法務DDを行うタイミング
法務DDを含めDD(デューデリジェンス)を行う際には対象会社から大量の情報が公開されます。その中には、会社の機微情報が含まれていることが多いため、その情報の管理の観点から、M&Aを検討することを前提とした秘密保持契約や秘密保持条項を含めた基本合意書を締結し、その後に、法務DDを実施するのが一般的です。
場合によっては、基本合意書の中に独占的交渉期間が定められていることがあるため、その期間内に、M&Aを実行できるスケジュール立てをした上で法務DDを進めていくこともあります。
基本合意書については、MOU(Memorandum of Undestanndings)やLOI(Letter of Intent)と略されることもありますが、どれもM&Aの実行ないし検討に向けた準備に関する合意を確認する文書で、秘密保持条項や独占交渉条項などを除いて、法的拘束力を持たない(M&Aの実行を強制されない)ことが一般的です。
法務DDの必要性
M&Aを実行しようとする会社と話をしていて、「今回は予算が限定されているので、法務についてはDDを行わず、表明保証で対応しようと思います。」と言われる方とお会いすることがあります。
表明保証とは、最終の契約書(株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など)において、売主が対象会社についてさまざまな事実(たとえば、決算処理が適切になされていることや未払いの労働債権が存在しないことなど)について表明して保証を行い, この表明保証に反する事象が発覚したり、生じた場合には、それにより買主に生じた損害を補償する条項をさします。
上述の発言は、厳しい条件で表明保証を課すことで違反があった場合には損害賠償請求することができるため法務DDを省略するという趣旨でなされたものですが、表明保証によっても法務DDを省略してよいとは言えません。この点については従来から,
- 事後的な救済である補償・損害賠償では解決に時間がかかること
- 損害の立証が困難であること
- 請求時には売主が無資力となっている可能性があること
- そもそも事後的な金銭賠償では償えないような大きな損害を受ける可能性があること
などが理由として挙げられています。
また、最近では、表明保証違反に基づく売主の補償義務について、金額の上限や請求可能期間の制限を設けることも多いため、このかかる観点からも表明保証でカバーできる範囲がますます狭くなっているということがいえます。
取締役の善管注意義務と法務DDの関係
取締役には、経営に関する善管注意義務が課せられています。これは、M&A取引を実行する場合にも当然適用されるものであり、法務DDを行えば認識できたであろう問題点があったにもかかわらず、法務DDを行わなかったために、それを見落としたままM&Aを実行したというような場合には、この善管注意義務に違反しないかという点が問題となります。
この点に関連して、法務DDの実施と取締役の善管注意義務の問題について,正面から議論された裁判例は今のところ見当たりません。
しかし, M&Aの実行に先立って、DDを実施することが一般化したといえる現在においては、通常行われるべきDDを実施せずにM&Aを実行し, その結果会社に損害が生じた場合には、取締役の善管注意義務違反の問題は避けて通れないと思われます。
いわゆる経営判断の原則においても
- 当該判断の当時の状況に照らし、
- 当該会社の属する業界における通常の経営者を基準として
- 当該判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなかったか、その事実に基づく判断が著しく不合理でなかったか
という観点から判断を行うこととされており、DDの実施は③の「判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなかったか」を判断する材料の1つといえます。
株式取得に関する裁判例で、株式を取得して半年足らずの間に対象会社が不渡りを起こしてしまい,銀行取引について停止処分を受けたという事案で、買収会社の取締役の善管注意義務違反が問題となった事案で、経営判断の原則の適用の事情の一つとして, 買収会社が対象会社の計算書類と経営上の重要事項について適切に質問しており,これに対する対象会社の回答内容に真偽を疑うべき事情がなかったことが挙げられており(東京地判平27.10.8 資料版商事法務381-133)、この裁判例から考えても法務DDの実施が、取締役の善管注意義務違反について影響を与えるものであるということがいえると思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
