法務DDのプロセス
法務DDを行う場合は、おおむね以下のようなプロセスとなります。
(事前にM&Aのスキームについて相談を受けることも)
① 関係者での事前協議・キックオフ会議
② 対象会社に対する資料の請求
③ 開示された資料の確認、QAシートの作成
④ 現地でのQAの確認、資料の確認
⑤ 追加の資料請求、QAの実施
⑥ 法務DDの報告書の作成、報告
① 関係者での事前協議・キックオフ会議
まず、M&Aの対象となる会社(「対象会社」という言い方が一般的に使用されます。)の概要やM&Aのスキーム(株式譲渡なのか、事業譲渡なのかなど)についての確認を行います。
この際、買主候補が対象会社のどこに魅力を感じているのか、についての確認が重要です。
たとえば、対象会社が持つライセンス権などが重要であれば、M&Aを実行した後にライセンス権が承継されるのかどうかが非常に重要な検討事項となりますし、経営者のカリスマ性が魅力であれば、M&Aの実行後も引き続き経営に携わってもらえるのか、後継者候補をどのようにするのかなど、法務DDの重点ポイントの確認やその後の契約での誓約事項(○年間は代表取締役を継続するなど)の設定で非常に重要な意味をもちます。
その後、キックオフ会議を行い、買主候補や他のDD担当の専門家を交えて相互の懸念点の共有などをすることもあります。対象会社を訪問する日時が重なるときなどはヒアリング時間などの調整が必要となることもありますし、専門家相互の確認事項を共有したりします。
② 対象会社に対する資料の請求
キックオフ会議の前後に、対象会社に資料を準備してもらうために、資料請求リストを作成しますが、資料請求リストを準備するにあたって、対象会社のビジネスモデルに対応した内容で作成することが重要です。
資料請求リストを作成したら、対象会社担当者との間で資料請求リストの内容について説明をします。担当者へ説明することで、担当者は的確な書類を準備することができ、DDを具体的にイメージできるようになります。
③ 開示された資料の確認、QAシートの作成
開示資料を確認した後、開示資料からは確認できない情報や疑問点を明らかにするために、対象会社の役員及び従業員に対するQAシートを作成します。
QAをする目的は、対象会社のリスクを洗い出すことにあり、具体的にはその内容をまとめた報告書を作成することとなりますので、QAシートの作成時には、報告書に記載すべき内容をイメージしながら、そのために何を確認すべきかを逆算しながら質問事項を考えていきます。
④ 現地でのQAの確認、資料の確認
その後、開示された資料を精査したうえで、質問事項について実務上十分な知識を有している者に対してQAを行います。
そのために、どの質問をどの方に質問するのが良いのか、という点を事前に対象会社の中でも検討しておいてもらう必要があり、それをもとに担当者ごとのヒアリングの時間を考えていきます。特に、他の専門家と同じタイミングでQAを実行する場合には、同じ担当者へのヒアリングの時間が重複しないように、調整が必要となることもあります。
⑤ 追加の資料請求、QAの実施
③で開示された資料や④のQAの結果を踏まえて、新たに判明した事実についての調査など、追加で開示が必要な資料をリストアップしていきます。
また、④でQAを行った後には、QAの結果を具体的に報告書に落とし込んでいきますが、報告書作成の過程でも不明瞭な内容が出てきたり、追加で質問したい事項が出てきたりすることがあります。
そこで、追加で質問したい事項をQAシートにまとめ、再度QAを行います。
場合によっては、確認事項がわずかであったり、速やかに確認したいなどの理由により、担当者にメールや電話などで直接確認することもあります。
⑥ 法務DDの報告書の作成、報告
①から⑤の過程を経て、法務DD実施結果を報告書にします。報告書の分量は、会社の規模によって異なりますが、買主候補は報告書の内容をもとに方針を決定するため、対象会社の問題点とその分析だけでなく、それらの対応策についても記載することが求められます。
報告書を作成した場合であっても、買主候補に口頭で報告する機会を設けることが多いです。報告の機会を設けることで、買主候補に対して法律問題を補足説明することが可能になりますし、買主候補の法務DDの結果に対する理解を深めることも可能となります。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
1 Eコマースに関連する法律について
