今回はホテル業界の法務についてQ&A形式で解説いたします。
本コラムでは、ホテルが損害賠償責任を負うケースについてご説明します。
Q ホテル側に不手際があった場合には損害賠償責任を負いますが、責任の法的根拠は何ですか?
A 一般的には、契約に伴う義務を履行しなかった責任である「債務不履行責任」(民法415条)です。ホテルが本来提供すべきサービスを提供できなかった場合には、債務不履行責任の問題が生じます。
債務不履行責任の問題が生じる例として、オーバーブッキングや客室タイプの間違いがあります。また、ビュッフェで、明らかに料理の絶対数が足りない、補充が全くない場合や、特定の料理があると書いてあるのに実際は提供されていない場合等も、程度によっては債務不履行になりえます。
Q 安全配慮義務違反を避けるために、何をすればよいでしょうか?
A サービスの提供者として、当然配慮すべき安全性の確保(安全配慮義務)をしなかった場合にも、債務不履行を負い得ます。
ホテル事業者は、安全配慮義務違反を避けるために、ホテル内にどのような危険があるか、どのような対策が必要であるかを分析しておくことが重要です。ホテルの施設や設備の問題点だけでなく、ホテルで提供しているサービスにも危険性がないか検討しましょう。
Q ホテルが顧客に損害賠償責任を負った裁判例はありますか?
A 裁判例を3つご紹介します。
⑴平成7年9月27日判決
〇概要:宿泊客が脳挫傷を起こし、意識障害が生じた状態でトイレで倒れている等の異常な状態であったにもかかわらず、ホテル従業員らが適切な処置をとらず、当該宿泊客が死亡しました。
〇ホテルの責任、賠償額:ホテル側は異常な状態にある宿泊客を速やかに医者に診せるといった適切な処置をとらず、ホテル側が宿泊客に対して負う安全配慮義務に違反したことから、約2000万円の損害賠償請求が認容されました。
〇判決のポイント:従業員が酩酊した宿泊客を見かけた時点で、介抱するなどの十分な対応を取っていれば、その後の転倒・死亡の結果まで責任を負うことはなかった可能性があります。
⑵平成16年6月29日判決
〇概要:宿泊客が身体の110カ所以上をトコジラミと思われる無数の虫に刺され、虫刺症の障害を負ったとして損害賠償を請求しました。
〇ホテルの責任、賠償額:同室の他の宿泊客は虫に刺されず、多数のトコジラミが当該客室に生息・侵入したことの客観的な裏付けはないものの、旅館で被害を受けた苦痛に対する慰謝料として10万円が認容されました。
〇判決のポイント:ベッドにトコジラミがいること自体が安全配慮義務違反とされました。
客室の衛生状態を確保することも、ホテル事業者の責任です。
⑶平成25年7月22日判決
〇概要:客室に配膳しようとしていたところ、宿泊客の子どもが客室から飛び出してきて、鍋に入っていた熱された油で熱傷を負い、後遺障害が残ったとして損害賠償を請求しました。
〇ホテルの責任、賠償額:ホテル側は安全配慮義務の一環として、宿泊客が受傷しないよう配慮する義務を負っているとして、約500万円の損害賠償を認めました。(過失割合は顧客2:ホテル8)
※被害者にも過失が認められる場合、損害の公平な分担の見地から、賠償額について一定の減額(過失相殺)を行います。自分の責任と相手方の責任を割合にして表したものが過失割合です。
〇判決のポイント:子どもを宿泊客として受け入れているならば、部屋から子どもが飛び出してくる可能性があるため、危険なものを出入口付近に置いておくべきではないとされました。
Q ホテルは業務委託先等の行為についての責任を負いますか?
A ホテル事業者がサービス行為の一部で、業務委託先を使用する場合にも、業務委託先の行為をホテル事業者の行為(履行補助者の行為)として、ホテル事業者が全て責任を負う可能性があります。
また、ホテル事業者が直接業務委託先を使用しておらず、ホテル内でサービス提供をしているだけであっても、ホテル事業者に責任が生じる可能性があります(名板貸責任)。
Q 名板貸責任の要件は何ですか?
A 要件は、会社が自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾することです。(例:ホテルAが業者Bに対し、Aの名前での営業を許可した場合)
名板貸責任が成立すると、ホテル事業者は業者と連帯して責任を負うことになり、損害賠償全額を支払うことになりえます。
なお、連帯責任を負う者の間で清算を行うことはできるけど、第一次的な請求をホテルが受けた場合、顧客に対してホテルが全額支払うことになります。
Q 業者がホテル内のスペースで営業しているに過ぎない場合も、ホテルは名板貸責任を負いますか?
A ホテルが業者に商号の使用を許諾したわけではなく、単に業者がホテル内のスペースで営業しているにすぎない場合であっても、顧客の立場から別業者であることが分かりづらい場合には、ホテルが業者のミスの責任を問われる可能性があります。
このような結論となる理由は、名板貸責任の趣旨は、営業主体が誰であるように見えるかという「外観」を信頼した者を保護することであるため、ホテル内で営業しているにすぎない業者であっても、ホテルによって運営されているように見えることがあるからです。
Q ホテルが名板貸責任を問われた裁判例はありますか?
