2025.1.31.Fri
債権(売上)の回収について その3
債権(売上)回収が問題となったときに、するべきことについて3回に分けて解説しいます。
今回は最後の3回目です。
⑸合意ができた場合/できなかった場合
①合意できた場合
交渉の結果、合意ができた場合に合意内容を書面化しますが、合意書面作成時の注意点があります。
㋐書面のタイトル
特定がしやすくて便利といった理由だけでなく、合意内容が不明確で解釈に争いが生じたときはタイトルが判断基準となることもあるため、合意内容に合ったタイトルをつけ他の書面と識別できるように してください。
㋑給付条項
給付条項を5W1Hを意識して記載しましょう。給付条項は訴訟や執行に際して最も重要な部分ですので計算間違いなどをしないよう慎重に対応してください。また、振込送金による支払の場合は、振込口座や手数料負担をどちらが負担するかについても定めておきましょう。
㋒期限の利益喪失条項
支払期日や分割払期日が定められている場合に、定められた期日までは支払わなくてよいという利益を期限の利益といいます。そして、分割払い中に滞納が生じたときは、債務者はその後の期限の利益を失い、残債務も即時一括で支払わなくてはならないといったような内容を定める条項を、期限の利益喪失条項といいます。
期限の利益喪失条項にも様々なバリエーションがありますので、それぞれの条項でどの時点で期限の利益喪失になるかということは、あらかじめ考えておきましょう。
㋓署名者
合意の当事者が会社である場合、代表権がない者による行為の効力を会社に帰属させることはできないため、合意書に署名・捺印する者が、会社を代表して契約を締結する権限を有している必要があります。営業部長等の契約締結権限を有している者は他にもいますが、名刺に記載されている肩書だけでは確定できませんので、契約に関する代表権や代理権を有しているかどうかということは、事前に確認するようにしてください。
㋔捺印
私的に作成する書面について捺印する印鑑の種類に制限はないので、実印以外の印鑑でも書面の有効性に問題ありません。しかし、書面の成立の申請が争われた場合では、実印と認印ではその効果に大きな違いがありますので、実印が望ましいです。
②交渉が決裂した場合
交渉決裂時には、通常は訴訟手続に進みますが、民事保全、民事調停、支払督促手続といった手続を選択することも可能です。
㋐民事調停
民事調停とは、裁判所で調停員を挟んで協議を行う手続であり、管轄は簡易裁判所です。調停員という第三者を間に入れることにより、当事者が冷静に話し合いを進めることができたり、細かい点について協議し、書面を残すことで、支払いの付随的条件や他の条件等を定めたりできるといったメリットがあります。
一方で、債権の存否自体に争いがある場合や、協議をしても相手方が応じる見込みが薄い場合には、民事調停は不適切です。
㋑支払特則手続
支払督促手続とは、債権者の書面による申立てのみで、債務者の立ち会いなしに、金銭給付の債務名義が取得できる手続です。支払特則の申立て→支払督促→仮執行宣言の申立て→仮執行宣言という段階を経て、債務名義と同一の効果が生じ、仮執行宣言付支払督促は、執行文の付与を受けずに、執行手続を行うことができます。管轄は、債務者の普通裁判籍の簡易裁判所であり、仮執行宣言の前に債務者から異議が出た場合は、支払督促は効力を失い、通常訴訟に移行します。
支払督促手続は、金銭の多価によらず、債務者の事情を聴取することなく、債務名義と同一の効果が生じるため、債権の存在に争いがなく、相手方が異議を出さないことが見込まれる場合は、簡易に債務名義を取得する方法として有用です。
一方で、債権の存否または額に争いが生じるおそれがある場合や、債務者が分割払いを求めている場合には、債務者から異議が出される可能性があります。債務者から異議が出されると、債務者である被告の住所地を管轄する裁判所が訴訟の管轄裁判所になります。一般的な裁判では、財産権上の義務履行地を管轄とすることができるため、債権者側の住所地を管轄する裁判所を管轄裁判所にすることができますが、支払督促手続の場合には、財産権上の訴えの義務履行地を管轄とすることはできません。そのため、被告の住所地の裁判所が、債権者の住所地より遠方である場合には、異議が出された場合に管轄裁判所がどこになるかを検討しておかなければならないというデメリットがあります。しかし、現在はWEB会議などを利用できるため、以前に比べるとこのデメリットは薄れてきています。
また、異議を出された場合には、通常訴訟に移行し、期日が改めて指定されるため、当初から訴えを提起した場合よりも、かえって時間がかかってしまうおそれもあります。
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