令和8年1月1日から施行される「中小受託法」(改正下請法)の主な改正点と、それに伴う実務対応のステップについて説明いたします。
主な改正ポイントとして、以下の6点について説明します。
- 「下請」等の用語の見直し
- 下請法の適用基準の追加(従業員数基準の導入)
- 一方的代金決定の禁止規定の追加(価格協議の義務化)
- 下請代金等の支払条件の見直し(手形払いの原則禁止)
- 物流分野における下請法の適用対象取引の拡大
- その他(細かな変更点)
①「下請」等の用語の見直し
まず法律の名称自体が変わる点が大きな特徴です。これまで「下請法」と略されてきた「下請代金支払遅延等防止法」は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」という名称に改められます。通称としては「中小受託法」と呼ばれます。
名称変更の背景には、「下請」という用語が発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるという指摘があり、用語の見直しも行われることになりました。
具体的には、これまで使用されてきた用語も以下のように変更されます。
- 「親事業者」は 「委託事業者」 に
- 「下請事業者」は 「中小受託事業者」 に
- 「下請代金」は 「製造委託等代金」 に
企業としては、契約書や社内規定などで使用している用語を、この新しい用語に合わせて見直すことが推奨されます。
② 適用基準の追加
適用基準の追加は、「下請法逃れ」と呼ばれる、法の適用を意図的に免れる行為に対応するために行われました。
これまでの下請法では、適用対象となる取引の範囲は、事業者の資本金の額と取引内容の2つの要件で定められていました。しかし、会社法における資本金制度の柔軟化や減資手続きの緩和が進んだ結果、事業規模が大きな事業者であっても、少額の資本金で会社が設立されたり、減資によって法の適用対象から外れたりする事例が指摘されていました。
この問題を解決するため、中小受託法では、従来の資本金基準に加えて、常時使用する従業員数を新たな適用基準として追加しました。
具体的な基準は以下の通りです。
- 物品の製造・修理委託および政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合:
◦委託事業者(旧親事業者)が「常時使用する従業員数が300人超」 で
◦中小受託事業者(旧下請事業者)が「常時使用する従業員数が300人以下」 の場合
- 上記以外の情報成果物作成・役務提供委託を行う場合:
◦委託事業者(旧親事業者)が「常時使用する従業員数が100人超」 で
◦中小受託事業者(旧下請事業者)が「常時使用する従業員数が100人以下」 の場合
この従業員数基準の追加により、これまで下請法の適用対象外だった事業者との取引が、新たに適用対象となるケースが大幅に増加すると予測されています。企業としては、自社の取引先について、新たに中小受託事業者に該当する企業がないか、従業員数を確認し、対象取引を洗い出す作業が急務となります。
③ 一方的代金決定の禁止、価格協議の義務化
一方的代金決定の禁止は、近年の物価高騰やコスト上昇、特に労務費、原材料価格、エネルギーコストなどの上昇局面で、価格転嫁が適切に行われない問題に対応するために新設されました。
現行の下請法にも「買いたたき」を禁止する規定はありますが、これは「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」を禁止するものでした。しかし、単価等の見直しをせずに下請代金を据え置く行為は、それだけでは直ちに代金が引き下げられる場合にあたらないこともあり、買いたたきの要件に該当しない場合もありました。これが下請事業者の経営を圧迫しているという指摘がありました。
そこで、中小受託法では、委託事業者(旧親事業者)と中小受託事業者(旧下請事業者)との間で実行的な価格交渉がなされることを確保するという観点から、新たな禁止規定を追加しました。
具体的には、中小受託事業者の給付に係る費用の変動が生じた場合などに、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、委託事業者が以下の行為を行うことを禁止します。
- 協議に応じないこと
- 協議において中小受託事業者が求めた事項について必要な説明や情報を提供しないこと
- 一方的に製造委託等代金の額を決定すること
これらの行為によって中小受託事業者の利益を不当に害することが禁止されます。つまり、これまでは価格が「著しく低い」場合に問題とされていましたが、今後は価格決定プロセスにおける不当な行為も規制されることになります。
委託事業者には、価格協議の要請があった際には適切に応じ、必要な説明や情報を提供し、一方的な決定を避ける義務が生じます。これを怠ると、公正取引委員会から是正勧告を受け、企業名などが公表される可能性があります。
④ 支払条件の見直し
支払条件の見直しは、中小受託事業者の資金繰りを改善し、より確実な代金受領を目的としています。
これまで下請法の下では、手形やファクタリング、電子記録債権などを用いた支払いが認められていました。
しかし、政府は令和3年の閣議決定で約束手形の利用廃止を目標に掲げています。加えて、電子記録債権や一括決済方式による支払いでは、下請代金の全額を現金で受領するまでに、給付受領日から起算して60日を超える期間を要することが多いという問題点が指摘されていました。現行法では、支払期日は受領日から60日以内と規定されていますが、手形決済の場合、手形交付から現金化までにさらに時間がかかることが課題でした。
中小受託法では、これらの問題に対応するため、以下の変更が行われます。
- 支払手段として手形払いは認めないこととされました。
- 金銭以外の支払手段(電子記録債権、ファクタリング等)についても、支払期日までに製造委託等代金(旧下請
代金)の満額の現金と引き換えることが困難であるものは認めないこととされました。
これにより、委託事業者は、手形払いを廃止し、現金またはそれに準ずる、支払期日までに確実に現金化できる支払方法に切り替える準備が急務となります。
⑤ 物流分野への適用拡大
物流分野への適用拡大は、運送業務における取引の適正化を図ることを目的としています。
平成15年の下請法改正で、役務提供委託が対象取引に追加され、元請運送事業者と下請運送事業者の間の取引は下請法の対象となりました。しかし、発荷主(荷物の所有者や発注者)から運送事業者への運送業務の委託は、これまで下請法の適用対象外とされていました。これらの取引は独占禁止法に基づく「物流特殊指定」によって規制されてはいましたが、買いたたきや、契約にない荷役の無償強制、長時間の荷待ちといった問題が依然として高止まりしており、運送事業者が不利益を被るケースが多数指摘されていました。
これらの課題に対応するため、中小受託法では、「特定運送委託」を新たに下請法の適用対象取引とすることとされました。
「特定運送委託」とは、事業者が、業として行う販売、製造若しくは修理の目的物たる物品、または情報成果物が記載等された物品の販売等をした場合に、取引の相手方に対する運送の行為の全部または一部を他の事業者に委託する行為を指します。
⑥ その他改正点
上記の主要な改正点の他にも、いくつか重要な変更があります。
- 「製造委託」の対象物の追加: これまで対象物に含まれていなかった木型、治具等も、「製造委託」の対象物に 追加されることになりました。
- 減額された代金分の支払についても遅延利息の対象となること: 製造委託等代金が減額された場合、その減額された代金分の支払いについても、中小受託事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過した日から支払をする日 までの期間について、遅延利息の対象とされます。
- 電磁的方法による書面交付の容認: 現行の下請法第3条に基づき交付が義務付けられている書面について、中小受託事業者(旧下請事業者)の承諾なくして電磁的方法により提供できるように変更されます。
