1 課徴金制度における返金方法の弹力化
改正前景表法10条および11条は、課徴金納付命令の通知を受けた事業者が実施予定返金措置計画の認定を受けて一般消費者への金銭による返金措置を実施した場合、返金した額を課徴金の額から減額することを定めています。
この返金措置は、課徴金制度の導入以来これまでの利用がわずか数件にとどまっています。そして、その理由として、返金を実施するために銀行口座情報を購入者から取得しなければならないことや、振込手数料が割高であることなどが指摘されていました。
そこで、改正景表法では、金銭以外の支払手段として第三者型前払式支払手段 (いわゆる電子マネー等)を利用することが認められました。
2 課徴金額の推計規定の新設
改正景表法8条4項は、事業者が課徴金の計算の基礎となるべき事実を報告しないとは、内閣府令で定める合理的な方法により売上額を推計して、課徴金の納付を命ずることができることとしました。
課徴金の額は、課徴金の対象となる不当表示をした期間(最大3 年)の売上額が計算の基礎となりますが、商品の売上データを適切に管理していない事業者については課徴金の基礎となる売上額が把握できないために課徴金を課すことができませんでした。しかし、そうすると、ずさんな管理をしていた事業者がかえって得をするという不都合が生じていたため、この推計規定が導入されました。
この「合理的な方法」とは、 課徴金対象期間のうち課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握した期間における1日当たりの売上額に、課徴金対象期間の日数を乗ずる方法とされています (改正景表法施行規則8条の2)。
したがって、この改正によってもまったく売上額が把握できない事業者につい ては、売上額を推計することはできないこととなります。
ただし、いかに管理がずさんな事業者であっても、まったく売上額を把握できないことはまれと考えられますので、この制度の導入により、これまでは課徴金対象期間全期間分の課徴金を課すことができなかった(あるいは把握できた売上額が5,000万 円に満たないためにまったく課徴金を課すことができなかった) 事例の多くについて課徴金を課すことができるようになるものと考えられます。
これを事業者サイドから見てみると、たとえば、売上が伸びてきた直近1年分の売上だけ把握しているようなケースにおいては、その3年分を基準として課徴金が計算されると、本来支払うべき課徴金よりも高額の課徴金を課されることになります。
このような不利益を避けるためには、商品の売上額を適切に把握・管理しておく必要があります。
3 再違反事業者に対する課徴金の割増し規定の新設
基準日から遡って、10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対する課徴金の割合を3%から4.5%に割増しする規定が新設されました (改正景表法8条5項)。
基準日は、報告徴収等、合理的根拠の提出要求、弁明の機会の付与のいずれかが行われた日のうち最も早い日とされています(改正景表法8条6項)。
なお、事業者が過去に課徴金納付命令を受けた者かどうかが問題とされるため、同一の商品・役務でなくても、この規定は適用されます。
4 不当表示に対する直接の刑事罰の新設
優良誤認表示と有利誤認表示に対する直接の刑事罰の規定が新設され、これらの不当表 示をした個人に対して100万円以下の罰金が科せられるほか(改正景表法48条)、法人にも 100万円以下の罰金が科せられることとなりました(改正景表法49条1項2号)。
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令和6年10月1日から施行された景表法改正のうち、今回は確約手続きについて説明いたします。
1 確約手続きの内容と流れ
確約手続とは、不当表示または景品規制違反の疑いのある事業者から、
①違反被疑行為やその影響を是正するための是正措置計画を提出させ、
②その計画が是正措置として十分であり確実に実施されると見込まれると消費者庁が認定した場合、
違反被疑行為に対する措置命令や課徴金納付命令を行わないこととする制度のことです。
確約手続は、消費者庁が違反被疑行為について、確約手続の対象とすることが適当と判断した場合に、違反被疑行為の概要等を記載した書面を事業者に通知(確約手続通知)することにより開始することとなっています (改正景表法26条、30条)。
通知を受けた事業者は、確約手続通知を受けた日から60日以内に、是正措置の認定を申請する必要があります(改正景表法27条1項、31条1項)。
ただし、消費者庁が公表した確約手続運用基準の記載では、「確約手続をより迅速に進める観点から、消費者庁が確約手続通知を行う前であっても、違反被疑行為に関して調査を受けている事業者は、いつでも、調査を受けている行為について、確約手続の対象となるかどうかを確認したり、確約手続に付すことを希望する旨を申し出たりするなど、確約手続に関して消費者庁に相談することができる」とされております。
