会社組織及び株式に関する事項の調査は、法律上問題がある場合にはそもそも取引の対象である会社や株式が存在しないという事態が生じ得るため、基本的な事項ではあるものの、外せない調査事項です。
設立関係
- 対象会社の設立が法令上の手続に従ったものであるか、
- 定款で変態設立事項(現物出資、財産引受等)が定められた場合には、これについて必要とされる検査役の調査の実施の有無(又は当該調査が不要とされるための要件の充足性)
を調査します。対象会社の設立の有効性を確認するものであり、重要な調査になります。
ただし、株式会社の設立の無効を主張するには、設立無効の訴えの手続によらなければならないため(会社法828条1項1号)、対象会社成立の日から2年が経過しており、かつ、成立の日から2年以内に対象会社に対して設立無効の訴えが提起されていない場合には、対象会社の設立手続に瑕疵があっても、原則として、対象会社の設立が無効とされることはありません。
定款及び社内規則
定款は、会社の機関及び運営等の基本的な事項を定めたものです。
定款については、
- 定款の記載内容の会社法その他の法令との適合性
- 想定されている取引の実行を妨げる重大な問題又は取引実行にあたって手続上留意すべき規定の有無
- 取引の実行前又は取引実行と同時に変更されるべき規定の有無
を調査します。
特に想定する取引の形態が株式譲渡の場合には、上記②③に関し対象となる株式に関する定款上の譲渡制限の有無や対象会社の目的及び発行可能株式総数がポイントとなります。また、一般的に取引実行後に対象会社の役員の変更を実施することが多いことから、必要に応じて役員の人数の変更や責任制限規定の導入等も検討対象となります。
なお、対象会社によっては、定款の下位規則にあたる取締役会規則等の各種社内規則が制定されていることがあるため、適宜、同下位規則も調査する必要もあります。
商業登記簿謄本
各会社の商業登記簿謄本を通じ、対象会社が発行する株式の種類及び数、株式に関する譲渡制限の有無、株式発行会社か否か、新株予約権等の発行の有無及び権利の内容、対象会社の役員、取締役会設置会社等の対象会社の組織形態等の基本的な情報を把握します。
ここでの重要なポイントは、登記申請義務の懈怠等を原因に、登記簿謄本の記載が最新の対象会社の情報を反映していない場合があり、例えば譲渡制限株式会社に変更していたのにその旨を反映していなかった等の事情があり得るということです。
このため、商業登記簿謄本を検討するにあたっては、対象会社の株主総会議事録等の調査を通じ、その整合性を確認することが重要です。
また、対象会社株式の譲渡履歴等を検討する前提として、株式の発行履歴を確認することもあります。そのような場合には、現在の時点における商業登記簿謄本又は履歴事項全部証明書にとどまらず、過去の登記事項を確認するために閉鎖登記簿謄本を取得することもあるでしょう。
ただし、登記簿謄本には保存期間(閉鎖日から20年間)があることに留意が必要です。
法令上の会議体の議事録
株式会社には株主総会議事録、取締役会議事録等の会議体の議事録を保存する義務があります。
これらの検討のポイントは、
- 対象会社の行為について、法令、定款又は社内規則に従った決議の有無
- 各会議の開催手続及び決議内容の法令、定款又は社内規則違反の有無
- 事業上重要な財産の処分、事業上重要な取引契約の締結の有無及び係属中の紛争の存在その他対象会社の事業又は買主の想定する事業計画の実行に影響を及ぼす重大な決議の有無
です。
当該調査を通じ、法令等の違反が判明した場合には、対象会社の会社組織、決議の経緯、内容等の個別具体的事情に照らして当該行為の有効性を判断することになるため、その判断には専門的な協力が必要となります。
株式及び株主に関する書類
前述の資料に加え、株主名簿及び新株予約権原簿等を通じて、発行されている株式の権利内容(種類株式の有無、内容)、譲渡制限の有無、株式を発行する定めの有無及び発行済み株式数等を調査されていること、及び、発行済株式が、法令上必要な手続に履践して有効に発行されていることを調査します。
当該調査を通じ、株主構成、質権や譲渡担保権等の担保権設定、新株予約権等の潜在株式の有無等を確認します。株主構成は対象会社の意思決定に影響を与えるという点で、M&Aにとっては、非常に重要な調査事項であり、表明保証で済まさず、根拠資料に照らし正確に確認することが必要です。
なお、実務上、法務DD期間中にも、新株予約権の発行等、株主構成に影響を及ぼす事情が生じることもあるため、株主構成には細心の注意が必要です。
株主間契約その他の株主との契約
