賃貸借契約の解除の可否
Q 当社が所有している物件についてAに賃貸借をしていますが、最近賃料を滞納しています。前にも賃料を滞納したことがあり、契約書にも賃料を滞納した場合には解約できると記載しているため、賃貸借契約を解除しても問題ないでしょうか。
A 賃料の滞納があっても「信頼関係の破壊」が認められないと賃貸借契約の解除は認められません。
賃貸借期間中にテナントからの賃料が滞ることはよく起こりうるものです。最近では、居住用住居のみならず、商業用のテナントについても家賃債務保証会社と契約を行い、賃料が滞納されても家賃債務保証会社から支払いを受けるということも増えていますが、まだまだ居住用に比べると浸透度が低いのが現状です。
賃料滞納が数か月分積み重ならないようにこまめに賃借人と連絡を取りながら回収をしていくのが重要ですし、万一賃料の支払いを受けられなくなった場合に敷金でカバーできる範囲なのか確認しておくことも必要です。特に、テナントの場合は原状回復費用がかさむことが多いので賃料の滞納だけでなく、原状回復費用もカバーできるのかは重要な確認事項です。
では、テナントが賃料を滞納した場合に、賃貸借契約の解除は認められるのでしょうか。
賃料の支払いは賃貸借契約の重要な約束事ですし、賃貸借契約書でも賃料の支払いを怠ると解除できるとしていることが通常ですので、解除は認められそうにも思われます。
しかし、賃貸借契約は継続的な関係に基づくものであり、裁判例上、こうした契約については「信頼関係の破壊」がないと契約の解除はできないとされています。
一般的には、賃料を1~2か月程度滞納しただけでは信頼関係を破壊したとはいえないとされることが多く、3か月以上の滞納が目安とされています。
テナント(賃借人)が破産した場合の賃貸借契約の解除の可否
また、テナント(賃借人)が破産した場合は賃貸借契約の解除は認められるのかという相談もあります。
賃貸借契約の中には、賃借人が破産手続開始の申し立てをした場合や開始決定がなされた場合を解除事由としていることがよく見られますが、これは賃借人にとって不利なものとして裁判例上無効とされています。
一方で、破産にいたる会社は賃料を滞納していることもよくありますが、上で述べたように3か月程度の滞納があって、信頼関係が破壊されているとされれば、賃貸借契約の解除は可能です。
テナントが破産し、賃料の滞納状況から判断して賃貸借契約の解除が困難という場合には、賃貸人は破産した会社の判断を待つ必要がありますが、破産手続きが開始すると裁判所から破産管財人という者が弁護士の中から選任され、この破産管財人が賃貸借契約を解除するか、継続するかを決定することとなります。
破産管財人が賃貸借契約を継続すると決めた場合賃料がどうなるかということを疑問に感じられると思いますが、開始決定後の賃料については優先的に支払いを受けられる債権とされます。一方で、破産開始決定が出る前までの賃料については、このような優先的な支払いを受けられず、破産債権として届出を行うこととなりますが一般的にはかなり低い配当率での配当を受けるのみです。
ただし、敷金がある場合には、未払賃料を敷金から相殺することはできます。
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今回は2024年6月に実施した業種別法務⑥不動産のセミナーで紹介した内容をもとにコラムを書いています。
Q1 最近の物価高に対応して、ビルのテナントとして入居している顧客に対して、賃料の増額を請求することはできるのでしょうか。
A 通常は顧客との間で賃料増額について協議を行い、話し合いで解決できない場合には、調停や訴訟などの法的手続きを行い、その手続きの中で解決を図っていきます。
賃料の増減額請求の要件
賃貸借契約の賃料は当事者の合意で決まるため、契約期間中は契約書記載の賃料に拘束されるのが原則です。
ただし、賃貸借契約は継続的な契約で長期にわたることも多いため、その間の景気動向や不動産市況などの経済事情により賃料が不相当な内容となることがあります。
そのため、借地借家法により、社会経済事情の変動で賃料が不相当になった場合には賃貸借の相手方当事者に賃料の増減(増額だけでなく、減額もある)を請求できる権利が認められています。
では、どのような場合に賃料の増減請求が認められるのでしょうか。
借地借家法は以下の3つを賃料が不相当となる事由としてあげています。
- 土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
- 土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動
- 近傍同種の建物の賃料との比較
ただし、これらはあくまで例示列挙とされていて、その他の事情も合わせて賃料が不相当かどうかを総合的に判断します。
裁判例が他にあげている要素としては、
当事者が事業者か否か、その事業の規模
建物が居住用か営業用であるかなどの賃借建物の用途ないし性格
賃貸借契約締結の際における交渉の経緯並びに当事者の意思
契約締結後の状況
です。これらの要素を見ると、賃料の相当性の判断については、個別特別な事情や当事者の主観なども判断要素となっていることが分かります。
また、最後の賃料を決めたのがいつか、というのも重要な要素です。たとえば、2年前に賃料を増額・減額したというのも要素になりますし、2年前の更新の際に賃料を据え置いたということも判断要素とされます。
そのうえで相当賃料をどう定めるか、という点については、建物価格をベースに期待利回りや必要経費等を考慮して求める方式(利回り方式)や従前の賃料にその後の経済事情の変動率を乗じる方式(スライド方式)、近隣の賃貸事例と比較する方式(賃貸事例比較方式)などありますが、裁判実務ではこれらの方式を組み合わせながら総合的に判断しています。
賃料の増減額請求の手続き
では、実際に手続きが進められるとしたらどのように進むのでしょうか。
まず賃料増減請求は、最初は当事者間での協議が行われますが、任意の交渉で解決できない場合には、法的手続きをとられることがあります。
その場合には、調停前置主義といって、裁判ではなく、調停という裁判所での話し合いの手続きを経ないといけないとされています。この調停とは調停委員という2人の委員が間に入ってそれぞれの意見を聞きながら話し合いでの解決を探っていくという手続きです。
それでも解決できない場合には、訴訟提起をすることで、裁判所が相当な賃料の金額を判断することとなります。
仮に裁判になった場合、解決まで一定の時間がかかります。その間の賃料をどうするか、ですが、裁判が確定するまでは賃借人が自ら「相当と認める額」を支払えばいいとされています。
