フリーランス保護法と下請法の関係について見てみると、どちらも取引の適正という目的で共通していますが、規制や保護の対象が異なりますし、対象となる取引についても、フリーランス保護法は役務提供委託について自家利用役務が適用されるなど、保護対象の取引の範囲も広範という特徴があります。
フリーランス保護法3条では、取引条件を明示する義務が定められており、下請法3条でも同様の規制があります。
下請法3条では、書面により取引条件を明示する必要があるため、この書面を3条書面と呼んでいますが、下請法の場合、書面を電磁的方法で交付する場合、下請事業者の事前承諾が必要であるのに対し、フリーランス保護法では事前の承諾は不要です(ただし、書面交付を求められたら応じる義務があります。)。
支払期日については、60日以内という期間の設定については共通点が見られますが、フリーランス保護法では、再委託の場合の例外規定として、元委託の支払期日から30日以内という制限がなされています。
また、下請法では遅延利息として年14.6%の規定があるのに対し、フリーランス保護法ではそのような規定はありません。
禁止事項も共通点は多いですが、フリーランス保護法5条の禁止事項は、1か月以上の業務委託に適用されるという違いがあります。また、フリーランス保護法では有償支給原材料等の対価の早期決済および割引困難手形の禁止の規定はありません。
なお、下請法とフリーランス保護法は別個の法律ですので、それぞれの要件に該当すると両方が適用される点は注意が必要です。
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フリーランス保護法は正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。
この法律の目的は大きく2つあります。
1つ目は、取引の適正化を図るため、発注事業者に対し、フリーランスに業務委託した際の取引条件の明示等を義務付け、報酬の減額や受領拒否などを禁止すること。
2つ目は、就業環境の整備を図るため、 発注事業者に対し、フリーランスの育児・介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等を義務付けることです。
では、どういう者が保護の対象になり、どういう者が規制の対象になるのでしょうか。
まず、保護の対象は、業務を受託する事業者であって、個人の場合は従業員を使用していない者、法人の場合は代表者以外に役員もおらず、かつ従業員も使用していない法人が対象です。このように、下請法の資本金要件と異なり、要件が直ちに判断できないため、相手方に保護対象に該当するかどうかの確認が必要となります。
なお、フリーランス保護法の対象に該当するかどうかの確認は、発注時点であり、適用対象外の者が、発注後に保護対象の要件を満たしたとしてもフリーランス保護法は適用されません。
一方、規制の対象になる事業者は、 個人の場合は従業員を使用する者、法人の場合は2以上の役員がいる、もしくは従業員を使用している法人で、簡単にいうと、1人でなく、2人以上が関与して行っている事業者が規制対象です。
これを構図として見てみると
フリーランス保護法で保護される者は
☞個人であれ法人であれ、1人で事業を行う者
フリーランス保護法で規制されるものは
☞個人であれ法人であれ、2人以上で事業を行う者
と単純化することができます。
例えば、フードデリバリーサービス運営会社A社(2人以上)と出前の配達員のBさんという関係で見ると、Bさんが1人で事業を遂行しているのであれば、これはフリーランス保護法の対象となります。
フリーランス保護法の内容
フリーランス保護法の内容は、大きく以下の5つです。
①書面等での契約内容の明示
②報酬の60日以内の支払い
③募集情報の的確な表示
④ハラスメント対策
⑤解除等の予告です。
以下では、これらの内容、その他の注意点及び違反した場合について説明いたします。
①書面等での契約内容の明示
業務委託時の発注書などに給付の内容、報酬の額、支払い期日、公正取引委員会規則が定めるその他の事項を業務を発注する時点で明記しなければなりませんが、電子的方法によることもできます。
しかし、フリーランスから書面の交付を求められた場合には、遅滞なく書面で交付する必要があります。
②報酬の60日以内の支払い
業務委託報酬の支払期日は当該業務提供日から起算して60日以内において、かつ、できる限り短い期間内において定めなければならないとされています。そのため、報酬の支払い期日を、業務提供日から起算して60日以内に設定されているのか否かという点について契約書のひな形等を見直す必要があります。
例えば、月末締めの翌々月末日払いであれば、3月1日に提供した業務が5月末に支払いとなり、60日以内の支払いにはならないため、翌々月末日払いを翌月末日払いに変えるなどの対応が必要となります。また、受託した業務をフリーランスに再委託する場合は、 支払期日が30日以内となっていますので、気をつけなければなりません。
③募集情報の的確な表示
インターネット等でフリーランスを募集する際に、正確な募集条件を掲載しなければなりません。
広告などで情報を提供する際、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしないことはもちろん、一度情報をあげても、それがその時期に合わせた正確かつ最新の内容を反映しているか確認が必要になる点も注意点です。
④ハラスメント対策
フリーランスに対するハラスメント対策のために必要な措置を講じなければならず、また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったことを理由に不利益な取り扱いをしてもいけません。
そのため、フリーランスに対するハラスメントが禁止であるということを会社内での周知を徹底したり、フリーランスが会社の従業員からハラスメントを受けた場合の相談窓口を設定するなどの措置を講じることが必要です。
また、委託事業者が、フリーランスに対して長期間にわたって継続的な業務委託を行う場合には、妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をしなければなりません。
長期間の業務委託ではない場合にも、同様の配慮をする努力義務を負います。
⑤解除等の予告
一定期間の継続業務委託関係がある者との間の契約を中途解約する場合には、30日前までに解約を予告しなければなりません。
また、委託事業者は、フリーランスから、契約解除の理由の開示を求められた場合には、遅滞なくこれを開示しなければなりません。
次に、上記の他に委託事業者の注意すべき点として、禁止されている事項を列挙して説明します。
⑴フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒絶すること
⑵フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
⑶フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
⑷通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑸正当な理由がなく自己の指定するものの購入・益務の利用を強制すること
⑹自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させること
⑺フリーランスの責めに帰すべき事由なく、給付内容を 変更させ、またやり直させること
フリーランス保護法の定めに違反した場合、公正取引委員会等から違反行為について助言・指導・報告・聴取・立入検査・勧告・公表・命令がなされ、 命令違反及び検査拒否等に対しては、50万円以下の罰金が課される可能性があり、委託事業者が法人の場合には行為者と法人の両方が罰せられます。
また、このような処分がなされると、処分を受けたということで、企業の信頼に関する、いわゆるレピテーションの問題が生じることもありますので、注意が必要です。
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