※本コラムは2023年10月実施の法律事務所の顧問先企業向け動画配信の内容をもとに作成しております。上記動画は、顧問先企業の従業員向け研修を意識して作成しておりますので、従業員向け研修をお考えの方にもご参考になれば幸いです。
1 炎上投稿の共通項
SNSが発達した今日、世界中の人が私たちの投稿を閲覧することができます。SNSに不適切な投稿をすると、それは瞬く間に拡散され、度々炎上に繋がります。
では、どのような投稿が不適切として炎上に繋がるでしょうか。炎上する投稿を見ていくとそこには共通項が見えてきます。炎上の共通項を知ることは、予期しない炎上を防ぐうえで役立ちます。
以下では具体例を挙げながら、炎上の共通項について確認していきます。
⑴ 不適切な投稿タイミング
①TSUTAYAの店長が東日本大震災の最中、TSUTAYA公式ツイッターアカウントに
「テレビは地震ばかりでつまらない、そんなあなた、ご来店お待ちしています」
と投稿し、炎上。店長は実名を明らかにしたうえで謝罪。
②ディズニー公式ツイッターアカウントが、長崎への原爆投下から70年の8月9日に「なんでもない日おめでとう」
と投稿し、炎上。担当者は謝罪し、問題となった投稿は削除。
これらの事例のように投稿タイミングを誤ることは、炎上に繋がる可能性があります。
大災害、大事件や戦争に関する日などの投稿は、内容次第では不適切、不謹慎な投稿と受け止められます。このような日は、それぞれの人が様々な記憶や想いを抱いていることに配慮し、いつも以上に節度をもった投稿を行いましょう。
⑵ 価値観の多様性への配慮の欠如
①新潟日報社の報道部長が個人のツイッターアカウント上で、長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返していたところ、これらは報道部長の投稿であるということが判明。報道部長は謝罪をし、ツイッター上にも謝罪文を掲載。
②四国放送株式会社の社員が個人のツイッターアカウントと間違って、同社の公式ツイッターアカウントにて公明党や代表議員を批判する内容の投稿をし、炎上。四国放送株式会社は、個人の携帯電話から公式ツイッターに書き込みができていたことや、管理体制が杜撰であったとして謝罪。
個人の内心でどの思想や政党を支持し、あるいは支持しないかは自由です。しかし、これらの事例のように、自身の思想を外部に発信する場合には、自身と異なる思想を持った者を攻撃する内容になっていないかといった配慮が必要です。もし、このような配慮に欠けた投稿をすれば、炎上することは必須です。また、投稿時には、不適切な表現を使っていないかについても注意しましょう。
⑶ 「中の人」と世間の感覚のズレ
タカラトミーの公式ツイッターアカウントが
「#個人情報を勝手に暴露します」「(とある筋から入手した、某小学5年生の女の子の個人情報を暴露しちゃいますね)」
などと投稿したところ、性犯罪を想起させるとして炎上。タカラトミーは謝罪し、問題となった投稿を削除。また、公式ツイッターアカウントの投稿を当面の間停止すると発表。
この事例が炎上した原因は、いわゆるツイッターアカウントの「中の人」と世間の感覚にズレがあったためです。タカラトミーのような子供向け玩具を販売する会社が子供の性犯罪を連想させる投稿を行ったことに、情報の受け手は強い拒否感を示すのは当然です。
企業としては、多くの人に投稿を見てもらうために、ユーモアのある投稿をすることも重要ですが、その投稿が好意的に受け取られる内容のものであるかを、よく吟味してから投稿しましょう。このとき、会社の販売商品、ターゲット層、世間の状況について複数の社員が広い視点をもって考えることも重要です。
⑷ 他者のプライバシーの侵害
不動産仲介業者の従業員が芸能人夫婦を接客し、35万円の賃貸物件を紹介した旨を個人のツイッターアカウントに投稿し炎上。当該従業員のツイッターアカウントはすぐに削除されたものの、従業員はプライベートな内容の投稿もしていたため、問題となった投稿をした従業員はすぐに特定された。
芸能人を接客したなど珍しい経験をしたときに、誰かに話したくなる気持ちは分かりますが、顧客の個人情報やプライバシーに関する事項を投稿することはもちろん許されません。「個人アカウントだから閲覧している人は少ないだろう」と思うかもしれませんが、炎上するような内容の投稿はすぐに拡散され、多くの人の目に触れることになります。
また、投稿者が誰であるかということや投稿者がどこに勤務しているかなども容易に特定され得ますし、特定された場合は、そのアカウントが従業員個人のものであっても、会社のイメージや信用が失墜するおそれがあります。そのため、他者の個人情報やプライバシーに関する情報が投稿内容に含まれていないか確認しましょう。
⑸ 投稿への興味・関心を集める方法の誤り