ですので、仮に賃貸人から賃料増額を請求を受けた場合であっても、賃借人は裁判で確定するまでは従前の賃料を支払えば足りますし、相手が受け取らない場合には、法務局に供託をするという対応も検討が必要となります。
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弁護士の業務の中に、当番弁護・国選弁護というものがあります。
ふだんは企業に関するコラムが多いですが、今回はこの当番弁護や国選弁護について書きたいと思います。
当番弁護とは刑事事件で逮捕された被疑者(犯罪の嫌疑をかけられていて、起訴される前の者)に対して、弁護士が無料で接見する制度です。
一方、国選弁護とは、逮捕の後の身柄拘束手続きである勾留された被疑者や起訴された後の被告人のうち、経済的理由で私選弁護人を選任できない者に対して、国費で弁護人を選任する制度です。
福岡県弁護士会では、当番弁護や国選弁護に登録している弁護士をリスト化して、日にちごとに複数名割り振って担当を決めています。
私どもの事務所では、取り扱う事件は企業に関わる案件がほとんどですが、所属する弁護士(と言ってもまだ2名しかいませんが)全員が当番弁護・国選弁護を行っています。
その理由は以下の3つです。
1つ目は、公益活動の一環としてです。
弁護士には基本的人権の擁護と社会正義の実現という責務が課されています。その活動の代表的なものが当番弁護や国選弁護です。特に、福岡県弁護士会は当番弁護士制度を日本で初めて始めた弁護士会として力を入れています。こうした公益活動に事務所として少しでも貢献できればという思いが当番弁護や国選弁護を行う理由の1つ目です。
2つ目は若手の育成です。
私たちの事務所では、通常の事件処理はチームで対応しているため若手の弁護士が自分一人の判断で対応するという機会はほぼありません(自身で考えて対応する場合でも最終的には上の弁護士の判断を仰ぎます。)。
一方、当番弁護や国選弁護は弁護士個人が選任されるため、たとえ上の弁護士に相談するにしても、最終的には自分の判断と責任で対応しなければいけません。このような対応をすることで、弁護士として責任をもって事件に向き合う力が育成され、普段の業務に取り組む意識も向上すると考えています。
そして、若手の弁護士に登録してもらう以上、私が登録していないと偉そうなことがいえないので、私も弁護士登録から15年以上経過していますが、登録を続けています(福岡では大ベテランの先生でも国選弁護にずっと登録されている先生も多くいらっしゃいますので、15年程度の登録でもう十分やったので、ともなかなか言えないくらい熱心な先生が多い弁護士会でもあります。)。
3つめは企業の幅広いニーズに対応するためです。
普段は企業の契約書の相談や債権回収の相談、労務問題の対応に当たっていたとしても、従業員が交通事故を起こして刑事事件になるなど、広い意味で会社が刑事事件に巻き込まれることがあります。地方の企業では、社長が従業員を心配して従業員の刑事弁護を依頼したり、そうでなくても、刑事事件がどのように進行するのかを質問してくることがあります。こういった場合に対応できるようにするためにも普段から刑事事件に触れておく必要があります。
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前回に引き続き、売買契約についてご説明します。今回は、検査の規定と、実際にあった裁判例を取り上げます。
3 検査
Q:検査の規定は、どのような内容にしたら良いのでしょうか?売主側と買主側で違いはありますか?
A:売主側の条項と買主側の条項についてご説明します。
⑴ 売主側
第〇条(検査)
買主は、本件目的物を受領後、5営業日以内に検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件目的物に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件目的物を受領後5営業日以内にその旨を通知し、履行の追完を催告しなければならない。この場合、売主は、自己の選択に従い、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行うものとする。なお、本件目的物の受領後5営業日以内に、買主より売主への通知が無い場合は、買主により本件目的物の内容が合格と判断されたものとみなす。
☆ここでのポイントは3つあります。
まずは、検査の期間を定めていることです。検査の期間を定めていなければ、売主は検査の合否がなかなか分からず、不安定な立場に置かれてしまいます。
2つ目は、履行の追完方法を売主が決めることができることです。民法では、買主が契約不適合の対応を選択できるとされていますが、売主が選択できるとすることで、契約不適合があった場合でも、売主は対応しやすくなります。
3つ目は、通知がなければ検査に合格したとみなすことです。いつまでも検査の結果について通知がなければ、売主はいつまで契約不適合責任を追及されるかがわからず、不安定な立場に置かれるので、みなし合格の規定を定めることで、このような事態を回避します。
⑵ 買主側
第〇条(検査)
買主は、本件目的物を受領後、10営業日以内に検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件目的物に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下 「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件目的物を受領後10営業日以内に買主の選択に従い、本件目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を催告するものとし、売主は、買主が定める期限内に、買主の選択に従い、 無償で、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行わなければならない。
買主としては、検査期間が十分な日数であるかを確認しましょう。例えば、「5日以内」となっている場合、連休などをはさむと十分に検査をすることができないおそれがあります。その場合は期間を延ばしたり、「5営業日以内」にしたりするなどの修正が必要です。
Q:契約不適合の条項案について教えてください。
A:売主側の条項と買主側の条項についてご説明します。
⑴ 売主側
第〇条(契約不適合責任)