- 是正済み違反に対する再発防止勧告: 委託事業者(旧親事業者)が中小受託法第5条に規定する禁止規定に違反した場合、たとえその違反行為が既に是正されていたとしても、公正取引委員会が再発防止策を勧告できるように規定が新設されました。
まとめ
これらの改正を踏まえて、企業、特に「委託事業者」が実務で気を付けるべきポイントと、契約書作成で気を付けるべきポイントをまとめとしてお話しします。
まず、取引で気を付けるべきポイントとしては、以下の点が重要です。
- 対象となる取引先の洗い出し
◦ 従業員数基準が加わったことで、これまで下請法の対象外だった取引先が新たに中小受託事業者となる可能性があります。
◦ また、特定運送委託の追加により、運送業者との取引も新たに法の対象となる可能性があるので、こちらも見直しが必要です。
- 支払手段の現状調査と改善
◦ 手形払いが原則禁止となるため手形を利用している場合は現金または振込での支払いに切り替える準備が急務です。
◦ 電子記録債権やファクタリングを使用する場合も、支払期日までに満額を現金化できるかを確認し、困難な場合は使用を停止する必要があります。
- 振込手数料負担の廃止
- 価格協議の社内フロー整備と記録管理
◦ 価格協議が義務化されたため、中小受託事業者からの価格改定の求めに対し、適切に協議に応じ、必要な説明・情報を提供できる社内フローを整備する必要があります。
- 社内規定・マニュアルの作成と周知
◦ 改正法に対応した社内マニュアルを作成し、新たな義務、禁止行為、罰則、リスクについて全従業員に周知徹底する必要があります。研修や定期的なフォローアップを通じて、社員の理解を深めることが推奨されます。
- 支払サイト変更に伴う資金調達の検討
◦ 手形支払いから現金払いに切り替える企業は、急な資金繰りに支障をきたす可能性があります。また、60日の支払期限厳守が求められるため、運転資金が圧迫されることも考えられます。
次に、契約書作成で気を付けるべきポイントです。
- 用語のアップデート
◦ 契約書、見積書、発注書などの書面において、「下請法」「親事業者」「下請事業者」「下請代金」といった旧用語を、改正後の「中小受託取引適正化法」「委託事業者」「中小受託事業者」「製造委託等代金」に変更する必要 があります。
- 必要的記載事項の確認と書面交付義務の対応
◦ 改正法第4条(旧第3条)に基づく書面交付義務や、第7条(旧第5条)に基づく書類作成・保存義務に対応できるよう、既存の契約書類の記載内容が十分か精査が必要です。
◦ 中小受託事業者の承諾がなくても電磁的方法による書面提供が可能となったため、その運用準備も検討できます。
- 支払条件の見直し
◦ 契約書において、支払期日を給付の受領日から60日以内と明確に定め、手形払いを禁止する旨を記載する必要があります。現金化が困難な電子記録債権やファクタリングも使用できない点を反映させましょう。
- 価格協議に関する条項の追加
◦ 価格協議の義務化に伴い、契約書に中小受託事業者の費用変動等に応じた価格協議の求めに応じる旨や、協議のプロセスに関する条項を設けることを検討するべきです。
- 遅延利息の適用範囲の確認
◦ 減額された代金についても遅延利息の対象となる点が追加されたため、契約書における遅延利息に関する規定も、この改正に沿って適用されることを認識しておく必要があります。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
今回は、前回に引き続き、カスタマーハラスメントへの対応方法のうち謝罪について解説します。
1 謝罪を要求された場合の対応
⑴ 謝罪を要求された場合の一般的対応手順
①【聴取】 顧客の主張および要求内容のヒアリング
②【調査】 聴取を踏まえ、客観的事実関係等の確認
③【判定】 調査を踏まえ、要求内容の正当性について判定
④【回答】 判定を踏まえ、回答
⑵ 謝罪を行うべき場合
顧客から謝罪を求められた場合であって、
①【判定】において法的責任があると認められ、
②謝罪をすることが自社にプラスに働く場合 に初めて謝罪を行うべきです。
一方、顧客の感情に寄り添うための謝罪を行うことは状況に応じて検討すべきです。
そのため、道義的責任を認める謝罪、法的責任認める謝罪の2つを区別して、【判定】前に法的謝罪を行わないことが重要です。
⑶ 道義的謝罪
①道義的謝罪とは
道義的謝罪とは、一般的に顧客の主張する事実または要求を認める内容を含まず、顧客の感情に寄り添うために道義的な限度で行う謝罪で、法的責任について承認または発生させない謝罪のことを指します。
〇良い例
・ご不快な気持ちにさせて、申し訳ありません。
・ご不便をおかけしたことをお詫び申し上げます。
→顧客の主張する事実は認めておらず、感情に寄り添う限度でのみ謝罪をしています。
×悪い例
・申し訳ありません。すぐに返品交換させていただきます。
→顧客の要求に応じる法的責任を認めている。
・商品管理を怠り、申し訳ございません。
→顧客の主張する事実を認めてしまっている。
②道義的謝罪を行う場面
ア 企業に落ち度がない場合
イ 法的な過失・義務違反には至らない何らかの落ち度がある場合
※道義的謝罪のみをもって法的責任が肯定されることはありませんが、書面による謝罪を行う場合、文言により企業が法的責任を認めたと受け取られ、証拠とされるおそれもあるため、慎重な対応が必要です。
⑷ 法的謝罪
①法的謝罪とは
一般的に顧客の主張する事実または要求を認める内容を含み、法的責任を承認または発生させ得る謝罪のことを指します。
②法的謝罪を行う場面
ア 企業側に法的な過失・義務違反がある場合
かつ
イ 謝罪をすることが企業側にとって有利に働く場合 に法的謝罪を行うべきです。
③法的謝罪を行う場合の注意点
曖昧・包括的な内容によって事実や法的責任を認める範囲が不明瞭に拡大しないように注意が必要です。
法的謝罪は、訴訟において法的責任の認定において重く評価され、企業側に不利な証拠となる可能性が高いので、法的謝罪を行うかは慎重に検討してください。
2 念書等を要求された場合の対応
⑴ 顧客が書面による謝罪を要求してくる理由
企業側が非を認めたことを証拠として残すため、顧客が書面による謝罪を要求してくることがあります。
書面による謝罪をすると、裁判において証拠となるリスクやインターネット等で公開されるリスクがありますので、安易に応じないようにしましょう。
⑵ 書面による謝罪を要求された場合の対処法
顧客から書面による謝罪を要求された場合、企業側としては、原則として断るべきです。企業内で検討した結果、書面による謝罪をすることとなった場合には、
①法的責任と道義的責任の区別を意識した記載にする、
②謝罪する場合には何に対する謝罪であるかを明確にする、
ことにが重要です。
⑶ 具体的な文例
①法的責任を認める場合
「この度は当社製品の欠陥により、〇〇様がお怪我をしたこと、そのために〇〇様がお仕事を休まれたことについて、心よりお詫び申し上げます。」
②道義的責任を認めているにすぎない場合
「この度、〇〇様から当社製品の欠陥によりお怪我をされた旨のお申し出をいただきました。当社としましては、現在、当社製品に欠陥があったか否かを含め、慎重に調査を進めておりますので、ご返答まで今しばらくお待ちいただきますようお願いいたします。」
3 「誠意を見せろ」と言われた場合の対応
⑴ クレーマーが「誠意を見せろ」と要求することの意味
不当クレーマーは往々にして「金品や過剰なサービス、土下座」などを要求する言葉として「誠意を見せろ」という言葉を使用しています。
これは直接的に言葉に表してしまうと、強要罪(刑233条)や恐喝罪(刑249条)などが成立し得るため、「誠意」という曖昧な言葉を用いているのです。
クレーマーから「誠意を見せろ」と要求された場合には、以下のように対応しましょう。
①発信者が要求している「誠意」の中身を相手に確認します。
②「誠意」の中身の確認の可否にかかわらず、事実関係を確認した上で責任の判定をして回答(会社としての回答)をするまでは、対応者が独断で「誠意を示す」対応をしないようにします。
