2024.5.18.Sat
- M&A
- 不動産問題
法務DDのポイント③(不動産)
今回はM&Aの中で、不動産について説明いたします。
法務DDの中で不動産に関する調査が重要性を持つかどうかは、対象会社が所有する不動産の位置づけによって変わってきます。
単に、資産として賃貸料収入を得るために持っている不動産については、財産的な価値評価は別として(財務DDなどで行うことはあるとしても)、法務DD的には本業に与える影響は小さいと判断されることも多くあります。
一方で、オフィスや工場などに使用している不動産については、
利用形態が所有なのか賃貸借なのか、
継続的な使用が本業の継続に必要なのか、それとも代替可能(移転の負担も含めて)なものなのか、
賃貸借契約とした場合に契約の継続が可能なのか、
賃貸借契約は不公平なものではないか(たとえば、創業者個人が所有する土地を高額で賃借していないか)
などという点が問題になってきます。
他方、土地については、土壌汚染などの環境に与える影響なども問題となりえますが、法務DDの検討範囲を超えるものでもありますので、実務的にはヒアリングでの確認や現地の外観を確認したり、という程度の対応が多く、より詳細な調査は専門業者に委ねるべきです。不動産の所在地や重要性によっては現地を見に行かないこともありますが、見に行ったところ、契約関係が不明な第三者の看板が土地上に設置してあったこともあり、現地確認が有効な場合もあります。
不動産の使用権原による検討事項
① (建物も)土地も所有の場合
建物も土地も対象会社が所有している場合や、土地を利用していて土地を所有している場合には、調査はそれほど複雑ではありません。
対象会社が所有していることを不動産登記で確認をするとともに、抵当権などが付されていないか謄本やヒアリングで確認を行います。
② 建物所有、土地賃貸借の場合
第三者の土地上に対象会社所有の建物が存在する場合には、土地利用の権利が確保されているのかについて確認が必要となります。
確認する事項としては
ⅰ土地の地上権ないし賃借権が確保されているか、
ⅱ土地の利用権に優先する抵当権などが設定されていないか、です。
ⅰの土地の利用権については、地上権よりも賃借権が設定されることが多く見られるため、賃借権の場合の注意点について説明します。
まず、土地の賃貸借契約が建物の所有目的である場合には、借地借家法が適用され、賃借人の権利が厚く保護されるため、借地借家法の適用がされる賃貸借契約かどうかという点は重要な検討項目です。一時使用目的や定期借地等に当たる場合には、借地借家法の一部が適用されないため、これらの事項に当たらないかについても検討が必要です。
賃貸借契約一般については、
・賃貸人が土地を賃貸借する権限を有しているのかという点の確認が必要です。一般的には土地の所有者に該当するか、不動産登記を確認することが多いですが、転貸借であるような場合には、不動産登記を確認しても転貸人が所有者でなく、賃貸借を行う権限が確認できないため、原賃貸借契約の締結についても確認となるほか、原賃貸借契約が解除されると転借人も退去しなければならないこととなるため、転貸借に伴う対象会社のリスクを適切に評価する必要があります。
・賃貸借期間や更新条項の有無、中途解約条項の内容なども確認を行い、事業の遂行途中に予期せぬ解約がなされるおそれがないかについての確認も必要となります。契約書上の問題も確認が必要ですが、具体的な解約のおそれがあるかヒアリングでも確認を行います。
・賃料や賃料の改定の条件、敷金の預託額や返還条件なども対象会社の財務面に影響を与える事項ですので確認を行います。
・その他、たとえば、会社の経営者が賃貸借契約の連帯保証人となっている場合には、売主からは連帯保証人の変更を求められる一方で、買主の代表者が代わって連帯保証人となるのか、賃貸人に対して連帯保証人の廃止を求めることができるのか、という点も検討事項となります。
③ (建物も)土地も賃貸借の場合
土地建物とも第三者所有の場合や土地のみを利用している場合に当該土地が第三者所有という場合には、②と同様に土地や建物の利用権が確保されているのかという点や賃借権等に優先する抵当権などが設定されていないかが確認事項となります。
ただし、②と異なるのは②の場合第三者所有の土地上に対象会社の建物があり、土地の利用権が認められなかったり、解消された場合に、建物の処分をどのようにするのかという検討事項が生じるのに対し、すべて第三者所有の場合にはそのような問題が生じません。
一方で、利用している土地や建物が代替性がない重要なものであれば、利用権が認められない場合や解消された場合のリスクは残りますので、そのようなリスクがどの程度具体的に生じているのか、という点について調査が必要となります。
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