商品に第〇条に定める検査では発見できない契約不適合があった場合(数量不足を除く)、買主は、当該不適合が本件目的物の受領後6か月以内に発見されたときに限り、売主に対して当該契約不適合の発見後5営業日以内に、履行の追完を催告することができるものとし、この場合、売主は、自己の選択に従い、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行うものとする。
契約不適合責任に関する民法の規定は任意規定であり、当事者間の合意が優先します。そのため、売主が契約不適合責任を負わない旨の特約も、民法上は原則として有効です。もっとも、売主が不適合であることを知りながら買主に告げなかった事実についてまで売主の責任を免除することは不適当ですので、その場合は、契約不適合責任を負わない旨の特約が あっても、売主は責任を負うことになります。
⑵ 買主側
第〇条(契約不適合責任)
商品に第〇条に定める検査では発見できない契約不適合があったときは、売主は、当該契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるかを問わず、買主の選択に従い、当該商品の無償による修補、代替品の納入若しくは不足分の納入等の方法による履行の追完、代金の全部又は一部の減額若しくは返還その他の必要な措置を講じなければならない。
買主としては、契約不適合責任を追及できる期間の制限を設けなかったり、契約不適合責任の原因を問わないと定めたりすることにより、あらゆる場合において契約不適合責任を追及できるようにすることが考えられます。
4 裁判例
検査及び契約不適合責任の条項が問題となった事例(東京地判平成23年1月20日(平成20年(ワ)第25857号)についてご紹介します。
⑴ 事案の概要
買主Xが売主Yから土地を購入したものの、購入から8カ月後に土壌汚染を発見しました。両社の契約書には、「本件土地引渡後といえども、廃材等の地中障害や土壌汚染等が発見され、買主が、本件土地上において行う事業に基づく建築 請負契約等の範囲を超える損害(三〇万円以上)及びそれに伴う工事期間の延長等による損害(三〇万円以上)が生じた場合は、 売主の責任と負担において速やかに対処しなければならない」と定められていたため、XはYに対して瑕疵担保責任(改正前の用語で、改正後は契約不適合という用語になりました)として汚染を除去するのに要した費用1470万円を請求しました。
⑵ 売主Yの主張
売主Yは、①買主Xは土地の受領後遅滞なく土壌汚染の有無を検査し、それが発見された場合には直ちにその旨をYに通知しなければならないのに、検査・通知をしていないこと、②土地の引渡しから6か月以上が経過していたことから、Xは瑕疵担保責任を追及することができないと主張しました。
※商法526条
1.商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2.前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することのできない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3.前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
⑶ 本事案の問題点
商法526条は、商人間の売買では、買主は目的物を受領した際は遅滞なく検査しなければならないこと、直ちに発見できない契約不適合があった場合には、6か月以内にその契約不適合を発見しなければ、売主に責任追及できないと定めています。しかし、当該契約書には、土地引渡後も土壌汚染が発見された場合には、売主の責任と負担において対処する旨が定められているため、買主Xが6か月経過後も売主Yに契約不適合責任を追及できるかが問題となりました。
すなわち、本事案の問題点は、当該契約書の条項によって、商法526条の適用が排除されるかという点です。
⑷ 判決の要旨
本事案について、裁判所は、①契約書の文言上、土地の引渡し後も土壌汚染が発見された場合には売主が責任を負うことを規定しており、他方、引渡し後の責任の存続期間については制限がないこと、②買主Xが土地受領後に「遅滞なく」土壌調査を行うことは、当事者間において想定されていなかったと認められることを理由に、商法526条の適用は排除されていたと解するのが相当であると判示しました。
⑸ 売主Yの対応例
本件では売主Yの主張は認められませんでしたが、売主Yとしては、契約書の条項をどのような文言にすればよかったのでしょうか。
売主Yの対応としては、①商法526条の適用が排除されないことを明記しておくこと、②売主の責任期間や検査・通知義務を明記することが挙げられます。
⑹ 本事案から学べること
契約書において、法令の適用を排除する旨明記していなかったとしても、規定の内容によっては、当該法令の適用を排除する趣 旨であると解釈される可能性があります。
そこで、契約書のチェックを行う際には、契約書の文言が明確になっていないことによって、紛争が生じるおそれがあること、契約締結時に当事者の認識が一致するよう十分に協議し、契約書に明記をしておくことでリスクを回避できることを意識するようにしてください。
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今回は、私たちにとって最も身近な契約の一つである売買契約についてご説明します。
1 売買契約とは
Q:法律では、どのように売買契約は定められているのですか?
A:売買契約とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる契約です(民法555条)。
以下のイラストは、売買契約の成立を簡単に示したものです。
Q:わが社では、特定の取引先と頻繁に取引を行っていますが、その都度、売買契約を締結しなくてはなりませんか?
A:売買取引基本契約を締結するのがよいでしょう。売買取引基本契約では、継続的に売買を行う場合に、両者間の売買契約に共通して適用される、基本的な取引条件を定めます。 個別の契約条件は、個々の商品を発注する際に別途締結する個別契約や発注書・請書などにより定めます。
売買取引基本契約では、売買の目的物や契約不適合責任といった取引の基本的な条件を定めて、個別契約では、納期や金額といった個別の取引条件を定めます。
2 契約不適合責任とは
Q:契約不適合責任とはどのようなものか教えてください。
A:契約不適合とは、目的物がその種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合しないことをいい、契約不適合責任とは、納品された目的物に、契約内容と異なる点があることが判明したときに、売主が負担する責任を指します。
Q:契約不適合を発見した場合は、どのような請求ができますか?