対象会社が、他の株主との間で株主間協定書を締結しており、かつ、同契約に、他の契約当事者の同意なく対象会社の株式を譲渡することができないと規定されている場合があります。
このような規定がある場合には、想定される取引が阻害されるおそれがあるため、これらの規定による想定する取引の阻害可能性の有無、及び当該規定に従って当該取引を実行するために必要な手続の履践の有無、確認する必要があります。
まとめ
以上のとおり、法務DDでは、商業登記簿謄本等の公開情報に加え、対象会社から開示を受ける情報を確認することを通じ、対象会社の実態を明らかにします。
対象会社の存在及び組織構成、株主構成は、想定される取引を断念させかねないものであるため、基本的な内容であるものの、違反した場合の有効性判断等、法的な知識が必須となる調査事項となります。法務DDを実施される際には弁護士等の外部の専門家に依頼されることを強くおすすめします。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
これまでのコラムでは景品表示法が表示行為についてどのような規制をしているのかについて説明をしてきました。
今回は、景品表示法に違反した場合にどのようなことになるのかということについて説明したいと思います。
措置命令
景品表示法に違反する不当な表示がなされた疑いがある場合、消費者庁は関連資料を収集を行ったり、事業者に対する事情聴取などの調査を行うことができます。
そして、その調査の結果、景品表示法に違反していると認められた場合は、事業者に対して弁明の機会を付与した上で、不当表示によって一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命じる措置命令を出すことができます。
措置命令では、一般的に、違反行為の差し止めが命じられるほか、一般消費者の誤認排除のための新聞広告、再発防止策の策定、同様の行為の禁止、措置命令に対する対応についての消費者庁への報告などが命じられます。この命令に違反した場合には、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金という罰則が定められています。
新聞の掲載については、日刊新聞2紙以上に社告を掲載するのが通常であり、この新聞掲載費用だけでも数百万円単位の支出になるとも言われています。
都道府県知事による措置
また、違反行為を迅速、効果的に規制できるようにという観点から都道府県知事も措置命令をするために必要があるときは、報告命令、立ち入り検査等を行って必要な調査を行うことができるとされており、その結果、違反行為があると認められるときは、事業者に対して行為の取りやめや再発防止に必要な事項を命じることができるものとされています。
課徴金制度
平成26年11月の景品表示法の改正によって、課徴金の制度が導入されました。
具体的には、景品表示法において定められている不当表示の類型のうち告示によって指定される不当表示の類型を除き、課徴金を賦課するものとされており、優良誤認表示行為及び有利誤認表示行為が対象となります。
不実証広告規制にかかる表示行為については、課徴金との関係では、一定の期間内に当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出がない場合には、当該表示を不当表示と「推定する」(後から争える)という規定となりました。
細かいところですが、措置命令との関係では、不実証広告規制は「みなす」(後から争えない)という規定になっています。
これは、不実証広告規制に基づく資料提出期間を過ぎた後であっても、後から合理的な根拠を示す新しい資料が備わった場合には、課徴金との関係では、推定規定であるため、優良誤認表示に該当することについて争えるようにしているため、文言の違いが生じています。
課徴金の額
課徴金の金額は、対象商品・役務の売上額に一定の割合をかけることによって算定するものとされており、算定率は3%とされています。
対象期間として遡れる期間は3年間されています。また、事業者が違反行為であることを知らないことについて相当の注意を怠った者でないと認められるときには課徴金を賦課しないともされています。算定した金額が150万円未満の場合には、規模基準によって課徴金は賦課されません。
除斥期間としては、当該違反行為をやめてから5年経過したときには、課徴金を賦課しないものとされているほか、自主的に違反行為を申告した場合には課徴金の2分の1を減額するという制度もあります。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
