2023.11.21.Tue
- SNS
- コンプライアンス
SNSを巡るコンプライアンス(従業員編)
※本コラムは2023年10月実施の法律事務所の顧問先企業向け動画配信の内容をもとに作成しております。上記動画は、顧問先企業の従業員向け研修を意識して作成しておりますので、従業員向け研修をお考えの方にもご参考になれば幸いです。
1 炎上投稿の共通項
SNSが発達した今日、世界中の人が私たちの投稿を閲覧することができます。SNSに不適切な投稿をすると、それは瞬く間に拡散され、度々炎上に繋がります。
では、どのような投稿が不適切として炎上に繋がるでしょうか。炎上する投稿を見ていくとそこには共通項が見えてきます。炎上の共通項を知ることは、予期しない炎上を防ぐうえで役立ちます。
以下では具体例を挙げながら、炎上の共通項について確認していきます。
⑴ 不適切な投稿タイミング
①TSUTAYAの店長が東日本大震災の最中、TSUTAYA公式ツイッターアカウントに
「テレビは地震ばかりでつまらない、そんなあなた、ご来店お待ちしています」
と投稿し、炎上。店長は実名を明らかにしたうえで謝罪。
②ディズニー公式ツイッターアカウントが、長崎への原爆投下から70年の8月9日に「なんでもない日おめでとう」
と投稿し、炎上。担当者は謝罪し、問題となった投稿は削除。
これらの事例のように投稿タイミングを誤ることは、炎上に繋がる可能性があります。
大災害、大事件や戦争に関する日などの投稿は、内容次第では不適切、不謹慎な投稿と受け止められます。このような日は、それぞれの人が様々な記憶や想いを抱いていることに配慮し、いつも以上に節度をもった投稿を行いましょう。
⑵ 価値観の多様性への配慮の欠如
①新潟日報社の報道部長が個人のツイッターアカウント上で、長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返していたところ、これらは報道部長の投稿であるということが判明。報道部長は謝罪をし、ツイッター上にも謝罪文を掲載。
②四国放送株式会社の社員が個人のツイッターアカウントと間違って、同社の公式ツイッターアカウントにて公明党や代表議員を批判する内容の投稿をし、炎上。四国放送株式会社は、個人の携帯電話から公式ツイッターに書き込みができていたことや、管理体制が杜撰であったとして謝罪。
個人の内心でどの思想や政党を支持し、あるいは支持しないかは自由です。しかし、これらの事例のように、自身の思想を外部に発信する場合には、自身と異なる思想を持った者を攻撃する内容になっていないかといった配慮が必要です。もし、このような配慮に欠けた投稿をすれば、炎上することは必須です。また、投稿時には、不適切な表現を使っていないかについても注意しましょう。
⑶ 「中の人」と世間の感覚のズレ
タカラトミーの公式ツイッターアカウントが
「#個人情報を勝手に暴露します」「(とある筋から入手した、某小学5年生の女の子の個人情報を暴露しちゃいますね)」
などと投稿したところ、性犯罪を想起させるとして炎上。タカラトミーは謝罪し、問題となった投稿を削除。また、公式ツイッターアカウントの投稿を当面の間停止すると発表。
この事例が炎上した原因は、いわゆるツイッターアカウントの「中の人」と世間の感覚にズレがあったためです。タカラトミーのような子供向け玩具を販売する会社が子供の性犯罪を連想させる投稿を行ったことに、情報の受け手は強い拒否感を示すのは当然です。
企業としては、多くの人に投稿を見てもらうために、ユーモアのある投稿をすることも重要ですが、その投稿が好意的に受け取られる内容のものであるかを、よく吟味してから投稿しましょう。このとき、会社の販売商品、ターゲット層、世間の状況について複数の社員が広い視点をもって考えることも重要です。
⑷ 他者のプライバシーの侵害
不動産仲介業者の従業員が芸能人夫婦を接客し、35万円の賃貸物件を紹介した旨を個人のツイッターアカウントに投稿し炎上。当該従業員のツイッターアカウントはすぐに削除されたものの、従業員はプライベートな内容の投稿もしていたため、問題となった投稿をした従業員はすぐに特定された。
芸能人を接客したなど珍しい経験をしたときに、誰かに話したくなる気持ちは分かりますが、顧客の個人情報やプライバシーに関する事項を投稿することはもちろん許されません。「個人アカウントだから閲覧している人は少ないだろう」と思うかもしれませんが、炎上するような内容の投稿はすぐに拡散され、多くの人の目に触れることになります。