A:買主は、契約不適合を発見したときは、売主に対して、①履行の追完(目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し) ②代金減額 ③損害賠償 ④解除といった対応を請求することができます(民法562条、563条、564条)。
Q:契約不適合はいつまで追求できるか教えてください。
A:契約不適合がいつまで追求できるかは、契約不適合の内容によって異なります。
①目的物の種類・品質が契約の内容に適合しない場合には、買主は、その旨を1年以内に通知しなければ、権利行使ができません。旧民法では1年以内に権利行使(解除や損害賠償の請求)をしなくてはなりませんでしたが、現行民法では不適合の事実の通知で足りることとなりました。
ただし、売主が引渡しの際に不適合があることを知っていた場合や、売主が重過失により不適合を知らなかった場合には、売主を保護する必要性が乏しいため、買主は通知をしていなくても、一般的な消滅時効の期間内であれば、契約不適合責任を追及することができます。
②目的物の数量・権利が契約の内容に適合しない場合には、買主は、期間の制限なく、権利行使ができます。旧民法では1年の期間制限がありましたが、消滅時効の一般原則によることになったので、消滅時効の期間には注意してください。
なぜ数量・権利に期間制限がないかというと、数量が不足していることや、目的物に担保物権等が付着していることは外見上明らかなので、売主としてはいつ請求されてもそこまで不利益にはならないからです。
※消滅時効(民法166条)
債権は、権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年間行使しないときは、時効によって消滅します。
買主が数量不足などに気づいたら、その時点から5年が経過した時点で時効が完成します。一方で、権利を行使できることに気づかなくても、客観的に権利行使できる状態になってから10年が経過すると時効が完成します。
Q:商人間で売買をするとき、契約不適合の期間はどうなりますか?
A:①買主側で遅滞なく目的物の検査を行い、②-1検査により発見された契約不適合については、直ちにその旨を通知すること、②-2検査により直ちに発見できなかった契約不適合 が、6か月以内に発見された場合、直ちにその旨を通知することが必要です(商法526条)。
6か月以内に契約不適合を発見できなかった場合は、買主は権利行使ができません。なお、①での遅滞なくとは、人手不足などの買主の個人的な事情は考慮されません。
このように商人間の売買が民法の規定より厳しい理由は、商取引を迅速に行うためと、買主が商人であれば専門的な知識を有するため、このような義務を課しても負担とならないと考えられたためです。
商人はあらゆる物品について専門的な知識を有するわけでありませんが、専門的知識を有していない物品の売買についても、商法526条は適用されるため、注意してください。
※「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」のイメージ
これらの用語は、行動までにかけてよい時間の長短によって使い分けられています。
「直ちに」は「即時に」、「速やかに」は「可能な限り早く」、「遅滞なく」は「事情の許す限り早く」といったイメージを持っていただけるとよいです。
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6月になりました(2024年6月に執筆しています。)。
日本では3月決算の会社が多いため、その3か月後である6月に株主総会が集中する傾向があります。
今回は株主総会と弁護士の関わりについてコラムを記載します。
株主提案に対する対応
2024年は6月に株主総会を開催する上場企業のうち、株主提案を受けた会社が91社で、3年連続過去最多を更新していると日本経済新聞が報じています。
株主提案がなされた場合の対応としては、
- 株主提案が会社法の要件を満たした適法なものかどうかの検討
- 株主提案を議案とする場合の会社の意見の記載の検討
- 実際の株主総会の場での提案株主対応
が必要となります。
株主提案をできる株主の資格として
ⅰ 議決権の1%以上または300個以上を(定款で引き下げ可能)
ⅱ 6か月以上有すること
が必要で、株主総会の日の8週間前までに提案をしなければなりません。
また、提案内容も会社法上認められたものしかできません。
そのような要件、特に会社法上問題のない議案かどうかについての検討については、弁護士の法的な視点からの確認が必要となることがあります。
また、株主提案として適切になされていた場合には、株主総会の招集通知に会社の意見を記載し、一般的には、株主提案に反対する意見を記載することが多いですが、その内容についても弁護士が法的な視点からアドバイスをします。
そして、株主総会の日において提案株主に提案の理由の説明について時間を与えますが、その際の運用が適切であったか、当日株主総会に参加した弁護士も確認をしています。
招集通知の内容の確認
株主提案のようなイレギュラーなイベントがなかった場合でも株主に送付する招集通知の内容に不備がないかという点は極めて大切な確認事項ですので株主総会の担当者のみならず、弁護士もチェックを手伝います。
法定の事項について正しく記載がなされているか、議案の内容について適切に記載がなされているか、場合によっては取締役の選任議案など議案に漏れがないか念のため登記事項証明書で役員の任期を確認したり、ということもあります。
想定問答の確認
株主からの質問に対しては、想定される質問とそれに対する回答を準備をしておきます。その回答内容について問題がないか、より適切な回答がないか、についても弁護士の視点で確認を行います。また、地域紛争の発生、ESG対応、円安の影響など、近時のトピックに対する想定問答が準備されているかという点についても目を配らせています。
リハーサル・本番対応
そして、株主総会のリハーサルでは、役員の入退場から事業報告、質問対応、議案の採決まで一連の流れに問題がないかを確認し、気になった点をフィードバックした上で株主総会本番に備えます。
株主総会本番では、リハーサルでの動きも意識しながら問題なく進行できているかどうか確認をしながら、株主から動議が出た場合の対応、たとえば議長交代の要請が出た場合にどうすべきか、議案の採決中に議案の修正要求が出た場合にどうすべきか、などにも留意をしておきます。
株主総会が終了した場合には、議事録の確認を行い、株主総会に関する一連の対応は終了します。
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今回はM&Aの中で、不動産について説明いたします。