そのため、実際には、確約手続通知を受ける前段階で、消費者庁と事業者とで協議を行った上で、是正措置計画の策定を開始するという運用が想定されています。
このような中で事業者から提出された是正措置計画が、違反被疑行為やその影響を是正するために十分かつ確実なものであると消費者庁が認定すれば、措置命令や課徴金納付命令が行われないこととなります(改正景表法28条本文、 32条本文)。
もちろん、認定された是正措置計画に従って是正措置が実施されないときや虚偽または不正の事実に基づいて認定を受けたことが判明したときは、認定が取り消されて調査が再開され、措置命令や課徴金納付命令が行われます (改正景表法29条1項、 28条ただし書、 33条1項、 32条ただし書)ので誠実な対応が必要であることは言うまでもありません。
2 確約手続の対象
消費者庁が、確約手続の対象とするか否かの判断にあたっては、「確約手続により問題を解決することが一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があるか否かを判断する」とされています。
具体的には、「違反被疑行為がなされるに至った経緯、違反被疑行為の規模及び態様、一般消費者に与える影響の程度並びに確約計画において見込まれる内容その他当該事案における一切の事情を考慮し、違反被疑行為等を迅速に是正する必要性、あるいは、違反被疑行為者の提案に基づいた方がより実態に即した効果的な措置となる可能性などの観点から判断する」とされています。
このような記載からも、確約手続通知以前に消費者庁と事業者との協議が行われることが前提になっていることが窺えます。
確約手続の対象外となる場合として、以下の2つが確約手続運用基準において挙げられています。
① 10年以内に景表法に基づく法的措置を受けたことがある場合
② 違反被疑行為とされた表示について根拠がないことを当初から認識しているにもかかわらず、あえ て当該表示を行っているなど、悪質かつ重大な違反被疑行為と考えられる場合
3 是正措置の内容
確約手続運用基準では、典型的な是正措置として、以下の7つが挙げられています。
① 違反被疑行為を取りやめること
② 一般消費者への周知徹底
③ 違反被疑行為及び同種の行為が再び行われることを防止するための措置
④ 履行状況の報告
⑤ 一般消費者への被害回復
⑥ (アフィリエイターなど違反被疑行為の原因となった取引先との) 契約変更
⑦ (有利誤認表示に合わせた) 取引条件の変更
このうち①と②は 「措置内容の十分性を満たすために必要な措置の一つである」とされており、③と④は、「措置内容の確実性を満たすために必要な措置の一つである」とされているため、是正措置計画に必ず盛り込まなければならない事項です。
⑤一般消費者への被害回復とは、商品または役務の代金の全部または一部を消費者に返金することを意味し、これについては、「措置内容の十分性を満たすために有益であり、重要な事情として考慮することとする」とされ、必ずしも是正措置計画に盛り込まなくてもよいことになっていますが、十分性を判断するうえで重要な要素と位置づけられています。この記載からすると、特段の事情のない限り、返金措置を盛り込まない是正措置は不十分と判断される可能性が高いのではないかとされています。
なお、特段の事情としては、法律上、課徴金の納付を命じることができない場合(景表法8条 1項ただし書) が想定されており、具体的には、以下の2つの場合です。
(ア) 事業者が不当表示に該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠ったものでないとき、
(イ)課徴金の額が150万円未満であるとき (売上が5000万円未満であるとき)
⑥と⑦は、「措置内容の十分性を満たすために有益である」とされており、重要度としては返金措置よりも一段下に位置づけられているが、それらの対応が実施可能であるにもかかわらず、是正措置計画に盛り込まない場合には、十分性が認められないおそれが高いと考えられています。
4 制度の利用について
確約手続が認定された場合、 認定確約計画の概要、認定に係る違反被疑行為の概要、確約認定を受けた事業者名その他必要な事項が公表されることになります。
その際、 景表法の規定に違反することを認定したものではない旨は付記されますが、一般消費者からは違反被疑行為を自認したと受け取られる可能性もあり、その内容が措置命令と同じように報道されてしまうと、措置命令を受けた場合と同様、企業のレピュテーションに大きな影響を与えるおそれがあります。 また、是正措置計画に返金措置が必要となると、 経済的な面でも確約手続を利用するインセンティブが低くなるという懸念もあります。
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