2025.9.10.Wed
- コンプライアンス
カスタマーハラスメント①(対応編)
今回は、カスタマーハラスメントへの対応方法について解説します。
1 カスハラとは
⑴ カスハラの定義
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略で、顧客からのクレームのうち、要求内容またはそ れを実現するための手段・態様が不相当なものを指します。クレーム・要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもので、労働者の就業環境が害されるものが、カスハラに該当します。
⑵ 正当/不当なクレームの判断基準
顧客のクレームが正当なものか、それともカスハラに該当するかは、以下の要素から判断されます。
①要求の内容
✓サービス・製品に問題があるか(要求原因があるか)
✓顧客に損害(治療費・修理費等)が発生しているか
✓サービス・製品の問題と顧客の主張する損害に因果関係があるか
✓顧客の損害と顧客の要求(社長の謝罪等)に関連性があるか
②要求の手段・態様
✓クレーマーの要求態度等に問題はないか(回数・言動を含む)
⑶ カスハラがもたらすリスク
①企業の信用低下(レピュテーションリスク)
近年はネット掲示板や評価サイト、SNSによる拡散が多くなっています。
②従業員のモチベーション低下
③カスハラ被害を受けた従業員に対する損害賠償責任
カスハラに対し適切な対策を講じていなければ、安全配慮義務違反と評価されるおそれがあり、実際に安全配慮義務違反が認定された裁判例もあります。
2 電話への対応
⑴ 電話対応時の留意点
①事実の確認 ※評価ではなく、具体的な事実を確認するようにしましょう。
②対応記録を残す
※不当クレーマーは従業員を個人攻撃するために、従業員の名前を特定しようとすることがありますが、原則として所属している課と名字を名乗れば足ります。
⑵ 相手方のクレーム内容の確認
①事実関係の確認
いつ、どこで、誰が、何を、なぜしたのか、どのようになったのか、5W1Hにより事実を確認します。
②要求内容の確認
企業側が顧客の要求に応じるべきかどうかを判断するため、要求の内容、理由を具体的に確認します。
⑶ 長時間の電話への対応方法
どれだけ対応しても解決の糸口が見えない場合、顧客との会話を中断するのも効果的です。
①最初は、誠意をもってお詫びし、事実関係を確認した上で解決策を探ります。
②ある程度の時間が経過しても顧客からの要求が止まらず、何かおかしいと感じたら、「今すぐ 結論を出せない」「社内で検討する」などと言い、いったん会話を切りましょう。かけ直されても断る姿勢を変えないことが重要です。
⑷ 脅迫的な電話への対応方法
①通話を録音することを事前に伝えます(証拠化されることを恐れ、脅迫的な言動を控える可能性があります)。
②非通知電話には拒否機能を使いましょう。
③悪質なクレーマーについては警察に被害申告をすることも考えられます。
※脅迫電話の①頻度・回数、②証拠の有無、③被害の程度などの事情を総合的に勘案し、相当悪質であると認められなければ、被害届が受理されない可能性もあります。電話内容の録音や着信の頻度が分かるもの(ex:着信日時を書き留めたメモ、電話会社から発行される通話履歴の書面)を証拠化しておきましょう。
⑸ 無言電話への対応
①無言電話の着信拒否をします。
②(非通知等からの着信で着信拒否ができない場合には)無言電話への対応をマニュアル化し、従業員に実施させることも効果的です。
ex:・従業員の応答から5秒もしくは10秒以内に発信者からの発言がない場合
「お電話が通じないようですので、切らせていただきます」等と伝えたうえで直ちに受話器を置く
・無言電話が繰り返される場合
「度重なる無言電話につきましては警察に通報させていただくこともありますのでご了承ください」などと伝えたうえで切る
⑹ クレーマーからの電話が止まらない場合
弁護士から警告文の発送を行い、それでもなお架電が続くようであれば、架電禁止の仮処分の申立てを行うことを検討します。
※電話番号しか分からず、架電相手の氏名・住所が不明な場合であっても弁護士会照会をすることで架電相手の氏名・住所が判明することもあります。
3 カスハラメールへの対応
⑴ メール対応時の留意点
クレーマーは意図的に長文、多数のメールを深夜休日問わずに送り付けてくることがあります。クレーマーに対して、企業内の個人メールアドレスを簡単に教えないことが重要です。送信するメールのCCに個人メールアドレスが含まれていないかも確認しましょう。
⑵ メールへの対応方法
