格その他の取引条件について、
① 実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
② 当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
を指すとされています。
たとえば、他社商品と同じくらいの容量しかないのに、他社商品の2倍の容量と表示することなどがこれにあたります。
優良誤認表示とは
今回はこのうち、優良誤認表示について書いていきたいと思います。
優良誤認表示のポイントは、「著しく優良」であるかどうかです。「著しく」という制限がついている理由は、一般に広告・宣伝活動も多少の誇張が行われるものであるということは共通理解としてあるという点にあります。
また、「著しく優良」かどうかの判断は、業界の慣習や事業者の認識によるのではなく、一般の消費者の誤認を招くかどうか、という視点で判断するという点には注意が必要です。
たとえば、着物のレンタルに関する優良誤認の事例として、「フルセット」として表示をしていたものの、帯については別であったことが消費者に誤認を招くとして優良誤認にあたるとされた事例があります。着物業界の慣習としては、着物と帯は別という認識があったことに起因するものともされていますが、実際にレンタルをする消費者からすると、そのようなことは分からないのが通常だと思います。 このように、広告表示を行う際には、知らず知らずのうちに、業界の慣習に沿った表示をしてしまっていないか、消費者の目線で見て誤解を招くことがないか、確認が必要です。
実際に気になるのは、どのような表示を行ったら「著しく優良」と誤認される表示になるのか、という点だと思います。もともと、「著しく優良」という言葉自体が非常に幅のあるものであるため、明確な基準を出すことは難しいのですが、過去の違反例を見るのが分かりやすいと思います。
過去の処分例については、消費者庁のホームページに掲載がされています。
この中から、自社の業界に関係のありそうなものを見ながら、どの程度の表示をすると「著しく優良」にあたるのかということを見極めていく必要があります。
処分例を見ていくと、1社だけでなく同じような表示を行っていた企業に対してまとめて措置命令を出していることも多いことに気づくと思います。あの企業もこのような表示を行っているから、と安易に考えて表示をしてはいけないということを示す一例です。
不実証広告規制とは
また、優良誤認の注意点として、不実証広告規制というものがあります。これはどういうものかというと、商品やサービスについて著しく優良である旨の表示をしていた場合、その合理的な根拠資料の提出を求めることができ、その根拠を示す資料が提出されなければ、不当表示であったとみなすというものです。そして、その資料の提出期限は15日後と短いため、資料の提出を求められてから新たに実験をしようとしても間に合いません。このように提出期間が短い背景には、著しく優良である旨の表示をしている以上、表示を行っている時点でその根拠をもって行っているはず、という価値判断があるものといえます。
実際の処分例でも、不実証広告規制によって、合理的な根拠を提出できなかったということで処分されている例も多数ありますので、広告表示の根拠がしっかりとあるのかどうかということの確認も必要です。
では、どのような資料を出せば合理的な根拠を示したことになるのでしょうか。
これについて、公正取引委員会が平成15年10月28日に出した不実証広告ガイドラインにおいては、
① 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
② 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
の2つの要件が必要であるとしています。
また、消費者の体験談やモニターの意見等の実例を収集した調査結果を表示の裏づけとなる根拠として提出する場合には、無作為抽出法で相当のサンプルを選定し、作為が生じないように考慮して行うなど、統計的に客観的が十分に確保されていることが必要とされています。
実際の処分例でも、モニター数不足やモニターに社員などが含まれていることを理由として客観性が否定された例もあるため、体験談やモニターの意見等を根拠とする場合には、これらのことにも注意が必要です。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
※本コラムは2023年10月実施の法律事務所の顧問先企業向け動画配信の内容をもとに作成しております。上記動画は、顧問先企業の従業員向け研修を意識して作成しておりますので、従業員向け研修をお考えの方にもご参考になれば幸いです。
