Q 当社が所有している賃貸マンションで滞納が続いていたため、催促をしているのですが、電話も手紙もつながらず、部屋に行っても実際に住んでいるか分かりません。鍵は持っているのですが、勝手に開けて荷物などを出して新しい入居者に貸していいものでしょうか。
A まず、賃貸借の解除が認められるかどうかについては、「信頼関係の破壊」が認められるかによります。「信頼関係の破壊」が認められる場合には裁判をするということになりますが、今回のように賃借人と連絡がとれず、どこにいるか分からない場合には、前提として話し合いでの解決が困難と思われますので、訴訟を提起する必要性が高いといえます。
所在不明の者への裁判手続き
我々弁護士が調査を行う場合には、住民票が別の場所に移されていないか、という調査を行うこともありますが、住民票は元の住所のまま、ということもあります。
その場合、まず、賃貸借契約の解除の意思を伝えないといけないので、現住所宛に解除通知を送ります。通常は内容証明郵便で送りますが、相手が受領しない場合や不在で受領できない場合には返送されてしまいます。そのため、相手が受領しないことが予測される場合には、郵便受けに配送されたことを担保するために特定記録郵便を発送するという方法をとります。
所在不明者の探索方法ですが、一般的には、
・賃貸物件への訪問や郵便受け、水光熱メーターなど居住の有無の確認
・近隣住民や管理人への確認
・保証人などへの確認
などがあります。この調査の内容によって、居住が確認できる(こちらの連絡に応じないだけなのか)のか、居住の痕跡がないのか、によって訴訟を行う場合の手続きが変わってきます。
賃借人の居住が確認できる場合には、解除の通知も有効に到達したものと考えられますし、訴状の受領を拒絶したとしても、賃借人の居住が確認できる旨(生活の痕跡が認められる旨)の報告書を裁判所に提出した上で、書留郵便に付する付郵便送達という手段で訴状を送達することができます。
一方で、居住が確認できない場合には、賃借人の最後の住所地を管轄する簡易裁判所に公示の方法による意思表示に関する申し立てを行い、相手の所在が不明と認められた場合には、解除通知書が裁判所に掲示されるとともに官報に掲載されるなどして解除の意思表示が到達したとみなす方法で解除を行うという方法があります。
ただし、どちらにせよ、その後訴訟提起を行うため、訴状の中で解除の意思表示を行うことで対応する方法が直截的です。
賃借人の居住が確認できない場合には、公示送達の方法により訴状を送達します。
これは、賃借人の居住が不明であることを調査結果とともに裁判所に報告書を提出し、裁判所の掲示板に訴訟提起の事実を掲示することで掲示から2週間の経過をもって訴状が送達したとするものです。
これによって訴訟が進行し、賃借人が裁判所に出頭しなかったとしても賃貸人の請求を認める判決が出され、この判決に基づいて強制執行などを行うこととなります。
このように、賃借人の所在が不明の場合には対応が煩雑ですが、裁判手続きを経ずに勝手に荷物を出すなどの自力救済は禁じられており、そのようなことを行うと民事や刑事の責任に問われる可能性もあるので、絶対に控えてください。
最近では、このようなリスクを避けるために、家賃債務保証会社などの活用も進んでいます。
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Q 所有しているビルが老朽化し、建替えをしたいので次の賃貸借契約期間の満了をもって賃借人に退去してほしいと思っています。賃貸借契約期間の満了による場合であれば解除は認められるのでしょうか。それとも、賃借人の引っ越し費用など、いわゆる立退料の負担をすれば解除は認められるのでしょうか。
A 賃貸借契約は通常数年間程度の契約とされていることが多く、期間が満了すると契約が終了するようにも思われます。現に定期賃貸借契約の場合には、期間満了により当然に終了することとなっています。
一方で、普通賃貸借契約の場合には、賃貸借契約の終了には正当事由が必要とされています。この正当事由の判断には、
・建物の賃貸人及び賃借人が、それぞれ建物の使用を必要とする事情
・建物の賃貸借に関する従前の経過
・建物の利用状況及び建物の現況
・建物の明け渡しの条件(いわゆる立退料)
が考慮されます。
そのため、裁判になった場合には、建物の使用の必要性を前提に、これまでの経緯や立退料などの事情を総合考慮して明け渡しの是非が判断されます。オーナー側の視点に立つと、立退料を高額にしても、必ずしも明渡しが認められるわけではないということになります。
賃貸借契約終了の正当事由について
この正当事由については、強行規定といって契約書で修正できないとされていますので、いくら契約書に賃貸人の中途解約権などを定めていたとしても正当事由がない解除はできないため、期間満了による明渡しを確実に行いたいのであれば、定期賃貸借契約を締結することを心掛けなければなりません。
それでは、建物の老朽化が進んでいる場合に、建替えをするという事情は正当事由となるのでしょうか。建物の老朽化や耐震性能の不足、他のテナントとの競争力の低下という事情は賃貸人側から裁判でも主張されることが多く見られます。
実際に裁判においても、建物の建替えによる土地の有効利用は正当事由を基礎づける有力な事情と考えられており、賃貸人側の使用の必要性を基礎づける重要な事実となります。
実際に明渡しを進める場合には、オーナー側とテナント側で交渉が行われることが一般的であり、このような交渉経緯も正当事由の重要な要素とされていますので、オーナー側からすると誠実に交渉を行う必要がありますし、その中で移転を強いられるテナントの不利益を解消するための提案を行う必要があります。
普通賃貸借契約の終了の流れ(賃貸人請求の場合)
一般的に普通賃貸借契約を解消する場合には、期間満了の1年前から6か月前の間に賃貸人から賃借人に対して賃貸借契約を更新しない旨の通知を行い(借地借家法26条1項)、その前後で立ち退きに向けた条件面での交渉を行うこととなります。
交渉で解決がつかなかった場合には訴訟手続きの中で解決が図られることもありますが、この場合であっても裁判所は話し合いによる解決を調整するのが一般的です。
この話し合いの中で、退去を余儀なくされる賃借人に対して
・移転した場合の賃料の差額の補償(一定期間)
・移転先での工事等の費用
・移転に伴う案内等の費用
・引っ越し費用
などを行うことを前提に和解の協議がなされていきます。
最初の質問への回答としては、老朽化による建替えについては、建替えの必要性が認められる場合には解除が認められる場合もあるが、絶対に解除できるわけではないし、解除できる場合であっても、一般的にはオフィスの移転に伴う一定の費用が立退料として必要となることが多い、という回答となります。
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