2025.12.5.Fri
- コンプライアンス
- 内部通報
内部通報制度②(調査について)
Ⅰ. 調査の基本事項と聞き取り体制
1. 聞き取りチームの構成
聞き取り調査は、2人から3人程度の人数で実施することが適切です。1人では、メモを取り損ねたり、質問を深掘りし損ねたり、録音を忘れるなどのヒューマンエラーが生じやすいため、最低2人は必要です。
一方で、人数が多すぎると威圧感を与え、被聴取者が話しにくくなる可能性があります。ですので、2人1組で、1人がヒアリング(質問)を担当し、もう1人がメモと追加質問を行う役割分担をするといいでしょう。
また、聞き取り調査は原則として録音を実施します。これは、メモの不十分さを補う、後で聞き返す、そして証拠の保全という目的のためです。ヒアリングの際に、録音の許可を求める聞き方ではなく、「録音をさせていただきます」というように、録音は調査の基本として実施することを伝えましょう。
2. 事実の確認と質問方法
ヒアリング内容が、その人が直接体験したことなのか、誰かから聞いたこと(伝聞)なのかを明確に確認し、時系列を整理することが不可欠です。聞き取り対象者は、体験と噂話、時系列を混在させて話す傾向があるためです。伝聞であれば「誰から聞いたのか」、経験であれば「一緒にいたのは誰か」など、事実確認ができる関係者を洗い出すことも重要です。質問の仕方には、漠然と尋ねるオープンクエスチョンと、具体的な内容を尋ねるクローズクエスチョンがあります。
Ⅱ. ハラスメント事案の進め方と特有の注意点
1. 調査の順序と取り下げ希望への対応
ハラスメント事案(セクハラ・パワハラ)は、通常、①被害者(本人)への聞き取り、②周囲の関係者への聞き取り、③加害者への聞き取り、という順序で進めます。
ハラスメント事案について通報後に、通報者(被害者)が報復を恐れて調査の取り下げを希望する場合があります。
この場合は通報者の意思を尊重する必要もありますが、加害者とされる人物による被害の拡大(他の社員への危害)の可能性や、問題を知りながら会社が手を打たないことの是非を考慮する必要があります。
検討の結果、会社として断固とした対応を取る場合には、その必要性を説明し、調査継続を依頼する場合があります。また、取り下げの希望が通報者のメンタル不調による可能性もあるため、病院の受診を促すなどの配慮も必要ですし、被通報者によるストーカー行為が疑われる場合は、警察への相談を促すこともあります。
2. 加害者と通報者の分離
調査期間中や問題解決のために、通報者と被通報者(加害者)を隔離する措置が必要となる場合があります。
具体的には、被通報者を他部署へ一時的に移動させる、または調査期間中に出勤停止処分とする措置が考えられます。
出勤停止の場合、会社都合の休業として給与の6割払う、または全額を支払うこともあります。
3. 環境型セクハラへの対応
宴会の席での性的発言(下ネタなど)について、言われた部下本人が気にしていなかった場合にセクハラとして問題視するかどうか検討が必要となる場合があります。その前提として、セクハラ(性的嫌がらせ)には対価型と環境型があります。
環境型セクハラは、職場のポスターや性的スクリーンセーバーなど、見る人が嫌な思いをすることで成立し得ます。
そのため、言われた本人(部下)が気にしていなくても、他の社員が不快に思う可能性があるならば、ハラスメントに該当することもありますし、ハラスメント認定の有無にかかわらず、「そういった発言は慎むように」と指導することもあり得ます。
Ⅲ. 一般的な調査の実施順序と証拠の収集
1. 調査対象者の順序と秘密保持の徹底
調査は、通報者から得られた情報をもとに、関係者を洗い出し、最後に被通報者(問題があると指摘されている人)に聞くという順序で進めます。
- ライン軸と時系列: 職位の低い人から上へ(ライン軸)、今関わっている人から過去に関わっていた人へ(時系列)の順番を意識して聞き取りを行います。
- 情報漏洩の防止: 被通報者に近い人物にヒアリングを行う場合、情報が被通報者へ漏洩し、口止めや証拠隠滅(メール削除など)につながるリスクがあります。対策として、被通報者と同じ日にヒアリングを実施したり、「今日調査を受けたことについては業務としての守秘義務があるため、誰にも言ってはいけません」と厳重に注意しておく必要があります。
2. 物的証拠(物証)の収集と活用
ヒアリングで得られた情報(人の証言という主観的な情報)が正しいかどうか、整合性を確認するために、客観的な物的証拠(物証)を集めます。物的証拠の収集には、ヒアリング対象者本人だけでなく、情報システム担当者や経理担当者などにも協力を求めます。
Ⅳ. 通報者への聞き取り
1. 通報者からの聞き取りで確認すべき重要事項
通報者への聞き取りは調査の出発点であり、以下の詳細を必ず確認します。
① 事案の詳細(時系列):誰が、何を、いつしたのか
② 体験か伝聞か:直接経験したのか、誰かから聞いたのか
③ 裏付け資料の有無:録音や証拠資料、証言者がいるか
④ 最も伝えたいこと:通報を通じて会社に何を訴えたいのか
⑤ 希望する対応:会社にどういったことを望んでいるのか
⑥ 情報の共有範囲:話した内容を社長、部長、被通報者本人など、「何を」「誰まで」伝えて良いか、意向を必ず確認します。
⑦ 今後の連絡方法:電話かメールか、都合の良い時間帯などを確認します。
Ⅴ. 調査の露見防止とアポイントの取り方
被通報者(加害者)に「あなたの調査だ」と伝えると、ヒアリング日までに被通報者が準備をする可能性があるため、カモフラージュ名目で呼び出します。アポイントを取った日からヒアリングまでの期間をなるべく短く設定し、迅速に実施します。
- カモフラージュ例: 定期内部監査や定期巡回の一環、「職場環境改善のためのヒアリング」、または「採用活動のための部署状況ヒアリング」 といった名目などが考えられます。ただし、不自然な頻度で実施すると怪しまれるため、カモフラージュの方法は慎重に検討が必要です。
- 準備の徹底: 調査は「早ければ良い」というものではなく、通報者や関係者への聞き取り、物証収集を通じて、被通報者に聞くべき内容を明確に固めておくことが極めて重要です。準備不足だと被通報者にかわされてしまう可能性があるため、しっかり準備をした上で、なるべく早くヒアリングを行うことが鉄則です。
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