1 炎上投稿の共通項
SNSが発達した今日、世界中の人が私たちの投稿を閲覧することができます。SNSに不適切な投稿をすると、それは瞬く間に拡散され、度々炎上に繋がります。
では、どのような投稿が不適切として炎上に繋がるでしょうか。炎上する投稿を見ていくとそこには共通項が見えてきます。炎上の共通項を知ることは、予期しない炎上を防ぐうえで役立ちます。
以下では具体例を挙げながら、炎上の共通項について確認していきます。
⑴ 不適切な投稿タイミング
①TSUTAYAの店長が東日本大震災の最中、TSUTAYA公式ツイッターアカウントに
「テレビは地震ばかりでつまらない、そんなあなた、ご来店お待ちしています」
と投稿し、炎上。店長は実名を明らかにしたうえで謝罪。
②ディズニー公式ツイッターアカウントが、長崎への原爆投下から70年の8月9日に「なんでもない日おめでとう」
と投稿し、炎上。担当者は謝罪し、問題となった投稿は削除。
これらの事例のように投稿タイミングを誤ることは、炎上に繋がる可能性があります。
大災害、大事件や戦争に関する日などの投稿は、内容次第では不適切、不謹慎な投稿と受け止められます。このような日は、それぞれの人が様々な記憶や想いを抱いていることに配慮し、いつも以上に節度をもった投稿を行いましょう。
⑵ 価値観の多様性への配慮の欠如
①新潟日報社の報道部長が個人のツイッターアカウント上で、長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返していたところ、これらは報道部長の投稿であるということが判明。報道部長は謝罪をし、ツイッター上にも謝罪文を掲載。
②四国放送株式会社の社員が個人のツイッターアカウントと間違って、同社の公式ツイッターアカウントにて公明党や代表議員を批判する内容の投稿をし、炎上。四国放送株式会社は、個人の携帯電話から公式ツイッターに書き込みができていたことや、管理体制が杜撰であったとして謝罪。
個人の内心でどの思想や政党を支持し、あるいは支持しないかは自由です。しかし、これらの事例のように、自身の思想を外部に発信する場合には、自身と異なる思想を持った者を攻撃する内容になっていないかといった配慮が必要です。もし、このような配慮に欠けた投稿をすれば、炎上することは必須です。また、投稿時には、不適切な表現を使っていないかについても注意しましょう。
⑶ 「中の人」と世間の感覚のズレ
タカラトミーの公式ツイッターアカウントが
「#個人情報を勝手に暴露します」「(とある筋から入手した、某小学5年生の女の子の個人情報を暴露しちゃいますね)」
などと投稿したところ、性犯罪を想起させるとして炎上。タカラトミーは謝罪し、問題となった投稿を削除。また、公式ツイッターアカウントの投稿を当面の間停止すると発表。
この事例が炎上した原因は、いわゆるツイッターアカウントの「中の人」と世間の感覚にズレがあったためです。タカラトミーのような子供向け玩具を販売する会社が子供の性犯罪を連想させる投稿を行ったことに、情報の受け手は強い拒否感を示すのは当然です。
企業としては、多くの人に投稿を見てもらうために、ユーモアのある投稿をすることも重要ですが、その投稿が好意的に受け取られる内容のものであるかを、よく吟味してから投稿しましょう。このとき、会社の販売商品、ターゲット層、世間の状況について複数の社員が広い視点をもって考えることも重要です。
⑷ 他者のプライバシーの侵害
不動産仲介業者の従業員が芸能人夫婦を接客し、35万円の賃貸物件を紹介した旨を個人のツイッターアカウントに投稿し炎上。当該従業員のツイッターアカウントはすぐに削除されたものの、従業員はプライベートな内容の投稿もしていたため、問題となった投稿をした従業員はすぐに特定された。
芸能人を接客したなど珍しい経験をしたときに、誰かに話したくなる気持ちは分かりますが、顧客の個人情報やプライバシーに関する事項を投稿することはもちろん許されません。「個人アカウントだから閲覧している人は少ないだろう」と思うかもしれませんが、炎上するような内容の投稿はすぐに拡散され、多くの人の目に触れることになります。
また、投稿者が誰であるかということや投稿者がどこに勤務しているかなども容易に特定され得ますし、特定された場合は、そのアカウントが従業員個人のものであっても、会社のイメージや信用が失墜するおそれがあります。そのため、他者の個人情報やプライバシーに関する情報が投稿内容に含まれていないか確認しましょう。
⑸ 投稿への興味・関心を集める方法の誤り
