今回はM&Aの中でも株主や関連会社との関係について説明いたします。
株主や関連会社との関係は、M&Aの対象となる会社(対象会社)の利益を害する不当な契約がないかやこれまでグループ会社として様々な便益を図ってもらっていたが、そのようなものがなくなってしまい、事業継続に影響を与えないか、という観点での確認を行います。
不当な契約がないかの検討
関係会社等との取引を把握するために、対象会社に対して、関係会社との取引に関する契約書の提出を求めたり、ヒアリングにより確認を行うことがあります。
その際に、対象会社が関連会社に対して経営指導料を支払う契約があったり、関連会社のために保証人となっている、などといったことが発見される場合もあります。
対象会社がオーナー企業であったような場合には、オーナー兼代表取締役に対して多額の金銭消費貸借契約を締結している、というケースも見受けられますし、本社の不動産を株主が所有していて、対象会社に賃借しているというケースもあります。
このような場合には、当該契約の目的や内容などを慎重に確認し、継続の必要があるか検討を行う必要があります。
また、通常の売買取引などであっても、他の取引先と比較して関係会社を有利に扱っていることがないか、確認が必要となります。
確認した結果、合理性のないという判断がされた場合には、当該契約の解消や修正をクロージングの条件とするという対応が必要となることもあります。
いわゆるスタンドアローンイシューについて
上のような問題とは逆に、関係会社との間で対象会社の事業継続に必要な契約が締結されており、関係会社から様々な便益を受けているということもあります。
この場合、M&Aの実行により、これまで関係会社から受けていた便益を受けることができず、事業遂行に影響を及ぼすということもあります。
検討のポイントとしては、他の代替手段を導入するか、一定期間の間便益の提供をお願いするか(その取引条件をどのようにするか)、の判断を行うこととなります。
主にこのような問題が起きるのは以下の事項についてです。
- 管理部門
経理や財務、人事などを親会社が包括的に行っていた場合、対象会社の譲渡を受けても、管理部門については別途手当が必要になります。
また、買手企業の管理部門で担当するとしても、これまで対象会社のために使用していた会計システムや給与システムなどのシステム面をどのように移行させるか、といった問題が生じることもあります。
- 資産・資源の利用
関係会社から建物を無償又は有償で貸借されていた、などが典型的な場合ですが、関係会社が所有していたり、賃借していた不動産などを対象会社が利用していた場合、今後利用を継続させてもらえるのか、また、その条件はどのような内容にするのか、といった検討事項が生じます。
セキュリティ上の問題から関係会社でなくなった以上同一スペースの利用を倦厭されることもありますので、会社の移転も含めて検討しなければいけない場合もあります。
また、関係会社が有する知的財産権を利用して事業を行っていたような場合には、当該知的財産権の必要性を検討の上、関係会社からライセンスを受ける、又は当該知的財産権の譲渡を受ける、といった対応が必要となる場合もあります。
- グループ間取引
原材料の調達など、グループ間で共同して行っていた場合やグループ会社であるために関係会社との間でも有利な条件で取引を行ってもらえていたというような場合には、今後同一の条件での契約継続を望めない場合もあります。
そのような場合には代替手段を確保する必要がありますし、取引条件が従前より悪化する可能性を考えて、利益の想定などが下がることをありえます。
- 福利厚生等
年金や健康保険、各種福利厚生など、グループ会社であるために、従業員が享受していた利益については、M&Aの実行により享受できなくなることがあります。
このような場合には、従業員の士気に影響するだけでなく、法的にも労働条件の不利益変更に当たらないかという問題も生じますので、従前と同様の福利厚生の整備の必要性がないかという検討も必要となります。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
前回に引き続き、製造業で問題となる点をQ&A方式でご説明します。
3-1 下請事業者との契約
Q:下請法の適用対象について教えてください。
A:下請法が適用されるかどうかは、契約内容や資本金額によります。
Q:下請法上の義務、禁止行為は何ですか?
A:下請法上の義務として、①発注書面の交付義務、②支払期日(役務の提供から60日以内)を定める義務、③書類作成・保存義務、④遅延利息(年14.6%)の支払義務が挙げられます。
下請法上の禁止行為は、代金の減額、買いたたき(下請業者側に帰責事由がある場合を除く)、受領拒否、返本、不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(下請業者側に責任がある場合を除く)等が挙げられます。
※下請法については、過去のコラムでも取り扱っておりますので、そちらも併せてご参照ください。
3-2 金型の製造委託
Q:金型の製造委託において、どのような点に配慮すべきですか?
A:金型の設計について特許権や実用新案権、意匠権による保護を受けようとしても、複数の要件を備えることが必要となります。また、金型自体は市場に流通しないため、流通製品から金型構造を推測できても、最終的に特許権等侵害を立証することは困難です。
著作権についても、「文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第2条第1号)に相当するかはケースバイケースであるため、著作物と認められるかもケースバイケースということになりますし、金型やノウハウそのものは著作権の対象とはなりません。
したがって、知的財産権での保護はあまり現実的ではなく、不正競争防止法上の保護が受けられるように、ノウハウが含まれた金型図面等を営業秘密として管理することが考えられます。
Q:金型の製造委託について、発注企業側の留意点はありますか?
A:金型の製造を下請事業者に委託する場合には、下請法の適用があります。
金型図面などの無償提供その他図面開示の依頼をすることは、下請法に抵触するおそれがあるため、別途適切な対価を支払って買い取ったり、発注内容に金型図面などを含むことを明らかにする必要があります。
また、下請企業に対して、長期間にわたり実際にはほとんど使用しない金型を無償または相当な対価で保管させたり、当初想定していないメンテナンスなどを一方的な都合で行わせることも、下請法に抵触するおそれがあります。
中小企業庁でも、金型取引における下請法違反を問題視しているため、下請法違反には注意をしてください。
4-1 派遣労働者・偽装請負
Q:労働者派遣とは何ですか?