③ ②の「会社としての回答」が決まった場合には、企業側の対応としてその回答(対応)を行い、それ以外の要求は拒絶します。
※クレーム対応のプロセスに従って、企業の責任判定をし、その結果として、企業として行うべき対応を行えば、
企業としての誠意ある対応として十分です。回答の際には、「これが当社の誠意ある回答です。これ以上は応じかねます。」と過剰な要求を毅然と拒絶しましょう。
⑵ 要求の具体的内容が明らかにならない場合
「決められた時間」が過ぎていれば時間が過ぎたことを告げ、対応を打ち切ります。「これ以上は私の判断では回答できませんので会社において事実関係を確認した上で会社として回答をします」などと顧客に告げましょう。
4 初動対応を誤ってしまった場合の対応
⑴ 初動対応の誤りの例
・不適切な謝罪
・不必要な念書や合意書等の作成
・不当な要求の実現
⑵ 初動対応を誤り、不利な状況に陥った場合のリカバリー方法
①事実確認や法的責任を検討する前に責任を認めたと顧客から受け取られるような対応を行ってしまった場合
文書やメール等を送付し、法的責任はない旨、明確に伝えることが必要です。速やかに内容証明等を発送し、その合意書や念書等の効力を取り消しましょう。
②不当な要求に応じてしまった場合
本来は不当な要求に応じる法的義務は存在しないこと、今後は不当な要求に応じることはできないと毅然とした態度で伝えることが必要です。
⑶ リカバリーを行う者
初動対応を誤った者ではなく、別の従業員、または場合によっては弁護士による対応が有効です。
初動対応を誤った者が対応し続けると、顧客は以前発言したことと異なるではないかなどと、その理由を問うたり責め立てたりするなど、クレームを継続しやすくなります。
また、初動対応を誤った者も自身の発言や態度等で一度は顧客の不当な要求に応じてしまっているため、心理的に毅然とした対応(法的責任の不認容及び不当要求の拒絶)をとり続けることが難しくなってしまいます。
まとめ
カスハラ対策では、マニュアル化、従業員教育が重要です。
ex
・事実の確認をしっかりと行う
・ 記録を残す(証拠保全にもなる)
・ 安易な回答をしない
・ 対応する場合は複数人で
・ 毅然とした態度で対応する
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
今回は、カスタマーハラスメントへの対応方法について解説します。
1 カスハラとは
⑴ カスハラの定義
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略で、顧客からのクレームのうち、要求内容またはそ れを実現するための手段・態様が不相当なものを指します。クレーム・要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもので、労働者の就業環境が害されるものが、カスハラに該当します。
⑵ 正当/不当なクレームの判断基準
顧客のクレームが正当なものか、それともカスハラに該当するかは、以下の要素から判断されます。
①要求の内容
✓サービス・製品に問題があるか(要求原因があるか)
✓顧客に損害(治療費・修理費等)が発生しているか
✓サービス・製品の問題と顧客の主張する損害に因果関係があるか
✓顧客の損害と顧客の要求(社長の謝罪等)に関連性があるか
②要求の手段・態様
✓クレーマーの要求態度等に問題はないか(回数・言動を含む)
⑶ カスハラがもたらすリスク
①企業の信用低下(レピュテーションリスク)
近年はネット掲示板や評価サイト、SNSによる拡散が多くなっています。
②従業員のモチベーション低下
③カスハラ被害を受けた従業員に対する損害賠償責任
カスハラに対し適切な対策を講じていなければ、安全配慮義務違反と評価されるおそれがあり、実際に安全配慮義務違反が認定された裁判例もあります。
2 電話への対応
⑴ 電話対応時の留意点
①事実の確認 ※評価ではなく、具体的な事実を確認するようにしましょう。
②対応記録を残す
※不当クレーマーは従業員を個人攻撃するために、従業員の名前を特定しようとすることがありますが、原則として所属している課と名字を名乗れば足ります。
⑵ 相手方のクレーム内容の確認
①事実関係の確認
いつ、どこで、誰が、何を、なぜしたのか、どのようになったのか、5W1Hにより事実を確認します。
②要求内容の確認
企業側が顧客の要求に応じるべきかどうかを判断するため、要求の内容、理由を具体的に確認します。
⑶ 長時間の電話への対応方法
どれだけ対応しても解決の糸口が見えない場合、顧客との会話を中断するのも効果的です。
①最初は、誠意をもってお詫びし、事実関係を確認した上で解決策を探ります。
②ある程度の時間が経過しても顧客からの要求が止まらず、何かおかしいと感じたら、「今すぐ 結論を出せない」「社内で検討する」などと言い、いったん会話を切りましょう。かけ直されても断る姿勢を変えないことが重要です。
⑷ 脅迫的な電話への対応方法
①通話を録音することを事前に伝えます(証拠化されることを恐れ、脅迫的な言動を控える可能性があります)。
②非通知電話には拒否機能を使いましょう。
③悪質なクレーマーについては警察に被害申告をすることも考えられます。
※脅迫電話の①頻度・回数、②証拠の有無、③被害の程度などの事情を総合的に勘案し、相当悪質であると認められなければ、被害届が受理されない可能性もあります。電話内容の録音や着信の頻度が分かるもの(ex:着信日時を書き留めたメモ、電話会社から発行される通話履歴の書面)を証拠化しておきましょう。
⑸ 無言電話への対応
①無言電話の着信拒否をします。
②(非通知等からの着信で着信拒否ができない場合には)無言電話への対応をマニュアル化し、従業員に実施させることも効果的です。
ex:・従業員の応答から5秒もしくは10秒以内に発信者からの発言がない場合
「お電話が通じないようですので、切らせていただきます」等と伝えたうえで直ちに受話器を置く
・無言電話が繰り返される場合
「度重なる無言電話につきましては警察に通報させていただくこともありますのでご了承ください」などと伝えたうえで切る
⑹ クレーマーからの電話が止まらない場合
弁護士から警告文の発送を行い、それでもなお架電が続くようであれば、架電禁止の仮処分の申立てを行うことを検討します。
※電話番号しか分からず、架電相手の氏名・住所が不明な場合であっても弁護士会照会をすることで架電相手の氏名・住所が判明することもあります。
3 カスハラメールへの対応
⑴ メール対応時の留意点
クレーマーは意図的に長文、多数のメールを深夜休日問わずに送り付けてくることがあります。クレーマーに対して、企業内の個人メールアドレスを簡単に教えないことが重要です。送信するメールのCCに個人メールアドレスが含まれていないかも確認しましょう。
⑵ メールへの対応方法
メールは送信されれば物的証拠として確実に残り、万が一クレームが発展して裁判を起こされたときに、その内容によっては企業にとって不利になるケースがあるため、不当クレーマーに対してはできるだけメールによる対応を避けるべきですが、メール対応をせざるを得ない場合、文面には細心の注意を払うようにしてください。
⑶ メールの送信が止まらない場合
メール禁止の仮処分命令を裁判所から発令してもらう方法があります。金員を支払わせる間接強制を行うことも有効です。
4 窓口等での面談対応
⑴ 突然訪問があった場合の対応方法
①顧客が初めて店舗を訪問してきた場合
5W1Hを意識して、クレームに至った事実経過を聞き取る必要があります。
②2回目以降の場合
初回と同じ内容のクレームを理由としたものである場合には、企業としては、すでにクレームの事実関係を把握しているので、初回と同様の対応をする必要はありません。
初回の訪問で聞き取った事実関係に基づいた調査を行っており、当方より回答する旨を改めて明確に告げたうえで、それ以上の対応はしない、という対応を徹底すべきです。
⑵ クレーマーが怒鳴り始めた場合の対応方法
①クレーマーに対し、大声を出さないように注意をします。