KIRINが午後の紅茶のPRのために「#〇〇女子」「#いると思ったらリツイート」などのタグをつけ、4種の女性像のイラストを投稿。その女性たちの特徴を説明するイラストやコメントが午後の紅茶を買っている女性を馬鹿にしているようにしかみえないといった批判が相次ぎ炎上。KIRINは謝罪し、問題となった投稿を削除。
この事例が炎上した原因は、投稿への興味・関心を集める方法を間違ったことにあります。商品のPR投稿の内容が不適切なものであれば、消費者から広報の考え方が甘い企業であると認識されるおそれがあります。
また、投稿の趣旨が伝わりづらいと、色々な解釈を生み、批判的な意見を招くおそれもあります。そのため、発信の趣旨が伝わりやすく、色々な解釈を生まない内容であるかを検討してから投稿しましょう。
2 炎上した場合の処分
では、投稿が炎上した場合、投稿をした従業員にはどのような処分が下されるのでしょうか。
⑴ 懲戒処分の内容
炎上した場合、問題となる投稿をした従業員は、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。懲戒処分の内容としては、従業員を文書で指導する戒告・譴責・訓告、従業員の給与を減額する減給、従業員に一定期間出勤を禁じ、その期間の給与を無給とする出勤停止、従業員の役職や資格を引き下げる降格、従業員に退職届の提出を勧告し、提出しない場合には懲戒解雇をする諭旨解雇、諭旨退職、制裁として従業員を解雇する懲戒解雇があります。
⑵ 具体的な事例における従業員の処分
上記1⑵でご説明した新潟日報社の報道部長が、個人のツイッターアカウントで長年にわたり、様々な人に対して暴言・中傷・脅迫を繰り返してきたという事例では、報道部長は報道部長の職を解かれ、無期限懲戒休職処分となりました。
また、公明党を批判する投稿をした四国放送の従業員は、懲戒解雇となりました。また、社長や当該従業員が所属していたラジオ局担当役員は減俸処分、上司2人は減給処分となりました。
このように、炎上を引き起こすと、自身に休職処分や懲戒解雇などの思い処分が下されるおそれがあるだけでなく、周囲の人にも責任が波及するおそれがあります。
3 投稿時に気を付けるポイント
⑴ 「炎上さしすせそ」について
そもそも、炎上しやすいトピックは何でしょうか?炎上しやすいトピックをまとめて、「炎上さしすせそ」と呼ぶことがあります。「さ」は災害・差別、「し」は思想・宗教、「す」はスパム・スポーツ・スキャンダル、「せ」は政治・セクシャル、「そ」は操作ミス(誤投稿)を指します。これらのトピックにあたる投稿をする場合は、いつも以上に投稿内容に注意しましょう。
⑵ 炎上しないためのチェックリスト
では、炎上しないためのチェックリストを確認しましょう。
①アカウントを間違っていないか
個人アカウントと会社の公式アカウントを間違っていないか、投稿前に確認しましょう。
②誤字脱字の有無、他の情報との整合性、内容の正確性
重要な情報に誤りがあれば、情報の受け手が混乱したり、不正確な情報を発信する企業だとみなされたりするおそれがあります。投稿前に投稿内容を読み返したり、情報が最新のものであるか、信頼できるものであるかを確認したりすることが重要です。
③画像、動画、リンクミスはないか
②と同様、情報の受け手が混乱しないために、投稿前に確認することが重要です。
④投稿タイミングが不適切でないか
上記1⑴のTSUTAYAやディズニーの事例のとおり、投稿タイミングやその内容によっては、不謹慎であるとして炎上を引き起こすおそれがあります。投稿する日が大災害、大事件や戦争に関する日ではないか、仮にそのような日であったとしても、投稿内容が不謹慎なものでないかといった配慮が求められます。
⑤他者の個人情報やプライバシーを漏洩していないか
上記1⑷の不動産仲介業者の事例のように、他者の個人情報やプライバシーに関する情報を漏洩すると、たとえ個人アカウントであったとしても、会社が特定されるおそれがあります。消費者は、顧客の個人情報を漏洩するような会社の利用は避けるため、結果として会社に損害が生じます。
⑥差別的、侮辱的な発言をしていないか
個人アカウントにおいて過激な内容の投稿で炎上すると、場合によっては投稿者が勤務している会社が特定され、炎上が拡大するおそれがあります。そのため、会社の公式アカウントにおける投稿だけでなく、自身の個人アカウントにおける投稿でも、差別的、侮辱的な発言をしないようにしましょう。
⑦スポンサーシップ契約締結を締結しているか
スポンサーシップ契約を締結していない場合は、オリンピックやワールドカップなどの名称を商業利用してはいけません。一般的な名詞と思っているものでも商標登録されているものがあるので、不用意に利用できないものがあることに注意しましょう。
⑧法令に適合しているか