法務DDの中で不動産に関する調査が重要性を持つかどうかは、対象会社が所有する不動産の位置づけによって変わってきます。
単に、資産として賃貸料収入を得るために持っている不動産については、財産的な価値評価は別として(財務DDなどで行うことはあるとしても)、法務DD的には本業に与える影響は小さいと判断されることも多くあります。
一方で、オフィスや工場などに使用している不動産については、
利用形態が所有なのか賃貸借なのか、
継続的な使用が本業の継続に必要なのか、それとも代替可能(移転の負担も含めて)なものなのか、
賃貸借契約とした場合に契約の継続が可能なのか、
賃貸借契約は不公平なものではないか(たとえば、創業者個人が所有する土地を高額で賃借していないか)
などという点が問題になってきます。
他方、土地については、土壌汚染などの環境に与える影響なども問題となりえますが、法務DDの検討範囲を超えるものでもありますので、実務的にはヒアリングでの確認や現地の外観を確認したり、という程度の対応が多く、より詳細な調査は専門業者に委ねるべきです。不動産の所在地や重要性によっては現地を見に行かないこともありますが、見に行ったところ、契約関係が不明な第三者の看板が土地上に設置してあったこともあり、現地確認が有効な場合もあります。
不動産の使用権原による検討事項
① (建物も)土地も所有の場合
建物も土地も対象会社が所有している場合や、土地を利用していて土地を所有している場合には、調査はそれほど複雑ではありません。
対象会社が所有していることを不動産登記で確認をするとともに、抵当権などが付されていないか謄本やヒアリングで確認を行います。
② 建物所有、土地賃貸借の場合
第三者の土地上に対象会社所有の建物が存在する場合には、土地利用の権利が確保されているのかについて確認が必要となります。
確認する事項としては
ⅰ土地の地上権ないし賃借権が確保されているか、
ⅱ土地の利用権に優先する抵当権などが設定されていないか、です。
ⅰの土地の利用権については、地上権よりも賃借権が設定されることが多く見られるため、賃借権の場合の注意点について説明します。
まず、土地の賃貸借契約が建物の所有目的である場合には、借地借家法が適用され、賃借人の権利が厚く保護されるため、借地借家法の適用がされる賃貸借契約かどうかという点は重要な検討項目です。一時使用目的や定期借地等に当たる場合には、借地借家法の一部が適用されないため、これらの事項に当たらないかについても検討が必要です。
賃貸借契約一般については、
・賃貸人が土地を賃貸借する権限を有しているのかという点の確認が必要です。一般的には土地の所有者に該当するか、不動産登記を確認することが多いですが、転貸借であるような場合には、不動産登記を確認しても転貸人が所有者でなく、賃貸借を行う権限が確認できないため、原賃貸借契約の締結についても確認となるほか、原賃貸借契約が解除されると転借人も退去しなければならないこととなるため、転貸借に伴う対象会社のリスクを適切に評価する必要があります。
・賃貸借期間や更新条項の有無、中途解約条項の内容なども確認を行い、事業の遂行途中に予期せぬ解約がなされるおそれがないかについての確認も必要となります。契約書上の問題も確認が必要ですが、具体的な解約のおそれがあるかヒアリングでも確認を行います。
・賃料や賃料の改定の条件、敷金の預託額や返還条件なども対象会社の財務面に影響を与える事項ですので確認を行います。
・その他、たとえば、会社の経営者が賃貸借契約の連帯保証人となっている場合には、売主からは連帯保証人の変更を求められる一方で、買主の代表者が代わって連帯保証人となるのか、賃貸人に対して連帯保証人の廃止を求めることができるのか、という点も検討事項となります。
③ (建物も)土地も賃貸借の場合
土地建物とも第三者所有の場合や土地のみを利用している場合に当該土地が第三者所有という場合には、②と同様に土地や建物の利用権が確保されているのかという点や賃借権等に優先する抵当権などが設定されていないかが確認事項となります。
ただし、②と異なるのは②の場合第三者所有の土地上に対象会社の建物があり、土地の利用権が認められなかったり、解消された場合に、建物の処分をどのようにするのかという検討事項が生じるのに対し、すべて第三者所有の場合にはそのような問題が生じません。
一方で、利用している土地や建物が代替性がない重要なものであれば、利用権が認められない場合や解消された場合のリスクは残りますので、そのようなリスクがどの程度具体的に生じているのか、という点について調査が必要となります。
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このコラムでは、2024年2月に実施した業務種別法務セミナー建設業編でお話した内容の前半のダイジェストとして、建設業法の概要について記載いたします。
建設業法とは
建設業法は、建設工事の請負契約の適正化等を通じて、建設工事の適正な施工を確保し、注文者の保護と建設業の健全な発達を促進することを目的にした法律です。
そのため、以下のような各種の規制がなされています。
なお、建設業法と似たような法律として下請法がありますが、下請法の制定時には既に建設業法が存在したため、重複して規制する必要がないとのことで、建設業については下請法の適用外とされています。
下請法の主な規制
① 見積条件の提示
② 書面による契約締結
③ 不当に低い請負代金の禁止
④ 不当な使用資材等の購入強制の禁止
⑤ 著しく短い工期の禁止
⑥ 一括下請負の禁止
⑦ 検査・引渡し
⑧ 請負代金の支払
⑨ その他違反のおそれがある行為の禁止
⑩ 帳簿の備付け・保存及び営業に関する図書の保存
このような義務に違反した場合には、国土交通大臣や都道府県知事による監督処分がなされるおそれがあります。
監督処分について
監督処分の種類は以下のとおりです。
ⅰ 指示処分
法令違反等を是正するために監督行政庁が行う命令
ⅱ 営業停止処分
1年以内の期間から監督行政庁が決定します。
ⅲ 許可取消処分
これらの処分を行うかどうかは行政の裁量に委ねられている部分もありますが、国土交通大臣が監督処分を行う場合の統一的な基準として「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」が国交省から公表されており、不正行為等の内容・程度、社会的影響、情状等を総合的に勘案して判断するものとされています。
営業停止処分を受ける場合には弁明(書面審理)、許可取消処分を受ける場合には聴聞(口頭審理)の手続きが事前に行われ、処分がなされた際は官報や公報で公告されます。
建設業法の概要
以下、上で記載したうち、重要な①から⑥について解説いたします。
