今回は、前回に引き続き、ライセンス契約について解説します。
条項例
①ー1知的財産権の帰属 【ライセンサー有利】
1.本キャラクターに関する著作権、商標権その他の知的財産権及び本キャラクターの二次的著作物に関する知的財産権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、甲に帰属する。
2.乙は、甲に対し、本キャラクターの二次的著作物に関する著作者人格権を行使せず、また、二次的著作物の創作に携わった自らの役職員その他の第三者をしてこれを行使させないことを確約する。
➡ ライセンス契約にかぎらず、二次的著作物に関する著作者人格権の不行使条項は抜けがちです。
💡 著作者人格権の不行使条項が定められていないと、二次的著作物を使用した際に差止請求や損害賠償請求をなされるおそれがあります。
したがって、二次的著作物の著作権についてライセンサーが自社に帰属させる場合には、二次的著作物に関するライセンシーの著作者人格権の不行使条項が定められているか確認するようにしてください。
①ー2知的財産権の帰属 【ライセンシー有利】
1.本キャラクターに関する著作権、商標権その他の知的財産権は甲に帰属する。
2.本キャラクターの二次的著作物に関する知的財産権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、乙に帰属する。
3.乙は、甲に対し、前項の二次的著作物を利用することのできる全世界的、無償、永久的、取消不能、無制約、再許諾可能な権利を許諾する。
4.乙は、甲に対し、本キャラクターの二次的著作物に関する著作者人格権を行使せず、また、二次的著作物の創作に携わった自らの役職員その他の第三者をしてこれを行使させないことを確約する。
➡ 著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に定める権利は、譲渡の目的として記載されていない場合には、譲渡した者に留保されたものと推定されます。
そのため、ライセンシーが自社に著作権を帰属させたい場合には、これらも譲渡の対象であることを契約上明記することが必要です。
②不争義務 【ライセンサー有利】
乙が、【本著作権及び本商標権】が甲に帰属することを争った場合、甲は、本契約を解除することができる。
➡ 不争義務は、独占禁止法との関係が問題となります。
💡 技術ライセンスに関して、公正取引委員会は、不争義務は原則として競争を減殺するおそれは小さいとしつつ、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして、不公正な取引方法に該当する場合もあるとしています。(「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」第4・4⑺)
③第三者による権利侵害 【ライセンサー有利】
乙は、【本著作権及び本商標権】に関して、第三者により当該権利が侵害され、又は侵害されるおそれがあることを発見した場合は、遅滞なく甲に通知し、甲と協議の上、警告等の適切な措置を講じなければならない。
④商標出願の制限 【ライセンサー有利】
乙は、いかなる国又は地域においても、本商標権に類似又は関連する商標を出願してはならない。
➡ 前提として、登録商標に類似する商標等の使用等は商標権の侵害とみなされます(商標法37条)。
➡ 上記規定は、ライセンシーによる類似商標などの出願を禁止するものです。
➡ 先に出願された他人の登録商標に類似する商標であって、指定商品・役務が同一又は類似であれば商標登録をすることができません(商標法4条1項11号)。
しかし、ライセンサーが外国において商標登録をしていない場合は、当該外国での出願は防止できないおそれがあります。そこで、このような条項を定め、ライセンシーが類似商法を出願することを禁止します。
⑤商標権の更新登録 【ライセンシー有利】
甲は、本契約の有効期間中、自らの費用と責任において、【本商標権】の存続期間を更新する手続を行わなければならない。
➡ 商標権の存続期間は、登録後10年で終了しますが(商標法19条1項)、更新登録を行うことで権利を存続させることができます(同条2項、3項)。
したがって、ライセンシーは、ライセンサーに自らの費用と責任において権利の存続に必要な手続を採ってもらう必要があります。
⑥差止請求権の放棄 【ライセンシー有利】
甲は、この契約又は法律の規定による他の救済方法を行使できる場合であっても、乙に対し、ライセンス料その他の金銭的な賠償のみを請求することができ、他の救済方法(乙に対する差止請求権の行使を含む。)を行使しないものとする。
➡ ライセンシーにとって最も避けたいことのひとつは、ライセンサーからライセンス商品の回収・破棄等の差止請求権を行使されることです。
そこで、ライセンシーは、あらかじめ、差止請求権を行使しない旨の制約をライセンサーから取得しておくことが考えられます。
しかし、ライセンサーにとっては、差止請求権は重要な防御手段のひとつですので、交渉力の強いライセンシーでない限りは、差止請求権を放棄する交渉は受け入れづらいでしょう。
⑦ー1保証 【ライセンシー有利】