投稿内容が景品表示法や薬機法などの法律に違反している場合は、炎上に繋がるだけでなく、行政庁から処分を下されるおそれがあります。法律に違反していないかを判断することは難しいので、問題となりうる場合には、まずは弁護士に相談したうえで、問題ないことを確認してから投稿しましょう。
⑨会社のSNS運用ルールを遵守しているか
会社のSNS運用ルールに従って投稿することで、炎上する可能性を相当程度低減させることができます。会社にSNS運用ルールがあるかを確認し、それがある場合には、そのルールに従った投稿をしましょう。
⑩投稿内容が伝わりやすいか
投稿内容の趣旨が伝わりにくく、色々な解釈を生む内容であれば、批判的な意見を招きかねません。投稿内容が多くの人にとって容易に理解できるものであることが求められます。SNSに投稿する前に会社内部で投稿内容から受ける印象について検討し、誤解を生じさせるような内容でないかを確認しましょう。
⑪他者の思想、価値観への配慮をしているか
情報の受け手は様々な価値観を持っています。他者の思想・価値観を排除し、自身の思想・価値観を押し付けると、容易に炎上に繋がります。他者の思想・価値観に寛容な姿勢を持ち、自身とは異なる価値観を持つ人に配慮した投稿をしましょう。
⑫他人の著作権を侵害していないか
自身の投稿に他者のイラストや文章などを無断で掲載すると、著作権の侵害となります。著作権侵害行為に該当すれば、損害賠償請求などをされるおそれがあるので、他人の著作物を無断で使用していないか確認しましょう。
⑶ 炎上防止対策
ここまで、投稿時に確認すべき点についてご説明してきましたが、炎上を防止するための容易かつ実効的な対策は、従業員相互でチェックをしあうことです。
主なチェック内容としては、
①会社の公式SNSに投稿する場合は、都度ログイン/ログアウトする
②個人用携帯電話で公式SNSに投稿できない設定にする
③担当者一人でSNSへ投稿をせず、投稿前に複数人で内容を確認する
④ログイン中のアカウントを確認してから投稿する というものです。
③については、年代、性別、役職などが異なる従業員が投稿内容を確認することで、広い視野をもって確認することができ、より実効的な対策となります。
⑷ それでも炎上した場合には
人の価値観は時代によって変化していくため、炎上する投稿内容も変わっていきます。過去に炎上しなかった投稿であっても、今日では炎上する可能性があります。そのため、価値観を日々アップデートしていくことが求められますが、投稿内容に注意をしていたとしても、思いがけず炎上が発生してしまうこともあるでしょう。
では、炎上した場合はどのように対処したらよいでしょうか。
炎上してしまった場合は、投稿者個人で対応せず、上司と対応を相談しましょう。急いで投稿を削除したとしても、スクリーンショットなどによって拡散されているおそれがあり、投稿の削除をもって事態を鎮めることはできません。また、謝罪をしたとしても、謝罪の内容が適切でなければ、さらなる炎上を生む可能性があります。
そのため、炎上してしまったとしても、周囲の者と炎上が発生した経緯について共有したうえで会社の判断を仰ぎ、冷静に対応するようにしましょう。
4 おわりに
炎上する投稿は時代によって変化していくとご説明しましたが、どの時代においても炎上を避けるために重要なことがあります。それは、第三者がその投稿からどのような印象を抱くかを想像することです。自身で客観的な判断をすることが難しい場合には、他の従業員に投稿から受ける印象を聞いてみるとよいでしょう。
様々な炎上事例を見てSNSに投稿するのが怖いと感じている方もいるかもしれません。しかし、SNSは情報を発信するためにツールです。炎上を恐れるあまり、情報を発信することに消極的になってしまうのは本末転倒です。SNS上の投稿は多くの人の目に触れるため、適切に利用すれば、自社や自社商品をPRする上でとても有効です。
従業員の皆様におかれましては、自社のPRのために、炎上するポイントに留意したうえで、SNSをうまく活用していただけたらと思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
※本コラムは2023年10月実施の法律事務所のミニセミナーの内容をもとに作成しております。
それではSNSの管理に関するコンプライアンス(SNSの管理)について書かせていただきます。
このコラムは大きく4つの内容から構成されています。
1つ目がSNSを利用したことによる炎上事例
2つ目がこのような炎上事例を防ぐために行うべきルールの決め方
3つ目が作ったルールの管理方法
4つ目が不幸にして炎上してしまった場合の対応方法
です。
まず、その前にこのコラムの前提ですが、このコラム自体は主には管理する立場の人向けに従業員のSNSの利用をどのように管理していくのかという視点をもとに作成しています。
従業員向けに具体的に聞いてもらいたい内容の具体例については、別のコラムで書かせていただく予定ですのでそちらもぜひご活用ください。