A 平成28年2月10日判決をご紹介します。
〇概要:宿泊客がホテルに出店しているマッサージ店の施術ミスにより、頸椎症性脊髄症を発症し、全介助を要する障害等級2級となったとして損害賠償を請求しました。
〇ホテルの責任、賠償額:マッサージ店のみならず、ホテルも名板貸責任により責任を負うとして、連帯して約9000万円の損害賠償が認められました。
〇判決のポイント:ホテルが、マッサージ店の施術ミスによって生じた損害賠償責任を、名板貸責任の成立する範囲で全額負担すべきと判断されました。
ホテル事業者は、委託先の行為についても責任が生じ得るため、十分な管理・監督を行いましょう。
次回は、ホテル業界の法務(クレーマー対応)についてご説明します。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
Q 当社が所有している賃貸マンションで滞納が続いていたため、催促をしているのですが、電話も手紙もつながらず、部屋に行っても実際に住んでいるか分かりません。鍵は持っているのですが、勝手に開けて荷物などを出して新しい入居者に貸していいものでしょうか。
A まず、賃貸借の解除が認められるかどうかについては、「信頼関係の破壊」が認められるかによります。「信頼関係の破壊」が認められる場合には裁判をするということになりますが、今回のように賃借人と連絡がとれず、どこにいるか分からない場合には、前提として話し合いでの解決が困難と思われますので、訴訟を提起する必要性が高いといえます。
所在不明の者への裁判手続き
我々弁護士が調査を行う場合には、住民票が別の場所に移されていないか、という調査を行うこともありますが、住民票は元の住所のまま、ということもあります。
その場合、まず、賃貸借契約の解除の意思を伝えないといけないので、現住所宛に解除通知を送ります。通常は内容証明郵便で送りますが、相手が受領しない場合や不在で受領できない場合には返送されてしまいます。そのため、相手が受領しないことが予測される場合には、郵便受けに配送されたことを担保するために特定記録郵便を発送するという方法をとります。
所在不明者の探索方法ですが、一般的には、
・賃貸物件への訪問や郵便受け、水光熱メーターなど居住の有無の確認
・近隣住民や管理人への確認
・保証人などへの確認
などがあります。この調査の内容によって、居住が確認できる(こちらの連絡に応じないだけなのか)のか、居住の痕跡がないのか、によって訴訟を行う場合の手続きが変わってきます。
賃借人の居住が確認できる場合には、解除の通知も有効に到達したものと考えられますし、訴状の受領を拒絶したとしても、賃借人の居住が確認できる旨(生活の痕跡が認められる旨)の報告書を裁判所に提出した上で、書留郵便に付する付郵便送達という手段で訴状を送達することができます。
一方で、居住が確認できない場合には、賃借人の最後の住所地を管轄する簡易裁判所に公示の方法による意思表示に関する申し立てを行い、相手の所在が不明と認められた場合には、解除通知書が裁判所に掲示されるとともに官報に掲載されるなどして解除の意思表示が到達したとみなす方法で解除を行うという方法があります。
ただし、どちらにせよ、その後訴訟提起を行うため、訴状の中で解除の意思表示を行うことで対応する方法が直截的です。
賃借人の居住が確認できない場合には、公示送達の方法により訴状を送達します。
これは、賃借人の居住が不明であることを調査結果とともに裁判所に報告書を提出し、裁判所の掲示板に訴訟提起の事実を掲示することで掲示から2週間の経過をもって訴状が送達したとするものです。
これによって訴訟が進行し、賃借人が裁判所に出頭しなかったとしても賃貸人の請求を認める判決が出され、この判決に基づいて強制執行などを行うこととなります。
このように、賃借人の所在が不明の場合には対応が煩雑ですが、裁判手続きを経ずに勝手に荷物を出すなどの自力救済は禁じられており、そのようなことを行うと民事や刑事の責任に問われる可能性もあるので、絶対に控えてください。
最近では、このようなリスクを避けるために、家賃債務保証会社などの活用も進んでいます。
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Q 所有しているビルが老朽化し、建替えをしたいので次の賃貸借契約期間の満了をもって賃借人に退去してほしいと思っています。賃貸借契約期間の満了による場合であれば解除は認められるのでしょうか。それとも、賃借人の引っ越し費用など、いわゆる立退料の負担をすれば解除は認められるのでしょうか。
A 賃貸借契約は通常数年間程度の契約とされていることが多く、期間が満了すると契約が終了するようにも思われます。現に定期賃貸借契約の場合には、期間満了により当然に終了することとなっています。
一方で、普通賃貸借契約の場合には、賃貸借契約の終了には正当事由が必要とされています。この正当事由の判断には、
・建物の賃貸人及び賃借人が、それぞれ建物の使用を必要とする事情
・建物の賃貸借に関する従前の経過
・建物の利用状況及び建物の現況
・建物の明け渡しの条件(いわゆる立退料)
が考慮されます。
そのため、裁判になった場合には、建物の使用の必要性を前提に、これまでの経緯や立退料などの事情を総合考慮して明け渡しの是非が判断されます。オーナー側の視点に立つと、立退料を高額にしても、必ずしも明渡しが認められるわけではないということになります。
賃貸借契約終了の正当事由について