・不当クレーマーは、ほかの顧客の注目を集めることで従業員を焦らせ、自己に有利に交渉を進めようとすることがあります。
・注意しても怒鳴り続ける場合には、別室に移動させましょう。
・個室で対応する場合には、密室での暴言・暴力に対抗するために録音の準備をしておくべきです。
②クレームには複数人で対応をします。
・顧客側より企業側の人数が多い場合、心理的に相手方より優位に立つことができます。
・従業員が一人で顧客対応をすると、激怒する顧客の怒りを鎮めることや対話をすることに集中する必要があり、肝心な対話内容を後になって正確に記憶・記録していないという問題が生じるおそれがありますが、二人以上で対応すれば、一人はクレーマーとの対話役、もう一人は冷静に話を聞くことができます。
⑶ クレーマーが長時間居座る場合の対応方法
企業側が時間決定に関して主導権を握りましょう。
・顧客が長時間居座ったら「社内ルールとしておひとり様との面談時間は1時間までとなっております」と明確に伝え、早急に退去してもらいましょう。
・「現時点での問題解決が困難であるため、一度お引き取りを願いたい」という意思を明確に顧客に伝え、時間の間隔をあけて再三、複数回にわたって警告する必要があります。
・繰り返し退去を求めたにもかかわらず居座る場合には、不退去罪に該当する可能性があるため、警察を呼んでも問題ありません。
5 訪問先での面談対応
⑴ 訪問先で面談対応を行うべきか
顧客の自宅等を訪問することは、数々のリスクがありますので、できるだけ訪問対応は避けるべきです。①電話で5W1Hをもとに慎重に事情を聴取した結果、② クレーム内容が正当なものであり、かつ、③顧客の態度や口調等から訪問した場合に危険が生じる恐れがないと判断された場合に初めて訪問するようにしましょう。
⑵ 訪問場所の選定
場所をどこにするかはあくまで企業が決めることであり、顧客に決定権はないため、自宅訪問を求められたとしても「場所は弊社にて検討させていただきます」ときっぱり断るべきです。できる限り、第三者のいる場所(ex:ファミレス、喫茶店、ホテルのロビー)を選択しましょう。また、複数人で訪問することも重要です。
⑶ 訪問時間の設定
顧客からのクレームが長時間に及ぶ場合に備えて、対応する時間をあらかじめ定め、相手方に伝えるということも有効な対応の一つです。次の予定があるなどとして、終了時刻を告げるようにしましょう。
⑷ 相手方支配領域に訪問した際に生じ得るリスク
①訪問先に監禁されるリスク
一般的な対応時間を超えているにもかかわらず解放してもらえない場合は、顧客を気にすることなく退席するという対応をとりましょう。訪問してから一定時間を経過するごとに、企業から訪問担当者の携帯電話へ連絡して、安全を確認し、場合によっては警察へ通報することも考えられる
②脅迫的な言動を受けるリスク
訪問先では安易に判断せず、「会社に持ち帰って、社内で検討いたします」と回答し、明言を避けましょう。
脅迫的な言動を受けないために、あらかじめ録音することを伝えるという予防策も考えられます。
③顧客の私物を壊した等と言いがかりとつけられるリスク
座布団の下に壊れたものをわざと置いて、あたかも従業員が壊したかのように仕立て上げる等、顧客から言いがかりをつけられるおそれがあります。
顧客が高齢で認知症を発症しているような場合等では、訪問してきた従業員に盗まれた、壊されたと主張されるおそれもあります。
そのようなリスクを踏まえて訪問については慎重に判断する必要があります。
福岡で顧問弁護士を探している、企業法務について相談できる弁護士を探しているという方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
今回は、前回に引き続き、ライセンス契約について解説します。
条項例
①ー1知的財産権の帰属 【ライセンサー有利】
1.本キャラクターに関する著作権、商標権その他の知的財産権及び本キャラクターの二次的著作物に関する知的財産権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、甲に帰属する。
2.乙は、甲に対し、本キャラクターの二次的著作物に関する著作者人格権を行使せず、また、二次的著作物の創作に携わった自らの役職員その他の第三者をしてこれを行使させないことを確約する。
➡ ライセンス契約にかぎらず、二次的著作物に関する著作者人格権の不行使条項は抜けがちです。
💡 著作者人格権の不行使条項が定められていないと、二次的著作物を使用した際に差止請求や損害賠償請求をなされるおそれがあります。
したがって、二次的著作物の著作権についてライセンサーが自社に帰属させる場合には、二次的著作物に関するライセンシーの著作者人格権の不行使条項が定められているか確認するようにしてください。
①ー2知的財産権の帰属 【ライセンシー有利】
1.本キャラクターに関する著作権、商標権その他の知的財産権は甲に帰属する。
2.本キャラクターの二次的著作物に関する知的財産権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、乙に帰属する。
3.乙は、甲に対し、前項の二次的著作物を利用することのできる全世界的、無償、永久的、取消不能、無制約、再許諾可能な権利を許諾する。
4.乙は、甲に対し、本キャラクターの二次的著作物に関する著作者人格権を行使せず、また、二次的著作物の創作に携わった自らの役職員その他の第三者をしてこれを行使させないことを確約する。
➡ 著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に定める権利は、譲渡の目的として記載されていない場合には、譲渡した者に留保されたものと推定されます。
そのため、ライセンシーが自社に著作権を帰属させたい場合には、これらも譲渡の対象であることを契約上明記することが必要です。
②不争義務 【ライセンサー有利】
乙が、【本著作権及び本商標権】が甲に帰属することを争った場合、甲は、本契約を解除することができる。
➡ 不争義務は、独占禁止法との関係が問題となります。
💡 技術ライセンスに関して、公正取引委員会は、不争義務は原則として競争を減殺するおそれは小さいとしつつ、無効にされるべき権利が存続し、当該権利に係る技術の利用が制限されることから、公正競争阻害性を有するものとして、不公正な取引方法に該当する場合もあるとしています。(「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」第4・4⑺)
③第三者による権利侵害 【ライセンサー有利】
乙は、【本著作権及び本商標権】に関して、第三者により当該権利が侵害され、又は侵害されるおそれがあることを発見した場合は、遅滞なく甲に通知し、甲と協議の上、警告等の適切な措置を講じなければならない。
④商標出願の制限 【ライセンサー有利】
乙は、いかなる国又は地域においても、本商標権に類似又は関連する商標を出願してはならない。
➡ 前提として、登録商標に類似する商標等の使用等は商標権の侵害とみなされます(商標法37条)。
➡ 上記規定は、ライセンシーによる類似商標などの出願を禁止するものです。
➡ 先に出願された他人の登録商標に類似する商標であって、指定商品・役務が同一又は類似であれば商標登録をすることができません(商標法4条1項11号)。
しかし、ライセンサーが外国において商標登録をしていない場合は、当該外国での出願は防止できないおそれがあります。そこで、このような条項を定め、ライセンシーが類似商法を出願することを禁止します。
⑤商標権の更新登録 【ライセンシー有利】
甲は、本契約の有効期間中、自らの費用と責任において、【本商標権】の存続期間を更新する手続を行わなければならない。
➡ 商標権の存続期間は、登録後10年で終了しますが(商標法19条1項)、更新登録を行うことで権利を存続させることができます(同条2項、3項)。
したがって、ライセンシーは、ライセンサーに自らの費用と責任において権利の存続に必要な手続を採ってもらう必要があります。
⑥差止請求権の放棄 【ライセンシー有利】