炎上事例の例
まず最初に炎上事例について書いていきます。
ネット社会が進展して、会社も個人も気軽に投稿できるようになって、ネットニュースもどんどん配信されるようになったという時代背景もあって、SNSの炎上に関するニュースもよく目にするようになりました。
炎上事例については時代によって傾向がありますが、最近よく炎上しているものとして挙げられるのがジェンダーに関わることです。
例えば、性的な描写を連想させるということで、炎上したり、女性蔑視ということで炎上するという事例が多く見られます。
東京都が「東京女子けんこう部」というコンテンツを紹介したことについて「けんこう」をあえてひらがなで表記しているのは、女性が男性よりも、知的に劣るという偏見を助長するものだという批判がなされたこともあります。
こちらは極端な批判ということで、大きく炎上することはありませんでしたが、こういったことでも問題になりうるという一例といえます。
次に、タイツメーカーが自社のPRのために、タイツを履いた女性のイラストを掲載したことで、性的な描写を連想させるということで炎上したということもあります。
イラストがスカートを持ち上げたりスカートが短かったり、ということで、下着が見えそうになっていたということから批判が拡大したようです。
このように製作者の意図と反する内容により炎上するという危険は、身近に潜んでおりこれを全て除去するというのはほんとに難しいことですが、会社としては例えば女性も含めたメンバーで問題がないかという確認をするなど、もしくは年齢の異なるメンバーで意見交換をし、年代によるギャップがないかなども確認するということが求められるのではないかと思います。
タクシー会社の公式アカウントが、「今うちには3名の女性ドライバーが居るが、全員20代である。ちなみに、全員めちゃくちゃかわいい。」と記載して、「女性差別」「ルッキズム(外見至上主義)」との非難を受けたものがあります。
これなどは典型的なおじさんの発想によるものでダイバーシティの必要性を強く感じさせるものです。
と思っていましたら、実はその後の報道でこのタクシー会社のSNSは、女性のドライバーが投稿していた、という記事が出てきまして、その記事が正しければおじさんではなく、女性が投稿したとしても危険性があるということがいえます。
記事によると、コロナ禍で売り上げが8割ほどダウンしたため、売上げアップのために新人女性ドライバーを使ったSNS戦略を行って、会社の紹介だけでなく、地元のグルメを紹介したりして、フォロワーが10万人を超えていたそうです。今回の投稿以外にも性的な投稿をしたりして、「会社が女性にやらせている」などという批判も来たそうです。
会社の不注意というものですが、フリー素材として載せられていたものが実は作者に無断で勝手に掲載されていて、それを知らずに会社が広告にイラストを無断で使用してしまったというもので炎上した事例もあります。
フリー素材と書いてあるのにフリーではなかったということはよくある問題で本当に気を付けないといけない問題だと思います。
次に会社の公式アカウントではなく、従業員の個人投稿であったにもかかわらず、会社が謝罪をすることになるというケースもあります。
例えば自動車販売会社の社員が店内で電動椅子に乗ってふざけている動画がSNSに投稿されて障害者を真似して遊んでいるという批判を受け、会社がホームページに謝罪文を載せたというケースがあります。
会社の中で遊んでいるということで映像によって会社が特定されてしまいます。そうすると、会社に対して批判が集まってしまい、会社が従業員個人の行動について謝罪をせざるをえなくなったということです。
会社内での写真や動画の撮影は、場合によっては会社の機密情報が映りこんでしまうおそれもありますし、この件のように会社が特定されて批判を浴びるということもあります。
過去にもコンビニエンスストアのアイスケースに入ったり、と店内での投稿が問題となったことが多くありますので、ルールとして会社内での撮影や投稿を禁止したり、その趣旨を従業員に理解させる、ということが必要になります。
さらには従業員ではなく、その家族が行ったSNSの投稿が問題になるケースもあります。例えば、有名人が銀行に来店した際に、
〇〇さん〇〇銀行〇〇支店ご来店
というようなツイートがされたケースがあります。
これは母親が銀行で働いている女性がツイートしたもので、銀行がすぐにお詫びの文書を出すという事態になりました。
有名人の私的な行動に関するプライバシーの問題ということで非常にセンシティブに扱わないといけない問題であったため、銀行の対応もとても速かったのですが、従業員ではなく、その家族の投稿というところにSNS管理の難しさを感じます。
