景品表示法について
景品表示法のうち、表示に関する規制では、①優良誤認表示と②有利誤認表示が禁止されています。
①優良誤認表示とは、商品・サービスの品質を実際よりも著しく優れていると偽って宣伝する行為を指します。
※優良誤認表示と判断されないためには、事業者が商品・サービスの品質を適切に把握し、正確な宣伝を行うことが重要です。
②有利誤認表示とは、商品・サービスの価格、その他の取引条件を実際よりも著しく有利であると偽って宣伝する行為を指します。
※有利誤認表示と判断されないためには、商品の価格や割引について虚偽の宣伝を行ったり、消費者に誤解されるような表示を行わないことが重要です。
2024年度の処分事例の特徴
2024年度は、全部で20件の処分事例がありました。
2023年度は、いわゆる№1表記の事例が多く見られたのですが、2024年度は、ステマ規制やいわゆる二重価格に関する処分事例が多く見られました。
事務所報Vol.26で記載した居酒屋の税抜表示の事例もありましたが、2024年度はその1件だけで大きなトレンドとはなりませんでした。
また、2024年10月に施行された改正景表法で施行された確約手続きの最初の適用事例もありました。
以下では、処分事例について項目ごとに解説いたします。
ステマ規制について
ステルスマーケティングに関する規制が導入された初めての処分事例が2024年6月6日の医療法人に対する処分事例です。
インフルエンザワクチンの接種のために来院した者に対し、グーグルマップ内のプロフィールの口コミ投稿欄に「★5」「★4」の投稿をするとワクチンの接種費用を割引すると伝え第三者が投稿したものについて、ステマ規制が適用されるとして、処分されました。ステマ規制が適用されると、自社の広告である旨を記載しなければならず、それを怠ったとして処分された事例です。
クリニックに対するクチコミの中で、「グーグルの口コミして内容見せてくれたら更に500円引きと受付入ってすぐ説明され、あぁ星集めしたいのかと納得。」とも書かれており、SNSによる情報拡散の影響を感じさせる事案です。大々的に広告をしていなかったとしても、ネットですぐに情報拡散されることを前提に適切な表示を心がけることの大切さを感じます。
2025年3月18日にも、別の医療法人に対してステマ規制による処分がなされています。その事案は、★5評価をすると5000円分のQUOカードの提供や治療費の割引を案内していたという事案で、ステマ規制に該当し、事業者による広告にあたるとして処分されました。
2025年3月25日には、製薬会社がモニター募集サイトを通じて第三者に商品を無償で提供し、Instagramに指定方針に沿った投稿を依頼し、「“わたしも”使っています」「1日1粒だから続けやすい」「つるんと飲めるソフトカプセル」などの投稿を自社ウェブサイトにも掲載していて処分を受けています。
今回の処分事例で共通しているのは、事業者にとって都合のいい投稿をすることを見返りとしていることであり、投稿を促すだけではステマ規制に違反しない可能性はあります。ただし、事実上良い投稿を強制する場合はステマ規制に該当する可能性もあり、今後の処分事例を十分注視して適正な運用を学ぶ必要が高い領域ともいえます。
追加費用に関する説明不足
追加費用について説明がなされていないことによる処分事例もありました。
2024年5月30日の葬儀会社に対する処分事例では、「直葬」「火葬プラン77000円」などと表示していた事案で、実際には、個室料金や供花、仏具の料金が追加で発生するのに、そのことの表示がなかったとして処分されました。この事案では、実際に提供された実績のない「通常価格」の表示がなされており、いわゆる二重価格の問題でも処分を受けていますが、二重価格表示については後でまとめて説明いたします。
2025年3月21日の処分事例では、「立体マスク30枚3600円(税抜き)「本日の広告の有効期限5日間」などと表示していた事案で、実際には、送料や手数料を負担する必要があったり、広告掲載日から5日間を経過した後も、同じ条件で商品を購入できたことについて処分がなされました。
二重価格表記について
2024年度の処分事例の多数を占めるのがいわゆる二重価格表示です。
「通常価格●●円のところ、本日だけ半額の〇〇円」
と記載しているのに、「通常価格」とされる価格での販売実績がない、または、販売したのがだいぶ前であったという事案です。
上で記載している8週間ルールは、「通常価格」として表示することのできるルールをまとめたものですので、「通常価格」というような表記をする場合には、ぜひとも意識されてください。
資格に関する通信講座を提供する会社が
7/14 13:59まで 最大41%OFF!
夏得キャンペーン
通常価格59,500円 → 41,000円(税込)
などと表示していた事案で、通常価格の実績がないとして「有利誤認」として処分されました。
パソコンの販売に関する事案では、
WEB価格(税込)187,880円
キャンペーン価格(税込)148,425円
21%OFF(10月5日14時まで)
などと表示していた事案で、表示された期限後もキャンペーン価格やさらなる値引き後の価格で購入できたことで処分されています。
「通常価格」の表示に加えて、「期限」を定めている場合には、その期限が守られているかについても確認が必要です。
ネイリスト養成講座の提供を行っている会社が、
今だけ授業料50%割引!!