Eコマースについて関連する法律は、特定商取引法、特定電子メール送信適正化法、景品表示法、個人情報保護法、薬機法、消費者契約法、資金決済法など多岐にわたります。
事業者は、これらの法律を意識しながら、利用規約やプライバシーポリシーを作成したり、商品の広告表示等を行ったりする必要があります。
2 利用規約について
⑴ 総論
利用規約とは、サービスの提供者と利用者との間で、サービスを利用するにあたってのルールを定めるものです。サービスに利用登録するときに、利用規約に同意するというチェックボックスをクリックしたことがあるのではないでしょうか。
この利用規約で定めるべき主な内容としては、以下の①から⑦があります。
①個人情報の取扱い
②利用料
③禁止事項
④知的財産権の帰属
⑤サービスの変更、終了
⑥規約の変更
⑦分離可能性
これらの内容や留意すべきポイントについて、以下では簡単にご説明します。
⑵ 記載事項の留意点
ア 個人情報の取扱い
サービスの提供者は、サービスを提供するにあたり利用者から個人情報を取得します。利用者から取得する個人情報の取扱いについては、後記のプライバシーポリシーに定めることが多いですが、プライバシーポリシーに基づいて個人情報を取扱うことを利用規約に定めることが一般的です。
イ 利用料
料金や支払方法について利用規約で定めておくことで、利用料に関する紛争を防止することができます。
利用者が利用料金の支払いを遅延した場合、年14.6%の遅延損害金を支払うとの規定が多いですが、この14.6%という料率は、消費者契約法で有効であると認められている上限ですので、消費者と事業者の取引を予定している場合には、遅延損害金の料率に注意してください。一方で、事業者同士での取引では消費者契約法は適用されませんので、14.6%を超える料率を定めることは可能です。
ウ 禁止事項
禁止事項には、サービス提供者や他の利用者に損害を与える行為や他者の権利を侵害する行為など、サービスを提供するにあたって禁止したい事項を具体的に記載しておきましょう。このとき、禁止したい事項は一般的な事項だけでなく、提供するサービス特有の禁止事項を網羅的かつ具体的に記載し、禁止事項に該当する行為を行った利用者に対しての措置を定めておきましょう。そうすることで、不適切な行為を行う利用者に対して迅速に対応することが可能になります。
しかし、サービス提供開始後に禁止したい事項が生じることも十分に考えられますので、随時見直していくことが重要です。
また、「その他、当社が不適切と判断する行為」という条項を設けることで、禁止事項のいずれに該当しない場合でも、自社の判断で不適切な行為を行う利用者に対する措置をとることが可能となります。
もっとも、このような条項に頼りすぎると、かえって禁止事項が不明確になるため、想定できる禁止事項は明示するようにしましょう。
エ 知的財産権の帰属
知的財産権は、取り決めがない場合には、創作・発明した本人に帰属しますが、知的財産権をめぐるトラブルを事前に防ぐため、サービス提供者に帰属すると定めるのが一般的です。
ただし、Eコマースに関する利用規約ではありませんが、利用者が投稿した内容についても、著作権が全てサービス提供者に帰属すると定めたことで、炎上を招いた事例もありますので、著作権の帰属については注意が必要です。また、利用者の投稿が第三者の権利を侵害しており、事業者が権利者から責任を問われるおそれもあるので、そのような事態をできるだけ回避するため、利用者は第三者の権利を侵害していないことについて表明保証するといった条項を定めることも考えられます。
オ サービスの変更、終了
サービスの内容を変更する可能性がある場合は、利用者からの苦情を防ぐために、サービス提供者が通知なくサービスの停止や変更ができると定めておきましょう。
もっとも、利用者が有償でサービスを利用している場合、サービスの終了により利用者の権利が侵害されるおそれがあるので、サービスの終了は慎重に判断することが重要です。
カ 規約の変更
規約を変更する際には、全ての利用者から同意を得ることが理想ですが、そのような対応は現実的ではありません。そこで、利用者から同意を得る手段として、変更した後に利用者がサービスを利用した場合に、規約の変更に合意したものとみなしますなどと言う文言を入れることが多いです。もっとも、突然に規約を変更するとトラブルが発生するおそれがあるので、規約の変更について通知を行い、一定期間経過後に変更をするとよいでしょう。