有名人関連の投稿による問題は多く発生しており、有名人に会えたことの嬉しさや自己顕示欲のために投稿する心理は理解できますので、これを防ぐためには、並大抵の努力では足りないだろうと推測されます。
このようにSNSの炎上と一言で言っても、会社の公式アカウントだけではなく、従業員やその家族の個人アカウントによる投稿に会社が巻き込まれてしまうということもあります。
そのため会社としては公式アカウントの投稿をどのようにするかというだけではなく、会社の従業員に対して、個人のアカウントの投稿も含めて、どのような投稿してはいけないのかということの意識付けを行っていく必要があります。
どのような対策をするのがよいのか
ではどのような対策をしていくことがよいのでしょうか。
先ほどから見ていただいたSNSの炎上事例を見てもわかるように、炎上の原因は、会社や従業員の意識の不足によるものがほとんどです。
そのため、SNSの炎上を防ぐ対策としては、
①ルールを作ること
②従業員の意識を高めること
この2つが重要になります。
そのうちまず1つ目のルール作りについて説明したいと思います。
SNSの映像の中には、従業員が会社に良かれと思って注目を集めようと炎上ギリギリの投稿してしまい、その結果多くの批判にさらされるということもあります。もちろん、何の意識もなく、投稿したものが一般人の感覚にそぐわなかったために、多くの批判を浴びることがあります。
そのため、どのような投稿を行うべきか行うべきでないのか、そしてどのようにチェックをして投稿を行うのかということを決めておく必要があります。
そして、会社の公式アカウントでの投稿を想定すると、アカウントの運用面及び内容面に分けて考える必要があります。
具体的な内容については、来週投稿予定の従業員向けのコラムもご覧ください。
まず運用面では
・投稿する担当の部署を決めること
・1人ではなく複数のチェックを受けること
・個人の端末では投稿させないこと
など投稿するまでの手順を定めておくことが重要です。
一方、内容面では
どのような投稿をしてはいけないのか
ということを定めておく必要があります。
例えばソーシャルメディア利用規定の雛形を一部引用すると、以下のようなことが遵守事項として定められています。
他人の名誉権や、プライバシー権、肖像権、パブリシティー権、著作権、商標権等、法的に保護された権利を侵害しないこと
第三者の個人情報やプライバシーに関する情報発信しないこと
会社の商品、またはサービスの広告を行う場合には、景品表示法などに違反する恐れのある表示をしないこと
ただしこれを規定があるからといってどのようなものが該当するのかは、人によって受け止め方が違いますので、研修などでどのようなものが炎上に繋がるのかということを知ってもらう必要もあります
どのような研修をするのがいいのか
ではどのようにしてルールを浸透させていけば良いのでしょうか。
ルールの浸透には、通常従業員に対する研修が一般的ですが、通常の研修は必要な知識を身に付けさせるというのが目的になります。
しかしSNSのトラブルは発生させてしまった者の知識不足によるものだけではなく、その者の意識の不足という問題もあります。ですので、研修においても従業員に対してどのような意識を持ってもらえば良いのかということを意識して行う必要があります。
先ほどお話したように、従業員はそれぞれ意識が違うということを意識して話をしなければいけないことも忘れないでください。
また研修は一度やればいいというものではないということも意識しておいてください。
その理由は2つあります。
まず1つ目は、SNSの炎上の理由は時代によっても変わるため、その時々の意識関心合わせて研修を行う必要があるという点
2つ目は人間というものは、研修したときには、高い意識を持っていたとしても、どうしても時間が経つと意識が崩れていってしまうため、定期的に研修することで意識を高く持ち続けられるようにしないといけないという点にあります。
ではどのような内容で研修をしたらいいのでしょうか。
まず今回最初にご説明したように身近で、かつ、具体的な炎上事例を見てもらうというのがいいと思います。そうすることによって従業員の意識も引き締まりますし、どのようなことをした結果炎上したのかということが具体的にわかります。
またその事例を自社に置き換えてみた時に、どのようなところに炎上の可能性があるのかや、実際に社内で問題になりかけた事例がある場合には、その話をしてみるというのもいいと思います。
場合によっては、次のグループに分けて自社で気をつけることについて議論をしてもらい、その内容を発表してもらうということでより意識を高めることもできると思います。
またSNSの投稿では、個人のアカウントから投稿した場合など、第三者から当該従業員に対しても損害賠償請求がなされる可能性もありますし、企業のアカウントから投稿した場合でもあっても、企業の信用を大きく損なって、売り上げが減少したり、会社から投稿に対して懲戒処分がなされることもありますので、それだけ責任が生じるものであるということも意識してもらうようにする必要があります。