甲は、この契約又は法律の規定による他の救済方法を行使できる場合であっても、乙に対し、ライセンス料その他の金銭的な賠償のみを請求することができ、他の救済方法(乙に対する差止請求権の行使を含む。)を行使しないものとする。
➡ ライセンシーにとって最も避けたいことのひとつは、ライセンサーからライセンス商品の回収・破棄等の差止請求権を行使されることです。
そこで、ライセンシーは、あらかじめ、差止請求権を行使しない旨の制約をライセンサーから取得しておくことが考えられます。
しかし、ライセンサーにとっては、差止請求権は重要な防御手段のひとつですので、交渉力の強いライセンシーでない限りは、差止請求権を放棄する交渉は受け入れづらいでしょう。
⑦ー1保証 【ライセンシー有利】
1.甲は、乙に対して、甲が単独で本契約に規定される本キャラクターの使用に必要となる著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)その他の一切の権利に関して完全な権利を有しており、本契約を締結する正当な権限を有することを保証する。
また、甲は、乙に対して、本キャラクターに関する著作権その他の権利について、第三者による担保権及び利用権は設定されていないことを保証する。
2.甲は、乙に対して、本キャラクターがいかなる第三者の著作権、商標権その他一切の権利を侵害していないことを保証する。
3.本条の各規定にもかかわらず、本契約に基づく乙による本キャラクターの使用について、第三者から異議の申立て、差止請求、損害賠償請求その他の請求があった場合には、甲は自己の責任と費用負担をもって速やかにこれを解決し、乙に何ら迷惑や損害も与えない。
➡ ライセンシーとしては、ライセンス商品の著作権侵害等による第三者からの損害賠償請求権等を未然に防ぎたい、仮に損害賠償請求権等を行使されてもライセンサーに責任をとってもらいたいと考えるはずです。
そこで、このような条項を定め、ライセンサーが第三者の一切の権利を侵害していないことを保証することが考えられます。
⑦ー2保証 【ライセンサー有利】
1.省略
2.甲は、乙に対して、【自らの知る限り/自らが合理的に知り得る限り】、本キャラクターがいかなる第三者の著作権、商標権その他一切の権利をも侵害していないことを保証する。
3.本条の各規定にもかかわらず、本契約に基づく乙による本キャラクターの使用について、第三者から異議の申立て、差止請求、損害賠償請求その他の請求(以下「本請求」という。)があった場合には、乙は、直ちにその旨を甲に通知する。甲は、本請求の解決に向けた当該第三者との交渉等を行うものとし、乙はこれに協力しなければならない。
4.前項の規定が遵守されない場合、甲は、乙に対し、本請求より生じた損害等を賠償する責めを負わない。
➡ ライセンサーとしては、あらゆる第三者の権利を侵害していないかを確認するのは不可能なので、仮に保証をするとしても、「自らの知る限り(自らが認識していない権利侵害について責任を負うことを免れる)」「自らが合理的に知り得る限り(自らが認識している事実に加え、合理的に認識可能な事実を基礎として、権利侵害の事実がないことを保証する)」といった文言を追加することが考えられます。
➡ また、第三者からの異議申立てがあった場合に、ライセンシーが当該第三者の言い値で和解してしまうと、ライセンサーは高い損害金を負うおそれがあります。そこで、第三者から異議申立てがあった場合には、ライセンシーはライセンサーに通知し、ライセンサーが第三者との交渉を行うことに協力しなければ、ライセンサーはライセンサーに対して損害賠償義務を負わないと定めることが考えられます。
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ライセンス契約とは
ライセンス契約とは、ライセンサーが保有する知的財産権で保護されている特許・意匠・著作物・商標等の実施・使用などを第三者に許諾する契約です。
許諾する当事者をライセンサー、許諾を受ける当事者をライセンシーといいます。
ライセンシーはライセンサーから権利の許諾を受ける対価として、ライセンス料を支払います。
ライセンス契約の例として、ソフトウェアライセンス契約、コンテンツライセンス契約、特許ライセンス契約、商標ライセンス契約等があります。
ライセンス契約を締結することによる「ライセンサー」のメリットは、
①ライセンス料収入が得られる
②従業員、設備、広告料等、自社のリソースを使用することなく収益を得られる
③ライセンシーの働きで自社のブランドの知名度がより広まる可能性があることです。
「ライセンシー」のメリットは、
①他社の技術やブランド利用して利益を上げられる
②ライセンサーの技術やブランドを利用できるため、素早く効率的にビジネスを展開することができることです。
ライセンシーが利益をあげるためには、ライセンサーに支払うライセンス料とライセンス契約で得られる利益を比較することが必要です。
商品化契約
他社のキャラクターを利用した商品の製造・販売をする場合、ライセンス商品の製造・販売を許諾する商品化契約を締結します。
キャラクターに対する権利として、代表的なものは著作権と商標権です。
キャラクターがイラストで表現されている場合、美術の著作物(著作権法10条1項4号)であると考えられます。
また、イラストが商標登録されていれば、商標権者は指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を占有します(商標法25条)。
仮に商標登録をしていない場合でも、著作権や不正競争防止法によってキャラクターを保護することができます。
著作権は創作と同時に発生し、登録は不要です。しかし、著作物性が問題になったとき、当該作品が著作物に該当するかどうかは、最終的には裁判で判断されます。
また、不正競争防止法に基づき、差止請求や損害賠償請求の行使が考えられますが、行使のハードルは商標権を行使する場合に比べて厳しいです。
したがって、ライセンサーは可能であれば商標登録をしておいたほうがよいでしょう。
条項例
ライセンサーとライセンシーそれぞれが定めておくべき条項を紹介します。
「甲」がライセンサー、「乙」がライセンシーを指します。
①使用許諾【ライセンサー】 【ライセンシー】
1.甲は乙に対し、本キャラクターの使用を【独占的/非独占的】に許諾する。
2.前項に基づく本キャラクターの使用許諾の範囲は、次のとおりとする。
(1) 使用期間:〇〇年〇月〇日から〇〇年〇月〇日まで
(2) 使用指定物品:乙が製造販売する次に掲げる商品名の商品(以下「対象商品」という。)に限る。
(3) 使用地域:日本国内
3.乙は、本キャラクターを対象商品本体のほか、そのパッケージ及び対象商品の広告物等においても使用し、その制作及び頒布をすることができる。
4.乙は、甲の書面による事前の承諾がない限り、第三者に対し、本キャラクターを使用させてはならない。
5.甲は、乙による本契約に基づく本キャラクターの使用について、本キャラクターの著作者人格権を行使しない。
➡ 使用が独占か非独占か、使用期間や使用指定物品の範囲が問題ないかの確認をしてください。
②専用実施権/専用使用権の設定等【ライセンサー】 【ライセンシー】
甲は、乙に対して、本契約有効期間中対象地域において、【本件特許/本件商標】を本件商品に使用するための【専用実施権/専用使用権】を設定し、本契約締結後〇日以内に、乙と共にその設定登録申請を行う。当該設定登録申請から登録までに要する費用(弁理士報酬を含む。)は乙が負担する。
➡ 専用実施権とは、設定行為で定めた範囲で、特許発明を独占的に業として実施する権利のことです。
➡ 専用実施権を設定することで、差止請求権の行使が可能となる等の対世的効力が発生しますが、特許庁への登録が必要となる、設定後は特許権者自身も実施ができなくなるといったデメリットがあるため、実務ではあまり利用されていません。
③キャラクターの保護【ライセンサー】
1.乙は、本キャラクターが一般に対して有しているイメージ及び評価を損なう態様で、本キャラクターを使用してはならない。