KIRINが午後の紅茶のPRのために「#〇〇女子」「#いると思ったらリツイート」などのタグをつけ、4種の女性像のイラストを投稿。その女性たちの特徴を説明するイラストやコメントが午後の紅茶を買っている女性を馬鹿にしているようにしかみえないといった批判が相次ぎ炎上。KIRINは謝罪し、問題となった投稿を削除。
この事例が炎上した原因は、投稿への興味・関心を集める方法を間違ったことにあります。商品のPR投稿の内容が不適切なものであれば、消費者から広報の考え方が甘い企業であると認識されるおそれがあります。
また、投稿の趣旨が伝わりづらいと、色々な解釈を生み、批判的な意見を招くおそれもあります。そのため、発信の趣旨が伝わりやすく、色々な解釈を生まない内容であるかを検討してから投稿しましょう。
2 炎上した場合の処分
では、投稿が炎上した場合、投稿をした従業員にはどのような処分が下されるのでしょうか。
⑴ 懲戒処分の内容
炎上した場合、問題となる投稿をした従業員は、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。懲戒処分の内容としては、従業員を文書で指導する戒告・譴責・訓告、従業員の給与を減額する減給、従業員に一定期間出勤を禁じ、その期間の給与を無給とする出勤停止、従業員の役職や資格を引き下げる降格、従業員に退職届の提出を勧告し、提出しない場合には懲戒解雇をする諭旨解雇、諭旨退職、制裁として従業員を解雇する懲戒解雇があります。
⑵ 具体的な事例における従業員の処分
上記1⑵でご説明した新潟日報社の報道部長が、個人のツイッターアカウントで長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返してきたという事例では、報道部長は報道部長の職を解かれ、無期限懲戒休職処分となりました。
また、公明党を批判する投稿をした四国放送の従業員は、懲戒解雇となりました。また、社長や当該従業員が所属していたラジオ局担当役員は減俸処分、上司2人は減給処分となりました。
このように、炎上を引き起こすと、自身に休職処分や懲戒解雇などの思い処分が下されるおそれがあるだけでなく、周囲の人にも責任が波及するおそれがあります。
3 投稿時に気を付けるポイント
⑴ 「炎上さしすせそ」について
そもそも、炎上しやすいトピックは何でしょうか?炎上しやすいトピックをまとめて、「炎上さしすせそ」と呼ぶことがあります。「さ」は災害・差別、「し」は思想・宗教、「す」はスパム・スポーツ・スキャンダル、「せ」は政治・セクシャル、「そ」は操作ミス(誤投稿)を指します。これらのトピックにあたる投稿をする場合は、いつも以上に投稿内容に注意しましょう。
⑵ 炎上しないためのチェックリスト
では、炎上しないためのチェックリストを確認しましょう。
①アカウントを間違っていないか
個人アカウントと会社の公式アカウントを間違っていないか、投稿前に確認しましょう。
②誤字脱字の有無、他の情報との整合性、内容の正確性
重要な情報に誤りがあれば、情報の受け手が混乱したり、不正確な情報を発信する企業だとみなされたりするおそれがあります。投稿前に投稿内容を読み返したり、情報が最新のものであるか、信頼できるものであるかを確認したりすることが重要です。
③画像、動画、リンクミスはないか
②と同様、情報の受け手が混乱しないために、投稿前に確認することが重要です。
④投稿タイミングが不適切でないか
上記1⑴のTSUTAYAやディズニーの事例のとおり、投稿タイミングやその内容によっては、不謹慎であるとして炎上を引き起こすおそれがあります。投稿する日が大災害、大事件や戦争に関する日ではないか、仮にそのような日であったとしても、投稿内容が不謹慎なものでないかといった配慮が求められます。
⑤他者の個人情報やプライバシーを漏洩していないか
上記1⑷の不動産仲介業者の事例のように、他者の個人情報やプライバシーに関する情報を漏洩すると、たとえ個人アカウントであったとしても、会社が特定されるおそれがあります。消費者は、顧客の個人情報を漏洩するような会社の利用は避けるため、結果として会社に損害が生じます。
⑥差別的、侮辱的な発言をしていないか
個人アカウントにおいて過激な内容の投稿で炎上すると、場合によっては投稿者が勤務している会社が特定され、炎上が拡大するおそれがあります。そのため、会社の公式アカウントにおける投稿だけでなく、自身の個人アカウントにおける投稿でも、差別的、侮辱的な発言をしないようにしましょう。
⑦スポンサーシップ契約締結を締結しているか