また、投稿者が誰であるかということや投稿者がどこに勤務しているかなども容易に特定され得ますし、特定された場合は、そのアカウントが従業員個人のものであっても、会社のイメージや信用が失墜するおそれがあります。そのため、他者の個人情報やプライバシーに関する情報が投稿内容に含まれていないか確認しましょう。
⑸ 投稿への興味・関心を集める方法の誤り
KIRINが午後の紅茶のPRのために「#〇〇女子」「#いると思ったらリツイート」などのタグをつけ、4種の女性像のイラストを投稿。その女性たちの特徴を説明するイラストやコメントが午後の紅茶を買っている女性を馬鹿にしているようにしかみえないといった批判が相次ぎ炎上。KIRINは謝罪し、問題となった投稿を削除。
この事例が炎上した原因は、投稿への興味・関心を集める方法を間違ったことにあります。商品のPR投稿の内容が不適切なものであれば、消費者から広報の考え方が甘い企業であると認識されるおそれがあります。
また、投稿の趣旨が伝わりづらいと、色々な解釈を生み、批判的な意見を招くおそれもあります。そのため、発信の趣旨が伝わりやすく、色々な解釈を生まない内容であるかを検討してから投稿しましょう。
2 炎上した場合の処分
では、投稿が炎上した場合、投稿をした従業員にはどのような処分が下されるのでしょうか。
⑴ 懲戒処分の内容
炎上した場合、問題となる投稿をした従業員は、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。懲戒処分の内容としては、従業員を文書で指導する戒告・譴責・訓告、従業員の給与を減額する減給、従業員に一定期間出勤を禁じ、その期間の給与を無給とする出勤停止、従業員の役職や資格を引き下げる降格、従業員に退職届の提出を勧告し、提出しない場合には懲戒解雇をする諭旨解雇、諭旨退職、制裁として従業員を解雇する懲戒解雇があります。
⑵ 具体的な事例における従業員の処分
上記1⑵でご説明した新潟日報社の報道部長が、個人のツイッターアカウントで長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返してきたという事例では、報道部長は報道部長の職を解かれ、無期限懲戒休職処分となりました。
また、公明党を批判する投稿をした四国放送の従業員は、懲戒解雇となりました。また、社長や当該従業員が所属していたラジオ局担当役員は減俸処分、上司2人は減給処分となりました。
このように、炎上を引き起こすと、自身に休職処分や懲戒解雇などの思い処分が下されるおそれがあるだけでなく、周囲の人にも責任が波及するおそれがあります。
3 投稿時に気を付けるポイント
⑴ 「炎上さしすせそ」について
そもそも、炎上しやすいトピックは何でしょうか?炎上しやすいトピックをまとめて、「炎上さしすせそ」と呼ぶことがあります。「さ」は災害・差別、「し」は思想・宗教、「す」はスパム・スポーツ・スキャンダル、「せ」は政治・セクシャル、「そ」は操作ミス(誤投稿)を指します。これらのトピックにあたる投稿をする場合は、いつも以上に投稿内容に注意しましょう。
⑵ 炎上しないためのチェックリスト
では、炎上しないためのチェックリストを確認しましょう。
①アカウントを間違っていないか
個人アカウントと会社の公式アカウントを間違っていないか、投稿前に確認しましょう。
②誤字脱字の有無、他の情報との整合性、内容の正確性
重要な情報に誤りがあれば、情報の受け手が混乱したり、不正確な情報を発信する企業だとみなされたりするおそれがあります。投稿前に投稿内容を読み返したり、情報が最新のものであるか、信頼できるものであるかを確認したりすることが重要です。
③画像、動画、リンクミスはないか
②と同様、情報の受け手が混乱しないために、投稿前に確認することが重要です。
④投稿タイミングが不適切でないか
上記1⑴のTSUTAYAやディズニーの事例のとおり、投稿タイミングやその内容によっては、不謹慎であるとして炎上を引き起こすおそれがあります。投稿する日が大災害、大事件や戦争に関する日ではないか、仮にそのような日であったとしても、投稿内容が不謹慎なものでないかといった配慮が求められます。
⑤他者の個人情報やプライバシーを漏洩していないか
上記1⑷の不動産仲介業者の事例のように、他者の個人情報やプライバシーに関する情報を漏洩すると、たとえ個人アカウントであったとしても、会社が特定されるおそれがあります。消費者は、顧客の個人情報を漏洩するような会社の利用は避けるため、結果として会社に損害が生じます。
⑥差別的、侮辱的な発言をしていないか
個人アカウントにおいて過激な内容の投稿で炎上すると、場合によっては投稿者が勤務している会社が特定され、炎上が拡大するおそれがあります。そのため、会社の公式アカウントにおける投稿だけでなく、自身の個人アカウントにおける投稿でも、差別的、侮辱的な発言をしないようにしましょう。