この正当事由については、強行規定といって契約書で修正できないとされていますので、いくら契約書に賃貸人の中途解約権などを定めていたとしても正当事由がない解除はできないため、期間満了による明渡しを確実に行いたいのであれば、定期賃貸借契約を締結することを心掛けなければなりません。
それでは、建物の老朽化が進んでいる場合に、建替えをするという事情は正当事由となるのでしょうか。建物の老朽化や耐震性能の不足、他のテナントとの競争力の低下という事情は賃貸人側から裁判でも主張されることが多く見られます。
実際に裁判においても、建物の建替えによる土地の有効利用は正当事由を基礎づける有力な事情と考えられており、賃貸人側の使用の必要性を基礎づける重要な事実となります。
実際に明渡しを進める場合には、オーナー側とテナント側で交渉が行われることが一般的であり、このような交渉経緯も正当事由の重要な要素とされていますので、オーナー側からすると誠実に交渉を行う必要がありますし、その中で移転を強いられるテナントの不利益を解消するための提案を行う必要があります。
普通賃貸借契約の終了の流れ(賃貸人請求の場合)
一般的に普通賃貸借契約を解消する場合には、期間満了の1年前から6か月前の間に賃貸人から賃借人に対して賃貸借契約を更新しない旨の通知を行い(借地借家法26条1項)、その前後で立ち退きに向けた条件面での交渉を行うこととなります。
交渉で解決がつかなかった場合には訴訟手続きの中で解決が図られることもありますが、この場合であっても裁判所は話し合いによる解決を調整するのが一般的です。
この話し合いの中で、退去を余儀なくされる賃借人に対して
・移転した場合の賃料の差額の補償(一定期間)
・移転先での工事等の費用
・移転に伴う案内等の費用
・引っ越し費用
などを行うことを前提に和解の協議がなされていきます。
最初の質問への回答としては、老朽化による建替えについては、建替えの必要性が認められる場合には解除が認められる場合もあるが、絶対に解除できるわけではないし、解除できる場合であっても、一般的にはオフィスの移転に伴う一定の費用が立退料として必要となることが多い、という回答となります。
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賃貸借契約の解除の可否
Q 当社が所有している物件についてAに賃貸借をしていますが、最近賃料を滞納しています。前にも賃料を滞納したことがあり、契約書にも賃料を滞納した場合には解約できると記載しているため、賃貸借契約を解除しても問題ないでしょうか。
A 賃料の滞納があっても「信頼関係の破壊」が認められないと賃貸借契約の解除は認められません。
賃貸借期間中にテナントからの賃料が滞ることはよく起こりうるものです。最近では、居住用住居のみならず、商業用のテナントについても家賃債務保証会社と契約を行い、賃料が滞納されても家賃債務保証会社から支払いを受けるということも増えていますが、まだまだ居住用に比べると浸透度が低いのが現状です。
賃料滞納が数か月分積み重ならないようにこまめに賃借人と連絡を取りながら回収をしていくのが重要ですし、万一賃料の支払いを受けられなくなった場合に敷金でカバーできる範囲なのか確認しておくことも必要です。特に、テナントの場合は原状回復費用がかさむことが多いので賃料の滞納だけでなく、原状回復費用もカバーできるのかは重要な確認事項です。
では、テナントが賃料を滞納した場合に、賃貸借契約の解除は認められるのでしょうか。
賃料の支払いは賃貸借契約の重要な約束事ですし、賃貸借契約書でも賃料の支払いを怠ると解除できるとしていることが通常ですので、解除は認められそうにも思われます。
しかし、賃貸借契約は継続的な関係に基づくものであり、裁判例上、こうした契約については「信頼関係の破壊」がないと契約の解除はできないとされています。
一般的には、賃料を1~2か月程度滞納しただけでは信頼関係を破壊したとはいえないとされることが多く、3か月以上の滞納が目安とされています。
テナント(賃借人)が破産した場合の賃貸借契約の解除の可否
また、テナント(賃借人)が破産した場合は賃貸借契約の解除は認められるのかという相談もあります。
賃貸借契約の中には、賃借人が破産手続開始の申し立てをした場合や開始決定がなされた場合を解除事由としていることがよく見られますが、これは賃借人にとって不利なものとして裁判例上無効とされています。
一方で、破産にいたる会社は賃料を滞納していることもよくありますが、上で述べたように3か月程度の滞納があって、信頼関係が破壊されているとされれば、賃貸借契約の解除は可能です。
テナントが破産し、賃料の滞納状況から判断して賃貸借契約の解除が困難という場合には、賃貸人は破産した会社の判断を待つ必要がありますが、破産手続きが開始すると裁判所から破産管財人という者が弁護士の中から選任され、この破産管財人が賃貸借契約を解除するか、継続するかを決定することとなります。
破産管財人が賃貸借契約を継続すると決めた場合賃料がどうなるかということを疑問に感じられると思いますが、開始決定後の賃料については優先的に支払いを受けられる債権とされます。一方で、破産開始決定が出る前までの賃料については、このような優先的な支払いを受けられず、破産債権として届出を行うこととなりますが一般的にはかなり低い配当率での配当を受けるのみです。
ただし、敷金がある場合には、未払賃料を敷金から相殺することはできます。
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今回は2024年6月に実施した業種別法務⑥不動産のセミナーで紹介した内容をもとにコラムを書いています。