特にネットの投稿はオリジナルを削除したとしても、そのコピーが出回っていつまでも消えないこともありますので、結果の重大性についても認識してもらう必要があります。
炎上が起きた場合の対策
それでは、実際にSNSの炎上が起きた時にどのようにすればよいでしょうか。
単に会社として謝罪をすればいいというものではなく、炎上した内容によって対応を検討する必要があります。
1つ目は、会社や投稿を担当した者に落ち度があった場合です。
たとえば、差別的な発言をしてしまったような場合など、こちらの非が明らかな場合には、しっかりと謝罪をするとともに、その後の対応として差別を助長しないような研修をしていくことなどを発表することが多くみられます。
会社によっては、差別に反対する声明などをHPにアップしていたり、そのような活動を対外的に行っていたりすることもありますので、そのようなことを掲げておきながら今回の問題を起こしたことを深く反省する旨を入れたり、そのようなことを掲げていながら今回の問題が発生した原因を分析したり、というようなことをすることも考えられます。
会社としては、会社の非を認めることをためらったり、批判が収まるのを待とうとして静観したりすることもあります。
しかし、そのような対応をすることでさらなる批判を招くこともありますし、不誠実な会社という印象を与えることもあります。
2つ目は、会社に落ち度は少ないが、投稿内容の趣旨が不明確であった場合に炎上を招いたような場合です。
このような場合には、謝罪を行うか、趣旨を説明するのか、という判断が難しい場合がありますが、たとえば、趣旨を説明した上で、その趣旨が不明確となったために、〇〇といった批判を受けることとなり、今後趣旨をより明確にすることで誤解を招くことがないよう努めたいという発表をすることが考えられます。しかし、批判の問題意識をうまくとらえないとさらなる批判を招くおそれもあります。
3つ目は、会社の公式アカウントではなく、従業員個人のアカウントからの投稿であったが、会社名などが投稿され炎上に至ったような場合です。
このような場合には、基本的には私人としての投稿といえるとはいえ、その内容に問題があったような場合には、対応をどうするか難しい判断が迫られます。一つの基準としては、企業のイメージを傷つけるような炎上となっているのか、企業として管理責任を問われるようなものなのかどうかです。
そのような場合には、企業として何らかの対応をした方がよい場合が出てきますので、専門家にも相談して検討してください。
このように、対応を誤るとさらなる批判が予想される状況下で的確かつ速やかな対応が求められるというのが、SNS対応の難しさといえます。
炎上を称賛に変えた稀有な例
最後に味の素の事例をご紹介します。
餃子がフライパンにこびりつかない、ということを売りにしていたのに、こびりついたという投稿が個人の方からなされたという事例です。
本来であれば炎上してもおかしくないですが、味の素がその方にそのフライパンを研究開発に使いたいので送ってほしいとお願いして、さらに一般の方にも使い古したフライパンを募った、という事例で会社の研究熱心な態度が逆に称賛されたというものです。会社の熱意というものがネット社会でも評価されることがある、というのはどこか救いを感じます。
まとめ
今まで、SNSの炎上事例から、ルール作りとその浸透方法、炎上した場合の対応について書いてきました。
まずは会社の中でどのようなルールを作って、どのように従業員の意識づけをしていくか、ということから始まると思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
先日、Legal Forceの企画で、顧問弁護士の正しい使い方についてインタビューをしていただきました。
ダウンロードはこちらから
https://legalforce-cloud.com/download/150
改めて、顧問契約を結ぶメリットや顧問契約を検討する時期などについて書きたいと思います。
顧問契約締結のメリット
顧問契約の締結のメリットについては、ご案内ページがありますので、こちらもご参照ください。
顧問契約 | 如水グループ:九州を地盤とした監査・税理士・コンサルティング・社会保険労務士法人 (jwater-group.com)
主には、
① 煩雑な契約業務からの解放
② 法律問題の調査時間の短縮
③ 継続的な紛争予防対策の実施と万が一の場合の円滑な紛争対応
④ 円滑なコミュニケーションの実現
⑤ 法務教育のサポート
が挙げられます。
