2025.1.10.Fri
債権(売上)の回収について その1
今回は債権(売上)回収が問題となったときに、するべきことについて3回に分けて解説します。
⑴方針決定
債権回収の方法としては、任意回収と法的手段の2つがあります。
任意回収と、法的手段のいずれかが適しているのかは、㋐支払意思、㋑資産の存否、㋒担保提供の意思の存否、㋓現状事業を継続しているか、㋔将来的な事業継続の見込み、㋕強引な回収によるレピテーションリスクの存否といった要素から総合的に考慮します。
例えば、相手方に支払意思がある場合には、任意回収の方向に傾きますが(㋐)、支払意思があっても支払いにあてる資力がなく、換価可能な資産がある場合(㋑)には、法的手続に進まざるを得ません。つまり、各要素の有無で、あらゆる事案に共通する結果が出るというわけではありません。
債権回収をする場合には、任意交渉を先行させ、交渉が決裂したときに法的手段を取ることが一般的ですが、一定の場合には、交渉をせず、いきなり法的手続を行うことも考えられます。
1つ目に、相手方の支払拒絶の意思が固く、任意交渉をしても支払う可能性がほとんどない場合です。ただし、債務の履行遅滞に陥った債務者は支払えないと弁解することは珍しくないため、必ずしも支払拒絶の意思が固いとは限りません。そのため、まずは任意交渉を試みてもよいでしょう。
2つ目に、継続的取引の場合で遅滞額が大きい場合です。
継続的取引の場合、支払遅滞が複数回に及び、また金額も多額になった場合、債務者が支払いを諦めることがままあります。このような債務者に対して法的手段を取ることは、債務を支払う意思にさせる効果があります。
3つ目に、資産散逸のおそれが高い場合です。債務者が保有資産を処分している場合、時間をかけて交渉して債務を支払わせる合意を得ても、すでに資産が処分されてしまっており、債務を支払うことができなくなっているという状況も考えられます。このような場合は、保全手続を行う等の方法をとることになります。
4つ目に、換価が容易な資産がある場合です。大口の売掛先の情報を取得している場合など、容易に資産から債権回収が見込まれる場合には、保全手続を行うことが考えられます。一方で、売掛金や預金の仮差押えをすることで、取引先の信用不安をもたらし、その結果、取引先が破産した場合には、債権回収にも影響が出ますので、注意してください。
⑵書面による催告
書面による催告をする場合の注意点は4つあります。
1つ目に、請求債権が特定できているかということです。相手方との間に複数の取引があるときは、他の債権と区別できるよう、請求債権を明確にしてください。これを怠ると、請求による期限到来が認められないとか、時効完成猶予の効果が得られないといったおそれが生じます。
2つ目に、記載内容に客観的な根拠があるのかということです。特に書面の内容が高圧的になっていないかに注意してください。
例えば、「支払いがないときは裁判手続により、民事・刑事上の責任を追及させていただきます」といった表現はありがちですが、本当にそのような責任追及が可能なのかを考える必要があります。「裁判」や「刑事責任」といった言葉は、債務者に必要以上に恐怖心を与えてしまうおそれがあります。
3つ目に、催告書の差出人を誰にするかということです。
差出人は、依頼者本人名または代理人弁護士名のいずれかを選択します。代理人弁護士名の文書は、債権者が債権回収に本気であることが伝わり、債務者に対する心理的な圧力が高まります。一方で、相手方によっては、弁護士からの通知を威圧的と捉えて感情を害し、かえってその後の話し合いが難しくなってしまうという場合もあります。
弁護士が関与して催告書を送付する場合があっても、必ずしも差出人が弁護士名である必要はありませんので、交渉経緯や相手方の性格等を考慮して、事案に適した方法を選択してください。
4つ目に、郵送方法を何にするかということです。
意思表示は相手方に到達することにより、効力が発生するので、催告書を送付する場合は、後日の紛争に備えて、相手方が催告書を受け取ったことを証明できる方法を取ることが必要です。例えば、催告書を送付する際は、書留+内容証明+配達証明を利用することが多いです。これにより、請求した内容、請求の日、相手に到達した日がすべて立証できるからです。
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