また、民法548条の4の規定に基づき、利用者の利益に資するような変更や、定型約款の変更が契約の目的に反することなくかつ変更内容が合理的である場合には、サービス提供者は利用者と個別の同意を得ることなしに、規約の変更をすることができるので、この点も併せて注意してください。
キ 分離可能性
利用規約の内容が消費者契約法等に抵触し、一部が無効になるというようなことがあります。そのような場合であっても、他の条項は無効にならないということを定めておくと安全です。
3 プライバシーポリシーについて
⑴ 総論
プライバシーポリシーとは、企業が個人情報の取得や利用などに関するルールを消費者に明示するものです。通常はホームページなどに記載をして、一般の人が確認できるような状況にしています。
このプライバシーポリシーで定めるべき主な内容としては、以下の①から⑫があります。
① 個人情報の定義
② 利用目的
③ 個人情報の管理
④ 個人情報の取扱いの委託
⑤ 個人情報の共同利用
⑥ 個人情報の開示
⑦ 個人保有データの訂正等
⑧ 個人情報の利用停止等
⑨ プライバシーポリシーの変更手続
⑩ 安全管理措置
⑪ 会社住所・代表者氏名・個人情報保護管理者
⑫ お問い合わせ窓口
以下では下線を付した項目について、その内容や留意すべきポイントについて簡単にご説明します。
⑵ 記載事項の留意点
ア 個人情報の定義
プライバシーポリシーに定める個人情報の定義は、個人情報保護法の定義に合わせるのが一般的です。最近の個人情報保護法の改正で定義の条文の番号が変わりましたので、既にプライバシーポリシーを定めている事業者の方は、自社のプライバシーポリシーが改正に対応しているかご確認ください。
イ 利用目的
利用目的は各会社で個人情報を利用する目的によって具体的に記載をする必要があります。本人の同意を得ずに、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を扱うことや、自由に利用目的を変更することも認められません。そこで、将来の利用目的も考慮したうえで、利用目的をできる限り具体的に特定することが重要です。
たとえば、ECサイトの場合であれば、サービスの提供やアンケートキャンペーンの実施等商品の販売だけではなく、その周辺部分についても情報発信できるように利用目的を定めておくとよいでしょう。
ウ 個人情報の取扱いの委託、個人情報の共同利用
個人情報の取扱いの委託と共同利用は混同しやすいので、まとめてご説明します。
事業者が個人情報の取扱い業務を委託する場合や、個人情報を共同利用する場合には、利用者本人の同意を得ないで個人データを提供することができる場合があります。事業者は、個人情報を委託したり共同利用をしたりする場合には、その旨を明示しておきましょう。
もっとも、個人情報を共同利用する場合には、ⅰ共同利用をする個人情報の項目、ⅱ共同利用する個人情報の範囲、ⅲ共同利用する者の範囲、ⅳ個人情報の管理について責任を有する者について記載をし、個人情報を共同利用することについて本人が容易に知り得る状況にしておく必要があります。
エ 安全管理措置
個人情報保護法では、保有個人データの安全管理のために講じた措置を本人の知り得る状態に置くことが求められています。安全管理措置については、近時の改正で追加された部分で、古いプライバシーポリシーのままだと入っていないことが見受けられますので、注意してください。
4 特定商取引法について
⑴ 総論
特定商取引法とは、消費者を事業者による違法または悪質な勧誘から守るための法律です。Eコマースは通信販売にあたるため、この特定商取引法が適用されます。
特定商取引法では、広告の表示について明示しなければいけない事項が定められていたり、誇大広告が禁止されていたりします。
以下では、広告の表示事項についてご説明します。
⑵ 広告の表示事項
特商法が定める事項の表示が義務付けられるのは、販売業者等が通信販売をする場合かつ商品や特定権利の販売条件や役務の提供条件の広告をする場合です。義務付けられる表示内容のうち、重要な項目についてご説明します。
ア 商品の販売価格、サービスの対価
販売価格については、商品そのものの価格やサービスそのものの対価について表示します。事業者が利用者から消費税を徴収する場合には、消費税を含んだ価格を記載しましょう。
送料については、販売価格に商品の送料が含まれていない場合には、送料を別に表示しなければなりません。送料は金額で表示しなければならず、「送料実費」等の不明確な表示をすることは認められません。しかし、送料は配送地域や送付物の大きさ等によって細かく区分されているため、利用者に必要な送料が明確に推計できるような表示をすることも可能です。