スポンサーシップ契約を締結していない場合は、オリンピックやワールドカップなどの名称を商業利用してはいけません。一般的な名詞と思っているものでも商標登録されているものがあるので、不用意に利用できないものがあることに注意しましょう。
⑧法令に適合しているか
投稿内容が景品表示法や薬機法などの法律に違反している場合は、炎上に繋がるだけでなく、行政庁から処分を下されるおそれがあります。法律に違反していないかを判断することは難しいので、問題となりうる場合には、まずは弁護士に相談したうえで、問題ないことを確認してから投稿しましょう。
⑨会社のSNS運用ルールを遵守しているか
会社のSNS運用ルールに従って投稿することで、炎上する可能性を相当程度低減させることができます。会社にSNS運用ルールがあるかを確認し、それがある場合には、そのルールに従った投稿をしましょう。
⑩投稿内容が伝わりやすいか
投稿内容の趣旨が伝わりにくく、色々な解釈を生む内容であれば、批判的な意見を招きかねません。投稿内容が多くの人にとって容易に理解できるものであることが求められます。SNSに投稿する前に会社内部で投稿内容から受ける印象について検討し、誤解を生じさせるような内容でないかを確認しましょう。
⑪他者の思想、価値観への配慮をしているか
情報の受け手は様々な価値観を持っています。他者の思想・価値観を排除し、自身の思想・価値観を押し付けると、容易に炎上に繋がります。他者の思想・価値観に寛容な姿勢を持ち、自身とは異なる価値観を持つ人に配慮した投稿をしましょう。
⑫他人の著作権を侵害していないか
自身の投稿に他者のイラストや文章などを無断で掲載すると、著作権の侵害となります。著作権侵害行為に該当すれば、損害賠償請求などをされるおそれがあるので、他人の著作物を無断で使用していないか確認しましょう。
⑶ 炎上防止対策
ここまで、投稿時に確認すべき点についてご説明してきましたが、炎上を防止するための容易かつ実効的な対策は、従業員相互でチェックをしあうことです。
主なチェック内容としては、
①会社の公式SNSに投稿する場合は、都度ログイン/ログアウトする
②個人用携帯電話で公式SNSに投稿できない設定にする
③担当者一人でSNSへ投稿をせず、投稿前に複数人で内容を確認する
④ログイン中のアカウントを確認してから投稿する というものです。
③については、年代、性別、役職などが異なる従業員が投稿内容を確認することで、広い視野をもって確認することができ、より実効的な対策となります。
⑷ それでも炎上した場合には
人の価値観は時代によって変化していくため、炎上する投稿内容も変わっていきます。過去に炎上しなかった投稿であっても、今日では炎上する可能性があります。そのため、価値観を日々アップデートしていくことが求められますが、投稿内容に注意をしていたとしても、思いがけず炎上が発生してしまうこともあるでしょう。
では、炎上した場合はどのように対処したらよいでしょうか。
炎上してしまった場合は、投稿者個人で対応せず、上司と対応を相談しましょう。急いで投稿を削除したとしても、スクリーンショットなどによって拡散されているおそれがあり、投稿の削除をもって事態を鎮めることはできません。また、謝罪をしたとしても、謝罪の内容が適切でなければ、さらなる炎上を生む可能性があります。
そのため、炎上してしまったとしても、周囲の者と炎上が発生した経緯について共有したうえで会社の判断を仰ぎ、冷静に対応するようにしましょう。
4 おわりに
炎上する投稿は時代によって変化していくとご説明しましたが、どの時代においても炎上を避けるために重要なことがあります。それは、第三者がその投稿からどのような印象を抱くかを想像することです。自身で客観的な判断をすることが難しい場合には、他の従業員に投稿から受ける印象を聞いてみるとよいでしょう。
様々な炎上事例を見てSNSに投稿するのが怖いと感じている方もいるかもしれません。しかし、SNSは情報を発信するためにツールです。炎上を恐れるあまり、情報を発信することに消極的になってしまうのは本末転倒です。SNS上の投稿は多くの人の目に触れるため、適切に利用すれば、自社や自社商品をPRする上でとても有効です。
従業員の皆様におかれましては、自社のPRのために、炎上するポイントに留意したうえで、SNSをうまく活用していただけたらと思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
※本コラムは2023年10月実施の法律事務所のミニセミナーの内容をもとに作成しております。
それではSNSの管理に関するコンプライアンス(SNSの管理)について書かせていただきます。
このコラムは大きく4つの内容から構成されています。
1つ目がSNSを利用したことによる炎上事例