① 見積条件の提示
注文主は契約や入札の前までに工事に関する具体的な内容を提示し、見積もりのための一定期間を設けなければならないものとされています。
提示しなければならない主なものとしては、工事内容や工事着手及び完成の時期、代金の支払時期など、建設業法19条で定められた事項のうち、請負代金の額を除くすべての事項とされています。
さらに、ガイドライン上では、これらの見積依頼を書面で行うべきとされています。
適正な見積期間としては、工事1件の予定価格が
ⅰ 500万円に満たない場合 1日以上
ⅱ 500万円以上5000万円未満の場合 10日以上
ⅲ 5000万円以上の場合 15日以上
とされています。注意点としては初日不算入であるため、たとえば、4月1日に見積書を交付した場合、ⅰの場合は4月2日ではなく、4月3日が最短となる点です。
② 書面による契約締結
建設工事の請負契約の当事者は、建設業法19条1項により定められた事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければなりません。契約書面の
交付については、原則として工事の着工前に行う必要があります。
特に、「工事内容」は、請負人の責任施工範囲、施工条件等が具体的に記載されている必要があるので、「○○工事一式」といったあいまいな記載は避けるほうが良いです。
公共工事については、中央建設業審議会が作成する公共工事標準請負契約約款に沿った契約が締結されています。民間工事においても、同審議会が作成する民間工
事標準請負契約約款又はこれに沿った内容の約款、又はこれに準拠した内容の契約書による契約を締結することが望ましいです。
書面での契約締結の方法には次の事項があります。
ア 請負契約書を交わす方法
イ 基本契約書を交わし、注文書・請書を交換する方法
ウ 注文書・請書の交換のみによる方法
いずれの方法であっても、署名又は記名押印をして、相互に書面を交付するということが必要です。
FAXやメールにより注文書・請書を取り交わして契約を締結する方法や原本を1通作成して、その写しを一方当事者に交付する方法は認められていません。
工期に係る変更をする場合には、契約当事者である注文者および請負人は、原則として工期変更に係る工事の着工前にその変更の内容を書面に記載し、署名又は
記名押印をして相互に交付しなければなりません。
③ 不当に低い請負代金の禁止
「不当に低い請負代金の禁止」とは、注文者が、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を請負人と締結することを禁止するものです。
不当に低い請負代金の強制に該当するか否かは、
ア 注文者が「自己の取引上の地位を不当に利用」したか否か
イ 定められた請負代金の額がその注文した建設工事を施工するのに「通常必要と認められる原価」に満たないか否か
の2つの要件によって判断されます。
「自己の取引上の地位を不当に利用」してとは、取引上優越的な地位にある注文者が、請負人の選定権等を背景に、請負人を経済的に不当に圧迫するような取引等を強いることをいいます。
「通常必要と認められる原価」は、当該工事の施工地域において当該工事を施工するために一般的に必要と認められる価格をいい、請負人の実行予算や下請け先、資材業者等との取引状況、さらには当該施工区域における同種工事の請負代金額の実例等により判断します。
④ 不当な使用資材等の購入強制の禁止
「不当な使用資材等の購入強制」とは、請負契約の締結後に、「注文者が、自己の取引上の地位を不当に利用して、請負人に使用資材もしくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを請負人に購入させて、その利益を害すること」をいいます。
⑤ 著しく短い工期の禁止
建設業法19条の5は、「注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない」と定めています。
「発注者・受注者ガイドライン」及び「元請・下請ガイドライン」では、「通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間」とは、単に定量的に短い期間を指すのではなく、「工期基準」等に照らして不適正に短く設定された期間をいうとされています。
請負契約ごとに「工期基準」等を踏まえ、見積依頼の際に注文者が請負人に示した条件、請負人が注文者に提出した見積もり等の内容、締結された請負契約の内容、当該工期を前提として請負契約を締結した事情、請負人が「著しく短い工期」と認識する考え方、注文者の工期に関する考え方、過去の同種類似工事の実績、賃金台帳等をもとに総合的に勘案したうえで、個別に判断します。
⑥ 一括下請負の禁止
いかなる方法をもってするかを問わず、建設業者が受注した建設工事を一括して他人に請け負わせること、建設業を営む者が他の建設業者が請け負った建設工事を一括して請け負うことが禁止されています。
一括下請とは、元請負人がその下請け工事の施工に実質的に関与することなく、次のいずれかに該当する場合をいいます。
ア 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
イ 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自らは施工を行わず、一括して他の事業者に請け負わせる場合
「実質的に関与」とは、元請負人が自ら施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、技術的指導等を行うことをいい、具体的には元請負人、下請負人が次の役割をそれぞれ果たす必要があります。単に現場に技術者を置いているだけでは「実質的に関与」したとはいえません。
発注者から直接建設工事を請け負った建設業者(元請負人) は、次に掲げる事項を全て行う必要があります。
・施工計画の作成
・工程管理
・品質管理
・安全管理
・技術的指導
・その他(発注者等との協議・調整など)」
元請負人以外の者が果たすべき役割(下請負人) は、次に掲げる事項を主として行う必要があります。
・施工計画の作成
・工程管理
・品質管理
・安全管理
・技術的指導
・その他(施工確保のための下請負人調整など)
民間工事の場合、元請負人があらかじめ発注者から一括下請負に付することについて承諾を得ている場合は、一括下請負の禁止の例外とされていますが、一括下請負を行う者が、一括下請負に付する前に書面で発注者から承諾を得る必要があります。
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今回はM&Aの中でも株主や関連会社との関係について説明いたします。
