2024.1.9.Tue
スポーツ業界の法務
スポンサー契約
スポーツチームとのスポンサー契約とは、
「企業などがスポーツチームにスポンサー料として一定の金銭その他の経済的・物的支援を行う契約」です。
ポイントとしては、「経済的」だけでなく「物的」という言葉も含み、金銭だけでなく物を提供する場合もスポンサー契約に含まれており、スポーツチームはこうした金銭や物の提供を受けることができます。
一方、スポンサーとなった企業は、スポンサー契約の内容に応じてスポーツチームのスポンサーであることを公表したり、自社の商品にスポーツチームのロゴを掲載したりなどすることで自社のイメージ向上を図ります。
では、具体的にスポンサー契約にはどのようなことを定めればよいでしょうか。
まず、
①スポンサー料がいくらか(物品などの提供であれば、何を提供するのか両者の間で齟齬が生じないように特定しておく必要があります。)、
②スポンサー料の引き換えとしてスポンサー企業が得られる権利が何か
を定める必要があります。
たとえば、チームの名称やロゴ、キャラクターをスポンサー企業の販売促進活動に利用できることなどについて定めたりしますし、チームに所属する選手の名前や写真などが利用できる場合もあります。
ただし、選手の写真などを使う場合は写真の著作権や選手の肖像権などの問題も別途生じますので、スポーツチームとの間で確認を行う必要があります。スポーツリーグによっては、リーグが選手の肖像権などについて一定の権限を有する場合もありますので、リーグの規約などについて確認する必要もあります。
また、チームの名称やロゴなどの利用をスポンサーに認める場合には、スポンサーでない者が利用することがないように商標権の取得などについても対応を検討する必要があります。
③契約期間
については、通常はリーグの期間と一致することが多いかと思います。
一方で、スポーツイベントなど単発のものであれば、そのイベントの期間に合わせて契約期間を設定することとなると思いますが、イベントが延期となった場合に、契約期間も延長することや中止になった場合に、契約をどうするのか(スポンサー料を返還するのか、返還の割合をどうするのかなど)についても定めておく必要があります。
また、スポンサー企業からすると、
④同一業種について一企業のみがスポンサーとなれるのか(独占的スポンサーと呼ぶ場合もあります。)
どうかも興味の対象となることがあります。
多くの企業にスポンサーになってもらうためには、同一業種のスポンサーを限定しない方がスポーツチームにとっては良いですが、スポンサー企業との長期的な信頼関係を維持するために、独占的スポンサーの是非についても検討しておくとよいでしょう。
選手の肖像権・パブリシティ権
肖像権とは、法律の明文の規定はないものの
「みだりに自己の容貌等を撮影されないこと、また、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されないことについて、法律上保護されるべき人格的利益」
として解釈上認められているものです。
この肖像権に似た概念で、パブリシティ権というものもあり、
これは、個人の氏名や肖像等が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利を指します。
スポーツ選手の肖像利用にあたっては、肖像権及びパブリシティ権について配慮を行う必要がありますが、商業的な利用においては、特にパブリシティ権を意識する必要があります。
パブリシティ権が問題となる類型としては、
① 写真集やプロマイドなど肖像を鑑賞の対象となる商品に使用した場合
② グッズなど商品の差別化のために肖像を使用した場合
③ CMなど商品の広告として肖像を使用した場合
が挙げられており、
「専ら」肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるかどうか、
が判断基準とされています。
スポーツビジネスとの関係では、グッズに選手の肖像をプリントしたり、選手が広告に出たり、ということが従前からパブリシティ権の問題としてとらえられてきましたが、技術の進展に伴い、NFTとして発行されるデジタルトレーディングカードなどもパブリシティ権侵害の問題が発生すると考えられています。
これまで日本国内でもスポーツ選手のパブリシティ権が問題となった裁判例もあり、有名なものとしては、「一本足打法」を思わせる片足を上げた野球選手と「王貞治」「800号記念」などの文字を表示したメダルの製造・販売を禁止した王貞治記念メダル事件などがあります。
選手のパブリシティ権や肖像権は、本来的には選手自身に帰属するものですが、プロスポーツでは、選手が所属する球団や競技団体と契約を結ぶ際に、その一部または全部を譲渡または許諾することが多くあります。これは、球団や競技団体が選手の肖像権を利用して宣伝や販売促進を行うことで、スポーツの普及やファンの獲得に貢献するという考え方に基づいています。
例えば、プロ野球では、選手が所属球団と締結する統一契約書によって、球団が指示する場合には、選手の肖像利用に関する権利がすべて球団に帰属することなどが定められています。
同様に、Jリーグでは日本サッカー協会選手契約書で、バスケットボールのBリーグでは、選手統一契約書で、選手の肖像等に関する権利をクラブや協会、リーグが利用できるような定めが設けられています。
選手活動外のもの、たとえば、スポンサー企業の広告やCMなどに出演する場合であっても、契約書上選手が所属するチームが協会等の承諾が必要となることが一般的になっているため、注意が必要です。
スポーツの放映権
