今回は、前回に引き続き、カスタマーハラスメントへの対応方法のうち謝罪について解説します。
1 謝罪を要求された場合の対応
⑴ 謝罪を要求された場合の一般的対応手順
①【聴取】 顧客の主張および要求内容のヒアリング
②【調査】 聴取を踏まえ、客観的事実関係等の確認
③【判定】 調査を踏まえ、要求内容の正当性について判定
④【回答】 判定を踏まえ、回答
⑵ 謝罪を行うべき場合
顧客から謝罪を求められた場合であって、
①【判定】において法的責任があると認められ、
②謝罪をすることが自社にプラスに働く場合 に初めて謝罪を行うべきです。
一方、顧客の感情に寄り添うための謝罪を行うことは状況に応じて検討すべきです。
そのため、道義的責任を認める謝罪、法的責任認める謝罪の2つを区別して、【判定】前に法的謝罪を行わないことが重要です。
⑶ 道義的謝罪
①道義的謝罪とは
道義的謝罪とは、一般的に顧客の主張する事実または要求を認める内容を含まず、顧客の感情に寄り添うために道義的な限度で行う謝罪で、法的責任について承認または発生させない謝罪のことを指します。
〇良い例
・ご不快な気持ちにさせて、申し訳ありません。
・ご不便をおかけしたことをお詫び申し上げます。
→顧客の主張する事実は認めておらず、感情に寄り添う限度でのみ謝罪をしています。
×悪い例
・申し訳ありません。すぐに返品交換させていただきます。
→顧客の要求に応じる法的責任を認めている。
・商品管理を怠り、申し訳ございません。
→顧客の主張する事実を認めてしまっている。
②道義的謝罪を行う場面
ア 企業に落ち度がない場合
イ 法的な過失・義務違反には至らない何らかの落ち度がある場合
※道義的謝罪のみをもって法的責任が肯定されることはありませんが、書面による謝罪を行う場合、文言により企業が法的責任を認めたと受け取られ、証拠とされるおそれもあるため、慎重な対応が必要です。
⑷ 法的謝罪
①法的謝罪とは
一般的に顧客の主張する事実または要求を認める内容を含み、法的責任を承認または発生させ得る謝罪のことを指します。
②法的謝罪を行う場面
ア 企業側に法的な過失・義務違反がある場合
かつ
イ 謝罪をすることが企業側にとって有利に働く場合 に法的謝罪を行うべきです。
③法的謝罪を行う場合の注意点
曖昧・包括的な内容によって事実や法的責任を認める範囲が不明瞭に拡大しないように注意が必要です。
法的謝罪は、訴訟において法的責任の認定において重く評価され、企業側に不利な証拠となる可能性が高いので、法的謝罪を行うかは慎重に検討してください。
2 念書等を要求された場合の対応
⑴ 顧客が書面による謝罪を要求してくる理由
企業側が非を認めたことを証拠として残すため、顧客が書面による謝罪を要求してくることがあります。
書面による謝罪をすると、裁判において証拠となるリスクやインターネット等で公開されるリスクがありますので、安易に応じないようにしましょう。
⑵ 書面による謝罪を要求された場合の対処法
顧客から書面による謝罪を要求された場合、企業側としては、原則として断るべきです。企業内で検討した結果、書面による謝罪をすることとなった場合には、
①法的責任と道義的責任の区別を意識した記載にする、
②謝罪する場合には何に対する謝罪であるかを明確にする、
ことにが重要です。
⑶ 具体的な文例
①法的責任を認める場合
「この度は当社製品の欠陥により、〇〇様がお怪我をしたこと、そのために〇〇様がお仕事を休まれたことについて、心よりお詫び申し上げます。」
②道義的責任を認めているにすぎない場合
「この度、〇〇様から当社製品の欠陥によりお怪我をされた旨のお申し出をいただきました。当社としましては、現在、当社製品に欠陥があったか否かを含め、慎重に調査を進めておりますので、ご返答まで今しばらくお待ちいただきますようお願いいたします。」
3 「誠意を見せろ」と言われた場合の対応
⑴ クレーマーが「誠意を見せろ」と要求することの意味
不当クレーマーは往々にして「金品や過剰なサービス、土下座」などを要求する言葉として「誠意を見せろ」という言葉を使用しています。