株主や関連会社との関係は、M&Aの対象となる会社(対象会社)の利益を害する不当な契約がないかやこれまでグループ会社として様々な便益を図ってもらっていたが、そのようなものがなくなってしまい、事業継続に影響を与えないか、という観点での確認を行います。
不当な契約がないかの検討
関係会社等との取引を把握するために、対象会社に対して、関係会社との取引に関する契約書の提出を求めたり、ヒアリングにより確認を行うことがあります。
その際に、対象会社が関連会社に対して経営指導料を支払う契約があったり、関連会社のために保証人となっている、などといったことが発見される場合もあります。
対象会社がオーナー企業であったような場合には、オーナー兼代表取締役に対して多額の金銭消費貸借契約を締結している、というケースも見受けられますし、本社の不動産を株主が所有していて、対象会社に賃借しているというケースもあります。
このような場合には、当該契約の目的や内容などを慎重に確認し、継続の必要があるか検討を行う必要があります。
また、通常の売買取引などであっても、他の取引先と比較して関係会社を有利に扱っていることがないか、確認が必要となります。
確認した結果、合理性のないという判断がされた場合には、当該契約の解消や修正をクロージングの条件とするという対応が必要となることもあります。
いわゆるスタンドアローンイシューについて
上のような問題とは逆に、関係会社との間で対象会社の事業継続に必要な契約が締結されており、関係会社から様々な便益を受けているということもあります。
この場合、M&Aの実行により、これまで関係会社から受けていた便益を受けることができず、事業遂行に影響を及ぼすということもあります。
検討のポイントとしては、他の代替手段を導入するか、一定期間の間便益の提供をお願いするか(その取引条件をどのようにするか)、の判断を行うこととなります。
主にこのような問題が起きるのは以下の事項についてです。
- 管理部門
経理や財務、人事などを親会社が包括的に行っていた場合、対象会社の譲渡を受けても、管理部門については別途手当が必要になります。
また、買手企業の管理部門で担当するとしても、これまで対象会社のために使用していた会計システムや給与システムなどのシステム面をどのように移行させるか、といった問題が生じることもあります。
- 資産・資源の利用
関係会社から建物を無償又は有償で貸借されていた、などが典型的な場合ですが、関係会社が所有していたり、賃借していた不動産などを対象会社が利用していた場合、今後利用を継続させてもらえるのか、また、その条件はどのような内容にするのか、といった検討事項が生じます。
セキュリティ上の問題から関係会社でなくなった以上同一スペースの利用を倦厭されることもありますので、会社の移転も含めて検討しなければいけない場合もあります。
また、関係会社が有する知的財産権を利用して事業を行っていたような場合には、当該知的財産権の必要性を検討の上、関係会社からライセンスを受ける、又は当該知的財産権の譲渡を受ける、といった対応が必要となる場合もあります。
- グループ間取引
原材料の調達など、グループ間で共同して行っていた場合やグループ会社であるために関係会社との間でも有利な条件で取引を行ってもらえていたというような場合には、今後同一の条件での契約継続を望めない場合もあります。
そのような場合には代替手段を確保する必要がありますし、取引条件が従前より悪化する可能性を考えて、利益の想定などが下がることをありえます。
- 福利厚生等
年金や健康保険、各種福利厚生など、グループ会社であるために、従業員が享受していた利益については、M&Aの実行により享受できなくなることがあります。
このような場合には、従業員の士気に影響するだけでなく、法的にも労働条件の不利益変更に当たらないかという問題も生じますので、従前と同様の福利厚生の整備の必要性がないかという検討も必要となります。
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前回に引き続き、製造業で問題となる点をQ&A方式でご説明します。
3-1 下請事業者との契約
Q:下請法の適用対象について教えてください。
A:下請法が適用されるかどうかは、契約内容や資本金額によります。
Q:下請法上の義務、禁止行為は何ですか?
A:下請法上の義務として、①発注書面の交付義務、②支払期日(役務の提供から60日以内)を定める義務、③書類作成・保存義務、④遅延利息(年14.6%)の支払義務が挙げられます。
下請法上の禁止行為は、代金の減額、買いたたき(下請業者側に帰責事由がある場合を除く)、受領拒否、返本、不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(下請業者側に責任がある場合を除く)等が挙げられます。
※下請法については、過去のコラムでも取り扱っておりますので、そちらも併せてご参照ください。
3-2 金型の製造委託
Q:金型の製造委託において、どのような点に配慮すべきですか?
A:金型の設計について特許権や実用新案権、意匠権による保護を受けようとしても、複数の要件を備えることが必要となります。また、金型自体は市場に流通しないため、流通製品から金型構造を推測できても、最終的に特許権等侵害を立証することは困難です。
著作権についても、「文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1号)に相当するかはケースバイケースであるため、著作物と認められるかもケースバイケースということになりますし、金型やノウハウそのものは著作権の対象とはなりません。
したがって、知的財産権での保護はあまり現実的ではなく、不正競争防止法上の保護が受けられるように、ノウハウが含まれた金型図面等を営業秘密として管理することが考えられます。
Q:金型の製造委託について、発注企業側の留意点はありますか?
A:金型の製造を下請事業者に委託する場合には、下請法の適用があります。
金型図面などの無償提供その他図面開示の依頼をすることは、下請法に抵触するおそれがあるため、別途適切な対価を支払って買い取ったり、発注内容に金型図面などを含むことを明らかにする必要があります。
また、下請企業に対して、長期間にわたり実際にはほとんど使用しない金型を無償または相当な対価で保管させたり、当初想定していないメンテナンスなどを一方的な都合で行わせることも、下請法に抵触するおそれがあります。
中小企業庁でも、金型取引における下請法違反を問題視しているため、下請法違反には注意をしてください。
4-1 派遣労働者・偽装請負
Q:労働者派遣とは何ですか?