有利誤認
有利誤認とは、
商品又は役務の価格その他の取引条件について、
① 実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
② 当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
を指すとされています。
たとえば、他社商品と同じくらいの容量しかないのに、他社商品の2倍の容量と表示することなどがこれにあたります。
「価格その他の取引条件」とは、商品又は役務の内容そのものを除いた取引に関わる条件をいい、価格・料金のほか、数量、支払条件、取引に付随して提供される景品類、アフターサービス等が含まれるとされています。
また、「有利であると一般消費者に誤認される」とは、たとえば価格表示を例にすると、当該表示によって販売価格が実際と異なって安いという印象を一般消費者に与えることをいいます。
実際の処分例では、肉の日で当日表示価格より半額、という表示をしていたものについて、肉の日は通常日よりも表示価格を高く表示していたため、通常の半額よりも高い金額で販売していたという事案やメーカー希望小売価格が存在しないにもかかわらず、メーカー希望小売価格とする金額を表示して大幅に割引されているような表示をしたものなどがあります。
価格表示ガイドライン
有利誤認の最も典型的なものは価格表示に関するものですので、公正取引委員会が、価格表示ガイドラインというものを公表して、どのようなものが景品表示法上問題となるおそれがあるかについて明らかにしています。
一般的には、以下のような価格表示は問題になりうるので注意が必要です。
① 実際の販売価格よりも安い価格を表示する場合
② 販売価格が、過去の販売価格や競争事業者の販売価格等と比較して安いとの印象を与える表示を行っているが、例えば次のような理由のために実際には安くない場合
ⅰ 比較に用いた販売価格が実際と異なっているとき
ⅱ 商品又は役務の内容や適用条件が異なるものの販売価格を比較に用いているとき
③ その他、販売価格が安いとの印象を与える表示を行っているが、実際は安くない場合
二重価格表示
価格表示で問題となることが多いのが二重価格表示です。
価格表示ガイドラインにおいて、二重価格表示とは、「事業者が自己の販売価格を当該販売価格よりも高い他の価格を併記して表示するもの」と定義されています。
たとえば「当店通常販売価格550円のところ、本日限り、220円」と記載する場合などがその例です。
比較対象となる価格が表示されることで一般消費者の選択に資する面がある一方で、その価格表示が適切になされないと一般消費者に誤認を生じさせるという側面も持つため、適正な表示がなされることが求められます。
では、適正な表示といえるためには、どのようなことに注意すればいいでしょうか。
まず、比較対象として使用する価格について、最近相当期間にわたって販売されていたと価格といえない場合には、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格である等その内容を正確に表示しない限り不当表示に該当するおそれがあるとされています。
このように、比較対象となる価格の内容を正確に書くことでの例外対応もありえますが、販促活動の一環として比較対象となる価格を表示する場合には、そのような細かい内容を記載する例は少ないといえますので、最近相当期間にわたって販売されていた価格といえるためにはどのようにすればいいのか、という点が事業者としては気になるはずです。
これについて価格表示ガイドラインの考え方をまとめると、
① セール開始時点からさかのぼって8週間について検討をする
(販売期間が8週間未満の場合は当該期間について検討をする)
② 比較対象として用いたい価格での販売期間が、①の期間の過半を占めていること
③ セール開始時点の2週間前までに比較対象として用いたい価格で販売していること
という条件を満たす必要があります。
また、よくある相談として、「オープン特別価格」のような形で、販売実績がないが、その後の想定される通常価格との比較を行うことができるのか、という相談を受けることがあります。これについて価格表示ガイドラインは、将来販売価格を比較対象価格とする場合について、将来の価格設定は将来の不安定な需給状況などに応じて変動するものであることから、将来の価格として表示された価格で販売することが確かな場合以外においては適切でないとしています。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。