⑦スポンサーシップ契約締結を締結しているか
スポンサーシップ契約を締結していない場合は、オリンピックやワールドカップなどの名称を商業利用してはいけません。一般的な名詞と思っているものでも商標登録されているものがあるので、不用意に利用できないものがあることに注意しましょう。
⑧法令に適合しているか
投稿内容が景品表示法や薬機法などの法律に違反している場合は、炎上に繋がるだけでなく、行政庁から処分を下されるおそれがあります。法律に違反していないかを判断することは難しいので、問題となりうる場合には、まずは弁護士に相談したうえで、問題ないことを確認してから投稿しましょう。
⑨会社のSNS運用ルールを遵守しているか
会社のSNS運用ルールに従って投稿することで、炎上する可能性を相当程度低減させることができます。会社にSNS運用ルールがあるかを確認し、それがある場合には、そのルールに従った投稿をしましょう。
⑩投稿内容が伝わりやすいか
投稿内容の趣旨が伝わりにくく、色々な解釈を生む内容であれば、批判的な意見を招きかねません。投稿内容が多くの人にとって容易に理解できるものであることが求められます。SNSに投稿する前に会社内部で投稿内容から受ける印象について検討し、誤解を生じさせるような内容でないかを確認しましょう。
⑪他者の思想、価値観への配慮をしているか
情報の受け手は様々な価値観を持っています。他者の思想・価値観を排除し、自身の思想・価値観を押し付けると、容易に炎上に繋がります。他者の思想・価値観に寛容な姿勢を持ち、自身とは異なる価値観を持つ人に配慮した投稿をしましょう。
⑫他人の著作権を侵害していないか
自身の投稿に他者のイラストや文章などを無断で掲載すると、著作権の侵害となります。著作権侵害行為に該当すれば、損害賠償請求などをされるおそれがあるので、他人の著作物を無断で使用していないか確認しましょう。
⑶ 炎上防止対策
ここまで、投稿時に確認すべき点についてご説明してきましたが、炎上を防止するための容易かつ実効的な対策は、従業員相互でチェックをしあうことです。
主なチェック内容としては、
①会社の公式SNSに投稿する場合は、都度ログイン/ログアウトする
②個人用携帯電話で公式SNSに投稿できない設定にする
③担当者一人でSNSへ投稿をせず、投稿前に複数人で内容を確認する
④ログイン中のアカウントを確認してから投稿する というものです。
③については、年代、性別、役職などが異なる従業員が投稿内容を確認することで、広い視野をもって確認することができ、より実効的な対策となります。
⑷ それでも炎上した場合には
人の価値観は時代によって変化していくため、炎上する投稿内容も変わっていきます。過去に炎上しなかった投稿であっても、今日では炎上する可能性があります。そのため、価値観を日々アップデートしていくことが求められますが、投稿内容に注意をしていたとしても、思いがけず炎上が発生してしまうこともあるでしょう。
では、炎上した場合はどのように対処したらよいでしょうか。
炎上してしまった場合は、投稿者個人で対応せず、上司と対応を相談しましょう。急いで投稿を削除したとしても、スクリーンショットなどによって拡散されているおそれがあり、投稿の削除をもって事態を鎮めることはできません。また、謝罪をしたとしても、謝罪の内容が適切でなければ、さらなる炎上を生む可能性があります。
そのため、炎上してしまったとしても、周囲の者と炎上が発生した経緯について共有したうえで会社の判断を仰ぎ、冷静に対応するようにしましょう。
4 おわりに
炎上する投稿は時代によって変化していくとご説明しましたが、どの時代においても炎上を避けるために重要なことがあります。それは、第三者がその投稿からどのような印象を抱くかを想像することです。自身で客観的な判断をすることが難しい場合には、他の従業員に投稿から受ける印象を聞いてみるとよいでしょう。
様々な炎上事例を見てSNSに投稿するのが怖いと感じている方もいるかもしれません。しかし、SNSは情報を発信するためにツールです。炎上を恐れるあまり、情報を発信することに消極的になってしまうのは本末転倒です。SNS上の投稿は多くの人の目に触れるため、適切に利用すれば、自社や自社商品をPRする上でとても有効です。
従業員の皆様におかれましては、自社のPRのために、炎上するポイントに留意したうえで、SNSをうまく活用していただけたらと思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。