これは直接的に言葉に表してしまうと、強要罪(刑233条)や恐喝罪(刑249条)などが成立し得るため、「誠意」という曖昧な言葉を用いているのです。
クレーマーから「誠意を見せろ」と要求された場合には、以下のように対応しましょう。
①発信者が要求している「誠意」の中身を相手に確認します。
②「誠意」の中身の確認の可否にかかわらず、事実関係を確認した上で責任の判定をして回答(会社としての回答)をするまでは、対応者が独断で「誠意を示す」対応をしないようにします。
③ ②の「会社としての回答」が決まった場合には、企業側の対応としてその回答(対応)を行い、それ以外の要求は拒絶します。
※クレーム対応のプロセスに従って、企業の責任判定をし、その結果として、企業として行うべき対応を行えば、
企業としての誠意ある対応として十分です。回答の際には、「これが当社の誠意ある回答です。これ以上は応じかねます。」と過剰な要求を毅然と拒絶しましょう。
⑵ 要求の具体的内容が明らかにならない場合
「決められた時間」が過ぎていれば時間が過ぎたことを告げ、対応を打ち切ります。「これ以上は私の判断では回答できませんので会社において事実関係を確認した上で会社として回答をします」などと顧客に告げましょう。
4 初動対応を誤ってしまった場合の対応
⑴ 初動対応の誤りの例
・不適切な謝罪
・不必要な念書や合意書等の作成
・不当な要求の実現
⑵ 初動対応を誤り、不利な状況に陥った場合のリカバリー方法
①事実確認や法的責任を検討する前に責任を認めたと顧客から受け取られるような対応を行ってしまった場合
文書やメール等を送付し、法的責任はない旨、明確に伝えることが必要です。速やかに内容証明等を発送し、その合意書や念書等の効力を取り消しましょう。
②不当な要求に応じてしまった場合
本来は不当な要求に応じる法的義務は存在しないこと、今後は不当な要求に応じることはできないと毅然とした態度で伝えることが必要です。
⑶ リカバリーを行う者
初動対応を誤った者ではなく、別の従業員、または場合によっては弁護士による対応が有効です。
初動対応を誤った者が対応し続けると、顧客は以前発言したことと異なるではないかなどと、その理由を問うたり責め立てたりするなど、クレームを継続しやすくなります。
また、初動対応を誤った者も自身の発言や態度等で一度は顧客の不当な要求に応じてしまっているため、心理的に毅然とした対応(法的責任の不認容及び不当要求の拒絶)をとり続けることが難しくなってしまいます。
まとめ
カスハラ対策では、マニュアル化、従業員教育が重要です。
ex
・事実の確認をしっかりと行う
・ 記録を残す(証拠保全にもなる)
・ 安易な回答をしない
・ 対応する場合は複数人で
・ 毅然とした態度で対応する
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
今回は、カスタマーハラスメントへの対応方法について解説します。
1 カスハラとは
⑴ カスハラの定義
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略で、顧客からのクレームのうち、要求内容またはそ れを実現するための手段・態様が不相当なものを指します。クレーム・要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもので、労働者の就業環境が害されるものが、カスハラに該当します。
⑵ 正当/不当なクレームの判断基準
顧客のクレームが正当なものか、それともカスハラに該当するかは、以下の要素から判断されます。
①要求の内容
✓サービス・製品に問題があるか(要求原因があるか)
✓顧客に損害(治療費・修理費等)が発生しているか
✓サービス・製品の問題と顧客の主張する損害に因果関係があるか
✓顧客の損害と顧客の要求(社長の謝罪等)に関連性があるか
②要求の手段・態様
✓クレーマーの要求態度等に問題はないか(回数・言動を含む)
⑶ カスハラがもたらすリスク
①企業の信用低下(レピュテーションリスク)