1.甲は、乙に対して、甲が単独で本契約に規定される本キャラクターの使用に必要となる著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)その他の一切の権利に関して完全な権利を有しており、本契約を締結する正当な権限を有することを保証する。
また、甲は、乙に対して、本キャラクターに関する著作権その他の権利について、第三者による担保権及び利用権は設定されていないことを保証する。
2.甲は、乙に対して、本キャラクターがいかなる第三者の著作権、商標権その他一切の権利を侵害していないことを保証する。
3.本条の各規定にもかかわらず、本契約に基づく乙による本キャラクターの使用について、第三者から異議の申立て、差止請求、損害賠償請求その他の請求があった場合には、甲は自己の責任と費用負担をもって速やかにこれを解決し、乙に何ら迷惑や損害も与えない。
➡ ライセンシーとしては、ライセンス商品の著作権侵害等による第三者からの損害賠償請求権等を未然に防ぎたい、仮に損害賠償請求権等を行使されてもライセンサーに責任をとってもらいたいと考えるはずです。
そこで、このような条項を定め、ライセンサーが第三者の一切の権利を侵害していないことを保証することが考えられます。
⑦ー2保証 【ライセンサー有利】
1.省略
2.甲は、乙に対して、【自らの知る限り/自らが合理的に知り得る限り】、本キャラクターがいかなる第三者の著作権、商標権その他一切の権利をも侵害していないことを保証する。
3.本条の各規定にもかかわらず、本契約に基づく乙による本キャラクターの使用について、第三者から異議の申立て、差止請求、損害賠償請求その他の請求(以下「本請求」という。)があった場合には、乙は、直ちにその旨を甲に通知する。甲は、本請求の解決に向けた当該第三者との交渉等を行うものとし、乙はこれに協力しなければならない。
4.前項の規定が遵守されない場合、甲は、乙に対し、本請求より生じた損害等を賠償する責めを負わない。
➡ ライセンサーとしては、あらゆる第三者の権利を侵害していないかを確認するのは不可能なので、仮に保証をするとしても、「自らの知る限り(自らが認識していない権利侵害について責任を負うことを免れる)」「自らが合理的に知り得る限り(自らが認識している事実に加え、合理的に認識可能な事実を基礎として、権利侵害の事実がないことを保証する)」といった文言を追加することが考えられます。
➡ また、第三者からの異議申立てがあった場合に、ライセンシーが当該第三者の言い値で和解してしまうと、ライセンサーは高い損害金を負うおそれがあります。そこで、第三者から異議申立てがあった場合には、ライセンシーはライセンサーに通知し、ライセンサーが第三者との交渉を行うことに協力しなければ、ライセンサーはライセンサーに対して損害賠償義務を負わないと定めることが考えられます。
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ライセンス契約とは
ライセンス契約とは、ライセンサーが保有する知的財産権で保護されている特許・意匠・著作物・商標等の実施・使用などを第三者に許諾する契約です。
許諾する当事者をライセンサー、許諾を受ける当事者をライセンシーといいます。
ライセンシーはライセンサーから権利の許諾を受ける対価として、ライセンス料を支払います。
ライセンス契約の例として、ソフトウェアライセンス契約、コンテンツライセンス契約、特許ライセンス契約、商標ライセンス契約等があります。
ライセンス契約を締結することによる「ライセンサー」のメリットは、
①ライセンス料収入が得られる
②従業員、設備、広告料等、自社のリソースを使用することなく収益を得られる
③ライセンシーの働きで自社のブランドの知名度がより広まる可能性があることです。
「ライセンシー」のメリットは、
①他社の技術やブランド利用して利益を上げられる
②ライセンサーの技術やブランドを利用できるため、素早く効率的にビジネスを展開することができることです。
ライセンシーが利益をあげるためには、ライセンサーに支払うライセンス料とライセンス契約で得られる利益を比較することが必要です。
商品化契約
他社のキャラクターを利用した商品の製造・販売をする場合、ライセンス商品の製造・販売を許諾する商品化契約を締結します。
キャラクターに対する権利として、代表的なものは著作権と商標権です。
キャラクターがイラストで表現されている場合、美術の著作物(著作権法10条1項4号)であると考えられます。
また、イラストが商標登録されていれば、商標権者は指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を占有します(商標法25条)。
仮に商標登録をしていない場合でも、著作権や不正競争防止法によってキャラクターを保護することができます。
著作権は創作と同時に発生し、登録は不要です。しかし、著作物性が問題になったとき、当該作品が著作物に該当するかどうかは、最終的には裁判で判断されます。
また、不正競争防止法に基づき、差止請求や損害賠償請求の行使が考えられますが、行使のハードルは商標権を行使する場合に比べて厳しいです。
