2024.9.17.Tue
- コンプライアンス
ホテル・旅館業におけるクレーマー対応(ホテル業の法務②)
今回は、前回に引き続きホテル業界の法務についてQ&A形式で解説いたします。
本コラムでは、クレーマー対応についてご説明します。
Q クレーマー対応は難しいイメージがありますが、そもそもクレーマー対応の難しさの原因はなんでしょうか?
A クレーマー対応の難しさの原因は、①顧客の主張がホテル側のミスに起因するものか、単なる言いがかりか判断が難しい場合があること②ホテル側のミスがあったとしても、どこまで責任を負って解決すべきか明らかでない場合が多いこと③顧客の主張が言いがかりであっても、顧客という相手方の立場上、顧客の主張を無視することは困難であることの3つです。
クレーマーによる法的な要求に対しては、普段から対策を講じて、適切な対処をすることが重要です。
Q クレーマー対策として意識すべき点は何でしょうか?
A 1つ目に、やりとりを記録化することが挙げられます。
防犯カメラは、クレーマーとのやり取りが発生しやすい場所に設置し、顔がしっかり映るか確認します。また、ICレコーダーによって音声を残すことも重要です。
クレームが発生したときに、とっさに録画・録音をすることは難しく、場合によってはクレーマーを刺激し得るので、普段から準備しておきましょう。
仮にクレーマーとのトラブルが裁判に発展した場合に、相手方の同意を得ずに録音したデータを裁判の証拠とできるかが問題になりますが、民事裁判においては、このような秘密録音も、一般的に証拠として使用することは可能とされています。そのため、相手方に同意を得ることなく、秘密裏にでも、音声を録音しておくことは重要です。
2つ目に、書面に残すことが挙げられます。
クレーマーとのやり取りが行われた日時、先方の要求内容や、それに対する回答内容を、その都度書面に記録しておきましょう。一定の段階で口頭でのやり取りではなく、要求事項は書面で出してもらうよう、切り替えることも重要です。
このようにすることで、仮に紛争になったときの証拠となるし、他の従業員とも顧客とのトラブルについて共有しやすくなります。
3つ目に、現場で抱えず、専門の部署に引き継ぐことが挙げられます。
現場の人員不足や不適切な対応をしてしまうリスクを避けるため、クレーマーの要求がある限度を超えた場合には、専門部署に引き継ぎましょう。クレーマーの言動が一定の犯罪行為に該当する場合には、必要に応じて警察を呼ぶ必要がある場合もあります。
クレーマーの要求がどの程度に達したら専門部署に引き継ぐかの検討や、クレーマー対応体制の整備は普段から行いましょう。
Q 悪質なクレーマーを出入り禁止にできるのは、どのような場合ですか?
A 出入り禁止については、旅館業法5条に定めがあり、ホテルが宿泊を拒否できるのは限定された場面に限られています。
(参考)旅館業法5条
営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が伝染病の疾病にかかっていると明らかに認められるとき
二 宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき
三 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき
2号には解釈の余地があるので、過去にクレーマーとして観測されたことを理由に宿泊拒否ができるかは慎重な判断を要します。3号では条例で拒否事由を定められるとされているため、各自治体の条例を確認しておきましょう。
なお、正当な理由なく宿泊を拒否すると、行政指導や罰則(50万円以下の罰金)の対象となり得ます。
Q ブラックリストの作成・運用の問題はありますか?
A 宿泊客からの個人情報は、主として宿泊サービス提供の目的で行われるため、ブラックリストの作成に使用すると、個人情報の目的外利用(個人情報保護法16条)に該当する可能性があります。
また、作成したブラックリストの情報を業界団体や他のホテルに提供することは、第三者提供(同法23条)に該当し、本人の同意なく行えません。
しかし、悪質なクレーマーについてのリストの作成及び共有は、例外的に許容される可能性があります。
目的外利用については個人情報保護法16条3項2号、第三者提供については同法23条1項2号が「人の生命・身体または財産の保護のために必要がある場合」には、同意がなくとも可能である旨定めており、「意図的に業務妨害を行う者の情報について共有する場合」がこれに含まれるとされています(個人情報保護法ガイドライン)。
ただし、どの程度悪質であれば、これらの例外に該当するかは明確でないので、ブラックリストという形で宿泊客の個人情報を第三者に提供することは、個人情報保護法に違反する可能性があるということを念頭に置くことが重要です。
本コラムでご説明した「クレーマー対策として意識すべき点」は、ホテル以外の業界でも応用できると思いますので、ぜひ本コラムの内容をご活用ください。
次回は引き続き、ホテル業界の法務(情報漏洩問題)についてご説明します。