2つ目がこのような炎上事例を防ぐために行うべきルールの決め方
3つ目が作ったルールの管理方法
4つ目が不幸にして炎上してしまった場合の対応方法
です。
まず、その前にこのコラムの前提ですが、このコラム自体は主には管理する立場の人向けに従業員のSNSの利用をどのように管理していくのかという視点をもとに作成しています。
従業員向けに具体的に聞いてもらいたい内容の具体例については、別のコラムで書かせていただく予定ですのでそちらもぜひご活用ください。
炎上事例の例
まず最初に炎上事例について書いていきます。
ネット社会が進展して、会社も個人も気軽に投稿できるようになって、ネットニュースもどんどん配信されるようになったという時代背景もあって、SNSの炎上に関するニュースもよく目にするようになりました。
炎上事例については時代によって傾向がありますが、最近よく炎上しているものとして挙げられるのがジェンダーに関わることです。
例えば、性的な描写を連想させるということで、炎上したり、女性蔑視ということで炎上するという事例が多く見られます。
東京都が「東京女子けんこう部」というコンテンツを紹介したことについて「けんこう」をあえてひらがなで表記しているのは、女性が男性よりも、知的に劣るという偏見を助長するものだという批判がなされたこともあります。
こちらは極端な批判ということで、大きく炎上することはありませんでしたが、こういったことでも問題になりうるという一例といえます。
次に、タイツメーカーが自社のPRのために、タイツを履いた女性のイラストを掲載したことで、性的な描写を連想させるということで炎上したということもあります。
イラストがスカートを持ち上げたりスカートが短かったり、ということで、下着が見えそうになっていたということから批判が拡大したようです。
このように製作者の意図と反する内容により炎上するという危険は、身近に潜んでおりこれを全て除去するというのはほんとに難しいことですが、会社としては例えば女性も含めたメンバーで問題がないかという確認をするなど、もしくは年齢の異なるメンバーで意見交換をし、年代によるギャップがないかなども確認するということが求められるのではないかと思います。
タクシー会社の公式アカウントが、「今うちには3名の女性ドライバーが居るが、全員20代である。ちなみに、全員めちゃくちゃかわいい。」と記載して、「女性差別」「ルッキズム(外見至上主義)」との非難を受けたものがあります。
これなどは典型的なおじさんの発想によるものでダイバーシティの必要性を強く感じさせるものです。
と思っていましたら、実はその後の報道でこのタクシー会社のSNSは、女性のドライバーが投稿していた、という記事が出てきまして、その記事が正しければおじさんではなく、女性が投稿したとしても危険性があるということがいえます。
記事によると、コロナ禍で売り上げが8割ほどダウンしたため、売上げアップのために新人女性ドライバーを使ったSNS戦略を行って、会社の紹介だけでなく、地元のグルメを紹介したりして、フォロワーが10万人を超えていたそうです。今回の投稿以外にも性的な投稿をしたりして、「会社が女性にやらせている」などという批判も来たそうです。
会社の不注意というものですが、フリー素材として載せられていたものが実は作者に無断で勝手に掲載されていて、それを知らずに会社が広告にイラストを無断で使用してしまったというもので炎上した事例もあります。
フリー素材と書いてあるのにフリーではなかったということはよくある問題で本当に気を付けないといけない問題だと思います。
次に会社の公式アカウントではなく、従業員の個人投稿であったにもかかわらず、会社が謝罪をすることになるというケースもあります。
例えば自動車販売会社の社員が店内で電動椅子に乗ってふざけている動画がSNSに投稿されて障害者を真似して遊んでいるという批判を受け、会社がホームページに謝罪文を載せたというケースがあります。
会社の中で遊んでいるということで映像によって会社が特定されてしまいます。そうすると、会社に対して批判が集まってしまい、会社が従業員個人の行動について謝罪をせざるをえなくなったということです。
会社内での写真や動画の撮影は、場合によっては会社の機密情報が映りこんでしまうおそれもありますし、この件のように会社が特定されて批判を浴びるということもあります。
過去にもコンビニエンスストアのアイスケースに入ったり、と店内での投稿が問題となったことが多くありますので、ルールとして会社内での撮影や投稿を禁止したり、その趣旨を従業員に理解させる、ということが必要になります。
