2023.11.14.Tue
- SNS
- コンプライアンス
SNSをめぐるコンプライアンス(管理者編)
※本コラムは2023年10月実施の法律事務所のミニセミナーの内容をもとに作成しております。
それではSNSの管理に関するコンプライアンス(SNSの管理)について書かせていただきます。
このコラムは大きく4つの内容から構成されています。
1つ目がSNSを利用したことによる炎上事例
2つ目がこのような炎上事例を防ぐために行うべきルールの決め方
3つ目が作ったルールの管理方法
4つ目が不幸にして炎上してしまった場合の対応方法
です。
まず、その前にこのコラムの前提ですが、このコラム自体は主には管理する立場の人向けに従業員のSNSの利用をどのように管理していくのかという視点をもとに作成しています。
従業員向けに具体的に聞いてもらいたい内容の具体例については、別のコラムで書かせていただく予定ですのでそちらもぜひご活用ください。
炎上事例の例
まず最初に炎上事例について書いていきます。
ネット社会が進展して、会社も個人も気軽に投稿できるようになって、ネットニュースもどんどん配信されるようになったという時代背景もあって、SNSの炎上に関するニュースもよく目にするようになりました。
炎上事例については時代によって傾向がありますが、最近よく炎上しているものとして挙げられるのがジェンダーに関わることです。
例えば、性的な描写を連想させるということで、炎上したり、女性蔑視ということで炎上するという事例が多く見られます。
東京都が「東京女子けんこう部」というコンテンツを紹介したことについて「けんこう」をあえてひらがなで表記しているのは、女性が男性よりも、知的に劣るという偏見を助長するものだという批判がなされたこともあります。
こちらは極端な批判ということで、大きく炎上することはありませんでしたが、こういったことでも問題になりうるという一例といえます。
次に、タイツメーカーが自社のPRのために、タイツを履いた女性のイラストを掲載したことで、性的な描写を連想させるということで炎上したということもあります。
イラストがスカートを持ち上げたりスカートが短かったり、ということで、下着が見えそうになっていたということから批判が拡大したようです。
このように製作者の意図と反する内容により炎上するという危険は、身近に潜んでおりこれを全て除去するというのはほんとに難しいことですが、会社としては例えば女性も含めたメンバーで問題がないかという確認をするなど、もしくは年齢の異なるメンバーで意見交換をし、年代によるギャップがないかなども確認するということが求められるのではないかと思います。
タクシー会社の公式アカウントが、「今うちには3名の女性ドライバーが居るが、全員20代である。ちなみに、全員めちゃくちゃかわいい。」と記載して、「女性差別」「ルッキズム(外見至上主義)」との非難を受けたものがあります。
これなどは典型的なおじさんの発想によるものでダイバーシティの必要性を強く感じさせるものです。
と思っていましたら、実はその後の報道でこのタクシー会社のSNSは、女性のドライバーが投稿していた、という記事が出てきまして、その記事が正しければおじさんではなく、女性が投稿したとしても危険性があるということがいえます。
記事によると、コロナ禍で売り上げが8割ほどダウンしたため、売上げアップのために新人女性ドライバーを使ったSNS戦略を行って、会社の紹介だけでなく、地元のグルメを紹介したりして、フォロワーが10万人を超えていたそうです。今回の投稿以外にも性的な投稿をしたりして、「会社が女性にやらせている」などという批判も来たそうです。
会社の不注意というものですが、フリー素材として載せられていたものが実は作者に無断で勝手に掲載されていて、それを知らずに会社が広告にイラストを無断で使用してしまったというもので炎上した事例もあります。
フリー素材と書いてあるのにフリーではなかったということはよくある問題で本当に気を付けないといけない問題だと思います。
次に会社の公式アカウントではなく、従業員の個人投稿であったにもかかわらず、会社が謝罪をすることになるというケースもあります。
例えば自動車販売会社の社員が店内で電動椅子に乗ってふざけている動画がSNSに投稿されて障害者を真似して遊んでいるという批判を受け、会社がホームページに謝罪文を載せたというケースがあります。
会社の中で遊んでいるということで映像によって会社が特定されてしまいます。そうすると、会社に対して批判が集まってしまい、会社が従業員個人の行動について謝罪をせざるをえなくなったということです。
会社内での写真や動画の撮影は、場合によっては会社の機密情報が映りこんでしまうおそれもありますし、この件のように会社が特定されて批判を浴びるということもあります。