近年はネット掲示板や評価サイト、SNSによる拡散が多くなっています。
②従業員のモチベーション低下
③カスハラ被害を受けた従業員に対する損害賠償責任
カスハラに対し適切な対策を講じていなければ、安全配慮義務違反と評価されるおそれがあり、実際に安全配慮義務違反が認定された裁判例もあります。
2 電話への対応
⑴ 電話対応時の留意点
①事実の確認 ※評価ではなく、具体的な事実を確認するようにしましょう。
②対応記録を残す
※不当クレーマーは従業員を個人攻撃するために、従業員の名前を特定しようとすることがありますが、原則として所属している課と名字を名乗れば足ります。
⑵ 相手方のクレーム内容の確認
①事実関係の確認
いつ、どこで、誰が、何を、なぜしたのか、どのようになったのか、5W1Hにより事実を確認します。
②要求内容の確認
企業側が顧客の要求に応じるべきかどうかを判断するため、要求の内容、理由を具体的に確認します。
⑶ 長時間の電話への対応方法
どれだけ対応しても解決の糸口が見えない場合、顧客との会話を中断するのも効果的です。
①最初は、誠意をもってお詫びし、事実関係を確認した上で解決策を探ります。
②ある程度の時間が経過しても顧客からの要求が止まらず、何かおかしいと感じたら、「今すぐ 結論を出せない」「社内で検討する」などと言い、いったん会話を切りましょう。かけ直されても断る姿勢を変えないことが重要です。
⑷ 脅迫的な電話への対応方法
①通話を録音することを事前に伝えます(証拠化されることを恐れ、脅迫的な言動を控える可能性があります)。
②非通知電話には拒否機能を使いましょう。
③悪質なクレーマーについては警察に被害申告をすることも考えられます。
※脅迫電話の①頻度・回数、②証拠の有無、③被害の程度などの事情を総合的に勘案し、相当悪質であると認められなければ、被害届が受理されない可能性もあります。電話内容の録音や着信の頻度が分かるもの(ex:着信日時を書き留めたメモ、電話会社から発行される通話履歴の書面)を証拠化しておきましょう。
⑸ 無言電話への対応
①無言電話の着信拒否をします。
②(非通知等からの着信で着信拒否ができない場合には)無言電話への対応をマニュアル化し、従業員に実施させることも効果的です。
ex:・従業員の応答から5秒もしくは10秒以内に発信者からの発言がない場合
「お電話が通じないようですので、切らせていただきます」等と伝えたうえで直ちに受話器を置く
・無言電話が繰り返される場合
「度重なる無言電話につきましては警察に通報させていただくこともありますのでご了承ください」などと伝えたうえで切る
⑹ クレーマーからの電話が止まらない場合
弁護士から警告文の発送を行い、それでもなお架電が続くようであれば、架電禁止の仮処分の申立てを行うことを検討します。
※電話番号しか分からず、架電相手の氏名・住所が不明な場合であっても弁護士会照会をすることで架電相手の氏名・住所が判明することもあります。
3 カスハラメールへの対応
⑴ メール対応時の留意点
クレーマーは意図的に長文、多数のメールを深夜休日問わずに送り付けてくることがあります。クレーマーに対して、企業内の個人メールアドレスを簡単に教えないことが重要です。送信するメールのCCに個人メールアドレスが含まれていないかも確認しましょう。
⑵ メールへの対応方法
メールは送信されれば物的証拠として確実に残り、万が一クレームが発展して裁判を起こされたときに、その内容によっては企業にとって不利になるケースがあるため、不当クレーマーに対してはできるだけメールによる対応を避けるべきですが、メール対応をせざるを得ない場合、文面には細心の注意を払うようにしてください。
⑶ メールの送信が止まらない場合
メール禁止の仮処分命令を裁判所から発令してもらう方法があります。金員を支払わせる間接強制を行うことも有効です。
4 窓口等での面談対応
⑴ 突然訪問があった場合の対応方法
①顧客が初めて店舗を訪問してきた場合
5W1Hを意識して、クレームに至った事実経過を聞き取る必要があります。
②2回目以降の場合