Q1 最近の物価高に対応して、ビルのテナントとして入居している顧客に対して、賃料の増額を請求することはできるのでしょうか。
A 通常は顧客との間で賃料増額について協議を行い、話し合いで解決できない場合には、調停や訴訟などの法的手続きを行い、その手続きの中で解決を図っていきます。
賃料の増減額請求の要件
賃貸借契約の賃料は当事者の合意で決まるため、契約期間中は契約書記載の賃料に拘束されるのが原則です。
ただし、賃貸借契約は継続的な契約で長期にわたることも多いため、その間の景気動向や不動産市況などの経済事情により賃料が不相当な内容となることがあります。
そのため、借地借家法により、社会経済事情の変動で賃料が不相当になった場合には賃貸借の相手方当事者に賃料の増減(増額だけでなく、減額もある)を請求できる権利が認められています。
では、どのような場合に賃料の増減請求が認められるのでしょうか。
借地借家法は以下の3つを賃料が不相当となる事由としてあげています。
- 土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
- 土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動
- 近傍同種の建物の賃料との比較
ただし、これらはあくまで例示列挙とされていて、その他の事情も合わせて賃料が不相当かどうかを総合的に判断します。
裁判例が他にあげている要素としては、
当事者が事業者か否か、その事業の規模
建物が居住用か営業用であるかなどの賃借建物の用途ないし性格
賃貸借契約締結の際における交渉の経緯並びに当事者の意思
契約締結後の状況
です。これらの要素を見ると、賃料の相当性の判断については、個別特別な事情や当事者の主観なども判断要素となっていることが分かります。
また、最後の賃料を決めたのがいつか、というのも重要な要素です。たとえば、2年前に賃料を増額・減額したというのも要素になりますし、2年前の更新の際に賃料を据え置いたということも判断要素とされます。
そのうえで相当賃料をどう定めるか、という点については、建物価格をベースに期待利回りや必要経費等を考慮して求める方式(利回り方式)や従前の賃料にその後の経済事情の変動率を乗じる方式(スライド方式)、近隣の賃貸事例と比較する方式(賃貸事例比較方式)などありますが、裁判実務ではこれらの方式を組み合わせながら総合的に判断しています。
賃料の増減額請求の手続き
では、実際に手続きが進められるとしたらどのように進むのでしょうか。
まず賃料増減請求は、最初は当事者間での協議が行われますが、任意の交渉で解決できない場合には、法的手続きをとられることがあります。
その場合には、調停前置主義といって、裁判ではなく、調停という裁判所での話し合いの手続きを経ないといけないとされています。この調停とは調停委員という2人の委員が間に入ってそれぞれの意見を聞きながら話し合いでの解決を探っていくという手続きです。
それでも解決できない場合には、訴訟提起をすることで、裁判所が相当な賃料の金額を判断することとなります。
仮に裁判になった場合、解決まで一定の時間がかかります。その間の賃料をどうするか、ですが、裁判が確定するまでは賃借人が自ら「相当と認める額」を支払えばいいとされています。
ですので、仮に賃貸人から賃料増額を請求を受けた場合であっても、賃借人は裁判で確定するまでは従前の賃料を支払えば足りますし、相手が受け取らない場合には、法務局に供託をするという対応も検討が必要となります。
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弁護士の業務の中に、当番弁護・国選弁護というものがあります。
ふだんは企業に関するコラムが多いですが、今回はこの当番弁護や国選弁護について書きたいと思います。
当番弁護とは刑事事件で逮捕された被疑者(犯罪の嫌疑をかけられていて、起訴される前の者)に対して、弁護士が無料で接見する制度です。
一方、国選弁護とは、逮捕の後の身柄拘束手続きである勾留された被疑者や起訴された後の被告人のうち、経済的理由で私選弁護人を選任できない者に対して、国費で弁護人を選任する制度です。
福岡県弁護士会では、当番弁護や国選弁護に登録している弁護士をリスト化して、日にちごとに複数名割り振って担当を決めています。
私どもの事務所では、取り扱う事件は企業に関わる案件がほとんどですが、所属する弁護士(と言ってもまだ2名しかいませんが)全員が当番弁護・国選弁護を行っています。
その理由は以下の3つです。
1つ目は、公益活動の一環としてです。
弁護士には基本的人権の擁護と社会正義の実現という責務が課されています。その活動の代表的なものが当番弁護や国選弁護です。特に、福岡県弁護士会は当番弁護士制度を日本で初めて始めた弁護士会として力を入れています。こうした公益活動に事務所として少しでも貢献できればという思いが当番弁護や国選弁護を行う理由の1つ目です。
2つ目は若手の育成です。
私たちの事務所では、通常の事件処理はチームで対応しているため若手の弁護士が自分一人の判断で対応するという機会はほぼありません(自身で考えて対応する場合でも最終的には上の弁護士の判断を仰ぎます。)。
一方、当番弁護や国選弁護は弁護士個人が選任されるため、たとえ上の弁護士に相談するにしても、最終的には自分の判断と責任で対応しなければいけません。このような対応をすることで、弁護士として責任をもって事件に向き合う力が育成され、普段の業務に取り組む意識も向上すると考えています。
