⑷保護期間
㋐著作権
著作権の保護期間は、原則として、著作者が著作物を創作した時点から著作者の死後(死亡の翌年の1月1日から)70年を経過するまでです(著作権法51条、57条)。
例えば、著作物が1950年4月1日に創作され、著作者が2010年3月31日に死亡した場合の著作権の保護期間は、1950年4月1日から(2011年1月1日の70年後の)2080年12月31日までとなります。
なお、無名または変名の著作物や団体名義の著作物、映画の著作物の保護期間は、著作物の公表後70年が経過するまで著作権が存続します。
㋑著作者人格権
著作者人格権の保護期間は、著作者が著作物を創作した時点から著作者が死亡するまでです。
著作権の保護期間にズレがあるのは、著作者人格権は、著作者の一身に専属する権利であるからです(同法59条)。
これまで、著作権は著作者に帰属すると説明しましたが、職務著作はその例外です。
著作権法15条1項では、法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約等に別段の定めがない限り、その法人等とする旨が規定されています。
職務著作の要件
従業者が創作した著作物が職務著作と認められるためには、以下の①~④を全て満たす必要があります。
①法人等の発意に基づくこと
会社の指示とは関係なく従業者が創作した著作物は、職務著作には該当せず、原則どおり当該従業者が著作者となります。
②会社の業務に従事する者が職務上作成するものであること
従業者が業務とは関係なく趣味で創作した著作物は、職務著作には該当せず、原則どおり当該従業者が著作者となります。
③法人等が自分の名義で公表すること
未公表のものであっても、法人等の名義での公表が予定されているものや、公表される場合には法人等の名義で公表されるべきであるものについては、この要件を満たすと考えられます。
④契約等に別段の定めがないこと
契約等で著作者は当該著作物を創作した従業者である旨の定めがある場合には、①~③を満たしていても、当該従業員が著作者となります。
著作権法27条及び28条
契約書に、「著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を〇〇に譲渡する」という記載がよくありますが、このような規程を定めるのは、著作権法61条2項の規定があるからです。では、同法61条の規定を見てみましょう。
第61条
1 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
このように、同法61条2項によると、著作権を譲渡する場合に、同法27条又は28条の権利を譲渡目的として記載しなければ、これらの権利は譲渡されません。
同法27条は、二次著作物を創作する権利であり、同法28条は二次的著作物の利用に関する権利であるため、これらの権利を譲渡してもらわなければ、譲受人は二次的著作物の創作や利用ができず、著作物の利用が大幅に制限されてしまいます。
このような理由で、「著作権法第27条及び第28条の権利を含む」という文言が必要となります。
著作者人格権の不行使特約
前述したとおり、著作者人格権は著作者の一身に専属する権利であり、他人に譲渡することはできません。
そこで、著作者が著作物を譲渡する場合、著作者は著作者人格権を行使しないという不行使特約を設けることは多いです。
契約書の文言
以上のポイントを踏まえて、実際の契約書を見てみましょう。この文例は、委託者有利の業務委託契約書です。
第〇条(権利の帰属)
1 本委託業務の遂行の過程で得られた発明、考案、意匠、著作物その他一切の成果に係る特許、実用新案登録、意匠登録等を受ける権利及び当該権利に基づき取得する産業財産権並びに著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条に定める権利を含む。)その他の知的財産権(ノウハウ等に関する権利を含む。)は、全て発生と同時に委託者に帰属する。この場合において、受託者は、委託者に権利を帰属させるために必要となる手続を履践しなければならない。
2 受託者は、委託者に対して、本委託業務の遂行の過程で得られた著作物に係る著作者人格権を行使しない。
3 委託者及び受託者は、前二項に定める権利の帰属及び不行使の対価が委託料に含まれることを相互に確認する。
他人の著作権を侵害した場合には、侵害した者には以下の問題が生じます。
①差止請求
著作権者は、著作権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止や予防等を請求することができます(著作権法112条)。
