2023.11.29.Wed
- M&A
法務DDのタイミングと必要性
法務DDを行うタイミング
法務DDを含めDD(デューデリジェンス)を行う際には対象会社から大量の情報が公開されます。その中には、会社の機微情報が含まれていることが多いため、その情報の管理の観点から、M&Aを検討することを前提とした秘密保持契約や秘密保持条項を含めた基本合意書を締結し、その後に、法務DDを実施するのが一般的です。
場合によっては、基本合意書の中に独占的交渉期間が定められていることがあるため、その期間内に、M&Aを実行できるスケジュール立てをした上で法務DDを進めていくこともあります。
基本合意書については、MOU(Memorandum of Undestanndings)やLOI(Letter of Intent)と略されることもありますが、どれもM&Aの実行ないし検討に向けた準備に関する合意を確認する文書で、秘密保持条項や独占交渉条項などを除いて、法的拘束力を持たない(M&Aの実行を強制されない)ことが一般的です。
法務DDの必要性
M&Aを実行しようとする会社と話をしていて、「今回は予算が限定されているので、法務についてはDDを行わず、表明保証で対応しようと思います。」と言われる方とお会いすることがあります。
表明保証とは、最終の契約書(株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など)において、売主が対象会社についてさまざまな事実(たとえば、決算処理が適切になされていることや未払いの労働債権が存在しないことなど)について表明して保証を行い, この表明保証に反する事象が発覚したり、生じた場合には、それにより買主に生じた損害を補償する条項をさします。
上述の発言は、厳しい条件で表明保証を課すことで違反があった場合には損害賠償請求することができるため法務DDを省略するという趣旨でなされたものですが、表明保証によっても法務DDを省略してよいとは言えません。この点については従来から,
- 事後的な救済である補償・損害賠償では解決に時間がかかること
- 損害の立証が困難であること
- 請求時には売主が無資力となっている可能性があること
- そもそも事後的な金銭賠償では償えないような大きな損害を受ける可能性があること
などが理由として挙げられています。
また、最近では、表明保証違反に基づく売主の補償義務について、金額の上限や請求可能期間の制限を設けることも多いため、このかかる観点からも表明保証でカバーできる範囲がますます狭くなっているということがいえます。
取締役の善管注意義務と法務DDの関係
取締役には、経営に関する善管注意義務が課せられています。これは、M&A取引を実行する場合にも当然適用されるものであり、法務DDを行えば認識できたであろう問題点があったにもかかわらず、法務DDを行わなかったために、それを見落としたままM&Aを実行したというような場合には、この善管注意義務に違反しないかという点が問題となります。
この点に関連して、法務DDの実施と取締役の善管注意義務の問題について,正面から議論された裁判例は今のところ見当たりません。
しかし, M&Aの実行に先立って、DDを実施することが一般化したといえる現在においては、通常行われるべきDDを実施せずにM&Aを実行し, その結果会社に損害が生じた場合には、取締役の善管注意義務違反の問題は避けて通れないと思われます。
いわゆる経営判断の原則においても
- 当該判断の当時の状況に照らし、
- 当該会社の属する業界における通常の経営者を基準として
- 当該判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなかったか、その事実に基づく判断が著しく不合理でなかったか
という観点から判断を行うこととされており、DDの実施は③の「判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなかったか」を判断する材料の1つといえます。
株式取得に関する裁判例で、株式を取得して半年足らずの間に対象会社が不渡りを起こしてしまい,銀行取引について停止処分を受けたという事案で、買収会社の取締役の善管注意義務違反が問題となった事案で、経営判断の原則の適用の事情の一つとして, 買収会社が対象会社の計算書類と経営上の重要事項について適切に質問しており,これに対する対象会社の回答内容に真偽を疑うべき事情がなかったことが挙げられており(東京地判平27.10.8 資料版商事法務381-133)、この裁判例から考えても法務DDの実施が、取締役の善管注意義務違反について影響を与えるものであるということがいえると思います。
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