A:労働者派遣とは、派遣元と派遣労働者の間に雇用契約があり、派遣元と派遣先との間に締結される労働者派遣契約に基づき、派遣元が派遣先に派遣労働者を派遣し、派遣先は派遣元から委託された指揮命令の権限に基づき、派遣労働者を指揮命令するものです。
Q:派遣労働者を用いる場合の注意点はありますか?
A:派遣労働者を用いる場合には、派遣元企業が労働者派遣法上の許可を受けた事業者であることの確認をしましょう。
また、事業所単位と個人単位の派遣期間制限の管理を行うことも重要です。
事業所単位と個人単位の派遣期間制限は、いずれも3年が上限とされていますが、事業所単位は要件を満たせば更新が可能です。
Q:偽装請負とは何ですか?
A: 請負は一見すると労働者派遣と似ていますが、発注者と請負労働者の間に指揮命令関係がないという違いがあります。偽装請負は、形式的には請負契約ですが、発注者と請負労働者の間に指揮命令関係があり、実態としては、労働者派遣であるものを指します。
労働者派遣の場合には、労働者派遣法や関係法令により派遣先企業としての諸々の義務を課されることから、偽装請負を行う事業者が増えたという背景があります。
偽装請負と認められた場合じゃ、行政指導や勧告をはじめとする制裁を受けることになります。
Q:偽装請負とみなされないように注意すべきことを教えてください。
A:
①請負会社の労働者に直接業務に関する指示をしない
②業務時に着用する制服などは請負事業主に用意してもらう
③労働法令に基づく労働者に対する雇用主としての責任は請負事業主が負う
④業務遂行にあたり、発注者が所有する機械などを請負事業者に使用させる場合は、賃貸借契約を締結し、管理に関する責任分担を定めておく
といった点に注意してください。
4-2 不祥事対応
Q:会社に求められる不祥事対応を教えてください。
A:
①事実調査
証拠の確保、事実調査担当者の選定、ヒアリング、不正関与従業員に対する処分、第三者委員会の設置と公表などを行います。
②開示、公表、マスコミ対応
不祥事が発覚しても、直ちに開示・公表を行う義務は生じないのが原則です(上場会社の場合、役員・従業員による不正行為が適時開示事由に該当する場合があります。)
マスコミ対応を誤ると、不正行為の発覚以上に企業にレピュテーションリスクを増大させてしまうので、周到な準備と臨機応変な対応が求められます。
③取締当局や監督当局への対応
不祥事について自主的に当局に報告すべきか、いかなる報告内容とし、いかなる証拠を提出すべきかを検討します。ここでは、主張すべきことは主張しつつも、調査に全面的に協力し、証拠隠滅や調査妨害を疑われる行為をしないことが重要です。
④株主、監査法人などへの対応
対株主では、株主総会での質疑応答や個別問合せ、株主代表訴訟といった裁判に発展する可能性があります。
対監査法人では、不祥事の内容によっては上場廃止のリスクに直面しかねないため、有価証券報告書等の訂正等の処理が可能かどうかなどの確認をする必要があります。
Q:不祥事を予防するための取組みはありますか?
A:
①不正の芽の発見と対応
内部通報制度の仕組みを機能させる、業務改善を横展開する(同種のコンプライアンス違反が他の部署にも存在していないかのチェック)などを行います。
②コンプライアンスを重視する意識形成
経営層がコンプライアンスは重要であると口にしていても、普段からコンプライアンスを意識した行動をとっていないと、部下は経営層に忖度した態度をとり、コンプライアンスを意識しなくなるおそれがあります。
そこで、経営陣がコンプライアンスを重視した行動をとる、コンプライアンス違反事例を報告・共有するという意識を定着させるなどの取組みが必要です。
③不正の要因の解消
不正の機会、不正の動機、不正を正当化させる事情の3つが揃うと不正が起こるとされており、この3つは「不正のトライアングル」とも言われています。そこで、これらの3つの要因を解消することが重要です。
不正の機会の解消とは、不正を可能・容易にする客観的な環境をなくすことです。対策の例として、部署間の牽制や適宜の監査がなされるような体制とし、適宜の人材異動を実施するなどが挙げられます。
不正の動機の解消とは、従業員が不正行為をするしかないという考えにいたらないようにすることです。
例えば、売上目標・利益目標の達成や納期の遵守などについて従業員に過度のプレッシャーをかけないといったことです。
不正を正当化させる事情の解消とは、不正行為を正当化し、自ら納得させる事情(例:データを改ざんしても事故には直結しないから大丈夫、上司の命令だから…、長年このやり方でやってきたから…)をなくすことです。データ改ざんなどの不祥事は会社の価値を毀損し、取り返しのつかない結果を招くという認識や、上司の命令であってもコンプライアンスに反する場合は従ってはならないという認識を社内に定着させるといった取組みが効果的です。
4-3 ESG
Q:ESGって何ですか?
A: ESGとは、「Environment(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(企業統治)」の3つの頭文字をとったものです。
国際社会で極めて大きな存在を占める企業が環境問題などを意識し「持続可能な成長」を行わなければ社会全体の持続的な発展・成長はないという強い問題意識に基づくものであり、これはSDGsにも共通します。
ESGやSDGsの課題に対応できていない企業であると判断された場合は、海外の大企業から取引を制限されてしまったり、投資家からネガティブな評価を受け、株価が下落するといったリスクがあります。
メーカーにとっての個別のコンプライアンス課題としては、紛争鉱物規制、奴隷労働・人身売買などの禁止といった規制が挙げられます。
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