さらには従業員ではなく、その家族が行ったSNSの投稿が問題になるケースもあります。例えば、有名人が銀行に来店した際に、
〇〇さん〇〇銀行〇〇支店ご来店
というようなツイートがされたケースがあります。
これは母親が銀行で働いている女性がツイートしたもので、銀行がすぐにお詫びの文書を出すという事態になりました。
有名人の私的な行動に関するプライバシーの問題ということで非常にセンシティブに扱わないといけない問題であったため、銀行の対応もとても速かったのですが、従業員ではなく、その家族の投稿というところにSNS管理の難しさを感じます。
有名人関連の投稿による問題は多く発生しており、有名人に会えたことの嬉しさや自己顕示欲のために投稿する心理は理解できますので、これを防ぐためには、並大抵の努力では足りないだろうと推測されます。
このようにSNSの炎上と一言で言っても、会社の公式アカウントだけではなく、従業員やその家族の個人アカウントによる投稿に会社が巻き込まれてしまうということもあります。
そのため会社としては公式アカウントの投稿をどのようにするかというだけではなく、会社の従業員に対して、個人のアカウントの投稿も含めて、どのような投稿してはいけないのかということの意識付けを行っていく必要があります。
どのような対策をするのがよいのか
ではどのような対策をしていくことがよいのでしょうか。
先ほどから見ていただいたSNSの炎上事例を見てもわかるように、炎上の原因は、会社や従業員の意識の不足によるものがほとんどです。
そのため、SNSの炎上を防ぐ対策としては、
①ルールを作ること
②従業員の意識を高めること
この2つが重要になります。
そのうちまず1つ目のルール作りについて説明したいと思います。
SNSの映像の中には、従業員が会社に良かれと思って注目を集めようと炎上ギリギリの投稿してしまい、その結果多くの批判にさらされるということもあります。もちろん、何の意識もなく、投稿したものが一般人の感覚にそぐわなかったために、多くの批判を浴びることがあります。
そのため、どのような投稿を行うべきか行うべきでないのか、そしてどのようにチェックをして投稿を行うのかということを決めておく必要があります。
そして、会社の公式アカウントでの投稿を想定すると、アカウントの運用面及び内容面に分けて考える必要があります。
具体的な内容については、来週投稿予定の従業員向けのコラムもご覧ください。
まず運用面では
・投稿する担当の部署を決めること
・1人ではなく複数のチェックを受けること
・個人の端末では投稿させないこと
など投稿するまでの手順を定めておくことが重要です。
一方、内容面では
どのような投稿をしてはいけないのか
ということを定めておく必要があります。
例えばソーシャルメディア利用規定の雛形を一部引用すると、以下のようなことが遵守事項として定められています。
他人の名誉権や、プライバシー権、肖像権、パブリシティー権、著作権、商標権等、法的に保護された権利を侵害しないこと
第三者の個人情報やプライバシーに関する情報発信しないこと
会社の商品、またはサービスの広告を行う場合には、景品表示法などに違反する恐れのある表示をしないこと
ただしこれを規定があるからといってどのようなものが該当するのかは、人によって受け止め方が違いますので、研修などでどのようなものが炎上に繋がるのかということを知ってもらう必要もあります
どのような研修をするのがいいのか
ではどのようにしてルールを浸透させていけば良いのでしょうか。
ルールの浸透には、通常従業員に対する研修が一般的ですが、通常の研修は必要な知識を身に付けさせるというのが目的になります。
しかしSNSのトラブルは発生させてしまった者の知識不足によるものだけではなく、その者の意識の不足という問題もあります。ですので、研修においても従業員に対してどのような意識を持ってもらえば良いのかということを意識して行う必要があります。
先ほどお話したように、従業員はそれぞれ意識が違うということを意識して話をしなければいけないことも忘れないでください。
また研修は一度やればいいというものではないということも意識しておいてください。
その理由は2つあります。
まず1つ目は、SNSの炎上の理由は時代によっても変わるため、その時々の意識関心合わせて研修を行う必要があるという点
2つ目は人間というものは、研修したときには、高い意識を持っていたとしても、どうしても時間が経つと意識が崩れていってしまうため、定期的に研修することで意識を高く持ち続けられるようにしないといけないという点にあります。
ではどのような内容で研修をしたらいいのでしょうか。