スポーツの放映権という用語を耳にすることがありますが、厳密には「放映権」について定義した法律はありません。一般的には、スポーツの試合やイベントをテレビやインターネットなどで放送する権利のことを指します。
では、放映権の根拠は一体どこにあるのでしょうか。
著作権が真っ先に思い浮かびそうですが・・・
著作権法では、法律上保護される著作物について「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義していますが、スポーツは身体活動であって、思想や感情を創作的に表現するものではありませんし、スポーツ選手も実演家としての著作隣接権を有するとはいえないため、スポーツやスポーツ選手が純粋にスポーツを行う場面では、著作権法の保護が及ばないことになります。
そのため、法律上の根拠については、いくつかの見解がありますが、試合会場の管理権を有する者から機材を持ち込むことについて許諾を得る必要があるという考えから、施設管理権を根拠とする見解が支配的です。
ただし、実際上は、放映権が問題となるような大会においては、選手やチーム、リーグ間での契約等によって、放映権の許諾について明確に規定がされているため、その規定に基づいて放映権が許諾されることとなっています。
例えば、日本プロ野球では野球協約で各球団がホームゲームの放送権を有することが規定されています。また、パ・リーグではインターネット放送に限って6球団が共同して設立した会社に放映権を一括管理させて、「パ・リーグTV」の放送を行っています。一方、JリーグやBリーグでは、各チームではなく、リーグがすべての公式戦に関する放映権を保有するものとされており、スポーツによって放映権の管理方法が異なっています。
上述のようにスポーツそれ自体が著作物等に当たらないとしても、スポーツの試合を撮影した映像は、カメラアングルやカメラワーク等に創作性が認められるため、著作物として保護されることが通常です。
そして、通常は、映像の制作について全体的に統括した者が著作者として、著作権を取得することとなりますが、契約によって著作権が譲渡されていることもあるため、映像の利用を検討している場合には、著作権者が誰であるかについては十分注意する必要があります。
なお、
① 営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けず、
② 通常の家庭用受信装置を用いている場合
については、著作権者の許諾なくして、受信装置を用いて著作物を公に伝達することができる(著作権法38条3項)ものとされており、同規定に基づいて、
スポーツバーに家庭用のテレビを設置して、来店者に放送中のスポーツ映像を見せる
ということも行われています。
ただし、どこまでが「通常の家庭用受信装置」なのかという判断は難しいため、悩まれたら専門家にご相談されてください。
チケット不正転売禁止法
人気のコンサートやスポーツイベントなどのチケットについて、業者や個人が買い占めて、オークションやチケット転売サイトなどで高額で転売するということが社会問題化しています。
2023年8月には、歌手で俳優の福山雅治さんのコンサートで、転売で取得したチケットによる入場は認めないとともに、チケットを転売した人及び転売されたチケットを取得した人の双方をファンクラブから永久退会させるということがニュースになっていました。
このようにチケットの転売について厳しい姿勢をとる背景には、転売を行う人が存在することによって、本当にチケットを取得してイベントに参加したい人が定価を超えた高額な代金を支払わなくてはならなくなることが挙げられます。
このような社会情勢から、チケットの転売に対処するために、2019年6月に「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(略称:チケット不正転売禁止法)が施行されました 。
これはどのような法律かというと、「特定興行入場券」についての不正転売(高額で転売することや偽造・変造すること)を禁止し、違反者には罰則を科すというものです。これに違反した場合、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方が科されることがあります。
そして、どのようなチケットであれば、「特定興行入場券」に当たるかというと、不特定または多数の者に販売され、かつ、次の①から③のいずれにも該当する芸術・芸能・スポーツイベントなどのチケットを指すとされています。
① 販売に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明記し、その旨が券面に記載されていること
② 興行の日時・場所・座席(または入場資格者)が指定されたものであること
③ 座席が指定されている場合、購入者の氏名と連絡先(電話番号やメールアドレスなど)を確認する措置が講じられており、その旨が券面に記載されていること
①の記載例としては、「主催者の同意なく、有償で譲渡することは禁止します。」といった記載が挙げられます。
③の記載例としては、「この入場券は、購入者の氏名及び連絡先を確認した上で販売されたものです。」といった記載が挙げられます。
チケットを扱う興行主の立場からすると、不正転売禁止法の適用対象とするためには、上の①から③の要件を満たすように、チケットの記載内容に注意をする必要がありますし、急用や急病で行けなくなった人のためにリセールサイトの準備などについても配慮する必要があります。
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