通常授業料701,800円(税込)
割引額350,900円(税込)
と表示していた事案で、「通常授業料」と称する価格は、最近相当期間にわたって提供された実績のないものであったとして処分されています。
「最近相当期間にわたって」という表示からは、過去のある時点では提供したことがあるのかもしれませんが、8週間ルールに即していなければ、過去に提供したことのある価格でも、比較に使用する「通常価格」として使用することはできませんので、8週間ルールの正しい理解が必要です。
他にも、家具等の販売を行う会社が、
通常価格:¥25190 10%税込
¥18590
などと表記をしていた事案について、ネットに掲載していた53商品について、最近相当期間にわたって通常価格で販売された実績がないとして処分を受けています。
単に、「販売価格1万円」と表示するよりも、「通常価格2万円のところを1万円」とした方が安いという印象を与えることができますし、「1週間限定価格」とすると、さらに急いで買わないといけないという消費者心理を煽ることができますが、そのような表示が適切になされていないと景表法違反に該当する可能性があるという点には十分注意が必要です。
その他の処分事例
その他、表示について合理的な根拠がないとして処分された事例も多数見られました。
香りで花粉をガード
貼るだけで燃費改善
二酸化塩素配合の除去・除菌成分が周囲に浮遊するウイルスや菌を除去します。
首にかけるだけで空間のウイルスを除去!
光触媒によりアレル物質を分解
ダニが逃げ出す
たった1プッシュでダニよけ効果約1ケ月
高めの血圧を下げる
中性脂肪を低下させる機能性取得
などといった表示について、表示の裏付けとなる合理的な根拠資料を求めたところ、いずれも資料が提出されなかった、もしくは、提出された資料が表示の根拠として不十分であるとして処分されています。
中でも、二酸化塩素によるウイルス除去については、
※使用環境によって効果が異なります。
とのいわゆる打消し表示をしていましたが、それによっても、消費者の商品の効果に関する認識を打ち消すものではないと判断されています。
2023年度は、二酸化塩素によるウイルス除去の製品に関する処分事例が相次ぎましたが、2024年度は1件のみとなっています。
また、いわゆる消費税の総額表示に関連する事案として、
生ビール 190円
ハイボール150円
などと、食べログやSNSの投稿に表示していた居酒屋に対して、表示された価格が税込価格として表示されていたにもかかわらず、実際には税抜き価格であったとして、処分がなされました。
消費税の総額表示に関する義務化がされた際に、総額表示を行わないことが有利誤認に該当する可能性が指摘されていましたが、総額表示に関する処分事例としては今回が初めてと思われます。
税込価格が明示されていれば、消費税額や税抜価格を併記することはできますので、表示を行う際には、どのような表示を行うか注意されてください。
電力会社に対する処分事例も複数ありました。
2024年5月28日の処分事例では、
「従量電灯A」よりも1年間で約1200円お得になる新コースです。電気のご利用量が比較的少なく、時間帯を気にせずに電気をご利用になりたいお客様(月平均ご利用電力量400kWh以下)におすすめです。
と表示していた事案で、月平均の使用電力量が400kWh以下の場合でも新コースが従量電灯Aよりも安価にならない場合があるとして処分されました。
また、
電気とガスのセット契約で「おトク」
と表示していた事案で、セット契約すると年間約6000円相当お得になるかのように表示されていたのに、実際には、ポイントサービスに加入して、毎月ログインしたり、毎週配信されるコラムを閲覧するなどしなければ付与されないポイントも含まれていた、としてセット契約のみで記載された金額相当分お得になるものではないとして処分されました。
ガスを提供する会社でも
〇〇ガスの一般料金をご契約中のご家庭で、毎月のガス使用量が16㎥を超える場合は、おトクになります。
と表示をしていたが、実際には、原料費調整単価を合わせると〇〇ガスよりも割高になるとして処分された事例もあります。
確約手続きについて
2024年度は、初めての確約計画の認定も行われました。パーソナルジムが、無料体験当日に入会した場合に限り、通常5万円の入会金が値引きされるように表示をしていたが、実際には期限後も値引きをしている事例があったというものについて、
① 同様の行為を行わない旨を取締役会で決議すること
② 被疑行為の内容について一般消費者に周知徹底すること
③ 被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止す
るための各種措置を講じること
④ 被疑行為を行っていた期間に入会した一般消費者に
対し、支払われた入会金の一部を返金すること
⑤ 前記①から④までの措置の履行状況を消費者庁に報告すること
を条件として確約計画が認定されました。
今後確約手続きを利用する際に参考になる事例です。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。