そして、若手の弁護士に登録してもらう以上、私が登録していないと偉そうなことがいえないので、私も弁護士登録から15年以上経過していますが、登録を続けています(福岡では大ベテランの先生でも国選弁護にずっと登録されている先生も多くいらっしゃいますので、15年程度の登録でもう十分やったので、ともなかなか言えないくらい熱心な先生が多い弁護士会でもあります。)。
3つめは企業の幅広いニーズに対応するためです。
普段は企業の契約書の相談や債権回収の相談、労務問題の対応に当たっていたとしても、従業員が交通事故を起こして刑事事件になるなど、広い意味で会社が刑事事件に巻き込まれることがあります。地方の企業では、社長が従業員を心配して従業員の刑事弁護を依頼したり、そうでなくても、刑事事件がどのように進行するのかを質問してくることがあります。こういった場合に対応できるようにするためにも普段から刑事事件に触れておく必要があります。
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前回に引き続き、売買契約についてご説明します。今回は、検査の規定と、実際にあった裁判例を取り上げます。
3 検査
Q:検査の規定は、どのような内容にしたら良いのでしょうか?売主側と買主側で違いはありますか?
A:売主側の条項と買主側の条項についてご説明します。
⑴ 売主側
第〇条(検査)
買主は、本件目的物を受領後、5営業日以内に検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件目的物に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件目的物を受領後5営業日以内にその旨を通知し、履行の追完を催告しなければならない。この場合、売主は、自己の選択に従い、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行うものとする。なお、本件目的物の受領後5営業日以内に、買主より売主への通知が無い場合は、買主により本件目的物の内容が合格と判断されたものとみなす。
☆ここでのポイントは3つあります。
まずは、検査の期間を定めていることです。検査の期間を定めていなければ、売主は検査の合否がなかなか分からず、不安定な立場に置かれてしまいます。
2つ目は、履行の追完方法を売主が決めることができることです。民法では、買主が契約不適合の対応を選択できるとされていますが、売主が選択できるとすることで、契約不適合があった場合でも、売主は対応しやすくなります。
3つ目は、通知がなければ検査に合格したとみなすことです。いつまでも検査の結果について通知がなければ、売主はいつまで契約不適合責任を追及されるかがわからず、不安定な立場に置かれるので、みなし合格の規定を定めることで、このような事態を回避します。
⑵ 買主側
第〇条(検査)
買主は、本件目的物を受領後、10営業日以内に検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件目的物に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下 「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件目的物を受領後10営業日以内に買主の選択に従い、本件目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を催告するものとし、売主は、買主が定める期限内に、買主の選択に従い、 無償で、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行わなければならない。
買主としては、検査期間が十分な日数であるかを確認しましょう。例えば、「5日以内」となっている場合、連休などをはさむと十分に検査をすることができないおそれがあります。その場合は期間を延ばしたり、「5営業日以内」にしたりするなどの修正が必要です。
Q:契約不適合の条項案について教えてください。
A:売主側の条項と買主側の条項についてご説明します。
⑴ 売主側
第〇条(契約不適合責任)
商品に第〇条に定める検査では発見できない契約不適合があった場合(数量不足を除く)、買主は、当該不適合が本件目的物の受領後6か月以内に発見されたときに限り、売主に対して当該契約不適合の発見後5営業日以内に、履行の追完を催告することができるものとし、この場合、売主は、自己の選択に従い、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行うものとする。
契約不適合責任に関する民法の規定は任意規定であり、当事者間の合意が優先します。そのため、売主が契約不適合責任を負わない旨の特約も、民法上は原則として有効です。もっとも、売主が不適合であることを知りながら買主に告げなかった事実についてまで売主の責任を免除することは不適当ですので、その場合は、契約不適合責任を負わない旨の特約が あっても、売主は責任を負うことになります。
⑵ 買主側
第〇条(契約不適合責任)
商品に第〇条に定める検査では発見できない契約不適合があったときは、売主は、当該契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるかを問わず、買主の選択に従い、当該商品の無償による修補、代替品の納入若しくは不足分の納入等の方法による履行の追完、代金の全部又は一部の減額若しくは返還その他の必要な措置を講じなければならない。