過去にもコンビニエンスストアのアイスケースに入ったり、と店内での投稿が問題となったことが多くありますので、ルールとして会社内での撮影や投稿を禁止したり、その趣旨を従業員に理解させる、ということが必要になります。
さらには従業員ではなく、その家族が行ったSNSの投稿が問題になるケースもあります。例えば、有名人が銀行に来店した際に、
〇〇さん〇〇銀行〇〇支店ご来店
というようなツイートがされたケースがあります。
これは母親が銀行で働いている女性がツイートしたもので、銀行がすぐにお詫びの文書を出すという事態になりました。
有名人の私的な行動に関するプライバシーの問題ということで非常にセンシティブに扱わないといけない問題であったため、銀行の対応もとても速かったのですが、従業員ではなく、その家族の投稿というところにSNS管理の難しさを感じます。
有名人関連の投稿による問題は多く発生しており、有名人に会えたことの嬉しさや自己顕示欲のために投稿する心理は理解できますので、これを防ぐためには、並大抵の努力では足りないだろうと推測されます。
このようにSNSの炎上と一言で言っても、会社の公式アカウントだけではなく、従業員やその家族の個人アカウントによる投稿に会社が巻き込まれてしまうということもあります。
そのため会社としては公式アカウントの投稿をどのようにするかというだけではなく、会社の従業員に対して、個人のアカウントの投稿も含めて、どのような投稿してはいけないのかということの意識付けを行っていく必要があります。
どのような対策をするのがよいのか
ではどのような対策をしていくことがよいのでしょうか。
先ほどから見ていただいたSNSの炎上事例を見てもわかるように、炎上の原因は、会社や従業員の意識の不足によるものがほとんどです。
そのため、SNSの炎上を防ぐ対策としては、
①ルールを作ること
②従業員の意識を高めること
この2つが重要になります。
そのうちまず1つ目のルール作りについて説明したいと思います。
SNSの映像の中には、従業員が会社に良かれと思って注目を集めようと炎上ギリギリの投稿してしまい、その結果多くの批判にさらされるということもあります。もちろん、何の意識もなく、投稿したものが一般人の感覚にそぐわなかったために、多くの批判を浴びることがあります。
そのため、どのような投稿を行うべきか行うべきでないのか、そしてどのようにチェックをして投稿を行うのかということを決めておく必要があります。
そして、会社の公式アカウントでの投稿を想定すると、アカウントの運用面及び内容面に分けて考える必要があります。
具体的な内容については、来週投稿予定の従業員向けのコラムもご覧ください。
まず運用面では
・投稿する担当の部署を決めること
・1人ではなく複数のチェックを受けること
・個人の端末では投稿させないこと
など投稿するまでの手順を定めておくことが重要です。
一方、内容面では
どのような投稿をしてはいけないのか
ということを定めておく必要があります。
例えばソーシャルメディア利用規定の雛形を一部引用すると、以下のようなことが遵守事項として定められています。
他人の名誉権や、プライバシー権、肖像権、パブリシティー権、著作権、商標権等、法的に保護された権利を侵害しないこと
第三者の個人情報やプライバシーに関する情報発信しないこと
会社の商品、またはサービスの広告を行う場合には、景品表示法などに違反する恐れのある表示をしないこと
ただしこれを規定があるからといってどのようなものが該当するのかは、人によって受け止め方が違いますので、研修などでどのようなものが炎上に繋がるのかということを知ってもらう必要もあります
どのような研修をするのがいいのか
ではどのようにしてルールを浸透させていけば良いのでしょうか。
ルールの浸透には、通常従業員に対する研修が一般的ですが、通常の研修は必要な知識を身に付けさせるというのが目的になります。
しかしSNSのトラブルは発生させてしまった者の知識不足によるものだけではなく、その者の意識の不足という問題もあります。ですので、研修においても従業員に対してどのような意識を持ってもらえば良いのかということを意識して行う必要があります。
先ほどお話したように、従業員はそれぞれ意識が違うということを意識して話をしなければいけないことも忘れないでください。
また研修は一度やればいいというものではないということも意識しておいてください。
その理由は2つあります。
まず1つ目は、SNSの炎上の理由は時代によっても変わるため、その時々の意識関心合わせて研修を行う必要があるという点
2つ目は人間というものは、研修したときには、高い意識を持っていたとしても、どうしても時間が経つと意識が崩れていってしまうため、定期的に研修することで意識を高く持ち続けられるようにしないといけないという点にあります。