メールは送信されれば物的証拠として確実に残り、万が一クレームが発展して裁判を起こされたときに、その内容によっては企業にとって不利になるケースがあるため、不当クレーマーに対してはできるだけメールによる対応を避けるべきですが、メール対応をせざるを得ない場合、文面には細心の注意を払うようにしてください。
⑶ メールの送信が止まらない場合
メール禁止の仮処分命令を裁判所から発令してもらう方法があります。金員を支払わせる間接強制を行うことも有効です。
4 窓口等での面談対応
⑴ 突然訪問があった場合の対応方法
①顧客が初めて店舗を訪問してきた場合
5W1Hを意識して、クレームに至った事実経過を聞き取る必要があります。
②2回目以降の場合
初回と同じ内容のクレームを理由としたものである場合には、企業としては、すでにクレームの事実関係を把握しているので、初回と同様の対応をする必要はありません。
初回の訪問で聞き取った事実関係に基づいた調査を行っており、当方より回答する旨を改めて明確に告げたうえで、それ以上の対応はしない、という対応を徹底すべきです。
⑵ クレーマーが怒鳴り始めた場合の対応方法
①クレーマーに対し、大声を出さないように注意をします。
・不当クレーマーは、ほかの顧客の注目を集めることで従業員を焦らせ、自己に有利に交渉を進めようとすることがあります。
・注意しても怒鳴り続ける場合には、別室に移動させましょう。
・個室で対応する場合には、密室での暴言・暴力に対抗するために録音の準備をしておくべきです。
②クレームには複数人で対応をします。
・顧客側より企業側の人数が多い場合、心理的に相手方より優位に立つことができます。
・従業員が一人で顧客対応をすると、激怒する顧客の怒りを鎮めることや対話をすることに集中する必要があり、肝心な対話内容を後になって正確に記憶・記録していないという問題が生じるおそれがありますが、二人以上で対応すれば、一人はクレーマーとの対話役、もう一人は冷静に話を聞くことができます。
⑶ クレーマーが長時間居座る場合の対応方法
企業側が時間決定に関して主導権を握りましょう。
・顧客が長時間居座ったら「社内ルールとしておひとり様との面談時間は1時間までとなっております」と明確に伝え、早急に退去してもらいましょう。
・「現時点での問題解決が困難であるため、一度お引き取りを願いたい」という意思を明確に顧客に伝え、時間の間隔をあけて再三、複数回にわたって警告する必要があります。
・繰り返し退去を求めたにもかかわらず居座る場合には、不退去罪に該当する可能性があるため、警察を呼んでも問題ありません。
5 訪問先での面談対応
⑴ 訪問先で面談対応を行うべきか
顧客の自宅等を訪問することは、数々のリスクがありますので、できるだけ訪問対応は避けるべきです。①電話で5W1Hをもとに慎重に事情を聴取した結果、② クレーム内容が正当なものであり、かつ、③顧客の態度や口調等から訪問した場合に危険が生じる恐れがないと判断された場合に初めて訪問するようにしましょう。
⑵ 訪問場所の選定
場所をどこにするかはあくまで企業が決めることであり、顧客に決定権はないため、自宅訪問を求められたとしても「場所は弊社にて検討させていただきます」ときっぱり断るべきです。できる限り、第三者のいる場所(ex:ファミレス、喫茶店、ホテルのロビー)を選択しましょう。また、複数人で訪問することも重要です。
⑶ 訪問時間の設定
顧客からのクレームが長時間に及ぶ場合に備えて、対応する時間をあらかじめ定め、相手方に伝えるということも有効な対応の一つです。次の予定があるなどとして、終了時刻を告げるようにしましょう。
⑷ 相手方支配領域に訪問した際に生じ得るリスク
①訪問先に監禁されるリスク
一般的な対応時間を超えているにもかかわらず解放してもらえない場合は、顧客を気にすることなく退席するという対応をとりましょう。訪問してから一定時間を経過するごとに、企業から訪問担当者の携帯電話へ連絡して、安全を確認し、場合によっては警察へ通報することも考えられる
②脅迫的な言動を受けるリスク
訪問先では安易に判断せず、「会社に持ち帰って、社内で検討いたします」と回答し、明言を避けましょう。
脅迫的な言動を受けないために、あらかじめ録音することを伝えるという予防策も考えられます。
③顧客の私物を壊した等と言いがかりとつけられるリスク
座布団の下に壊れたものをわざと置いて、あたかも従業員が壊したかのように仕立て上げる等、顧客から言いがかりをつけられるおそれがあります。
顧客が高齢で認知症を発症しているような場合等では、訪問してきた従業員に盗まれた、壊されたと主張されるおそれもあります。
そのようなリスクを踏まえて訪問については慎重に判断する必要があります。
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