前回に引き続き、売買契約についてご説明します。今回は、検査の規定と、実際にあった裁判例を取り上げます。
3 検査
Q:検査の規定は、どのような内容にしたら良いのでしょうか?売主側と買主側で違いはありますか?
A:売主側の条項と買主側の条項についてご説明します。
⑴ 売主側
第〇条(検査)
買主は、本件目的物を受領後、5営業日以内に検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件目的物に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件目的物を受領後5営業日以内にその旨を通知し、履行の追完を催告しなければならない。この場合、売主は、自己の選択に従い、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行うものとする。なお、本件目的物の受領後5営業日以内に、買主より売主への通知が無い場合は、買主により本件目的物の内容が合格と判断されたものとみなす。
☆ここでのポイントは3つあります。
まずは、検査の期間を定めていることです。検査の期間を定めていなければ、売主は検査の合否がなかなか分からず、不安定な立場に置かれてしまいます。
2つ目は、履行の追完方法を売主が決めることができることです。民法では、買主が契約不適合の対応を選択できるとされていますが、売主が選択できるとすることで、契約不適合があった場合でも、売主は対応しやすくなります。
3つ目は、通知がなければ検査に合格したとみなすことです。いつまでも検査の結果について通知がなければ、売主はいつまで契約不適合責任を追及されるかがわからず、不安定な立場に置かれるので、みなし合格の規定を定めることで、このような事態を回避します。
⑵ 買主側
第〇条(検査)
買主は、本件目的物を受領後、10営業日以内に検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件目的物に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下 「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件目的物を受領後10営業日以内に買主の選択に従い、本件目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を催告するものとし、売主は、買主が定める期限内に、買主の選択に従い、 無償で、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行わなければならない。
買主としては、検査期間が十分な日数であるかを確認しましょう。例えば、「5日以内」となっている場合、連休などをはさむと十分に検査をすることができないおそれがあります。その場合は期間を延ばしたり、「5営業日以内」にしたりするなどの修正が必要です。
Q:契約不適合の条項案について教えてください。
A:売主側の条項と買主側の条項についてご説明します。
⑴ 売主側
第〇条(契約不適合責任)
商品に第〇条に定める検査では発見できない契約不適合があった場合(数量不足を除く)、買主は、当該不適合が本件目的物の受領後6か月以内に発見されたときに限り、売主に対して当該契約不適合の発見後5営業日以内に、履行の追完を催告することができるものとし、この場合、売主は、自己の選択に従い、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行うものとする。
契約不適合責任に関する民法の規定は任意規定であり、当事者間の合意が優先します。そのため、売主が契約不適合責任を負わない旨の特約も、民法上は原則として有効です。もっとも、売主が不適合であることを知りながら買主に告げなかった事実についてまで売主の責任を免除することは不適当ですので、その場合は、契約不適合責任を負わない旨の特約が あっても、売主は責任を負うことになります。
⑵ 買主側
第〇条(契約不適合責任)
商品に第〇条に定める検査では発見できない契約不適合があったときは、売主は、当該契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるかを問わず、買主の選択に従い、当該商品の無償による修補、代替品の納入若しくは不足分の納入等の方法による履行の追完、代金の全部又は一部の減額若しくは返還その他の必要な措置を講じなければならない。
買主としては、契約不適合責任を追及できる期間の制限を設けなかったり、契約不適合責任の原因を問わないと定めたりすることにより、あらゆる場合において契約不適合責任を追及できるようにすることが考えられます。
4 裁判例
検査及び契約不適合責任の条項が問題となった事例(東京地判平成23年1月20日(平成20年(ワ)第25857号)についてご紹介します。
⑴ 事案の概要
買主Xが売主Yから土地を購入したものの、購入から8カ月後に土壌汚染を発見しました。両社の契約書には、「本件土地引渡後といえども、廃材等の地中障害や土壌汚染等が発見され、買主が、本件土地上において行う事業に基づく建築 請負契約等の範囲を超える損害(三〇万円以上)及びそれに伴う工事期間の延長等による損害(三〇万円以上)が生じた場合は、 売主の責任と負担において速やかに対処しなければならない」と定められていたため、XはYに対して瑕疵担保責任(改正前の用語で、改正後は契約不適合という用語になりました)として汚染を除去するのに要した費用1470万円を請求しました。
⑵ 売主Yの主張
売主Yは、①買主Xは土地の受領後遅滞なく土壌汚染の有無を検査し、それが発見された場合には直ちにその旨をYに通知しなければならないのに、検査・通知をしていないこと、②土地の引渡しから6か月以上が経過していたことから、Xは瑕疵担保責任を追及することができないと主張しました。
※商法526条