イ 商品の代金、サービスの対価の支払時期及び方法
代金の支払時期は、利用者が支払を済ませる具体的な時期のことです。また、支払方法とは、「代引き」や「クレジットカード払い」等のような具体的な支払方法のことで、支払方法は全て表示しなければなりません。
ウ 商品、特定権利の売買契約の申込みの撤回及び解除に関する事項
申込みの撤回、契約の解除に関する事項は、通信販売の広告をする場合には、必ず表示をするべき事項です。
事業者が任意に定める返品特約について、特約がある場合にはその内容を表示しなければなりません。そのため、返品を認めない場合や条件付で返品に応じる場合には、それぞれその旨を明示する義務があります。
また、返品特約以外にも、事業者の債務不履行等の責任について特約を定めている場合には、それらについても表示するようにしましょう。
エ 事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号
事業者が個人である場合には、戸籍上の氏名及び民法の原則に従って住所と解される所番地を表示します。
事業者が法人である場合には、登記簿上の商号及び登記簿上の本店所在地を表示します。
オ 法人の通販業者の代表者又は通信販売業務の責任者の氏名
電子商取引で広告を行う場合には、法人の通販業者の代表者又は通信販売業務の責任者の氏名を表示しなければなりません。「代表者」とは、法人の代表兼を有する地位にある者を指し、「通信販売に関する業務の責任者」とは、その法人の内部で通信販売業務を取り扱っている部署の責任者を指します。
カ 申込みの有効期限
利用者からの購入申込みの有効期限を定めた場合には、そのことについて明示しなければなりません。
キ 販売価格、送料等以外に利用者が負担すべき金銭の内容及びその額
利用者に対し、商品の販売価格又はサービスの対価及び送料以外に、組立費や設置費等の費用の負担を求める場合には、それらを具体的に特定し、金額で表示することが必要です。
ク 契約不適合責任に関する特約
契約不適合責任について民法の規定と異なる条件の特約を定めた場合には、その内容を表示することが必要です。
ケ 継続売買契約の場合の表示義務
継続的売買取引においては、商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要がある旨及びその金額、契約期間その他の販売条件の表示を表示しなければなりません。
5 特定電子メール送信適正化法
⑴ 総論
特定電子メール送信適正化法とは、商品やサービスの広告宣伝のために電子メールを送信する場合に適用される法律で、送信することについて同意を取得している場合には、その同意を称する記録の保存や、あらかじめ決められた事項を表示する義務、受信拒否通知以後の広告メールの送信の禁止などが定められています。
⑵ 規制内容の概略
ア 同意を証する記録の保存について
事業者は、広告宣伝メールを送信するにあたり、受信者から送信することについて同意を得ている旨の記録を保存しなければなりません。
保存する記録としては、個別の電子メールアドレスについて、同意を得た際の状況を示す記録等です。
保存期間は、記録の保存に係る広告宣伝メールを最後に送信した日から1か月(特定電子メール法に基づく措置命令を受けた場合は1年間)です。
広告宣伝メールが特商法上の通信販売電子メール広告等に該当する場合は、さらに「請求・承諾があったことを示す書面又は電子データ」の記録を、通信販売電子メール広告等を行った日から3年間保存する必要があります。
イ 表示義務
広告宣伝メールの送信にあたっては、送信者等の氏名や名称、受信拒否の通知ができる旨、受信拒否の通知を受けるためのメールアドレス等、送信者の住所、苦情の受付先等を明示しましょう。
ウ 受信拒否通知以後の広告宣伝メールの送信の禁止
事業者は、消費者から広告宣伝メールの受信拒否の通知を受けた場合には、以後の送信が禁止されます。事業者は、通知の有無について後日トラブルになることを避けるために、その記録を保存しておくとよいでしょう。
6 景品表示法
⑴ 総論
通信販売では、消費者が直に商品に触れられないなどという特性があるため、商品やサービスの価格や品質、性能などを積極的に消費者に表示する傾向があります、そのため、不当な表示や広告になっていないかという観点でのチェックが必要です。
