2024.6.27.Thu
- 基本
- 契約書
契約書の読み方③売買契約その2
前回に引き続き、売買契約についてご説明します。今回は、検査の規定と、実際にあった裁判例を取り上げます。
3 検査
Q:検査の規定は、どのような内容にしたら良いのでしょうか?売主側と買主側で違いはありますか?
A:売主側の条項と買主側の条項についてご説明します。
⑴ 売主側
第〇条(検査)
買主は、本件目的物を受領後、5営業日以内に検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件目的物に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件目的物を受領後5営業日以内にその旨を通知し、履行の追完を催告しなければならない。この場合、売主は、自己の選択に従い、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行うものとする。なお、本件目的物の受領後5営業日以内に、買主より売主への通知が無い場合は、買主により本件目的物の内容が合格と判断されたものとみなす。
☆ここでのポイントは3つあります。
まずは、検査の期間を定めていることです。検査の期間を定めていなければ、売主は検査の合否がなかなか分からず、不安定な立場に置かれてしまいます。
2つ目は、履行の追完方法を売主が決めることができることです。民法では、買主が契約不適合の対応を選択できるとされていますが、売主が選択できるとすることで、契約不適合があった場合でも、売主は対応しやすくなります。
3つ目は、通知がなければ検査に合格したとみなすことです。いつまでも検査の結果について通知がなければ、売主はいつまで契約不適合責任を追及されるかがわからず、不安定な立場に置かれるので、みなし合格の規定を定めることで、このような事態を回避します。
⑵ 買主側
第〇条(検査)
買主は、本件目的物を受領後、10営業日以内に検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件目的物に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下 「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件目的物を受領後10営業日以内に買主の選択に従い、本件目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を催告するものとし、売主は、買主が定める期限内に、買主の選択に従い、 無償で、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行わなければならない。
買主としては、検査期間が十分な日数であるかを確認しましょう。例えば、「5日以内」となっている場合、連休などをはさむと十分に検査をすることができないおそれがあります。その場合は期間を延ばしたり、「5営業日以内」にしたりするなどの修正が必要です。
Q:契約不適合の条項案について教えてください。
A:売主側の条項と買主側の条項についてご説明します。
⑴ 売主側
第〇条(契約不適合責任)
商品に第〇条に定める検査では発見できない契約不適合があった場合(数量不足を除く)、買主は、当該不適合が本件目的物の受領後6か月以内に発見されたときに限り、売主に対して当該契約不適合の発見後5営業日以内に、履行の追完を催告することができるものとし、この場合、売主は、自己の選択に従い、本件目的物を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を行うものとする。
契約不適合責任に関する民法の規定は任意規定であり、当事者間の合意が優先します。そのため、売主が契約不適合責任を負わない旨の特約も、民法上は原則として有効です。もっとも、売主が不適合であることを知りながら買主に告げなかった事実についてまで売主の責任を免除することは不適当ですので、その場合は、契約不適合責任を負わない旨の特約が あっても、売主は責任を負うことになります。
⑵ 買主側
第〇条(契約不適合責任)
商品に第〇条に定める検査では発見できない契約不適合があったときは、売主は、当該契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるかを問わず、買主の選択に従い、当該商品の無償による修補、代替品の納入若しくは不足分の納入等の方法による履行の追完、代金の全部又は一部の減額若しくは返還その他の必要な措置を講じなければならない。
買主としては、契約不適合責任を追及できる期間の制限を設けなかったり、契約不適合責任の原因を問わないと定めたりすることにより、あらゆる場合において契約不適合責任を追及できるようにすることが考えられます。
4 裁判例
検査及び契約不適合責任の条項が問題となった事例(東京地判平成23年1月20日(平成20年(ワ)第25857号)についてご紹介します。
⑴ 事案の概要
買主Xが売主Yから土地を購入したものの、購入から8カ月後に土壌汚染を発見しました。両社の契約書には、「本件土地引渡後といえども、廃材等の地中障害や土壌汚染等が発見され、買主が、本件土地上において行う事業に基づく建築 請負契約等の範囲を超える損害(三〇万円以上)及びそれに伴う工事期間の延長等による損害(三〇万円以上)が生じた場合は、 売主の責任と負担において速やかに対処しなければならない」と定められていたため、XはYに対して瑕疵担保責任(改正前の用語で、改正後は契約不適合という用語になりました)として汚染を除去するのに要した費用1470万円を請求しました。
⑵ 売主Yの主張
売主Yは、①買主Xは土地の受領後遅滞なく土壌汚染の有無を検査し、それが発見された場合には直ちにその旨をYに通知しなければならないのに、検査・通知をしていないこと、②土地の引渡しから6か月以上が経過していたことから、Xは瑕疵担保責任を追及することができないと主張しました。
※商法526条
1.商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2.前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することのできない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3.前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
⑶ 本事案の問題点
商法526条は、商人間の売買では、買主は目的物を受領した際は遅滞なく検査しなければならないこと、直ちに発見できない契約不適合があった場合には、6か月以内にその契約不適合を発見しなければ、売主に責任追及できないと定めています。しかし、当該契約書には、土地引渡後も土壌汚染が発見された場合には、売主の責任と負担において対処する旨が定められているため、買主Xが6か月経過後も売主Yに契約不適合責任を追及できるかが問題となりました。
すなわち、本事案の問題点は、当該契約書の条項によって、商法526条の適用が排除されるかという点です。
⑷ 判決の要旨
本事案について、裁判所は、①契約書の文言上、土地の引渡し後も土壌汚染が発見された場合には売主が責任を負うことを規定しており、他方、引渡し後の責任の存続期間については制限がないこと、②買主Xが土地受領後に「遅滞なく」土壌調査を行うことは、当事者間において想定されていなかったと認められることを理由に、商法526条の適用は排除されていたと解するのが相当であると判示しました。
⑸ 売主Yの対応例
本件では売主Yの主張は認められませんでしたが、売主Yとしては、契約書の条項をどのような文言にすればよかったのでしょうか。
売主Yの対応としては、①商法526条の適用が排除されないことを明記しておくこと、②売主の責任期間や検査・通知義務を明記することが挙げられます。
⑹ 本事案から学べること
契約書において、法令の適用を排除する旨明記していなかったとしても、規定の内容によっては、当該法令の適用を排除する趣 旨であると解釈される可能性があります。
そこで、契約書のチェックを行う際には、契約書の文言が明確になっていないことによって、紛争が生じるおそれがあること、契約締結時に当事者の認識が一致するよう十分に協議し、契約書に明記をしておくことでリスクを回避できることを意識するようにしてください。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。