2024.7.17.Wed
- 不動産問題
賃料増額請求の可否(不動産の法務①)
今回は2024年6月に実施した業種別法務⑥不動産のセミナーで紹介した内容をもとにコラムを書いています。
Q1 最近の物価高に対応して、ビルのテナントとして入居している顧客に対して、賃料の増額を請求することはできるのでしょうか。
A 通常は顧客との間で賃料増額について協議を行い、話し合いで解決できない場合には、調停や訴訟などの法的手続きを行い、その手続きの中で解決を図っていきます。
賃料の増減額請求の要件
賃貸借契約の賃料は当事者の合意で決まるため、契約期間中は契約書記載の賃料に拘束されるのが原則です。
ただし、賃貸借契約は継続的な契約で長期にわたることも多いため、その間の景気動向や不動産市況などの経済事情により賃料が不相当な内容となることがあります。
そのため、借地借家法により、社会経済事情の変動で賃料が不相当になった場合には賃貸借の相手方当事者に賃料の増減(増額だけでなく、減額もある)を請求できる権利が認められています。
では、どのような場合に賃料の増減請求が認められるのでしょうか。
借地借家法は以下の3つを賃料が不相当となる事由としてあげています。
- 土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
- 土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動
- 近傍同種の建物の賃料との比較
ただし、これらはあくまで例示列挙とされていて、その他の事情も合わせて賃料が不相当かどうかを総合的に判断します。
裁判例が他にあげている要素としては、
当事者が事業者か否か、その事業の規模
建物が居住用か営業用であるかなどの賃借建物の用途ないし性格
賃貸借契約締結の際における交渉の経緯並びに当事者の意思
契約締結後の状況
です。これらの要素を見ると、賃料の相当性の判断については、個別特別な事情や当事者の主観なども判断要素となっていることが分かります。
また、最後の賃料を決めたのがいつか、というのも重要な要素です。たとえば、2年前に賃料を増額・減額したというのも要素になりますし、2年前の更新の際に賃料を据え置いたということも判断要素とされます。
そのうえで相当賃料をどう定めるか、という点については、建物価格をベースに期待利回りや必要経費等を考慮して求める方式(利回り方式)や従前の賃料にその後の経済事情の変動率を乗じる方式(スライド方式)、近隣の賃貸事例と比較する方式(賃貸事例比較方式)などありますが、裁判実務ではこれらの方式を組み合わせながら総合的に判断しています。
賃料の増減額請求の手続き
では、実際に手続きが進められるとしたらどのように進むのでしょうか。
まず賃料増減請求は、最初は当事者間での協議が行われますが、任意の交渉で解決できない場合には、法的手続きをとられることがあります。
その場合には、調停前置主義といって、裁判ではなく、調停という裁判所での話し合いの手続きを経ないといけないとされています。この調停とは調停委員という2人の委員が間に入ってそれぞれの意見を聞きながら話し合いでの解決を探っていくという手続きです。
それでも解決できない場合には、訴訟提起をすることで、裁判所が相当な賃料の金額を判断することとなります。
仮に裁判になった場合、解決まで一定の時間がかかります。その間の賃料をどうするか、ですが、裁判が確定するまでは賃借人が自ら「相当と認める額」を支払えばいいとされています。
ですので、仮に賃貸人から賃料増額を請求を受けた場合であっても、賃借人は裁判で確定するまでは従前の賃料を支払えば足りますし、相手が受け取らない場合には、法務局に供託をするという対応も検討が必要となります。
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