A:労働者派遣とは、派遣元と派遣労働者の間に雇用契約があり、派遣元と派遣先との間に締結される労働者派遣契約に基づき、派遣元が派遣先に派遣労働者を派遣し、派遣先は派遣元から委託された指揮命令の権限に基づき、派遣労働者を指揮命令するものです。
Q:派遣労働者を用いる場合の注意点はありますか?
A:派遣労働者を用いる場合には、派遣元企業が労働者派遣法上の許可を受けた事業者であることの確認をしましょう。
また、事業所単位と個人単位の派遣期間制限の管理を行うことも重要です。
事業所単位と個人単位の派遣期間制限は、いずれも3年が上限とされていますが、事業所単位は要件を満たせば更新が可能です。
Q:偽装請負とは何ですか?
A: 請負は一見すると労働者派遣と似ていますが、発注者と請負労働者の間に指揮命令関係がないという違いがあります。偽装請負は、形式的には請負契約ですが、発注者と請負労働者の間に指揮命令関係があり、実態としては、労働者派遣であるものを指します。
労働者派遣の場合には、労働者派遣法や関係法令により派遣先企業としての諸々の義務を課されることから、偽装請負を行う事業者が増えたという背景があります。
偽装請負と認められた場合じゃ、行政指導や勧告をはじめとする制裁を受けることになります。
Q:偽装請負とみなされないように注意すべきことを教えてください。
A:
①請負会社の労働者に直接業務に関する指示をしない
②業務時に着用する制服などは請負事業主に用意してもらう
③労働法令に基づく労働者に対する雇用主としての責任は請負事業主が負う
④業務遂行にあたり、発注者が所有する機械などを請負事業者に使用させる場合は、賃貸借契約を締結し、管理に関する責任分担を定めておく
といった点に注意してください。
4-2 不祥事対応
Q:会社に求められる不祥事対応を教えてください。
A:
①事実調査
証拠の確保、事実調査担当者の選定、ヒアリング、不正関与従業員に対する処分、第三者委員会の設置と公表などを行います。
②開示、公表、マスコミ対応
不祥事が発覚しても、直ちに開示・公表を行う義務は生じないのが原則です(上場会社の場合、役員・従業員による不正行為が適時開示事由に該当する場合があります。)
マスコミ対応を誤ると、不正行為の発覚以上に企業にレピュテーションリスクを増大させてしまうので、周到な準備と臨機応変な対応が求められます。
③取締当局や監督当局への対応
不祥事について自主的に当局に報告すべきか、いかなる報告内容とし、いかなる証拠を提出すべきかを検討します。ここでは、主張すべきことは主張しつつも、調査に全面的に協力し、証拠隠滅や調査妨害を疑われる行為をしないことが重要です。
④株主、監査法人などへの対応
対株主では、株主総会での質疑応答や個別問合せ、株主代表訴訟といった裁判に発展する可能性があります。
対監査法人では、不祥事の内容によっては上場廃止のリスクに直面しかねないため、有価証券報告書等の訂正等の処理が可能かどうかなどの確認をする必要があります。
Q:不祥事を予防するための取組みはありますか?
A:
①不正の芽の発見と対応
内部通報制度の仕組みを機能させる、業務改善を横展開する(同種のコンプライアンス違反が他の部署にも存在していないかのチェック)などを行います。
②コンプライアンスを重視する意識形成
経営層がコンプライアンスは重要であると口にしていても、普段からコンプライアンスを意識した行動をとっていないと、部下は経営層に忖度した態度をとり、コンプライアンスを意識しなくなるおそれがあります。
そこで、経営陣がコンプライアンスを重視した行動をとる、コンプライアンス違反事例を報告・共有するという意識を定着させるなどの取組みが必要です。
③不正の要因の解消
不正の機会、不正の動機、不正を正当化させる事情の3つが揃うと不正が起こるとされており、この3つは「不正のトライアングル」とも言われています。そこで、これらの3つの要因を解消することが重要です。
不正の機会の解消とは、不正を可能・容易にする客観的な環境をなくすことです。対策の例として、部署間の牽制や適宜の監査がなされるような体制とし、適宜の人材異動を実施するなどが挙げられます。
不正の動機の解消とは、従業員が不正行為をするしかないという考えにいたらないようにすることです。
例えば、売上目標・利益目標の達成や納期の遵守などについて従業員に過度のプレッシャーをかけないといったことです。
不正を正当化させる事情の解消とは、不正行為を正当化し、自ら納得させる事情(例:データを改ざんしても事故には直結しないから大丈夫、上司の命令だから…、長年このやり方でやってきたから…)をなくすことです。データ改ざんなどの不祥事は会社の価値を毀損し、取り返しのつかない結果を招くという認識や、上司の命令であってもコンプライアンスに反する場合は従ってはならないという認識を社内に定着させるといった取組みが効果的です。
4-3 ESG
Q:ESGって何ですか?
A: ESGとは、「Environment(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(企業統治)」の3つの頭文字をとったものです。
国際社会で極めて大きな存在を占める企業が環境問題などを意識し「持続可能な成長」を行わなければ社会全体の持続的な発展・成長はないという強い問題意識に基づくものであり、これはSDGsにも共通します。
ESGやSDGsの課題に対応できていない企業であると判断された場合は、海外の大企業から取引を制限されてしまったり、投資家からネガティブな評価を受け、株価が下落するといったリスクがあります。
メーカーにとっての個別のコンプライアンス課題としては、紛争鉱物規制、奴隷労働・人身売買などの禁止といった規制が挙げられます。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。