2.乙は、甲に対し、本キャラクターを使用した対象商品の製造を開始する前に、そのデザイン及び試作品又は商品見本を提供して、甲の承諾を得なければならない。
3.乙は、第三者の著作権その他の知的財産権を侵害しない態様で、本キャラクターを使用しなければならない。
④著作権(及び商標権)の表示【ライセンサー】
乙は、本キャラクターを使用するにあたり、甲が指定する方法により著作権表示【及び商標権表示】をしなければならない。
⑤改変【ライセンサー】
乙は、本キャラクターの内容・表現等に変更を加える場合には、あらかじめ甲の承諾を得なければならない。
➡ 著作権法上も、許諾なしに派生のキャラクター原画を作成することは禁止されています。
⑥対価及び支払方法
⑴固定額方式【ライセンサー】 【ライセンシー】
乙は、甲に対して、本キャラクターの使用の対価として、【月額金〇〇円(税別)を毎月翌月末日までに】金〇〇円(税別)を〇〇年〇〇月〇〇日までに】、甲の指定する銀行口座に振り込み支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
➡ ライセンサーは、ライセンス収入の予測を立てることができるというメリットがありますが、ライセンス商品の売上が想定以上に良い場合であっても、予め定めたライセンスフィーしか受け取れないというデメリットがあります。
➡ 一方で、ライセンシーは、ライセンス商品の売上予測が立てづらい場合にも固定費用が発生するため、事業リスクとなりえます。
⑵売上高比例方式【ライセンシー】
1.乙は、甲に対して、本キャラクターの使用の対価として、対象商品の売上高(乙の第三者に対する対象商品の販売額)の〇%を支払う。
2.省略
3.省略
➡ ライセンシーは、ライセンス商品の売上予測を立てづらい場合であっても、ライセンスフィーを売上に比例させることでリスク回避ができるというメリットがあります。
➡ 一方で、ライセンサーは、受け取るライセンスフィーの額が低くなる恐れがあります。
⑶ミニマムギャランティ方式【ライセンサー】
1.乙は、甲に対して、本キャラクターの使用の対価として、対象商品の売上高(乙の第三者に対する対象商品の販売額)の〇%を支払う。
2.乙は、甲に対して、前項の対価に対する最低保証金額として、金〇〇円(税別)を〇〇年〇〇月〇〇日までに、甲の指定する銀行口座に振り込み支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
3.省略
4.前項の方法により報告された売上高に対する第1項の対価の累積額が第2項の最低保証金額を超過した場合、甲は、超過額を乙に請求するものとする。
➡ ライセンサーは、一定のライセンスフィー収入の確保だけでなく、ライセンス商品の売上が伸びた場合に、さらにライセンスフィーを受け取ることができるというメリットがある一方で、ライセンシーは、支払うライセンスフィーが高額になるというデメリットがあります。
ライセンス契約のコラムは次回に続きます。
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⑷保護期間
㋐著作権
著作権の保護期間は、原則として、著作者が著作物を創作した時点から著作者の死後(死亡の翌年の1月1日から)70年を経過するまでです(著作権法51条、57条)。
例えば、著作物が1950年4月1日に創作され、著作者が2010年3月31日に死亡した場合の著作権の保護期間は、1950年4月1日から(2011年1月1日の70年後の)2080年12月31日までとなります。
なお、無名または変名の著作物や団体名義の著作物、映画の著作物の保護期間は、著作物の公表後70年が経過するまで著作権が存続します。
㋑著作者人格権
著作者人格権の保護期間は、著作者が著作物を創作した時点から著作者が死亡するまでです。
著作権の保護期間にズレがあるのは、著作者人格権は、著作者の一身に専属する権利であるからです(同法59条)。
これまで、著作権は著作者に帰属すると説明しましたが、職務著作はその例外です。
著作権法15条1項では、法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約等に別段の定めがない限り、その法人等とする旨が規定されています。
職務著作の要件
従業者が創作した著作物が職務著作と認められるためには、以下の①~④を全て満たす必要があります。
①法人等の発意に基づくこと
会社の指示とは関係なく従業者が創作した著作物は、職務著作には該当せず、原則どおり当該従業者が著作者となります。
②会社の業務に従事する者が職務上作成するものであること
従業者が業務とは関係なく趣味で創作した著作物は、職務著作には該当せず、原則どおり当該従業者が著作者となります。
③法人等が自分の名義で公表すること
未公表のものであっても、法人等の名義での公表が予定されているものや、公表される場合には法人等の名義で公表されるべきであるものについては、この要件を満たすと考えられます。
④契約等に別段の定めがないこと
契約等で著作者は当該著作物を創作した従業者である旨の定めがある場合には、①~③を満たしていても、当該従業員が著作者となります。
著作権法27条及び28条
契約書に、「著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を〇〇に譲渡する」という記載がよくありますが、このような規程を定めるのは、著作権法61条2項の規定があるからです。では、同法61条の規定を見てみましょう。
第61条
1 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
このように、同法61条2項によると、著作権を譲渡する場合に、同法27条又は28条の権利を譲渡目的として記載しなければ、これらの権利は譲渡されません。
同法27条は、二次著作物を創作する権利であり、同法28条は二次的著作物の利用に関する権利であるため、これらの権利を譲渡してもらわなければ、譲受人は二次的著作物の創作や利用ができず、著作物の利用が大幅に制限されてしまいます。
このような理由で、「著作権法第27条及び第28条の権利を含む」という文言が必要となります。
著作者人格権の不行使特約
前述したとおり、著作者人格権は著作者の一身に専属する権利であり、他人に譲渡することはできません。
そこで、著作者が著作物を譲渡する場合、著作者は著作者人格権を行使しないという不行使特約を設けることは多いです。
契約書の文言
以上のポイントを踏まえて、実際の契約書を見てみましょう。この文例は、委託者有利の業務委託契約書です。
第〇条(権利の帰属)
1 本委託業務の遂行の過程で得られた発明、考案、意匠、著作物その他一切の成果に係る特許、実用新案登録、意匠登録等を受ける権利及び当該権利に基づき取得する産業財産権並びに著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条に定める権利を含む。)その他の知的財産権(ノウハウ等に関する権利を含む。)は、全て発生と同時に委託者に帰属する。この場合において、受託者は、委託者に権利を帰属させるために必要となる手続を履践しなければならない。
2 受託者は、委託者に対して、本委託業務の遂行の過程で得られた著作物に係る著作者人格権を行使しない。
3 委託者及び受託者は、前二項に定める権利の帰属及び不行使の対価が委託料に含まれることを相互に確認する。
他人の著作権を侵害した場合には、侵害した者には以下の問題が生じます。
①差止請求
著作権者は、著作権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止や予防等を請求することができます(著作権法112条)。
差止請求を受けた場合は、侵害行為に関連する商品等の回収を強いられるため、会社の業績に多大な影響を及ぼします。また、レピュテーションリスクも生じ得ます。
②損害賠償請求
著作権侵害行為をした場合、著作権者が損害賠償請求をするおそれがあります(民法709条)。
この場合、損害額の推定規定が設けられているため(著作権法114条)、著作権者の立証責任が軽減されます。