買主としては、契約不適合責任を追及できる期間の制限を設けなかったり、契約不適合責任の原因を問わないと定めたりすることにより、あらゆる場合において契約不適合責任を追及できるようにすることが考えられます。
4 裁判例
検査及び契約不適合責任の条項が問題となった事例(東京地判平成23年1月20日(平成20年(ワ)第25857号)についてご紹介します。
⑴ 事案の概要
買主Xが売主Yから土地を購入したものの、購入から8カ月後に土壌汚染を発見しました。両社の契約書には、「本件土地引渡後といえども、廃材等の地中障害や土壌汚染等が発見され、買主が、本件土地上において行う事業に基づく建築 請負契約等の範囲を超える損害(三〇万円以上)及びそれに伴う工事期間の延長等による損害(三〇万円以上)が生じた場合は、 売主の責任と負担において速やかに対処しなければならない」と定められていたため、XはYに対して瑕疵担保責任(改正前の用語で、改正後は契約不適合という用語になりました)として汚染を除去するのに要した費用1470万円を請求しました。
⑵ 売主Yの主張
売主Yは、①買主Xは土地の受領後遅滞なく土壌汚染の有無を検査し、それが発見された場合には直ちにその旨をYに通知しなければならないのに、検査・通知をしていないこと、②土地の引渡しから6か月以上が経過していたことから、Xは瑕疵担保責任を追及することができないと主張しました。
※商法526条
1.商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2.前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することのできない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3.前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
⑶ 本事案の問題点
商法526条は、商人間の売買では、買主は目的物を受領した際は遅滞なく検査しなければならないこと、直ちに発見できない契約不適合があった場合には、6か月以内にその契約不適合を発見しなければ、売主に責任追及できないと定めています。しかし、当該契約書には、土地引渡後も土壌汚染が発見された場合には、売主の責任と負担において対処する旨が定められているため、買主Xが6か月経過後も売主Yに契約不適合責任を追及できるかが問題となりました。
すなわち、本事案の問題点は、当該契約書の条項によって、商法526条の適用が排除されるかという点です。
⑷ 判決の要旨
本事案について、裁判所は、①契約書の文言上、土地の引渡し後も土壌汚染が発見された場合には売主が責任を負うことを規定しており、他方、引渡し後の責任の存続期間については制限がないこと、②買主Xが土地受領後に「遅滞なく」土壌調査を行うことは、当事者間において想定されていなかったと認められることを理由に、商法526条の適用は排除されていたと解するのが相当であると判示しました。
⑸ 売主Yの対応例
本件では売主Yの主張は認められませんでしたが、売主Yとしては、契約書の条項をどのような文言にすればよかったのでしょうか。
売主Yの対応としては、①商法526条の適用が排除されないことを明記しておくこと、②売主の責任期間や検査・通知義務を明記することが挙げられます。
⑹ 本事案から学べること
契約書において、法令の適用を排除する旨明記していなかったとしても、規定の内容によっては、当該法令の適用を排除する趣 旨であると解釈される可能性があります。
そこで、契約書のチェックを行う際には、契約書の文言が明確になっていないことによって、紛争が生じるおそれがあること、契約締結時に当事者の認識が一致するよう十分に協議し、契約書に明記をしておくことでリスクを回避できることを意識するようにしてください。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
今回は、私たちにとって最も身近な契約の一つである売買契約についてご説明します。
1 売買契約とは
Q:法律では、どのように売買契約は定められているのですか?
A:売買契約とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる契約です(民法555条)。
以下のイラストは、売買契約の成立を簡単に示したものです。
Q:わが社では、特定の取引先と頻繁に取引を行っていますが、その都度、売買契約を締結しなくてはなりませんか?
A:売買取引基本契約を締結するのがよいでしょう。売買取引基本契約では、継続的に売買を行う場合に、両者間の売買契約に共通して適用される、基本的な取引条件を定めます。 個別の契約条件は、個々の商品を発注する際に別途締結する個別契約や発注書・請書などにより定めます。
売買取引基本契約では、売買の目的物や契約不適合責任といった取引の基本的な条件を定めて、個別契約では、納期や金額といった個別の取引条件を定めます。
2 契約不適合責任とは
Q:契約不適合責任とはどのようなものか教えてください。
A:契約不適合とは、目的物がその種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合しないことをいい、契約不適合責任とは、納品された目的物に、契約内容と異なる点があることが判明したときに、売主が負担する責任を指します。
Q:契約不適合を発見した場合は、どのような請求ができますか?