差止請求を受けた場合は、侵害行為に関連する商品等の回収を強いられるため、会社の業績に多大な影響を及ぼします。また、レピュテーションリスクも生じ得ます。
②損害賠償請求
著作権侵害行為をした場合、著作権者が損害賠償請求をするおそれがあります(民法709条)。
この場合、損害額の推定規定が設けられているため(著作権法114条)、著作権者の立証責任が軽減されます。
③刑事罰
著作権侵害をした者には、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が科されます(著作権法119条1項)。
このように、著作権侵害には多大なリスクがあるので、他者の著作権を侵害しないように気を付けましょう。
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著作権とは、著作物の利用に関して著作物を創作した者に認められた権利のことで、著作権法にルールが定められています。著作権は特許等とは異なり、審査を経ずとも創作時から自動で発生する点がポイントです。
⑴著作物の定義
「著作物」とは、①思想又は感情を②創作的に③表現したものであって、④文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法2条1項1号)。
「著作物」と聞くと、小説や曲、映画等を想像するかもしれませんが、舞踊や建築、プログラム等対象になるものは多岐にわたります(同法10条1項各号)。
⑵著作者人格権
(広義の)著作権は、(狭義の)著作権と著作者人格権に分類することができます。
著作者人格権は、著作者の人格的な利益を保護する権利で、㋐公表権、㋑氏名表示権、㋒同一性保持権の3つに分類することができます。
なお、著作権は譲渡することができますが、著作者人格権は著作者の一身に専属する権利であるので、他人に譲渡することはできません(同法59条)。そのため、契約書の記載でも配慮が必要です。
㋐公表権(同法18条)
公表権とは、未公表の著作物(著作者の同意を得ずに公表されたものを含む)を公表する権利です。簡単にいうと、著作者が、自分の著作物を公表するかしないかを決めることができる権利のことです。
㋑氏名表示権(同法19条)
氏名表示権とは、著作物の原作品または著作物の公衆への提供・提示に際し、著作者名を表示するかしないか、表示する場合はどのような著作者名を表示するかを決めることができる権利です。著作物を公表する場合、本名でもペンネームでもよいですし、著作者名を付けなくても問題ありません。
一方で、著作者以外の者が著作物に表示されている氏名表示を許可なく変更したり、削除したりして公衆に提供・提示をすると、氏名表示権侵害となります。
㋒同一性保持権(同法20条)
同一性保持権とは、自身の著作物やその題号の同一性を保持し、著作者の意に反して許可なくこれらを変更したり改変されたりされない権利です。
送り仮名の変更、読点の切除、「・」を「、」への変更、改行の省略をした場合でも、同一性保持権侵害となりますので、注意してください(東京高判平成3年12月19日)。
⑶著作権に含まれる権利
著作権には、以下に列挙する権利が含まれています。著作権者は、これらの権利によって保護された行為を独占的に行ったり、これらの行為を第三者に対して許諾することができます。
① 複製権(同法21条)
著作権のコピーを作成する権利
②上演権・演奏権(同法22条)
著作物を公に上演し、または演奏する権利
③上映権(同法22条の2)
著作物を公に上映する権利
④公衆送信権・公衆伝達権(同法23条)
著作物をテレビやインターネット等で公に送信する権利
⑤口述権(同法24条)
言語に関する著作権(詩、小説等)を公に読み聞かせる権利
⑥展示権(同法25条)美術の著作物または未発行の
著作物を、オリジナルによって公に展示する権利
⑦頒布権(同法26条)
映画の著作物を複製物によって頒布する権利
⑧譲渡権(同法26条の2)
映画の著作物を除く著作物を、公に販売等の方法で提供する権利
⑨貸与権(同法26条の3)
映画の著作物を除く著作物を公に貸出しできる権利
⑩翻訳権、翻案権等(同法27条)
著作物を翻訳・編曲・変形・脚色・映画化し、二次的著作物を創作する権利
⑪二次的著作物の利用に関する原著作権者の権利(同法28条)
原著作物を基に創作された二次的著作物につき、原著作者が保有する権利
特に、⑩、⑪は契約書レビューの場面で重要となる権利です。詳しくはその2で解説します。
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