ではどのような内容で研修をしたらいいのでしょうか。
まず今回最初にご説明したように身近で、かつ、具体的な炎上事例を見てもらうというのがいいと思います。そうすることによって従業員の意識も引き締まりますし、どのようなことをした結果炎上したのかということが具体的にわかります。
またその事例を自社に置き換えてみた時に、どのようなところに炎上の可能性があるのかや、実際に社内で問題になりかけた事例がある場合には、その話をしてみるというのもいいと思います。
場合によっては、次のグループに分けて自社で気をつけることについて議論をしてもらい、その内容を発表してもらうということでより意識を高めることもできると思います。
またSNSの投稿では、個人のアカウントから投稿した場合など、第三者から当該従業員に対しても損害賠償請求がなされる可能性もありますし、企業のアカウントから投稿した場合でもあっても、企業の信用を大きく損なって、売り上げが減少したり、会社から投稿に対して懲戒処分がなされることもありますので、それだけ責任が生じるものであるということも意識してもらうようにする必要があります。
特にネットの投稿はオリジナルを削除したとしても、そのコピーが出回っていつまでも消えないこともありますので、結果の重大性についても認識してもらう必要があります。
炎上が起きた場合の対策
それでは、実際にSNSの炎上が起きた時にどのようにすればよいでしょうか。
単に会社として謝罪をすればいいというものではなく、炎上した内容によって対応を検討する必要があります。
1つ目は、会社や投稿を担当した者に落ち度があった場合です。
たとえば、差別的な発言をしてしまったような場合など、こちらの非が明らかな場合には、しっかりと謝罪をするとともに、その後の対応として差別を助長しないような研修をしていくことなどを発表することが多くみられます。
会社によっては、差別に反対する声明などをHPにアップしていたり、そのような活動を対外的に行っていたりすることもありますので、そのようなことを掲げておきながら今回の問題を起こしたことを深く反省する旨を入れたり、そのようなことを掲げていながら今回の問題が発生した原因を分析したり、というようなことをすることも考えられます。
会社としては、会社の非を認めることをためらったり、批判が収まるのを待とうとして静観したりすることもあります。
しかし、そのような対応をすることでさらなる批判を招くこともありますし、不誠実な会社という印象を与えることもあります。
2つ目は、会社に落ち度は少ないが、投稿内容の趣旨が不明確であった場合に炎上を招いたような場合です。
このような場合には、謝罪を行うか、趣旨を説明するのか、という判断が難しい場合がありますが、たとえば、趣旨を説明した上で、その趣旨が不明確となったために、〇〇といった批判を受けることとなり、今後趣旨をより明確にすることで誤解を招くことがないよう努めたいという発表をすることが考えられます。しかし、批判の問題意識をうまくとらえないとさらなる批判を招くおそれもあります。
3つ目は、会社の公式アカウントではなく、従業員個人のアカウントからの投稿であったが、会社名などが投稿され炎上に至ったような場合です。
このような場合には、基本的には私人としての投稿といえるとはいえ、その内容に問題があったような場合には、対応をどうするか難しい判断が迫られます。一つの基準としては、企業のイメージを傷つけるような炎上となっているのか、企業として管理責任を問われるようなものなのかどうかです。
そのような場合には、企業として何らかの対応をした方がよい場合が出てきますので、専門家にも相談して検討してください。
このように、対応を誤るとさらなる批判が予想される状況下で的確かつ速やかな対応が求められるというのが、SNS対応の難しさといえます。
炎上を称賛に変えた稀有な例
最後に味の素の事例をご紹介します。
餃子がフライパンにこびりつかない、ということを売りにしていたのに、こびりついたという投稿が個人の方からなされたという事例です。
本来であれば炎上してもおかしくないですが、味の素がその方にそのフライパンを研究開発に使いたいので送ってほしいとお願いして、さらに一般の方にも使い古したフライパンを募った、という事例で会社の研究熱心な態度が逆に称賛されたというものです。会社の熱意というものがネット社会でも評価されることがある、というのはどこか救いを感じます。
まとめ
今まで、SNSの炎上事例から、ルール作りとその浸透方法、炎上した場合の対応について書いてきました。
まずは会社の中でどのようなルールを作って、どのように従業員の意識づけをしていくか、ということから始まると思います。
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