初回と同じ内容のクレームを理由としたものである場合には、企業としては、すでにクレームの事実関係を把握しているので、初回と同様の対応をする必要はありません。
初回の訪問で聞き取った事実関係に基づいた調査を行っており、当方より回答する旨を改めて明確に告げたうえで、それ以上の対応はしない、という対応を徹底すべきです。
⑵ クレーマーが怒鳴り始めた場合の対応方法
①クレーマーに対し、大声を出さないように注意をします。
・不当クレーマーは、ほかの顧客の注目を集めることで従業員を焦らせ、自己に有利に交渉を進めようとすることがあります。
・注意しても怒鳴り続ける場合には、別室に移動させましょう。
・個室で対応する場合には、密室での暴言・暴力に対抗するために録音の準備をしておくべきです。
②クレームには複数人で対応をします。
・顧客側より企業側の人数が多い場合、心理的に相手方より優位に立つことができます。
・従業員が一人で顧客対応をすると、激怒する顧客の怒りを鎮めることや対話をすることに集中する必要があり、肝心な対話内容を後になって正確に記憶・記録していないという問題が生じるおそれがありますが、二人以上で対応すれば、一人はクレーマーとの対話役、もう一人は冷静に話を聞くことができます。
⑶ クレーマーが長時間居座る場合の対応方法
企業側が時間決定に関して主導権を握りましょう。
・顧客が長時間居座ったら「社内ルールとしておひとり様との面談時間は1時間までとなっております」と明確に伝え、早急に退去してもらいましょう。
・「現時点での問題解決が困難であるため、一度お引き取りを願いたい」という意思を明確に顧客に伝え、時間の間隔をあけて再三、複数回にわたって警告する必要があります。
・繰り返し退去を求めたにもかかわらず居座る場合には、不退去罪に該当する可能性があるため、警察を呼んでも問題ありません。
5 訪問先での面談対応
⑴ 訪問先で面談対応を行うべきか
顧客の自宅等を訪問することは、数々のリスクがありますので、できるだけ訪問対応は避けるべきです。①電話で5W1Hをもとに慎重に事情を聴取した結果、② クレーム内容が正当なものであり、かつ、③顧客の態度や口調等から訪問した場合に危険が生じる恐れがないと判断された場合に初めて訪問するようにしましょう。
⑵ 訪問場所の選定
場所をどこにするかはあくまで企業が決めることであり、顧客に決定権はないため、自宅訪問を求められたとしても「場所は弊社にて検討させていただきます」ときっぱり断るべきです。できる限り、第三者のいる場所(ex:ファミレス、喫茶店、ホテルのロビー)を選択しましょう。また、複数人で訪問することも重要です。
⑶ 訪問時間の設定
顧客からのクレームが長時間に及ぶ場合に備えて、対応する時間をあらかじめ定め、相手方に伝えるということも有効な対応の一つです。次の予定があるなどとして、終了時刻を告げるようにしましょう。
⑷ 相手方支配領域に訪問した際に生じ得るリスク
①訪問先に監禁されるリスク
一般的な対応時間を超えているにもかかわらず解放してもらえない場合は、顧客を気にすることなく退席するという対応をとりましょう。訪問してから一定時間を経過するごとに、企業から訪問担当者の携帯電話へ連絡して、安全を確認し、場合によっては警察へ通報することも考えられる
②脅迫的な言動を受けるリスク
訪問先では安易に判断せず、「会社に持ち帰って、社内で検討いたします」と回答し、明言を避けましょう。
脅迫的な言動を受けないために、あらかじめ録音することを伝えるという予防策も考えられます。
③顧客の私物を壊した等と言いがかりとつけられるリスク
座布団の下に壊れたものをわざと置いて、あたかも従業員が壊したかのように仕立て上げる等、顧客から言いがかりをつけられるおそれがあります。
顧客が高齢で認知症を発症しているような場合等では、訪問してきた従業員に盗まれた、壊されたと主張されるおそれもあります。
そのようなリスクを踏まえて訪問については慎重に判断する必要があります。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。