景品表示法では、優良誤認表示と有利誤認表示の2つが禁止されています。優良誤認表示とは、商品サービスの品質を実際よりも著しく優れていると偽って宣伝する事を指します。一方、有利誤認表示とは、商品サービスの価格、その他の取引条件を実際よりも著しく有利であると偽って宣伝する行為を指します。
⑵ 優良誤認表示の例
優良誤認表示を指摘された事例として、婦人服を販売するECサイトで原材料についてムートンや素材羊革などと言う表示がされていたにもかかわらず、実際には牛革やアクリル繊維が使われていたと言う事例が挙げられます。
また、女性用シューズを販売するECサイトで原材料の記載にWATER RESISTANT、撥水素材使用と書いていたにもかかわらず、撥水加工が施された皮革は用いられていないということで、指摘を受けた事例もあります。
1つ目の事例では商品の原材料を、2つ目の事例では商品の性能を実際よりも著しく優れていると偽って宣伝していたと言うことで指摘を受けました。
事業者としては、商品やサービスの品質を適切に把握して正確な宣伝を行うことが大事です。
⑶ 有利誤認表示の例
有利誤認表示を指摘された事例として、プライベートジムの広告で30日間全額返金保証と書いていたにもかかわらず、実際は返金について一定の条件が定められていたというもので指摘を受けたというものが挙げられます。なお、この事例については、ジム側は有利誤認表示に該当しないと主張しつつも、指摘された規定を削除することで事態を収束させました。
また、痩身効果を標榜する食品のECサイトで、実際の販売価格に「通常販売価格」と評する比較対象価格が併記されていましたが、この「通常販売価格」は実際に販売した実績のない価格であったということで指摘を受けたという事例があります。
販売者としては安く見せようとして、通常価格をなるべく高く設定しようとしますが、実際の販売実績がなければいけませんし、その細かいルールについても定められていますので、通常販売価格の表示は注意が必要です。
1つ目の事例では実在しない通常価格を比較することで商品が安いように感じさせるという表示を行い、2つ目では返金に条件があるにもかかわらず、確実に返金されるような表示を行っていたということで指摘を受けました。
事業者としては、このような問題を起こさないように、商品の価格や割引について虚偽の宣伝や、消費者に誤解を招くような表示を行わないことが大事です。
- ちょっと脱線
では、どのようなときに通常販売価格と書いてよいのでしょうか。
これは、8週間ルールと呼ばれるもので、販売開始から8週間経っているかで変わります。
販売開始から8週間が経過している場合は、セール開始時点から遡った8週間において、4週間以上販売された価格であれば、当店通常価格と表示できます。一方で、8週間が経過していない場合には、セール開始日前の全ての販売期間のうち、半分以上の期間かつ2週間以上において実際に販売されていた価格であれば、当店通常価格と表示できます。
しかし、例外もあります。セール開始時点から遡った8週間において、4週間以上販売された価格であっても、実際に販売した最後の日から2週間以上を経過していれば、当店通常価格と表示することはできません。また、販売価格が2週間未満のときも同様に表示できません。詳しくは、以下の画像をご参照ください。
7 ステルスマーケティング規制
⑴ 総論
ステルスマーケティング、いわゆるステマとは消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為を行うことです。この問題点は消費者が宣伝行為と認識しないまま表示内容を鵜呑みにしてしまうことで、商品やサービスの選択を合理的にできなくなってしまうという点にあります。
例えば、企業がインフルエンサーなど第三者に自社の商品のPRを依頼し、インフルエンサーが広告と明示しないで、SNSに投稿することで、一般の消費者がこれは良い商品だと思ってしまうことを防止することがステマ規制の主眼となります。
ステマ規制は法改正ではなく、景品表示法5条3号に基づく内閣府の告示と言う形で規制されることとなりました。
告示では、ステマを①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であり、②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるものと指定しています。