まず今回最初にご説明したように身近で、かつ、具体的な炎上事例を見てもらうというのがいいと思います。そうすることによって従業員の意識も引き締まりますし、どのようなことをした結果炎上したのかということが具体的にわかります。
またその事例を自社に置き換えてみた時に、どのようなところに炎上の可能性があるのかや、実際に社内で問題になりかけた事例がある場合には、その話をしてみるというのもいいと思います。
場合によっては、次のグループに分けて自社で気をつけることについて議論をしてもらい、その内容を発表してもらうということでより意識を高めることもできると思います。
またSNSの投稿では、個人のアカウントから投稿した場合など、第三者から当該従業員に対しても損害賠償請求がなされる可能性もありますし、企業のアカウントから投稿した場合でもあっても、企業の信用を大きく損なって、売り上げが減少したり、会社から投稿に対して懲戒処分がなされることもありますので、それだけ責任が生じるものであるということも意識してもらうようにする必要があります。
特にネットの投稿はオリジナルを削除したとしても、そのコピーが出回っていつまでも消えないこともありますので、結果の重大性についても認識してもらう必要があります。
炎上が起きた場合の対策
それでは、実際にSNSの炎上が起きた時にどのようにすればよいでしょうか。
単に会社として謝罪をすればいいというものではなく、炎上した内容によって対応を検討する必要があります。
1つ目は、会社や投稿を担当した者に落ち度があった場合です。
たとえば、差別的な発言をしてしまったような場合など、こちらの非が明らかな場合には、しっかりと謝罪をするとともに、その後の対応として差別を助長しないような研修をしていくことなどを発表することが多くみられます。
会社によっては、差別に反対する声明などをHPにアップしていたり、そのような活動を対外的に行っていたりすることもありますので、そのようなことを掲げておきながら今回の問題を起こしたことを深く反省する旨を入れたり、そのようなことを掲げていながら今回の問題が発生した原因を分析したり、というようなことをすることも考えられます。
会社としては、会社の非を認めることをためらったり、批判が収まるのを待とうとして静観したりすることもあります。
しかし、そのような対応をすることでさらなる批判を招くこともありますし、不誠実な会社という印象を与えることもあります。
2つ目は、会社に落ち度は少ないが、投稿内容の趣旨が不明確であった場合に炎上を招いたような場合です。
このような場合には、謝罪を行うか、趣旨を説明するのか、という判断が難しい場合がありますが、たとえば、趣旨を説明した上で、その趣旨が不明確となったために、〇〇といった批判を受けることとなり、今後趣旨をより明確にすることで誤解を招くことがないよう努めたいという発表をすることが考えられます。しかし、批判の問題意識をうまくとらえないとさらなる批判を招くおそれもあります。
3つ目は、会社の公式アカウントではなく、従業員個人のアカウントからの投稿であったが、会社名などが投稿され炎上に至ったような場合です。
このような場合には、基本的には私人としての投稿といえるとはいえ、その内容に問題があったような場合には、対応をどうするか難しい判断が迫られます。一つの基準としては、企業のイメージを傷つけるような炎上となっているのか、企業として管理責任を問われるようなものなのかどうかです。
そのような場合には、企業として何らかの対応をした方がよい場合が出てきますので、専門家にも相談して検討してください。
このように、対応を誤るとさらなる批判が予想される状況下で的確かつ速やかな対応が求められるというのが、SNS対応の難しさといえます。
炎上を称賛に変えた稀有な例
最後に味の素の事例をご紹介します。
餃子がフライパンにこびりつかない、ということを売りにしていたのに、こびりついたという投稿が個人の方からなされたという事例です。
本来であれば炎上してもおかしくないですが、味の素がその方にそのフライパンを研究開発に使いたいので送ってほしいとお願いして、さらに一般の方にも使い古したフライパンを募った、という事例で会社の研究熱心な態度が逆に称賛されたというものです。会社の熱意というものがネット社会でも評価されることがある、というのはどこか救いを感じます。
まとめ
今まで、SNSの炎上事例から、ルール作りとその浸透方法、炎上した場合の対応について書いてきました。
まずは会社の中でどのようなルールを作って、どのように従業員の意識づけをしていくか、ということから始まると思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。