A:買主は、契約不適合を発見したときは、売主に対して、①履行の追完(目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し) ②代金減額 ③損害賠償 ④解除といった対応を請求することができます(民法562条、563条、564条)。
Q:契約不適合はいつまで追求できるか教えてください。
A:契約不適合がいつまで追求できるかは、契約不適合の内容によって異なります。
①目的物の種類・品質が契約の内容に適合しない場合には、買主は、その旨を1年以内に通知しなければ、権利行使ができません。旧民法では1年以内に権利行使(解除や損害賠償の請求)をしなくてはなりませんでしたが、現行民法では不適合の事実の通知で足りることとなりました。
ただし、売主が引渡しの際に不適合があることを知っていた場合や、売主が重過失により不適合を知らなかった場合には、売主を保護する必要性が乏しいため、買主は通知をしていなくても、一般的な消滅時効の期間内であれば、契約不適合責任を追及することができます。
②目的物の数量・権利が契約の内容に適合しない場合には、買主は、期間の制限なく、権利行使ができます。旧民法では1年の期間制限がありましたが、消滅時効の一般原則によることになったので、消滅時効の期間には注意してください。
なぜ数量・権利に期間制限がないかというと、数量が不足していることや、目的物に担保物権等が付着していることは外見上明らかなので、売主としてはいつ請求されてもそこまで不利益にはならないからです。
※消滅時効(民法166条)
債権は、権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年間行使しないときは、時効によって消滅します。
買主が数量不足などに気づいたら、その時点から5年が経過した時点で時効が完成します。一方で、権利を行使できることに気づかなくても、客観的に権利行使できる状態になってから10年が経過すると時効が完成します。
Q:商人間で売買をするとき、契約不適合の期間はどうなりますか?
A:①買主側で遅滞なく目的物の検査を行い、②-1検査により発見された契約不適合については、直ちにその旨を通知すること、②-2検査により直ちに発見できなかった契約不適合 が、6か月以内に発見された場合、直ちにその旨を通知することが必要です(商法526条)。
6か月以内に契約不適合を発見できなかった場合は、買主は権利行使ができません。なお、①での遅滞なくとは、人手不足などの買主の個人的な事情は考慮されません。
このように商人間の売買が民法の規定より厳しい理由は、商取引を迅速に行うためと、買主が商人であれば専門的な知識を有するため、このような義務を課しても負担とならないと考えられたためです。
商人はあらゆる物品について専門的な知識を有するわけでありませんが、専門的知識を有していない物品の売買についても、商法526条は適用されるため、注意してください。
※「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」のイメージ
これらの用語は、行動までにかけてよい時間の長短によって使い分けられています。
「直ちに」は「即時に」、「速やかに」は「可能な限り早く」、「遅滞なく」は「事情の許す限り早く」といったイメージを持っていただけるとよいです。
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6月になりました(2024年6月に執筆しています。)。
日本では3月決算の会社が多いため、その3か月後である6月に株主総会が集中する傾向があります。
今回は株主総会と弁護士の関わりについてコラムを記載します。
株主提案に対する対応
2024年は6月に株主総会を開催する上場企業のうち、株主提案を受けた会社が91社で、3年連続過去最多を更新していると日本経済新聞が報じています。
株主提案がなされた場合の対応としては、
- 株主提案が会社法の要件を満たした適法なものかどうかの検討
- 株主提案を議案とする場合の会社の意見の記載の検討
- 実際の株主総会の場での提案株主対応
が必要となります。
株主提案をできる株主の資格として
ⅰ 議決権の1%以上または300個以上を(定款で引き下げ可能)
ⅱ 6か月以上有すること
が必要で、株主総会の日の8週間前までに提案をしなければなりません。
また、提案内容も会社法上認められたものしかできません。
そのような要件、特に会社法上問題のない議案かどうかについての検討については、弁護士の法的な視点からの確認が必要となることがあります。
また、株主提案として適切になされていた場合には、株主総会の招集通知に会社の意見を記載し、一般的には、株主提案に反対する意見を記載することが多いですが、その内容についても弁護士が法的な視点からアドバイスをします。
そして、株主総会の日において提案株主に提案の理由の説明について時間を与えますが、その際の運用が適切であったか、当日株主総会に参加した弁護士も確認をしています。
招集通知の内容の確認
株主提案のようなイレギュラーなイベントがなかった場合でも株主に送付する招集通知の内容に不備がないかという点は極めて大切な確認事項ですので株主総会の担当者のみならず、弁護士もチェックを手伝います。
法定の事項について正しく記載がなされているか、議案の内容について適切に記載がなされているか、場合によっては取締役の選任議案など議案に漏れがないか念のため登記事項証明書で役員の任期を確認したり、ということもあります。
想定問答の確認