⑵ 事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示
①の事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示は、大きく分けて事業者が自ら行う表示と事業者が第三者に行わせる表示の2つに分けられます。
ア 事業者が自ら行う表示
事業者が自ら行う表示とは、事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や事業者の子会社等の従業員が行った事業者の商品または役務に関する表示が含まれます。具体的には、従業員の事業者内における地位、担当業務、表示目的等の実態を踏まえて総合的に考慮し判断されることとなります。
この具体例を挙げますと、例えば商品の販売や開発に関わる役員が、当該商品の画像や文章を投稿し、一般の消費者の当該商品に対する認知を高めようという表示を行うと、これに該当します。逆に、事業者の従業員でも、販売等に関与していない従業員が販売促進等の目的なく行った表示は、事業者が自ら行う表示に該当しないことになります。
イ 事業者が第三者に行わせる表示
事業者が第三者に行わせる表示については、事業者が明確に依頼をしている場合だけでなく、事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合についてもこれにあたるとされています
この判断については、事業者と第三者との間のやりとりの対応や内容、事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容、提供理由、事業者と第三者の関係性の状況等を踏まえて、総合的に判断するものとされています。
例えば事業者が明示的に依頼をしてなくても第三者がSNSに投稿することで、今後の取引が実現するかもしれないと言うようなことを言及するような場合には、第三者をして行わせる表示に該当するものとされています。
⑶ 一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの
事業者としては広告表示であることを明示することもありますが、周囲の文字と比較して小さく表示したり、大量の#(ハッシュタグ)を付した文章の記載の中に事業者の表示である旨を埋もれさせたりするような場合には、一般消費者が当該表示を判別することが困難と言うことでステマとして景品表示法の規制に該当するとされることもあります。
⑷ ステマ規制の対象とならないためには
事業者としては、ステマ規制の対象となることを避けたいと思うでしょうが、ステマ規制の対象とならないために、事業者が自己の供給する商品や役務について表示を全く行わないということは現実的ではありません。
そのため、PRや広告宣伝であることをしっかりと明示するということを意識する必要があります。
また、事業者がステマ規制に該当してしまうと、景品表示法に反するという事に加えて、そのような広告表示を行う会社ということでレピテーションリスクにもつながりますので、その点にも注意が必要です。
8 おわりに
コロナ禍の巣ごもり需要により、EC化率は上昇しましたが、これまでにご説明したとおり、事業者はECサイトでサービスを提供するにあたり、様々な法規制に注意しなければなりません。法は度々改正されるので、自社のサービス内容や提供方法が法に適合しているか、随時見直していくことが重要です。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
2023年12月1日に日本M&Aセンターとの共催で株式上場に関するセミナーをいたしました。その際の内容を改めてコラムにまとめてみたいと思います。
株式上場支援のバックボーンについて
まず、私が所属する如水法律事務所は、如水グループの一員として活動する法律事務所であり、如水グループは、監査法人、税理士法人及び社会保険労務士法人を有する専門家士業の集まりです。
上場会社の監査においては、上場会社等監査人名簿に登録が認められている監査法人を選定することが必要となりますが、この上場会社等監査人名簿に登録されている監査法人のうち、福岡県内に本拠地を置いている監査法人は、如水グループの如水監査法人だけです。
また、如水法律事務所や如水税理士法人、如水社会保険労務士法人もそれぞれの専門分野で上場会社や上場を目指す会社の支援を行っております。