まず、①について、企業においては、日々事業活動により生じる種々の契約書の確認業務が発生します。こちらのひな型で契約書が締結できるのであれば、チェックの時間も大幅に短縮されますが、相手方の契約書をもとに締結を進める場合には、自社のひな型との違いやそれによって生じる法的効果について検討を行い、受け入れても問題がないのか、変更をお願いしないといけないのか、確認をしなければなりません。
私たちの事務所では、AI契約書審査プラットフォームの「Legal Force」の実現により、迅速で正確な契約書レビューを心がけるとともに、日々相談に乗っている顧問先企業であるからこそ、ビジネスモデルの理解や担当者が求めるレビュー形式(文言の修正を行うのが良いのか、コメントをつける形式がいいのかなど)に合わせた対応など、きめ細やかな対応を行うよう心がけています。
②については、事業活動の遂行の中で様々な法律問題に直面することがあります。
私たちの事務所では、数十社に上る顧問先企業からの相談に応じてきた経験を踏まえて、企業の管理担当者が共通して悩まれる事項について速やかに回答することができます。特に、日ごろから幅広い業種の顧問先から相談を受けているため、業種特有の問題点についても丁寧に対応できるよう心がけておりますし、上場企業や上場を目指す企業の支援も多く行っているため、そのような企業特有のお悩みにも迅速に対応することが可能です。
③については、日ごろから継続的に相談できる体制が整っていることで、紛争の防止に向けた対応を検討することができますし、万が一紛争に巻き込まれた場合にも相談の延長として紛争対応に当たることができます。日常的な労務対応が必要な企業様には、グループ内の社会保険労務士法人との共同顧問など、より細やかなご支援も可能です。
また、どうしても弁護士への相談は敷居が高いと言われがちですが、私たちの事務所では、④チャットワークなどのコミュニケーションツールを活用することで弁護士への相談の敷居を下げ、必要な相談をタイムリーに行えるように心がけております。
特に、新人の管理部員の方をチャットワークのグループに入れていただくことで、弁護士への相談の仕方や弁護士からの回答の活用方法など、社内のナレッジの蓄積にも貢献できるものと考えております。
このような⑤円満なコミュニケーションを行うことに加え、法律事務所のミニセミナー、如水グループの社労士法人との共催による法務労務セミナー、顧問先企業限定の動画配信など、法務教育の体制を整え、顧問先企業を全面的にご支援できるようにしております。
顧問契約の締結時期
弁護士との顧問契約の時期はいつがいいのか、ということに悩まれる経営者の方も多いと思います。ポジショントークとしては、日常的に相談できる体制を整備すること自体が大切なので、思い立ったらすぐにでも、という話にもなりますし、実際、顧問弁護士への相談が少ない企業でも、顧問弁護士がいるという安心感によって経営者が経営に専念することができた、といって顧問契約の重要性をお話しいただく経営者の方もいらっしゃいます。
そのように言っていただけるのは、我々弁護士としてもとても嬉しいことです。
一方で、毎月定額の顧問料の支出も生じますので、経済的な負担の面も考えると、一定の検討ポイントがあった方がいいという側面も否定できません。
一律に基準を示すのは難しいところですが、私が聞かれたときは、
- 1か月の間にリーガルチェックを依頼する契約書が2通以上ある場合
- 利用規約など定期的に見直しが必要なものがある場合
- 株式上場を目指すなど、コンプライアンス体制の整備が必要な場合
などには、顧問弁護士の検討をするのがいいのではないかという回答をさせていただいております。
顧問弁護士の選び方
次にどのような弁護士を顧問弁護士にするのが良いかですが、
① 自社のビジネスモデルを理解していること
② レスポンスが速いこと
③ 相談しやすいこと
がポイントになるかと思います。
特に、人と人の相性の問題はどうしてもありますので、③は一番重視するポイントではないかと思います。
私たちの事務所でも、顧問契約についてご相談を受けた場合には、一度面談をさせていただいた上でお互いに相談をしやすい関係が構築できそうか検討いただいた上で顧問契約を締結していただいております。
一方で、距離が近い方がいいかどうかは顧問弁護士に求める内容によって異なります。
紛争やトラブル対応など、精神的にも不安になりがちなことを相談するケースが多い場合には、直に会って話すことで安心感を得られる側面は否定できませんので、近くにいる方が良いといえます。
そうではなくて、定型的な契約書のチェックなど、メールやチャットワークのやり取りだけで完結する業務が多い場合には、距離にこだわるよりも①専門性や②レスポンスの速さなどを重視して選んでも問題ないことが多いと思います。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。