株主からの質問に対しては、想定される質問とそれに対する回答を準備をしておきます。その回答内容について問題がないか、より適切な回答がないか、についても弁護士の視点で確認を行います。また、地域紛争の発生、ESG対応、円安の影響など、近時のトピックに対する想定問答が準備されているかという点についても目を配らせています。
リハーサル・本番対応
そして、株主総会のリハーサルでは、役員の入退場から事業報告、質問対応、議案の採決まで一連の流れに問題がないかを確認し、気になった点をフィードバックした上で株主総会本番に備えます。
株主総会本番では、リハーサルでの動きも意識しながら問題なく進行できているかどうか確認をしながら、株主から動議が出た場合の対応、たとえば議長交代の要請が出た場合にどうすべきか、議案の採決中に議案の修正要求が出た場合にどうすべきか、などにも留意をしておきます。
株主総会が終了した場合には、議事録の確認を行い、株主総会に関する一連の対応は終了します。
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今回はM&Aの中で、不動産について説明いたします。
法務DDの中で不動産に関する調査が重要性を持つかどうかは、対象会社が所有する不動産の位置づけによって変わってきます。
単に、資産として賃貸料収入を得るために持っている不動産については、財産的な価値評価は別として(財務DDなどで行うことはあるとしても)、法務DD的には本業に与える影響は小さいと判断されることも多くあります。
一方で、オフィスや工場などに使用している不動産については、
利用形態が所有なのか賃貸借なのか、
継続的な使用が本業の継続に必要なのか、それとも代替可能(移転の負担も含めて)なものなのか、
賃貸借契約とした場合に契約の継続が可能なのか、
賃貸借契約は不公平なものではないか(たとえば、創業者個人が所有する土地を高額で賃借していないか)
などという点が問題になってきます。
他方、土地については、土壌汚染などの環境に与える影響なども問題となりえますが、法務DDの検討範囲を超えるものでもありますので、実務的にはヒアリングでの確認や現地の外観を確認したり、という程度の対応が多く、より詳細な調査は専門業者に委ねるべきです。不動産の所在地や重要性によっては現地を見に行かないこともありますが、見に行ったところ、契約関係が不明な第三者の看板が土地上に設置してあったこともあり、現地確認が有効な場合もあります。
不動産の使用権原による検討事項
① (建物も)土地も所有の場合
建物も土地も対象会社が所有している場合や、土地を利用していて土地を所有している場合には、調査はそれほど複雑ではありません。
対象会社が所有していることを不動産登記で確認をするとともに、抵当権などが付されていないか謄本やヒアリングで確認を行います。
② 建物所有、土地賃貸借の場合
第三者の土地上に対象会社所有の建物が存在する場合には、土地利用の権利が確保されているのかについて確認が必要となります。
確認する事項としては
ⅰ土地の地上権ないし賃借権が確保されているか、
ⅱ土地の利用権に優先する抵当権などが設定されていないか、です。
ⅰの土地の利用権については、地上権よりも賃借権が設定されることが多く見られるため、賃借権の場合の注意点について説明します。
まず、土地の賃貸借契約が建物の所有目的である場合には、借地借家法が適用され、賃借人の権利が厚く保護されるため、借地借家法の適用がされる賃貸借契約かどうかという点は重要な検討項目です。一時使用目的や定期借地等に当たる場合には、借地借家法の一部が適用されないため、これらの事項に当たらないかについても検討が必要です。
賃貸借契約一般については、
・賃貸人が土地を賃貸借する権限を有しているのかという点の確認が必要です。一般的には土地の所有者に該当するか、不動産登記を確認することが多いですが、転貸借であるような場合には、不動産登記を確認しても転貸人が所有者でなく、賃貸借を行う権限が確認できないため、原賃貸借契約の締結についても確認となるほか、原賃貸借契約が解除されると転借人も退去しなければならないこととなるため、転貸借に伴う対象会社のリスクを適切に評価する必要があります。
・賃貸借期間や更新条項の有無、中途解約条項の内容なども確認を行い、事業の遂行途中に予期せぬ解約がなされるおそれがないかについての確認も必要となります。契約書上の問題も確認が必要ですが、具体的な解約のおそれがあるかヒアリングでも確認を行います。
・賃料や賃料の改定の条件、敷金の預託額や返還条件なども対象会社の財務面に影響を与える事項ですので確認を行います。
・その他、たとえば、会社の経営者が賃貸借契約の連帯保証人となっている場合には、売主からは連帯保証人の変更を求められる一方で、買主の代表者が代わって連帯保証人となるのか、賃貸人に対して連帯保証人の廃止を求めることができるのか、という点も検討事項となります。
③ (建物も)土地も賃貸借の場合
土地建物とも第三者所有の場合や土地のみを利用している場合に当該土地が第三者所有という場合には、②と同様に土地や建物の利用権が確保されているのかという点や賃借権等に優先する抵当権などが設定されていないかが確認事項となります。
ただし、②と異なるのは②の場合第三者所有の土地上に対象会社の建物があり、土地の利用権が認められなかったり、解消された場合に、建物の処分をどのようにするのかという検討事項が生じるのに対し、すべて第三者所有の場合にはそのような問題が生じません。
一方で、利用している土地や建物が代替性がない重要なものであれば、利用権が認められない場合や解消された場合のリスクは残りますので、そのようなリスクがどの程度具体的に生じているのか、という点について調査が必要となります。
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