私も、証券会社の公開引受部で上場支援を行っていた経験もあり、最近では、上場会社や上場を目指す企業の社外役員も務めているため、その経験も活かしながら法的な支援を中心に株式上場支援を行っております。
上場準備における弁護士のサポートとスケジュール
株式上場で弁護士がサポートする場面としては、
① 顧問弁護士として日々の契約業務や議事録作成等のサポート
② 社外役員として取締役会や他の委員会での活動
③ 株式上場に向けた法務DDの実施
が主なものとして挙げられます。
まず、①の顧問弁護士としての活動については、上場を目指す会社では契約書のチェック体制の整備、取締役会や株主総会議事録の整備、新たなビジネスモデルの適法性のチェック、コンプライアンス体制の確立などのサポートをしています。
特に、コンプライアンス体制の確立については、どの程度の体制確立が必要かという株式上場の肌感覚も重要になりますので、日常的な相談をしている弁護士と別に、株式上場に向けた支援をする弁護士も顧問弁護士につけるということもあります。
場合によっては、証券会社などの要望で、会社が抱える特定の法的問題に関する意見書を作成する必要もありますが、その際には、意見書によって証券会社等の懸念事項が払しょくされるのかどうか、証券会社等の問題意識、会社の対応状況、法的評価などを適切に記載する必要があります。
次に、②の社外役員についてですが、コーポレートガバナンス・コードの中でも、会計士や弁護士といった専門家を社外役員として入れることの重要性が記載されており、実際にも法的な観点からの監督を行うという趣旨で弁護士を社外役員(取締役又は監査役)として入れている会社が増えてきています。
社外役員としての活動は取締役会(や監査役会)での発言が主ですが、会社によっては、任意にリスクガバナンス委員会や報酬委員会、関連当事者取引委員会など各社の課題に応じた委員会を設定することもあり、その中での問題点の指摘というのも弁護士の役割として重要になっています。
最後に③の株式上場に向けた法務DDでは、
ビジネスモデルが適法か、
株式の発行や譲渡などが適切に行われているのか、
契約管理体制や契約内容に問題がないか
下請法などの業法違反がないか、違反を防止する体制が整っているか、
などについて確認を行い、その報告を行います。
場合によっては、指摘された課題の解決に向けた取り組みについて、そのままサポートするということもあります。
それぞれのサポート内容について弁護士が関与する時期によって若干のタイミングは異なりますが、主には上場申請を行う2期前くらいに関与するケースが多いかと思います。
まず、①の顧問弁護士はどのタイミングにおいてもつけることはできますが、通常は申請を行う2期前くらいからコンプライアンス体制や議事録の整備などに注意をしていきますので、同じタイミングで適切な顧問弁護士を探すケースが多いです。
次に、②の社外役員については、2期前から社外の役員を入れて、会社へのけん制機能を高めていき、1期前には社外役員の割合を増やして、さらにけん制機能を高めていく、というのが一般的ですので、上場申請の1期ないし2期前というタイミングでサポートをすることになります。
最後に③の株式上場に向けた法務DDは、主幹事証券会社の依頼で、法務DDを行い、法務上の課題を洗い出すということがあり、通常は上場申請の2期前に行って、期中に改善を行い、申請の1期前に改善した状態で運用を行い、申請期に臨む、というのが理想的なスケジュールです。
上場準備会社が実際につまずきやすいポイント
上場準備会社がつまずきやすいポイントとしては、まず、業法への注意が不十分になっていることが挙げられます。
たとえば、下請法については、そもそも下請法が適用される取引相手がだれかという点が把握できていないということも多くみられますし、下請法に適した契約書など書面の作成がなされていないこともあります。
また、法改正に合わせた規程の改定がなされていないということもよくありますし、取締役会議事録において、利益相反取引について、当該利害関係を有する取締役が審議と決議から外れた内容の議事録が作成されていないということもよくあります。
そういったことが起きないように、日ごろから議事録の作成も含めて弁護士がサポートするということが重要ですし、仮に、そういった問題が起きた場合に、どのように問題点を治癒すればいいのか、ということについてのサポートも弁護士の重要な仕事の1つです。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。