③刑事罰
著作権侵害をした者には、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が科されます(著作権法119条1項)。
このように、著作権侵害には多大なリスクがあるので、他者の著作権を侵害しないように気を付けましょう。
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著作権とは、著作物の利用に関して著作物を創作した者に認められた権利のことで、著作権法にルールが定められています。著作権は特許等とは異なり、審査を経ずとも創作時から自動で発生する点がポイントです。
⑴著作物の定義
「著作物」とは、①思想又は感情を②創作的に③表現したものであって、④文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法2条1項1号)。
「著作物」と聞くと、小説や曲、映画等を想像するかもしれませんが、舞踊や建築、プログラム等対象になるものは多岐にわたります(同法10条1項各号)。
⑵著作者人格権
(広義の)著作権は、(狭義の)著作権と著作者人格権に分類することができます。
著作者人格権は、著作者の人格的な利益を保護する権利で、㋐公表権、㋑氏名表示権、㋒同一性保持権の3つに分類することができます。
なお、著作権は譲渡することができますが、著作者人格権は著作者の一身に専属する権利であるので、他人に譲渡することはできません(同法59条)。そのため、契約書の記載でも配慮が必要です。
㋐公表権(同法18条)
公表権とは、未公表の著作物(著作者の同意を得ずに公表されたものを含む)を公表する権利です。簡単にいうと、著作者が、自分の著作物を公表するかしないかを決めることができる権利のことです。
㋑氏名表示権(同法19条)
氏名表示権とは、著作物の原作品または著作物の公衆への提供・提示に際し、著作者名を表示するかしないか、表示する場合はどのような著作者名を表示するかを決めることができる権利です。著作物を公表する場合、本名でもペンネームでもよいですし、著作者名を付けなくても問題ありません。
一方で、著作者以外の者が著作物に表示されている氏名表示を許可なく変更したり、削除したりして公衆に提供・提示をすると、氏名表示権侵害となります。
㋒同一性保持権(同法20条)
同一性保持権とは、自身の著作物やその題号の同一性を保持し、著作者の意に反して許可なくこれらを変更したり改変されたりされない権利です。
送り仮名の変更、読点の切除、「・」を「、」への変更、改行の省略をした場合でも、同一性保持権侵害となりますので、注意してください(東京高判平成3年12月19日)。
⑶著作権に含まれる権利
著作権には、以下に列挙する権利が含まれています。著作権者は、これらの権利によって保護された行為を独占的に行ったり、これらの行為を第三者に対して許諾することができます。
① 複製権(同法21条)
著作権のコピーを作成する権利
②上演権・演奏権(同法22条)
著作物を公に上演し、または演奏する権利
③上映権(同法22条の2)
著作物を公に上映する権利
④公衆送信権・公衆伝達権(同法23条)
著作物をテレビやインターネット等で公に送信する権利
⑤口述権(同法24条)
言語に関する著作権(詩、小説等)を公に読み聞かせる権利
⑥展示権(同法25条)美術の著作物または未発行の
著作物を、オリジナルによって公に展示する権利
⑦頒布権(同法26条)
映画の著作物を複製物によって頒布する権利
⑧譲渡権(同法26条の2)
映画の著作物を除く著作物を、公に販売等の方法で提供する権利
⑨貸与権(同法26条の3)
映画の著作物を除く著作物を公に貸出しできる権利
⑩翻訳権、翻案権等(同法27条)
著作物を翻訳・編曲・変形・脚色・映画化し、二次的著作物を創作する権利
⑪二次的著作物の利用に関する原著作権者の権利(同法28条)
原著作物を基に創作された二次的著作物につき、原著作者が保有する権利
特に、⑩、⑪は契約書レビューの場面で重要となる権利です。詳しくはその2で解説します。
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フリーランス保護法と下請法の関係について見てみると、どちらも取引の適正という目的で共通していますが、規制や保護の対象が異なりますし、対象となる取引についても、フリーランス保護法は役務提供委託について自家利用役務が適用されるなど、保護対象の取引の範囲も広範という特徴があります。
フリーランス保護法3条では、取引条件を明示する義務が定められており、下請法3条でも同様の規制があります。
下請法3条では、書面により取引条件を明示する必要があるため、この書面を3条書面と呼んでいますが、下請法の場合、書面を電磁的方法で交付する場合、下請事業者の事前承諾が必要であるのに対し、フリーランス保護法では事前の承諾は不要です(ただし、書面交付を求められたら応じる義務があります。)。
支払期日については、60日以内という期間の設定については共通点が見られますが、フリーランス保護法では、再委託の場合の例外規定として、元委託の支払期日から30日以内という制限がなされています。
また、下請法では遅延利息として年14.6%の規定があるのに対し、フリーランス保護法ではそのような規定はありません。
禁止事項も共通点は多いですが、フリーランス保護法5条の禁止事項は、1か月以上の業務委託に適用されるという違いがあります。また、フリーランス保護法では有償支給原材料等の対価の早期決済および割引困難手形の禁止の規定はありません。
なお、下請法とフリーランス保護法は別個の法律ですので、それぞれの要件に該当すると両方が適用される点は注意が必要です。
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フリーランス保護法は正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。
この法律の目的は大きく2つあります。
1つ目は、取引の適正化を図るため、発注事業者に対し、フリーランスに業務委託した際の取引条件の明示等を義務付け、報酬の減額や受領拒否などを禁止すること。
2つ目は、就業環境の整備を図るため、 発注事業者に対し、フリーランスの育児・介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等を義務付けることです。
では、どういう者が保護の対象になり、どういう者が規制の対象になるのでしょうか。
まず、保護の対象は、業務を受託する事業者であって、個人の場合は従業員を使用していない者、法人の場合は代表者以外に役員もおらず、かつ従業員も使用していない法人が対象です。このように、下請法の資本金要件と異なり、要件が直ちに判断できないため、相手方に保護対象に該当するかどうかの確認が必要となります。
なお、フリーランス保護法の対象に該当するかどうかの確認は、発注時点であり、適用対象外の者が、発注後に保護対象の要件を満たしたとしてもフリーランス保護法は適用されません。
一方、規制の対象になる事業者は、 個人の場合は従業員を使用する者、法人の場合は2以上の役員がいる、もしくは従業員を使用している法人で、簡単にいうと、1人でなく、2人以上が関与して行っている事業者が規制対象です。
これを構図として見てみると
フリーランス保護法で保護される者は
☞個人であれ法人であれ、1人で事業を行う者
フリーランス保護法で規制されるものは
☞個人であれ法人であれ、2人以上で事業を行う者
と単純化することができます。
例えば、フードデリバリーサービス運営会社A社(2人以上)と出前の配達員のBさんという関係で見ると、Bさんが1人で事業を遂行しているのであれば、これはフリーランス保護法の対象となります。
フリーランス保護法の内容
フリーランス保護法の内容は、大きく以下の5つです。
①書面等での契約内容の明示
②報酬の60日以内の支払い
③募集情報の的確な表示
④ハラスメント対策
⑤解除等の予告です。