1.商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2.前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することのできない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3.前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
⑶ 本事案の問題点
商法526条は、商人間の売買では、買主は目的物を受領した際は遅滞なく検査しなければならないこと、直ちに発見できない契約不適合があった場合には、6か月以内にその契約不適合を発見しなければ、売主に責任追及できないと定めています。しかし、当該契約書には、土地引渡後も土壌汚染が発見された場合には、売主の責任と負担において対処する旨が定められているため、買主Xが6か月経過後も売主Yに契約不適合責任を追及できるかが問題となりました。
すなわち、本事案の問題点は、当該契約書の条項によって、商法526条の適用が排除されるかという点です。
⑷ 判決の要旨
本事案について、裁判所は、①契約書の文言上、土地の引渡し後も土壌汚染が発見された場合には売主が責任を負うことを規定しており、他方、引渡し後の責任の存続期間については制限がないこと、②買主Xが土地受領後に「遅滞なく」土壌調査を行うことは、当事者間において想定されていなかったと認められることを理由に、商法526条の適用は排除されていたと解するのが相当であると判示しました。
⑸ 売主Yの対応例
本件では売主Yの主張は認められませんでしたが、売主Yとしては、契約書の条項をどのような文言にすればよかったのでしょうか。
売主Yの対応としては、①商法526条の適用が排除されないことを明記しておくこと、②売主の責任期間や検査・通知義務を明記することが挙げられます。
⑹ 本事案から学べること
契約書において、法令の適用を排除する旨明記していなかったとしても、規定の内容によっては、当該法令の適用を排除する趣 旨であると解釈される可能性があります。
そこで、契約書のチェックを行う際には、契約書の文言が明確になっていないことによって、紛争が生じるおそれがあること、契約締結時に当事者の認識が一致するよう十分に協議し、契約書に明記をしておくことでリスクを回避できることを意識するようにしてください。
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今回は、私たちにとって最も身近な契約の一つである売買契約についてご説明します。
1 売買契約とは
Q:法律では、どのように売買契約は定められているのですか?
A:売買契約とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる契約です(民法555条)。
以下のイラストは、売買契約の成立を簡単に示したものです。
Q:わが社では、特定の取引先と頻繁に取引を行っていますが、その都度、売買契約を締結しなくてはなりませんか?
A:売買取引基本契約を締結するのがよいでしょう。売買取引基本契約では、継続的に売買を行う場合に、両者間の売買契約に共通して適用される、基本的な取引条件を定めます。 個別の契約条件は、個々の商品を発注する際に別途締結する個別契約や発注書・請書などにより定めます。
売買取引基本契約では、売買の目的物や契約不適合責任といった取引の基本的な条件を定めて、個別契約では、納期や金額といった個別の取引条件を定めます。
2 契約不適合責任とは
Q:契約不適合責任とはどのようなものか教えてください。
A:契約不適合とは、目的物がその種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合しないことをいい、契約不適合責任とは、納品された目的物に、契約内容と異なる点があることが判明したときに、売主が負担する責任を指します。
Q:契約不適合を発見した場合は、どのような請求ができますか?
A:買主は、契約不適合を発見したときは、売主に対して、①履行の追完(目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し) ②代金減額 ③損害賠償 ④解除といった対応を請求することができます(民法562条、563条、564条)。
Q:契約不適合はいつまで追求できるか教えてください。
A:契約不適合がいつまで追求できるかは、契約不適合の内容によって異なります。
①目的物の種類・品質が契約の内容に適合しない場合には、買主は、その旨を1年以内に通知しなければ、権利行使ができません。旧民法では1年以内に権利行使(解除や損害賠償の請求)をしなくてはなりませんでしたが、現行民法では不適合の事実の通知で足りることとなりました。
ただし、売主が引渡しの際に不適合があることを知っていた場合や、売主が重過失により不適合を知らなかった場合には、売主を保護する必要性が乏しいため、買主は通知をしていなくても、一般的な消滅時効の期間内であれば、契約不適合責任を追及することができます。
②目的物の数量・権利が契約の内容に適合しない場合には、買主は、期間の制限なく、権利行使ができます。旧民法では1年の期間制限がありましたが、消滅時効の一般原則によることになったので、消滅時効の期間には注意してください。
なぜ数量・権利に期間制限がないかというと、数量が不足していることや、目的物に担保物権等が付着していることは外見上明らかなので、売主としてはいつ請求されてもそこまで不利益にはならないからです。
※消滅時効(民法166条)
債権は、権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年間行使しないときは、時効によって消滅します。
買主が数量不足などに気づいたら、その時点から5年が経過した時点で時効が完成します。一方で、権利を行使できることに気づかなくても、客観的に権利行使できる状態になってから10年が経過すると時効が完成します。
Q:商人間で売買をするとき、契約不適合の期間はどうなりますか?
