2025.7.13.Sun
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ライセンス契約②
今回は、前回に引き続き、ライセンス契約について解説します。
条項例
①ー1知的財産権の帰属 【ライセンサー有利】
1.本キャラクターに関する著作権、商標権その他の知的財産権及び本キャラクターの二次的著作物に関する知的財産権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、甲に帰属する。
2.乙は、甲に対し、本キャラクターの二次的著作物に関する著作者人格権を行使せず、また、二次的著作物の創作に携わった自らの役職員その他の第三者をしてこれを行使させないことを確約する。
➡ ライセンス契約にかぎらず、二次的著作物に関する著作者人格権の不行使条項は抜けがちです。
💡 著作者人格権の不行使条項が定められていないと、二次的著作物を使用した際に差止請求や損害賠償請求をなされるおそれがあります。
したがって、二次的著作物の著作権についてライセンサーが自社に帰属させる場合には、二次的著作物に関するライセンシーの著作者人格権の不行使条項が定められているか確認するようにしてください。
①ー2知的財産権の帰属 【ライセンシー有利】
1.本キャラクターに関する著作権、商標権その他の知的財産権は甲に帰属する。
2.本キャラクターの二次的著作物に関する知的財産権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、乙に帰属する。
3.乙は、甲に対し、前項の二次的著作物を利用することのできる全世界的、無償、永久的、取消不能、無制約、再許諾可能な権利を許諾する。
4.乙は、甲に対し、本キャラクターの二次的著作物に関する著作者人格権を行使せず、また、二次的著作物の創作に携わった自らの役職員その他の第三者をしてこれを行使させないことを確約する。
➡ 著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に定める権利は、譲渡の目的として記載されていない場合には、譲渡した者に留保されたものと推定されます。
そのため、ライセンシーが自社に著作権を帰属させたい場合には、これらも譲渡の対象であることを契約上明記することが必要です。
②不争義務 【ライセンサー有利】
乙が、【本著作権及び本商標権】が甲に帰属することを争った場合、甲は、本契約を解除することができる。
➡ 不争義務は、独占禁止法との関係が問題となります。
💡 技術ライセンスに関して、公正取引委員会は、不争義務は原則として競争を減殺するおそれは小さいとしつつ、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして、不公正な取引方法に該当する場合もあるとしています。(「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」第4・4⑺)
③第三者による権利侵害 【ライセンサー有利】
乙は、【本著作権及び本商標権】に関して、第三者により当該権利が侵害され、又は侵害されるおそれがあることを発見した場合は、遅滞なく甲に通知し、甲と協議の上、警告等の適切な措置を講じなければならない。
④商標出願の制限 【ライセンサー有利】
乙は、いかなる国又は地域においても、本商標権に類似又は関連する商標を出願してはならない。
➡ 前提として、登録商標に類似する商標等の使用等は商標権の侵害とみなされます(商標法37条)。
➡ 上記規定は、ライセンシーによる類似商標などの出願を禁止するものです。
➡ 先に出願された他人の登録商標に類似する商標であって、指定商品・役務が同一又は類似であれば商標登録をすることができません(商標法4条1項11号)。
しかし、ライセンサーが外国において商標登録をしていない場合は、当該外国での出願は防止できないおそれがあります。そこで、このような条項を定め、ライセンシーが類似商法を出願することを禁止します。
⑤商標権の更新登録 【ライセンシー有利】
甲は、本契約の有効期間中、自らの費用と責任において、【本商標権】の存続期間を更新する手続を行わなければならない。
➡ 商標権の存続期間は、登録後10年で終了しますが(商標法19条1項)、更新登録を行うことで権利を存続させることができます(同条2項、3項)。
したがって、ライセンシーは、ライセンサーに自らの費用と責任において権利の存続に必要な手続を採ってもらう必要があります。
⑥差止請求権の放棄 【ライセンシー有利】
甲は、この契約又は法律の規定による他の救済方法を行使できる場合であっても、乙に対し、ライセンス料その他の金銭的な賠償のみを請求することができ、他の救済方法(乙に対する差止請求権の行使を含む。)を行使しないものとする。
➡ ライセンシーにとって最も避けたいことのひとつは、ライセンサーからライセンス商品の回収・破棄等の差止請求権を行使されることです。
そこで、ライセンシーは、あらかじめ、差止請求権を行使しない旨の制約をライセンサーから取得しておくことが考えられます。
しかし、ライセンサーにとっては、差止請求権は重要な防御手段のひとつですので、交渉力の強いライセンシーでない限りは、差止請求権を放棄する交渉は受け入れづらいでしょう。
⑦ー1保証 【ライセンシー有利】
1.甲は、乙に対して、甲が単独で本契約に規定される本キャラクターの使用に必要となる著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)その他の一切の権利に関して完全な権利を有しており、本契約を締結する正当な権限を有することを保証する。
また、甲は、乙に対して、本キャラクターに関する著作権その他の権利について、第三者による担保権及び利用権は設定されていないことを保証する。
2.甲は、乙に対して、本キャラクターがいかなる第三者の著作権、商標権その他一切の権利を侵害していないことを保証する。
3.本条の各規定にもかかわらず、本契約に基づく乙による本キャラクターの使用について、第三者から異議の申立て、差止請求、損害賠償請求その他の請求があった場合には、甲は自己の責任と費用負担をもって速やかにこれを解決し、乙に何ら迷惑や損害も与えない。
➡ ライセンシーとしては、ライセンス商品の著作権侵害等による第三者からの損害賠償請求権等を未然に防ぎたい、仮に損害賠償請求権等を行使されてもライセンサーに責任をとってもらいたいと考えるはずです。
そこで、このような条項を定め、ライセンサーが第三者の一切の権利を侵害していないことを保証することが考えられます。
⑦ー2保証 【ライセンサー有利】
1.省略
2.甲は、乙に対して、【自らの知る限り/自らが合理的に知り得る限り】、本キャラクターがいかなる第三者の著作権、商標権その他一切の権利をも侵害していないことを保証する。
3.本条の各規定にもかかわらず、本契約に基づく乙による本キャラクターの使用について、第三者から異議の申立て、差止請求、損害賠償請求その他の請求(以下「本請求」という。)があった場合には、乙は、直ちにその旨を甲に通知する。甲は、本請求の解決に向けた当該第三者との交渉等を行うものとし、乙はこれに協力しなければならない。
4.前項の規定が遵守されない場合、甲は、乙に対し、本請求より生じた損害等を賠償する責めを負わない。
➡ ライセンサーとしては、あらゆる第三者の権利を侵害していないかを確認するのは不可能なので、仮に保証をするとしても、「自らの知る限り(自らが認識していない権利侵害について責任を負うことを免れる)」「自らが合理的に知り得る限り(自らが認識している事実に加え、合理的に認識可能な事実を基礎として、権利侵害の事実がないことを保証する)」といった文言を追加することが考えられます。
➡ また、第三者からの異議申立てがあった場合に、ライセンシーが当該第三者の言い値で和解してしまうと、ライセンサーは高い損害金を負うおそれがあります。そこで、第三者から異議申立てがあった場合には、ライセンシーはライセンサーに通知し、ライセンサーが第三者との交渉を行うことに協力しなければ、ライセンサーはライセンサーに対して損害賠償義務を負わないと定めることが考えられます。
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