以下では、これらの内容、その他の注意点及び違反した場合について説明いたします。
①書面等での契約内容の明示
業務委託時の発注書などに給付の内容、報酬の額、支払い期日、公正取引委員会規則が定めるその他の事項を業務を発注する時点で明記しなければなりませんが、電子的方法によることもできます。
しかし、フリーランスから書面の交付を求められた場合には、遅滞なく書面で交付する必要があります。
②報酬の60日以内の支払い
業務委託報酬の支払期日は当該業務提供日から起算して60日以内において、かつ、できる限り短い期間内において定めなければならないとされています。そのため、報酬の支払い期日を、業務提供日から起算して60日以内に設定されているのか否かという点について契約書のひな形等を見直す必要があります。
例えば、月末締めの翌々月末日払いであれば、3月1日に提供した業務が5月末に支払いとなり、60日以内の支払いにはならないため、翌々月末日払いを翌月末日払いに変えるなどの対応が必要となります。また、受託した業務をフリーランスに再委託する場合は、 支払期日が30日以内となっていますので、気をつけなければなりません。
③募集情報の的確な表示
インターネット等でフリーランスを募集する際に、正確な募集条件を掲載しなければなりません。
広告などで情報を提供する際、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしないことはもちろん、一度情報をあげても、それがその時期に合わせた正確かつ最新の内容を反映しているか確認が必要になる点も注意点です。
④ハラスメント対策
フリーランスに対するハラスメント対策のために必要な措置を講じなければならず、また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったことを理由に不利益な取り扱いをしてもいけません。
そのため、フリーランスに対するハラスメントが禁止であるということを会社内での周知を徹底したり、フリーランスが会社の従業員からハラスメントを受けた場合の相談窓口を設定するなどの措置を講じることが必要です。
また、委託事業者が、フリーランスに対して長期間にわたって継続的な業務委託を行う場合には、妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ業務に従事することができるよう、必要な配慮をしなければなりません。
長期間の業務委託ではない場合にも、同様の配慮をする努力義務を負います。
⑤解除等の予告
一定期間の継続業務委託関係がある者との間の契約を中途解約する場合には、30日前までに解約を予告しなければなりません。
また、委託事業者は、フリーランスから、契約解除の理由の開示を求められた場合には、遅滞なくこれを開示しなければなりません。
次に、上記の他に委託事業者の注意すべき点として、禁止されている事項を列挙して説明します。
⑴フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒絶すること
⑵フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
⑶フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
⑷通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑸正当な理由がなく自己の指定するものの購入・益務の利用を強制すること
⑹自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させること
⑺フリーランスの責めに帰すべき事由なく、給付内容を 変更させ、またやり直させること
フリーランス保護法の定めに違反した場合、公正取引委員会等から違反行為について助言・指導・報告・聴取・立入検査・勧告・公表・命令がなされ、 命令違反及び検査拒否等に対しては、50万円以下の罰金が課される可能性があり、委託事業者が法人の場合には行為者と法人の両方が罰せられます。
また、このような処分がなされると、処分を受けたということで、企業の信頼に関する、いわゆるレピテーションの問題が生じることもありますので、注意が必要です。
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1 課徴金制度における返金方法の弹力化
改正前景表法10条および11条は、課徴金納付命令の通知を受けた事業者が実施予定返金措置計画の認定を受けて一般消費者への金銭による返金措置を実施した場合、返金した額を課徴金の額から減額することを定めています。
この返金措置は、課徴金制度の導入以来これまでの利用がわずか数件にとどまっています。そして、その理由として、返金を実施するために銀行口座情報を購入者から取得しなければならないことや、振込手数料が割高であることなどが指摘されていました。
そこで、改正景表法では、金銭以外の支払手段として第三者型前払式支払手段 (いわゆる電子マネー等)を利用することが認められました。
2 課徴金額の推計規定の新設
改正景表法8条4項は、事業者が課徴金の計算の基礎となるべき事実を報告しないとは、内閣府令で定める合理的な方法により売上額を推計して、課徴金の納付を命ずることができることとしました。
課徴金の額は、課徴金の対象となる不当表示をした期間(最大3 年)の売上額が計算の基礎となりますが、商品の売上データを適切に管理していない事業者については課徴金の基礎となる売上額が把握できないために課徴金を課すことができませんでした。しかし、そうすると、ずさんな管理をしていた事業者がかえって得をするという不都合が生じていたため、この推計規定が導入されました。
この「合理的な方法」とは、 課徴金対象期間のうち課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握した期間における1日当たりの売上額に、課徴金対象期間の日数を乗ずる方法とされています (改正景表法施行規則8条の2)。
したがって、この改正によってもまったく売上額が把握できない事業者につい ては、売上額を推計することはできないこととなります。
ただし、いかに管理がずさんな事業者であっても、まったく売上額を把握できないことはまれと考えられますので、この制度の導入により、これまでは課徴金対象期間全期間分の課徴金を課すことができなかった(あるいは把握できた売上額が5,000万 円に満たないためにまったく課徴金を課すことができなかった) 事例の多くについて課徴金を課すことができるようになるものと考えられます。
これを事業者サイドから見てみると、たとえば、売上が伸びてきた直近1年分の売上だけ把握しているようなケースにおいては、その3年分を基準として課徴金が計算されると、本来支払うべき課徴金よりも高額の課徴金を課されることになります。
このような不利益を避けるためには、商品の売上額を適切に把握・管理しておく必要があります。
3 再違反事業者に対する課徴金の割増し規定の新設
基準日から遡って、10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対する課徴金の割合を3%から4.5%に割増しする規定が新設されました (改正景表法8条5項)。
基準日は、報告徴収等、合理的根拠の提出要求、弁明の機会の付与のいずれかが行われた日のうち最も早い日とされています(改正景表法8条6項)。
なお、事業者が過去に課徴金納付命令を受けた者かどうかが問題とされるため、同一の商品・役務でなくても、この規定は適用されます。
4 不当表示に対する直接の刑事罰の新設
優良誤認表示と有利誤認表示に対する直接の刑事罰の規定が新設され、これらの不当表 示をした個人に対して100万円以下の罰金が科せられるほか(改正景表法48条)、法人にも 100万円以下の罰金が科せられることとなりました(改正景表法49条1項2号)。
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