A:①買主側で遅滞なく目的物の検査を行い、②-1検査により発見された契約不適合については、直ちにその旨を通知すること、②-2検査により直ちに発見できなかった契約不適合 が、6か月以内に発見された場合、直ちにその旨を通知することが必要です(商法526条)。
6か月以内に契約不適合を発見できなかった場合は、買主は権利行使ができません。なお、①での遅滞なくとは、人手不足などの買主の個人的な事情は考慮されません。
このように商人間の売買が民法の規定より厳しい理由は、商取引を迅速に行うためと、買主が商人であれば専門的な知識を有するため、このような義務を課しても負担とならないと考えられたためです。
商人はあらゆる物品について専門的な知識を有するわけでありませんが、専門的知識を有していない物品の売買についても、商法526条は適用されるため、注意してください。
※「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」のイメージ
これらの用語は、行動までにかけてよい時間の長短によって使い分けられています。
「直ちに」は「即時に」、「速やかに」は「可能な限り早く」、「遅滞なく」は「事情の許す限り早く」といったイメージを持っていただけるとよいです。
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6月になりました(2024年6月に執筆しています。)。
日本では3月決算の会社が多いため、その3か月後である6月に株主総会が集中する傾向があります。
今回は株主総会と弁護士の関わりについてコラムを記載します。
株主提案に対する対応
2024年は6月に株主総会を開催する上場企業のうち、株主提案を受けた会社が91社で、3年連続過去最多を更新していると日本経済新聞が報じています。
株主提案がなされた場合の対応としては、
- 株主提案が会社法の要件を満たした適法なものかどうかの検討
- 株主提案を議案とする場合の会社の意見の記載の検討
- 実際の株主総会の場での提案株主対応
が必要となります。
株主提案をできる株主の資格として
ⅰ 議決権の1%以上または300個以上を(定款で引き下げ可能)
ⅱ 6か月以上有すること
が必要で、株主総会の日の8週間前までに提案をしなければなりません。
また、提案内容も会社法上認められたものしかできません。
そのような要件、特に会社法上問題のない議案かどうかについての検討については、弁護士の法的な視点からの確認が必要となることがあります。
また、株主提案として適切になされていた場合には、株主総会の招集通知に会社の意見を記載し、一般的には、株主提案に反対する意見を記載することが多いですが、その内容についても弁護士が法的な視点からアドバイスをします。
そして、株主総会の日において提案株主に提案の理由の説明について時間を与えますが、その際の運用が適切であったか、当日株主総会に参加した弁護士も確認をしています。
招集通知の内容の確認
株主提案のようなイレギュラーなイベントがなかった場合でも株主に送付する招集通知の内容に不備がないかという点は極めて大切な確認事項ですので株主総会の担当者のみならず、弁護士もチェックを手伝います。
法定の事項について正しく記載がなされているか、議案の内容について適切に記載がなされているか、場合によっては取締役の選任議案など議案に漏れがないか念のため登記事項証明書で役員の任期を確認したり、ということもあります。
想定問答の確認
株主からの質問に対しては、想定される質問とそれに対する回答を準備をしておきます。その回答内容について問題がないか、より適切な回答がないか、についても弁護士の視点で確認を行います。また、地域紛争の発生、ESG対応、円安の影響など、近時のトピックに対する想定問答が準備されているかという点についても目を配らせています。
リハーサル・本番対応
そして、株主総会のリハーサルでは、役員の入退場から事業報告、質問対応、議案の採決まで一連の流れに問題がないかを確認し、気になった点をフィードバックした上で株主総会本番に備えます。
株主総会本番では、リハーサルでの動きも意識しながら問題なく進行できているかどうか確認をしながら、株主から動議が出た場合の対応、たとえば議長交代の要請が出た場合にどうすべきか、議案の採決中に議案の修正要求が出た場合にどうすべきか、などにも留意をしておきます。
株主総会が終了した場合には、議事録の確認を行い、株主総会に関する一連の対応は終了します。
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