したがって、ライセンサーは可能であれば商標登録をしておいたほうがよいでしょう。
条項例
ライセンサーとライセンシーそれぞれが定めておくべき条項を紹介します。
「甲」がライセンサー、「乙」がライセンシーを指します。
①使用許諾【ライセンサー】 【ライセンシー】
1.甲は乙に対し、本キャラクターの使用を【独占的/非独占的】に許諾する。
2.前項に基づく本キャラクターの使用許諾の範囲は、次のとおりとする。
(1) 使用期間:〇〇年〇月〇日から〇〇年〇月〇日まで
(2) 使用指定物品:乙が製造販売する次に掲げる商品名の商品(以下「対象商品」という。)に限る。
(3) 使用地域:日本国内
3.乙は、本キャラクターを対象商品本体のほか、そのパッケージ及び対象商品の広告物等においても使用し、その制作及び頒布をすることができる。
4.乙は、甲の書面による事前の承諾がない限り、第三者に対し、本キャラクターを使用させてはならない。
5.甲は、乙による本契約に基づく本キャラクターの使用について、本キャラクターの著作者人格権を行使しない。
➡ 使用が独占か非独占か、使用期間や使用指定物品の範囲が問題ないかの確認をしてください。
②専用実施権/専用使用権の設定等【ライセンサー】 【ライセンシー】
甲は、乙に対して、本契約有効期間中対象地域において、【本件特許/本件商標】を本件商品に使用するための【専用実施権/専用使用権】を設定し、本契約締結後〇日以内に、乙と共にその設定登録申請を行う。当該設定登録申請から登録までに要する費用(弁理士報酬を含む。)は乙が負担する。
➡ 専用実施権とは、設定行為で定めた範囲で、特許発明を独占的に業として実施する権利のことです。
➡ 専用実施権を設定することで、差止請求権の行使が可能となる等の対世的効力が発生しますが、特許庁への登録が必要となる、設定後は特許権者自身も実施ができなくなるといったデメリットがあるため、実務ではあまり利用されていません。
③キャラクターの保護【ライセンサー】
1.乙は、本キャラクターが一般に対して有しているイメージ及び評価を損なう態様で、本キャラクターを使用してはならない。
2.乙は、甲に対し、本キャラクターを使用した対象商品の製造を開始する前に、そのデザイン及び試作品又は商品見本を提供して、甲の承諾を得なければならない。
3.乙は、第三者の著作権その他の知的財産権を侵害しない態様で、本キャラクターを使用しなければならない。
④著作権(及び商標権)の表示【ライセンサー】
乙は、本キャラクターを使用するにあたり、甲が指定する方法により著作権表示【及び商標権表示】をしなければならない。
⑤改変【ライセンサー】
乙は、本キャラクターの内容・表現等に変更を加える場合には、あらかじめ甲の承諾を得なければならない。
➡ 著作権法上も、許諾なしに派生のキャラクター原画を作成することは禁止されています。
⑥対価及び支払方法
⑴固定額方式【ライセンサー】 【ライセンシー】
乙は、甲に対して、本キャラクターの使用の対価として、【月額金〇〇円(税別)を毎月翌月末日までに】金〇〇円(税別)を〇〇年〇〇月〇〇日までに】、甲の指定する銀行口座に振り込み支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
➡ ライセンサーは、ライセンス収入の予測を立てることができるというメリットがありますが、ライセンス商品の売上が想定以上に良い場合であっても、予め定めたライセンスフィーしか受け取れないというデメリットがあります。
➡ 一方で、ライセンシーは、ライセンス商品の売上予測が立てづらい場合にも固定費用が発生するため、事業リスクとなりえます。
⑵売上高比例方式【ライセンシー】
1.乙は、甲に対して、本キャラクターの使用の対価として、対象商品の売上高(乙の第三者に対する対象商品の販売額)の〇%を支払う。
2.省略
3.省略
➡ ライセンシーは、ライセンス商品の売上予測を立てづらい場合であっても、ライセンスフィーを売上に比例させることでリスク回避ができるというメリットがあります。
➡ 一方で、ライセンサーは、受け取るライセンスフィーの額が低くなる恐れがあります。
⑶ミニマムギャランティ方式【ライセンサー】
1.乙は、甲に対して、本キャラクターの使用の対価として、対象商品の売上高(乙の第三者に対する対象商品の販売額)の〇%を支払う。
2.乙は、甲に対して、前項の対価に対する最低保証金額として、金〇〇円(税別)を〇〇年〇〇月〇〇日までに、甲の指定する銀行口座に振り込み支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
3.省略
4.前項の方法により報告された売上高に対する第1項の対価の累積額が第2項の最低保証金額を超過した場合、甲は、超過額を乙に請求するものとする。
➡ ライセンサーは、一定のライセンスフィー収入の確保だけでなく、ライセンス商品の売上が伸びた場合に、さらにライセンスフィーを受け取ることができるというメリットがある一方で、ライセンシーは、支払うライセンスフィーが高額になるというデメリットがあります。
ライセンス契約のコラムは次回に続きます。
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