動産その他の資産に関する法務デューデリジェンスの留意点
M&Aや事業再編、資産流動化などの場面では、動産やその他の資産に関する法務デューデリジェンス(以下「法務DD」)が重要な役割を果たします。本コラムでは、法務DDの目的、対象、作業内容、そして売買契約・リース契約・貸付金・組合出資持分・保険といった個別論点ごとの検討ポイントについて、実務的な観点から整理します。
1 法務デューデリジェンスの目的
- 取引遂行の適正性や障害となる法的問題点の発見
- 企業価値や資産価値に悪影響を及ぼすリスクの把握
- 必要な手続や改善・留意事項の指摘
- 買収後のリスク低減や適正な取引価格の算定
法務DDは、対象資産や会社に法的な瑕疵やリスクがないかを調査し、取引の安全性や合理性を担保することを主な目的とします。特に動産やその他の資産は、権利関係や管理状況が複雑化しやすいため、リスクの早期発見と適切な対応策の検討が不可欠です。
2 対象となる資産の範囲
- 棚卸資産、什器備品、機械設備などの動産
- リース物件やリース契約に基づく資産
- 貸付金や債権
- 組合出資持分などの投資性資産
- 保険契約や保険金請求権
動産は単価が低くても総額で重要性が高い場合があり、またリース物件や貸付金、組合出資持分、保険なども企業価値やリスク評価に直結する場合があるため、注意が必要です。
3 法務デューデリジェンスの作業内容
- 資産の権利関係・帰属状況の確認
- 契約書や関連書類の精査
- 管理・評価・売却・換価方法の検討
- 債権や出資持分の評価・管理・回収体制の確認
- 保険契約の内容・有効性・保険金請求権の調査
これらの作業は、財務DDや事業DDと連携しつつ、法的観点からリスクや問題点を抽出し、必要に応じて契約条件や取引スキームに反映させます。
4 個別論点ごとの検討ポイント
①売買契約に関するポイント
- 動産やその他資産の売買契約では、権利の帰属、移転時期、担保権の有無、契約不適合責任(瑕疵担保責任)などを確認します。
- 棚卸資産の場合、預り在庫や委託品の区別、所有権移転のタイミング、在庫評価の妥当性も重要です。
- 売買契約書の内容を精査し、リスク分担や表明保証条項の有無を確認します。
②リース契約に関するポイント
- リース物件と自社所有物件の峻別、リース契約の内容(所有権移転の有無、リース期間、解約条件、違約金等)を確認します。
- リース契約終了後の所有権帰属や、リース料の滞納・契約違反の有無も調査対象です。
- M&A後にリース契約の解約や条件変更を予定している場合は、中途解約の可否や違約金発生の有無を事前に把握する必要があります。
③貸付金(債権)に関するポイント
- 貸付金や債権の取得時には、客観性・合理性のある評価方法による評価が求められます。
- 債務者の信用力や財務状況を継続的にモニタリングし、債権価値の維持に努める体制が必要です。
- 回収措置(第三者譲渡を含む)の適時性や、担保設定の有無・内容も重要な調査項目です。
④組合出資持分に関するポイント
- 組合出資持分は、組合契約や出資契約の内容、持分の譲渡制限、組合財産の管理・運用状況、損益分配・残余財産分配のルールなどを確認します。
- 組合の財務状況や運営体制、法的な存続性・解散リスクも調査対象となります。
- 出資持分の評価方法や換価可能性、譲渡時の手続・制約も重要な論点です。
⑤保険に関するポイント
- 保険契約の内容(被保険資産、保険金額、免責事項、保険期間、保険金請求権の有無・範囲)を精査します。
- 保険金請求権の帰属や、既存の損害・事故発生時の対応状況も確認します。
- 保険契約が資産価値やリスク管理に与える影響を評価し、必要に応じて追加保険や契約条件の見直しを検討します。
5 動産・その他資産の法務DDにおける共通留意点
- 動産や債権は多種多様であり、種別・特性ごとに管理責任やリスクが異なるため、個別具体的な調査・分析が不可欠です。
- 取得時の評価方法の客観性・合理性、取得後の管理・価値維持、売却・換価方法の適切性を常に意識する必要があります。
- 関連会社が営むべきでない業務を行っていないか、法令や契約上の制約に違反していないかも確認ポイントです。
- 財務DDや事業DDと連携し、法務DDで発見されたリスクが財務やビジネスに与える影響も総合的に検討します。
6 まとめ
動産やその他の資産に関する法務デューデリジェンスは、単なる権利関係の確認にとどまらず、 契約内容や管理体制、リスク管理、価値評価、回収・換価の実現可能性など、多角的な視点からの調査・分析が求められます。売買契約、リース契約、貸付金、組合出資持分、保険といった個別論点ごとに、実務的なリスクや留意点を的確に把握し、取引の安全性と企業価値の最大化を図ることが、法務DDの本質的な役割です。
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